第拾陸話 可能性
「だってあなた、今は人間でしょ」
リャーカはそう言った。
「わかりやすく説明すると、人間って空飛べないでしょ? 人間って水の中で呼吸できないでしょ? その心臓は魔の心臓。人間に扱える代物じゃない」
理屈はわかる。それが、それ以上の意味を成さない事も理解できる。それでもだ。
「それでも、私はこの心臓を扱えるようになりたいのです!」
青い瞳をまっすぐに向けて来る。今までこの子がこれほどの覚悟の眼差しを向けてきたことがあったかと記憶を探る。長い年月を生きているが、それが該当する事はなかった。
「使い方を教えてと言われても、呼吸の仕方を教えてくださいって言われて説明できる? 手の動かし方を教えてと言われて説明できる? 無理でしょ?」
あくまで諭すように。自分で理解できるように優しく否定をする。
「それはもう感覚なのよ」
反論ができない。これ以上は大好きな兄を困らせてしまう。諦めよう。そう思った時だった。
「大妖精様、聞きたい事があります」
「なんぞ?」
ファルがそこで間に入る。
「なぜ魔者たちは今だったのでしょうか?」
「?」
質問の意味がわからずに二人は顔を見合わせる。
「なぜ、今、攻めてきたのでしょうか? 普通なら、リアが産まれた瞬間に攻めてもおかしくないのに」
「それは――」
リアは言いかけて言葉に詰まる。答えが見つからなかったからだ。
「……理由は二つ思いつく」
人差し指をピッと立てる。
「まず、ひとつ。青の心臓が産まれた事は知っていたが、脅威にはならない。もしくは本来の力が発揮される事はないと考えていた」
「つまり、魔者側に何も影響がないから放置されていたと」
リャーカは頷く。
「ふたつ、青の心臓が覚醒し脅威になるかもしれないとわかったから」
「覚醒する? でも私は使い方もわからないのに?」
「それって……自分の意思とは関係なく、ってことですか」
「うむ」
「つまり?」
「つまり、遅かれ早かれ青の心臓は妹の意思とは関係がなく勝手に覚醒し、周囲を滅ぼす可能性があるということ」




