第二十九話 教えて下さいⅤ
護送用の馬車は二台だった。一台は雷で気絶した盗賊を折り重なるように乗せて、既に王都に向かった。もう一台は、多分火傷を負った三人を乗せる馬車。シリル様が途中で乗り継いで行くように指示しているから、別の馬車で運ばれるのだろう。護送車ではなく、乗り継ぎとなるとかなり隙が出来る。それでも別の監獄に一時収容するという事……。王都から離れた場所? つまりは依頼者が見つけにくい場所と考えられる。想像ではエース領だろうか……。そこはハッキリ聞くべきではないことは分かる。聞けば漏れる。漏れるのは良くない。
喧噪から静寂が返って来ると、私達は何事も無かったように、また馬車に乗り込む。
向かっている場所はこの先の孤児院。……つまり捕り物が終わっても行く必要があるという事だ。報告なのか、別の細かな事情があるのかは分からないが……。
というか……。
教えて下さい。事前にもう少しだけ詳しく!
侍女なので情報を共有とまでは思わないが、せめて、自分の役割部分だけでも!
ホント、お願いします。
事前に分かっていたら、人格矯正印と奴隷印について調べて来ました。詠唱くらいは出来るようにしておいたし、フェイクの魔法陣くらいは作れるように練習して来ました。もちろん帰ったら調べますけども、多分そんな教科書は存在しない。確実に禁書だ。
禁書とは閲覧不可だから禁書。でも確実に伝えるべき内容だから焚書にはならない。焚書にした瞬間、技術は生きている人間の中だけにしか存在しなくなる。その人間が次世代の人間に直接伝えるしかなくなる。伝えなかったら失われる。結構危うい技術になることは確実だ。普通に考えて王家と闇の侯爵家が管理している筈だ。闇の侯爵家には伝がないが……王家は……。
そこまで考えて隣に座るシリル様をチラリと見る。見ると目が合い微笑み返された。あんな事があったのに、もう涼しい顔に戻っている。今までもこれからも、彼と私では超えて行く修羅場の数が違うのだろう。
あの魔法も――
ちょっと見た事がないくらいの大魔法だった。
空に大きな魔法陣を展開させる訳だ。
頭上を見ていなかったが、いったいどれくらいの大きさの魔法陣だったのだろう。
私が使う魔法というのは光の魔法と水の魔法。
光はともかく水は生活魔法だ。一個一個はとても小規模。
でも……彼が放った雷の魔法は規模も威力も桁違い。魔法陣に盗賊の位置情報が組み込まれていたのか、もしくは金属製の武器に落としたのかハッキリした事は正直何も分からなかったが、雷の魔術師は世界を変えると言われるのも頷ける。そもそも建国の王が雷の魔術師な訳だし。それは偶然ではないのだろう。王家はいつの時代も雷の魔導師の誕生を心待ちにしている。こういう事だったのかと、肌で実感した。勝てる気がしない。ひれ伏すしか選択がない。王になる器の魔術師の前では――
「シリル様、あの魔法は素晴らしいものでした」
「ありがとう。君の聖魔法も素晴らしかったよ? 足を挫いたんだろ?」
「………」
ええ。挫きましたとも。地面に届かずに……。
私は今頃になって赤面する。
あんな場面で足が届かないなんて……。グギとなった瞬間転ばなくて本当に良かった。きっと転んでいたら、ブラフは不発に終わっただろう。そう思うと、あれは分岐点だ。成功か失敗の。己の足の長さはしっかり把握しておくべくだと思った。後学の為に。








