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友人が好きな人と婚約した  作者: bammmmnn
幼馴染に恋をした
18/19

4 ジャスミンside

 ブライアンの周囲をそれとなく探る度、聞こえてくる彼の話はやはり優しく紳士的な話ばかりで、変わっていないブライアンへの憧れが募った。婚約解消を必要以上の醜聞にしない為にブライアンに告白も出来なかったジャスミンは、ただひたすら時間を耐えて、ブライアンの良さに気付く人が居ないよう祈るしかなかった。


 しかし、婚約を解消しても、ブライアンと話すら出来なかった。解消して一年は社会人と学生で接点がなく、ジャスミンも最終学年で忙しくて親の目を盗んで接点を作れなかった。卒業して城で侍女として働き始めると、父が騎士にならなかった事に拗ねた事も合わせて「騎士にならないのなら騎士団に用はなかろう」と露骨に妨害して、更に騎士団関係の仕事をジャスミンに回さないよう侍女長に頼むまでした。

 侍女長はすっぱり断ってくれたが、父が自分の仕事を必死で終わらせて騎士団近くにたむろするようになり、結局父の健康とジャスミンの羞恥心に侍女長が配慮してくれた。ただし、文官の繁忙期には騎士団絡みの仕事を定時頃にジャスミンに持っていかせるという情報を意図的に流して業務の効率化を図らせた。(父も私情である自覚はあったらしく、仕事を人に回すことも部下を使うこともなかった。)


 仕方がないので時々休みの日に下働きに交じってブライアンの情報だけは得ていたところ、働き始めて二年目に後輩のハリエットに見つかり、そのまま侍女長に報告された。

「で、貴女は下働きに交じって何をしていたのかしら?裏切るような子ではないと思っていたのだけれど…」

「裏切るだなんてそんな!…私は意中の方の情報を集めていただけでございます…」

「王宮でわざわざ?…あぁ、御父君が騎士団への出入りを妨害なさったのは、貴女が騎士にならなかったからだけではないのね。

 …それにしても、侯爵令嬢が一年もバレなかったなんて余程自然だったのねぇ?」

 侍女長の疑いを晴らすには、恥をかくのも仕方がないとジャスミンは覚悟した。

「…意中の方が下級貴族の方ですので、その生活に慣れるようにと学生の間に平民の店で働いておりました…」

「そう。周囲からしか恋人の情報を得られないだなんてよほど御父君に邪魔されているのかしら?」

「いえ、恋人ではなく、片思いです。…もし彼と結婚出来たらという妄想で突き進みまして…」

「え?」

 ここから今までの経緯を包み隠さず話す羽目になって、侍女長の目は生暖かくも残念な子を見る目になった。

「その結果、上位貴族から平民まで溶け込み、自衛も出来る人材が出来たという事ですか。本当なら恋の力とは偉大ですわね…」

 この後、ジャスミンは調べ直されて白だと証明され、ハリエットとともに諜報に関わる事になった。



***



 ジャスミンは侯爵令嬢なのであまり不在にしても噂が立つ。よって主に国内の情報収集を担っている。

 ドミニクがグウェンドリンを連れて帰ってからハリエットがグウェンドリンの警護に回った時期、グウェンドリンの扱いで文官が忙しく父の監視も行き届かなくなった事もあって、ジャスミンも王宮の間諜探しに参加した。その間に何度か久しぶりにブライアンを見ることができたが、見た目も垢抜けていなかったが以前のままの彼のように思えて嬉しかった。


 ある日、潜伏中昼間の食堂で働いていると、常連の一人が甘ったるい香水のような匂いをさせて酔っ払いながらきた。女将が酔いが覚めてから出直して来いと追い払ったので問題はなかったが、『昼から酒を飲む人でもないし、辛めの味付けが好みだったはずなんだけど…』という女将の独り言が気になった。

 一応居そうな方向を避けたいので、と常連の大まかな住所だけ聞いておき、仕事が終わってから上司に報告、騎士団員に見張ってもらうと、麻薬の取引が見つかった。

 その末端の取引の逮捕者から得た情報から騎士団がアジトに踏み込んだが、空振りしたらしい。それを二回繰り返した時点で内通者が疑われた。

 次に末端の取引を見つけた時、最低限の人員で直前まで話を留めておいたのが功を奏して、捕まえる事が出来た。しかし、内通者は証拠がなく特定できなかった。


 内通者をおびき出す作戦にハリエットが参加する事が決まり、その相貌認識能力を持つ人間がハリエットだと特定されないためにジャスミンも参加する事になった。侍女長に呼び出されると、ニヤニヤした侍女長とギネス夫人にその場で恋人役の警護がブライアンだと聞かされて、彼女らの情報収集能力に舌を巻いた。

 どうせならこの機会を最大限に利用すると決めて、前日に潜入の為彼の容姿を整えたいと希望を伝えると許可された。騎士団長を通して『自分の好みにしていい』という返事をもらったと思っていたが、団長の独断だったらしい事は後で知った。


 会うまでに、以前働いていた理髪店の店長に相談して、流行りを取り入れつつブライアンに似合う髪型を教えてもらった。侍女としての技術でも基礎は学んでいたので、後は練習を繰り返した。




 そうしてようやく会ったブライアンは、長年思い焦がれたせいできっとある程度思い出を美化しただろうに、話してみても憧れたままの人だった。ただブライアンはとても緊張していて、会っていなかった間の話を聞きながら髪を切ったが固い態度は崩れず、やはり彼の方は何とも思っていなかったのか、と内心気落ちした。


 作戦当日、着飾ったブライアンもとても素敵だった。ジャスミンの好みに合って良かったと言った時の顔が少し赤くて本当に嬉しそうだったので、少しでも脈があるのならと告白を早まったが、結果的にブライアンと両想いになれたので最善だったのかもしれない。


 ハリエットへの目を逸らすためだけの囮なので、ジャスミンにとっては、殆どただの逢瀬である。二人は馬車に乗って、目的地である古い街並みが保存された観光名所へと繰り出したのだった。


 指定の時間に決められた場所にいる以外は好きに回っていいとのことだったので、ジャスミンはエスコートされながら、ゆっくり買い物を楽しんだり、食べ歩きをしたりした。楽しむジャスミンの様子にブライアンは少し驚いていたらしい。

「ジャスミン嬢もこういう遊びをなさるのですね。予想外に楽しんでいただけているようで何よりです」

 笑顔で話しかけるブライアンに、ジャスミンは思い切って言った。

「子供の頃から貴方をお慕いしていたと言ったでしょう?…もし貴方のお嫁さんになれたら、と思って平民の暮らしも一部だけでも体験した事があったのです」

 ブライアンは片手で顔を覆った。

「何それ嬉しくて可愛い…すごく嬉しい、です」

 その反応に、ジャスミンはもう一歩勇気を出した。

「あの、この恰好で敬語を使うのは不自然ですし、…無しにしない?」

「あぁくっそ、反則じゃねぇ?……分かった、じゃあ名前も呼び捨てにしよっか、ジャスミン?」

 ブライアンは真っ赤な顔で、しかしエスコートの手の指をそっと絡めてきたので、ジャスミンも顔を真っ赤にした。


 二人がお互いを見られずしばらく無言で歩いていると、ジャスミンがある人に気付いた。

「あ、えっとブライアン、あの人、多分私の昔の侍女だわ…靴の中の木の型の…」

「…ちょっとついていこうか。ちなみに辞める時の推薦状は書いてないよな?」

「うん、だから侍女は続けられなかったはずよ。でも着ている服もいいものだわ」

 気付かれないように二人で尾行すると、指定の時間が近づいていたが、そのまま指定の場所に到着した。

 報酬を置いてあった場所は時間を過ぎても人が近づく気配が無かったので、ジャスミンがそっと元侍女に話しかけた。

「ねぇ、貴女、」

 キャロラインじゃない?という言葉を言う前に元侍女は逃げ出したが、ブライアンが楽々追いついた。

「ちょっと挙動不審過ぎるよな、君。話聞かせてもらえる?」

 その時、同僚の騎士の一人がやってきた。

「その子の話聞くの、俺がやっとくよ。多分びっくりして思わず逃げちゃっただけだろうからさ」

 一人でキャロラインを連れて行こうとする同僚に、ブライアンは他の騎士を呼んで言った。

「今回の件の間、必ず二人で事にあたるって決まってるのに、何で一人で来た?何も無かったら話聞くだけで済むのに、何やってんだ…庇えば疑うしかないじゃないか…」

 同僚の騎士は慌てながら、キャロラインはジャスミンを睨みながら、後ろからやってきた別の騎士達に連れられて去っていった。

「じゃあ、俺達も帰ろうか…」

 仲間に裏切りがあったとすれば辛いだろうし、報告書も書かねばならない。しかし、ジャスミンには騎士の慌てぶりは裏切りというより別の理由のように見えた。それでも、凹んだブライアンを励ましたくて、王宮まで送り届けてもらうまでジャスミンはぎゅっと手を握っていた。

「まだ疑いでしかないから、あまり気落ちしないで。また会おう、ね」

「次に会う時は敬語に戻ってるな。今日は本当に楽しかったよ、ありがとう」

 心なしか肩の線が少し下がったブライアンにジャスミンは見送られて、その日は別れたのだった。


 翌日に聞けば、同僚の騎士はキャロラインと付き合って同棲していただけで、その日の帰りが遅くなるかどうかを聞いたキャロラインが情報を売ったという事だったらしい。同僚は守秘義務をきっちり守っていたが、帰りが何時になるか分からないとキャロラインに伝えた日は全てアジトに伝えられていた結果、空振りが多くとも逃げられていたそうだ。城の便箋は同僚の家に届いたもののうち、余白が多かったものを切り取ってキャロラインが再利用していただけだった。

 今回の犯罪集団はかなり大規模でそれなりの人員を割く必要があった。慣れない人間も多く、相手もそれを分かった上でハニートラップを複数人に仕掛けて当たりを引いたという事だったらしい。余程大規模かつ身軽に移動する相手しか出来ない手である。再発予防は、とにかく大規模な集団をさっさと捕まえる事、とりあえず見合いを開催して少しでも身元の確かな人物をあてがう事と、なるべく独身者は寮に入っている者から先に大規模作戦に投入される事、ハニートラップ防止の勉強会を開く事ということで終止符を打った。

 ハニートラップに引っかかった騎士は、故意ではないが落ち度がないとも言えないという事で数日の謹慎と罰で済んだ。それを聞いてブライアンは安心して泣いていた、とハリエットに教えてもらって、ジャスミンもまた笑顔になったのだった。




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