第十一話 髪を梳かしてみようと思います。
男爵令息辺り……。
つまり下級貴族に変装したシリル様は畏まって椅子に座っていた。
その後ろから回り込むようにして私が立つ。
髪を梳かせば、一本くらいは手に入る筈。
手に入りさえすれば、いつでもどこでも何回でも色の検査が出来る。
素晴らしい。
見本として取って置こう。
ノートに貼り、髪の採取本を作ってみてはどうだろう?
そうすれば人間の髪の色に大変詳しくなる事が出来る。
シリル様、ルーシュ様、自分。父、母。この辺りの髪の毛は確実に手に入る。
全員から髪の毛を一本ずつ貰い、ノート一ページに一本を丁寧に貼り付け、注意書きを書こう。
色の配合とかそういうの。
魔道具開発に大変役に立つ研究書になるかもしれない。
シリル様は雷の魔導師バージョンの金髪。
ルーシュ様は炎の魔導師バージョンの紅髪。
私は聖女&水の魔導師バージョンのシルバーブロンド。
父は氷の魔導師バージョンのシルバーブロンド。
母は聖魔導師バージョンの薔薇色。
父と私が被っている。
サンプルはどちらか一方で良い?
でも、もしかしたらほんの少しだけ違う? という事もあり得る。
なんせ、同じ属性ではないのだから。
本来水の魔導師というのは、ブルーブロンドに瑠璃色の瞳を持って生まれるのが一般的だ。
もちろん個人差はあるが。
しかし水の魔導師の家系にシルバーブロンドとアイスブルーの瞳となると、生まれた瞬間、淡いね? となる。成長と共に若干変化することもあるが、まあ、平均より淡いのは事実で、成長と共にまったく変化せず淡いままという事もある。
父の幼児時代の髪色なんぞは知る由もないが……。
いや、伯父に聞けば一発だ。
ただ単に興味がないので聞いていない。
私はというと、幼少期は今よりも更に白寄りの銀だった気がする。透明とは言わないが、銀よりプラチナというか……。今は……水魔導師の家柄か、少し水寄りのシルバーだ。淡いアクアマリンというか、これは水晶ですかというくらいの色味の薄いアクアマリン。ちなみにアクアマリンは濃いブルーの方が高値となる。彩度の高い蒼色の方が、水の魔導師としての色味には近い。しかし、それ以前の話で、水の魔導師の守りの石はサファイアになるのだが……。
父と母は頼めば髪など一発で手に入る。問題はルーシュ様だ。
下さいというのもちょっと言いにくいというか……。
冷静に考えると、自分の髪の毛を後生大事に持っている侍女って怖くないだろうか?
そんな事で怖がられて、終身雇用の話がフイになったら後悔しかない。
下さいとお願いするのは止めた方が良い。
この離れで、一本くらいは発見できるはずだ。住んでいる訳だし。
でもハウスクリーニングというのは、侍女ではなくメイドの仕事。
メイドの方が立場的に大変手に入りやすい。
しかし――
シリル様の髪はサラサラだな。どこまでいってもサラサラで手入れが行き届いている。引っかかるということがないから抜けない。そもそも朝一ではないので抜けないのだろうか? 王宮で身支度を調えていらっしゃったのだろうし、そういう事なら抜けにくい筈。
本当は、一本引っ張ってみたいけど、王族に痛みを与えるなんて不敬だろうし、それがエース家の侍女ともなれば、ルーシュ様の顔に泥を塗りかねない。
「……シリル様、もし宜しければ、お伺いしたい事がございます」
「何?」
「……どうして、弟君である第二王子殿下ではなく、私を助けて下さったのでしょう? 考えても思い当たる節がありません。教えて頂く事は出来ませんか?」
意を決して、私は疑問に思っていた事を口にした。








