第拾漆話 妙
「そうなればどちらの世界にも非常に都合が悪くなるだろう。魔者側だって平穏に暮らしたい者はたくさんいる。だから魔王が存在し、その秩序と均衡を守っている。それを破壊してくる者がいたらどう思う?」
「守ろうとして、不思議はない、ですね」
言いにくそうにファルは言った。
「何も意味なく虐殺をしようとしている訳ではない。自分たちの世界を守ろうと必死になっているだけだとしたら?」
二人は何も言えなかった。そんな事が本当だとしたら、自分たちは――。
「向こうには向こうの考えと使命がある、と少しは考えてもいいんじゃない? 別にどっちも悪だとか正義だとか、そういった話ではないよ」
「なら、私は死んだ方がいいのですか?」
「誰もそんな事を言っちゃいない。私はお前には幸せになってほしいと心から願っているよ」
「だから、だから私の元の来たのですか? 私が世界を滅ぼす可能性があるから」
「そうならないよう見守っていたのさ妹よ。お前は可愛い可愛い私の妹だ。絶対に死なせはしないし、悲しい想いもさせたくない」
「でも――」
方法が見つからない。こちらを立てればあちらが立たない。あちらを立てればこちらが立たない。相反する存在は混ざる事はないのだ。
「でも」
とリャーカは疑問を口にする。
「妙と言えば妙」
「何がですか?」
「あのギリにしてはやり方がそぐわない。らしくない、のよねぇ。もっとスマートにできるはずよあの男は。にもかかわらず、こんなにも回りくどいやり方をしている。何か他に目的があるのかもしれないわね」
本人でない以上、ギリの思考は三人には思いつかなかった。何かあるのは間違いはないだろうが、その先は閉ざされている。あの夜の空に光っているのはなんだろうかと、確かめる術がない大昔の人間のようだ。見えてはいるが、説明ができない。
「ま、青の心臓を使う以前に、自分の人間の身体を鍛えれいいんじゃない? あなた温室で育ったんだから殴り合いもした事ないでしょ?」
「まぁ……」
「訓練してたらそのうち覚醒するかもしれないし、しばらくは今の自分を鍛えないよ」
今できる事を精一杯。簡単なようで難しい事だろう。頭では簡単に理解できるが、それを実行し継続するのは何よりも難しい。
「それが生きるって事よ。人間」
大妖精リャーカは優しく道を示した。
大好きな兄上。そんな兄がそう言っているのなら、自分はそれに従う。
「はい、兄様!」
リアは力強く返事をかえした。




