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燃焼少女  作者: まないた
停滞した少女
27/52

027

 

「ふぅ……」

 

 彼女達が出て行った事を確認すると、思わず溜息がこぼれた。

 色々と失念していた為か、特に九番を怒らせてしまったようだ。彼女の苛々した表情を思い出すと、少し……いやかなり気分が沈む。

 

「……はぁ、さてゼクス、アナタにも仕事が来ているわよ」

「ん、自分もっすか?」

 

 私は二度目の溜息を吐くと、ゼクスに視線を向けて仕事内容を伝える。

 

「えぇ、まぁいつものヤツだけれどね。北口の城壁が一部破壊されてしまっているから、元に戻しに行って来なさい」

「またっすか……最近多いっすねぇ。あ、帰り少し遅れても大丈夫っすか?」

「アナタの道草はいつもの事だし気にしていないわ。好きになさい」

「ふふっ、自分の扱い分かってるっすねー! じゃ行って来るっすー」

「はいはい」

 

 ゼクスは私の簡単な説明を聞くと、それだけで仕事内容について理解出来たようで、すぐさま九番達が出て行った階段を上って姿を消した。

 

 はぁ、やっと一段落出来た。

 残るは私とツヴァイだけなので、私は人目が無い事を良い事に机に突っ伏した。そんな私に対し、ツヴァイは控えめに声を掛けてくる。

 

「……」

「あ、あの……大丈夫?」

「大丈夫じゃないわよ……もう泣きそうよ……」

「だ、だよねー……」

 

 ツヴァイも私がこんな様子な事には思い当たる節があるようで、すぐに理解を示してくれる。

 

「なんであの子、あんなに私を目の敵にしてるのよー」

「うーん、多分ゼクス辺りが何か吹き込んだんじゃない?」

「何かって何よ」

「それは分からないけど、もしかしたら記憶を奪った犯人に仕立て上げられちゃってたりして……」

「……確かに記憶を抑えたのは私だけれども」

 

 それでも納得がいかない……。

 他の誰かであれば、「あ、そう?」程度にしか思えないが、彼女だけは別だ。

 くっそうくっそう、ゼクスめ。

 

「ごめんごめん、いじけないでよ。……もういっその事、全部話しちゃったら?」

 

 ツヴァイの提案に、一瞬それも良いかもと思ってしまう。

 だが少し考えてみて、私は首を横に振った。

 

「そんな事出来ないわよ……それにそうしたら、アナタがどうなるのよ」

「うーん、私も仲間に入れてもらうとか」

「……どっちにしろ今は無理よ。最近は他の国からの干渉も何やらあるみたいだし、そっちの対応を考えなきゃいけない時に、問題を増やしたく無いわ」

「それこそ彼女達にやらせれば良いのに……過保護?」

「そんなんじゃないわよ」

「ふーん」

「……さて、仕事に戻るわよ」

「これも仕事なんだけど?」

「……」

 

 何やら含みのある目で見つめられ、居心地の悪くなった私はすぐ立ち上がると、彼女達が出て行った出口へとずんずん歩いていく。後ろから「待ってよー」と聞こえた気がしたが無視だ。

 私は続く足音を聞きながら、自分の執務室へと向かっていった。

 

 

 

 

 ここベルン国には、大きく分けて第一から第三までの三つの軍隊がある。

 その内一つ、第三の部隊を私が管理している。

 

 この部隊には人員が少なく、たったの十人しかいない。他の二部隊には万単位の人員を動員しているので、比べるまでも無く少人数部隊だ。

 しかし戦力だけで見れば、恐らく使い方に次第で一番強力だろうと私は思っている。

 

 そしてこの部隊にいる者は例に漏れず、特別な強化による『身体能力』、特異な魔法である『固有魔法』、そして特殊な魔法『心蝕魔法』を扱う事が出来る。

 この三つの力により、彼女達は一人一人が万人に勝るほどの強力な戦力と成り得ていた。

 

 そんな部隊を運用している私だが、主にこの部隊の仕事は「手に追えない問題の排除」だ。

 七、八、九番には、冒険者ギルドで手に負えなくなった魔物の討伐へ向かわせており、六番には派手に壊された外壁の復元を依頼した。

 その他にも、外部から紛れ込んできた刺客などの排除、要人の護衛や、逆に他国の邪魔な人物の暗殺など、仕事の内容は多岐にわたる。

 

 私はその様な仕事を、事案が発生する度に少ない人数で割り振り、表向きの治安維持に努めているのだが……。

 

「はぁ……」

 

 城内にある仕事場についた私は書類整理を始めると、早速溜息を吐く。

 

「どうかしたの?」

「えぇ、窃盗事件の犯人確保とか脅迫状が届いただとか……どうでも良い内容のものばかりなものだから、ついね」

「ふーん……あちっ」

 

 私が頭を抱えたくなっていると、ツヴァイは備え付けの柔らかいソファーに座り、優雅にお茶をしていた。

 まぁ彼女は私の護衛なので、その行動について問題無いといえばそうなのだが……いつもの事ながら、気持ち的に納得いかない。

 

「ねぇ、アナタも少しは手伝いなさいよ」

「え? 良いけど多分仕事増えちゃうよ?」

「……知ってるわよ。ん? それ良い香りね、私にも注いで頂戴」

「はーい」

 

 ツヴァイはそう言うと、私がお願いする事を見越していた様で、すぐ近くに予め暖めて用意していたカップへとお茶を注ぐと、私の所まで持ってきてくれた。

 私はカップを受け取ると一口含み、手の届く範囲に置く。

 

「ふぅ、そういえば五番達の進捗はどう?」

「うーん、特に変化は無いみたいだから、多分あと四日で戻ってくると思うよ」

「第二部隊の動きは?」

「そっちも今の所は特に問題ないよ。視えてないから」

「そう、それなら良いわ」

 

 私はそこで一旦言葉を切ると、最後に一番視て欲しい事を伝えようと口を開く。

 

「それで、その……」

「はぁー、さっき出て行ったばかりなのに、もう心配なの?」

「う……」

「わかったわかった、だからそんな顔しないでよね」

「……視てくれるの?」

 

 私が顔を俯かせると、ツヴァイは仕方が無いといった様子で頷き、片目に手を当てる。

 そしてすぐに目を開けて私と合うと、すぐに逸らされた。

 

「ちょっと、その反応は何なのよ!?」

「いやー……聞きたい?」

 

 もうその前振りから嫌な内容である事に間違い無さそうではあるが、このままでは気になって仕様がない。

 もし彼女に悪い事が降りかかるのであれば、一刻も早く手を打たねばならない。

 

「えっと、落ち込まないでね?」

「大丈夫よ、だから早く言いなさい」

 

 詰め寄る私に、ツヴァイは「あんまり言いたくないなー」と言いながらも、その内容を話してくれた。

 そして内容を聞いた私の気持ちは更に沈みこみ、今日やるべき仕事に終日手が付かなかったのは言うまでもなかった。

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