【028】『来訪者』
以前にルーシュ様に言付かった専用ゲストルームの主が、今日来訪されるというのだ。私も挨拶をするように言われていた。侍女が挨拶に出るということは、お客様が来訪中は私が侍女として付くからなのだろうか? そうこうしている内にお客様はお越しになったのだが、様子が普通でない。私の事を下から上まで何度も何度も見るというか確認するというか、兎にも角にもその長さが尋常ではない。
「エース家のお仕着せは秀逸なデザインをしているから、きっと君に似合うと思っていた。とても可愛らしい。良く似合っている。今、心のシャッターを切っているから待っていてくれたまえ」
シャッター……。防寒用の外扉の事だろうか? しかし文脈が理解しにくい。お客様はルーシュ様と同じお年頃の方で、名をシリル・エースと言われた。エース家の親類なのだそうだ。面立ちはあまり似ていなかったが。しかし、とても整ったお顔立ちをしていた。ただお顔の三分の一は黒縁の眼鏡を掛けていて、その奥は琥珀色の瞳をしている。
あまりお客様を詮索するのははしたない事なのだが、あれは明らかに魔道具の眼鏡である。普通の眼鏡は視力を微調整する為に使うのだが、それは屈折の問題なので、魔道具である必要がない。違う目的の為に使われている眼鏡なのだろうと思う。手に取って魔力を流せば一発なのだが、恐らく瞳の色を隠しているのではないかと思う。隠すとは知られたくないからする事だ。つまり人に瞳の色を知られたくない。姓がエースなわけだから、紅色なら隠す必要はない。つまり姓はエースだが紅ではないという事になる。
あまりにも長く見つめられたので、はしたなくも状況分析継続中。エースと名乗ったからには、母方ではなく父方の親類になるのだが、紅の魔導師ではない魔導師という事になる。色々顕現するのは確かだが、髪が光のような金色をしている。金髪というのは自然な色ともいうが、私の目には少し自然発生する金色とは違うように見えた。もっと閃く強い色というか……。髪の色はそのままにしているのならば、黄金色の魔導師になってしまう。黄金色といえば……そこまで考えて頭を振った。
「僕はルーシュと商会を立ち上げようと思っていてね。今日はその相談に来たのだよ。度々来る事になると思うから宜しくね」
「宜しくお願い致します」
ロレッタも丁寧に挨拶をする。エース家の親類の方が、エース家の次期当主を呼び捨てにするだろうか? ちょっと上からなしゃべり方だった気がする。
ロレッタは金色の髪を凝視した。僅かに燐光が見える気がする。暗闇に入れば一発で分かるだろう。ロレッタは応接室にお客様を案内し、二人分のお茶を用意する。出て行こうとしたらルーシュ様に呼び止められた。
「今日は魔道具を見せようと思ってね。君が作ったものだから、このシリルにプレゼンをしてごらん。上手くいけば販路に乗せて貰えるかも知れないよ?」
ルーシュ様がそのように言われると、紅茶を飲んでいた客人が盛大に紅茶を吹いた。ああ、ルーシュ様とエース家の絨毯に紅茶のシミが付いてしまう。
私は水魔法を展開し、紅茶を包むように受け止めてポットに回収する。このポットの中身は替えに行かなくては。そう思って立ち上がった時、由緒正しきエース家のティーカップが割れた。








