第三十九話 伝説降臨
子供の肩に何かいるっ!
ぽよんぽよんした何かが!?
私は加速して子供を追う。何故逃げる? 追うからか? やましい事があるからか? やましい事とは何か? それはバスケットからお菓子を召喚したことだろう。大した事じゃないって! そんな必死に逃げる事じゃないって! そう叫びながら必死に追う。いやそんなに必死で追わなくても? だって孤児院所属の子な訳だし。でもなんか加速しちゃって止まらない。
「待って! 怒ってないよ! 皆に配る為に持って来たんだよ! だから食べて良いんだよ! もう一個あげるよ??」
どうだろう? 最後の言葉で落ちるでしょ? そう確信したが一秒後に裏切られた。
一個じゃいけなかった? あの肩のぽよんとしたアレ、アレ何? 生きてるの? 生き物なの? ちょっと透けてない? そして肩でぽよんぽよん。
アレって伝説のアレじゃない? 見た事ないんだけど、よくお伽噺というか冒険物語の挿絵というか、勇者の肩とかに乗ってるアレっ。建国の王の六つの盾、闇の魔術師の肩にもあんなものが乗ってない? 描かれてるよね絵本とかに? 索敵とかに使うんだよ? めちゃくちゃ便利で優秀なアレ。分裂するやつ。
夜抱いて寝ると冷たくて気持ちいいやつ。触りたい、ぷにぷにしたい、なので待って! と思っている側から、木の根に躓きそうになる。ヤバい地の利がない。道に熟知した者とそうでない者など端から結果は見えている。しかも森って走りにくい。手をつきそうになった既の所で持ち直す。危ないわ!
私が転びそうになった時、ぽよんぽよんが振り返った。ヤバい! 可愛い!
間違いなく生きてるし目があるし耳もあるし尻尾もある。あれは七賢者が連れてるのと形が違う。賢者のはもっとシンプルだった。
ぽよんぽよんには目があって耳があって意志があるんだ。あの瞬間に合わせて振り返るなんてタイミングが良すぎる。それに私は見た。ぽよんぽよんの口に焼き菓子が咥えられているのを! 二つの内、ぽよんが一つ食べたんだ。お菓子が好きなんだ!
私はぽよんにフォーカスを合わせる。透けた体の中にお菓子の欠片が浮かんでいる。あれはマニアをくすぐる仕様じゃないか? 別に今日までぽよんぽよんマニアではなかったのだが、今なった。元々物語の中で七賢者というのはとてつもなく格好良く書かれているのだ。きっと盛ってある。しかしその盛り具合が良いのだ。盛ってなければ普通になってしまう。そしてあのぽよんぽよんも闇の魔術師の肩に乗っていて存在を盛ってある。闇の魔術師の花形といえば召喚魔法。この世と魔界を繋いで使い魔を召喚するのだ。その使い魔の強さが闇の魔術師の強さになる。
七賢者の肩にいたのが、アレならばあれは最強の種族?!
いや……。確か最弱の種族だったか? 何故賢者が最弱? いや最弱の中の最強か? キングとかロードとかそういうのかも知れない。今、目の前にいるのはいかにも最弱? ではないが強そうにも見えない。魔法を打って来ないし。打たれても困るけど。水壁くらい用意しとく? いやいらないし!
「待って! 焼き菓子二つあげるからっ」
一つが駄目なら二つだ。
基本だし。
言った瞬間子供が足を止めたので、私は急ブレーキが間に合わず突っ込んだ。
そしてぽよんぽよんは上空に弾け飛んだ。
ああ……――っっ
ぽよんぽよんが……――








