第二十二話 反属性Ⅱ
『ルーシュ様と一緒に馬車に乗っていたら盗賊に襲われる』というテーマの妄想について、ルーシュ様とシリル様にお伝えした。二人はじっくりと耳を傾けてくれた上で、ルーシュ様から口を開いた。
「ロレッタ」
「何でしょうか? ルーシュ様」
「まず御者の問題から」
「はい」
「ロレッタは何が専門の魔導師だ?」
「……本格的に学んだのは聖魔法です」
「ならば一番にやるべきは、御者が攻撃によって怪我をしたら、回復魔法だ」
それはそうだ。その通りだ。特に命に関わる場合、直ぐに手当をする必要がある。攻撃魔法の知識がない私が水で応戦してルーシュ様の邪魔をするより余程現実的ではないかと気が付いた。
「……本当にその通りですね……」
「……ただし、傷が深く御者を続ける事が出来ない場合、確かにロレッタが御者の役目を果たせれば、俺もシリルも攻撃に集中出来る。エース家の御者に話を通しておくから、週に一回直接学ぶ事を許そう。これも出掛けたときの不測の事態の為だからな、もちろん勤務時間として換算する」
私は両手を胸の前で合わせて、ルーシュ様を見る。なんて寛大で柔軟な御主人様なのでしょう? 嬉しい。これで心配事の一つがクリアになった。後は単純だ。一生懸命学べば良いのだ。学びとは学んだ分だけ賢くなり、そして楽しくなる。懸案事項をそのままにしておくのはなかなか苦しい。
これで私は、『私に任せて下さい。御者のライセンスF級を持っています』とドヤ顔で言える。想像すると気持ちよい。序でに馬の扱いを習う時、馬の血管やら神経やら骨格なんかも調べておいた方が良いだろう。
馬が怪我をしてしまったら、御者のライセンスF級が宙ぶらりんになってしまう。馬も痛いし可哀想だ。出来るだけ速やかに治す為には、体に詳しくなくてはならない。動物の医学、獣医学の勉強も始めよう。学びは広がりが凄いなと思う。
一代の寿命では足りない。もっともっと学んで、格好良い侍女になりたい。侍女道とは学びだなとしみじみ思う。
侍女道には御者の技術も魔法の技術も聖女の技術も一般的に入っていないが、私は少しずれた侍女だったので、気付いていない。
「反属性の話だけどね?」
今度はルーシュ様に替わってシリル様が口を開く。
「水と相性の良い属性って何か知ってる?」
水と相性の良い属性……。
炎は風。水は――
「雷――」
目の前にいるシリル様の瞳を眼鏡越しに見つめる。
雷の魔導師というのは、この国に一人しか存在しない。少なくともアクランドで公式に雷の魔導師を名乗っているのは一人だけ。
「僕の魔法と君の魔法の相性は抜群。つまり君がもし魔法省に入省すれば、僕の隊に入る事になる。ルーシュの隊には入らない。一般的に考えればそうなる。だから分かる?」
私は首を捻る。
『ルーシュ様と馬車で出掛けている時に盗賊に襲われる』というテーマを一先ず『ルーシュ様とそのお友達であるシリル様と出掛けている時に盗賊に襲われる』に変えるという事だろうか?
テーマ自体を変える??
私は大きく首を捻る。
苦しくないですか? そのテーマ変換???
そもそもご主人様の友達が同行マストって???








