第二十話 畑の引き継ぎ事項。
「第一聖女とは仲が悪い訳ではない。少なくとも周りはそう思っている。ただ僕の本音を言えば、妃として寵愛はしていないし、する予定もない」
第一聖女殿下とシリル様は……思う所のある難しい関係なのだと悟る。
政略結婚だから、そもそも政治上で結びついた関係。相性や性格は考慮されていない。
私と元第二王子殿下の婚約ももちろん政略で、私たちの相性は最悪だった。特に、第二王子殿下の気持ちは収まりがつかないという状況を迎えていた。若い男女の関係でいうなら、大変な悲劇……。伯爵令嬢である私は疵物になり、第二王子殿下は一兵になった。そしてその相手は国外追放。
王都では流行にすらなってしまった醜聞だが、王太子殿下と第一聖女殿下の関係もまた別の悲劇か喜劇か歌劇かは分からないが、そういったものがあるのかも知れない。それはお二人にしか分からない類のものかも知れない。
ただ願わくば、悲劇なんてこりごりだから、歌劇か喜劇か……。みんなで笑ってしまうような結果が良い。伯爵令嬢と第二王子殿下の婚約破棄ですら無傷ではいられないのだから。王太子殿下と第一聖女殿下となると、王家と教会という構図が出来てしまう。それは当然あってはいけない構図だ。王家といえども、教会は敵に回してはいけない。個人の関係で済めば一番良いが、政略結婚には政治がつきもの。
シリル様と第二王子殿下の性格は全然違うから、過程も結果も違う。当然シリル様の方が比べものにならないくらい慎重で思慮深い。そして第一聖女殿下もやはり私とは違う重い立場にある。
第五聖女と第三王子殿下。この組み合わせが実は一番距離が近い。なんといっても二人とも聖魔導師であり、同じ畑を耕し、机を並べて勉学に励んでいたのだ。
二人の関係は甘い恋人同士――等というものでは決してなかったが、近しい関係ではある。間違いなく。
私はかつての学び舎で二人の関係を思い出す。聖女科は第一聖女のお姉様を抜けば、仲が良い。緊張は第一聖女殿下と相対する時に走るが、双子の王子殿下と第五聖女相手には走らない。むしろ教養科との関係の方がギスギスしたものだった。教養科VS魔法科・聖女科という構図だった。
人数でいえば教養科が圧倒的に多いので、完全に数の制圧を受ける。聖女科なんて少な過ぎて、なんの影響力もない感じだ。だから聖魔導師だけ科を分けるから弱小科になってしまう。まあ、数の制圧を受けても魔法科はトップ中のトップではあったが。
しかし、その第五聖女も今期から休学。第三第四聖女は留年。事実上高等部に生徒がいなくなった。来期の聖女等級審査はまだなのだろうか? 聖女科滅亡の危機だ。たぶん魔法科の一部になるだけだろうが……。
落ち着いたら第五聖女の様子も見に行こうか? たぶん私が行っても嬉しくはないと思うのだが……。というか婚約破棄騒動を起こしたばかりなので、公爵家などを訪問するのは不味そうだ。けど、行かないとこのままフェードアウトしてしまいそうではないか……。
第三王子に行って貰う? 留年が決定して、それどころじゃないのだろうか? いや、一度くらいお見舞いと称して行くべきだ。第三王子にも畑の管理や引き継ぎや小麦の件があるので、会いに行こう。春期休暇中だがそこは会えると思う。……たぶん。








