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第十八話 教会の後ろ盾



 シトリー伯爵が、急ぎ手続きをしているだろうが、確認だけはしておけよ?


 馬車の中で、ルーシュ様に言われた言葉を反芻していた。

 確認しておけと言われた以上、私は当然確認するべきだ。


 何を?


 父が急ぎ手続きをしている……というが、父は私たちより先発して王都観光に勤しんでいる。手続きを急いでいるとは思えないのだが……。

 もしも急ぎ手続きをしているのなら、王都観光前にどこかに寄るという事になるが、そういう素振りもなかった。


 しかし……内容は確定していないが、父に確認を取る、つまり確認を取る相手は確定だ。なので私のするべきことは父に聞くことだ。


 内容に付いては、魔法ではなく、権力で身を守るすべの確認。

 父は権力など持っていない。財力もない。シトリー家は何も持っていない弱小伯爵家だ。


 持っているのは、父がかつてセイヤーズ家の次男だったという事実と血縁。権力といえばここしかない。つまりセイヤーズ家の伯父様関係なのだろう。うちの長女を守って欲しいという依頼だと考えるのが一番無難。


 ならば私も同席させて貰えないだろうか? 護衛学の件や水魔法の件でお伺いしたい事が沢山ある。今日の夜、父にお願いしてみよう。それが一番各方面で合点がいく筈。


 同じ轍は踏むな。


 それはそうだ。同じ事を繰り返すのは、経験が生かされていない事になるのだから。つまり権力に貶められるな……という事だと思う。

 その為に対抗出来る権力を持てと。


 しかし……。そこまで考えると、足下に深く濃い影が広がってゆく錯覚に陥る。権力が怖い。権力とは権力を持っていない人間と対等ではない。命令、理不尽がそこには存在する。命令に対して嫌ですと断れば殺される、大切なものを奪われる、社会的地位を失う。何かは分からないが、その者が大切にしているものを奪える力がある事が権力の行使だ。


 例えば、父。シトリー家の父はそれこそ家長的な力を振りかざす人間ではなかったから、家で理不尽を強いられることは無かった。母もそういう命令を下す人間じゃない。なので、食べ物、住む場所、衣服などを人質に命令を下される事はなかった。


 けれども、大変貧乏であったから、経済的な安定とは程遠く、衣食住はそちら方面から圧迫を受けていた。ドレスも草臥れたものが数枚。普段着は三枚をサイクル。持っている服の数は十枚以下。この服の枚数は伯爵令嬢の枚数ではない。庶民の枚数だと思う。


 所属長に自分をどうこうする権利が派生すると考えるならば、私が家を出て所属したのは学園だから、学園長だ。王立の学園なので、理事長は王家縁の者になるが、直接圧迫など全く受けなかった。学費は大変高く、やはり経済的な圧迫は感じたが。この部分は理不尽とは少し違う。


 しかし、聖女は学園に強制入学だという事を考えれば、学費免除という対応も有りな気がするが、庶民ならともかく伯爵家の学費を免除などしたら、何かおかしな事になりそうだ。同じ貴族から不服に思われるかも知れない。つまりはそれなりに妥当な対応なのだと思う。


 それに聖女科はどこか教会所属の匂いがする。事実上の命令系統は教会。

 書類上のボスは学園理事長で、実質のボスは教会。


 王立学園聖女科所属の学生であり、第二王子の婚約者という立場だから、私に命令出来る者は、学園長、教会、第二王子もしくは王家という状態だった訳だ。大変息苦しかった。教会と第二王子が。


 大きく括ればアクランド王国の国民になるので、国の命令にも逆らえない。そこが一番のボスであり権力者になる。けれど、これも逆に考えれば、だからこの国で平和を享受出来る。


 シリル様は私に教会の後ろ盾が無くなったとハッキリ言ったのだ。つまり今まで薄らと私の後ろには教会があった。守ってもらった覚えはないが、聖女といえば教会だ。


 後ろ盾だったものが、後ろ盾ではなくなった……。

 教会は私の上位存在ではなくなった?

 そういう事なのだろうか?


 そもそも教会の後ろ盾といっても、第二王子殿下との婚約破棄騒動の時、まったく守ってくれなかった訳で、義務だけを粛々と遂行していた事になる。


 肝心な時に守ってくれない後ろ盾は後ろ盾とは言わない。

 ついでに牽制にもなっていなかった。

 私の後ろには教会が付いているから……という認識をまったく持たれていなかった。

 つまりは、第二聖女を蔑ろにしたところで、教会がどうこうする訳では無い。

 そういう確信を持って、婚約破棄騒動が行われた。

 

 端から有ってないようなものなら、きっといらないのだ。

 教会所属だから聖女な訳ではない。

 聖女だから教会と密接な関係にあった。



 私は今でも今期の第二聖女だ。








月曜日は投稿をお休み致します。

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