第23話【長き日】
コーネリアが目を覚ました頃、聖墓では激闘が繰り広げられていた。
オリヴァー、シグルズ、バルティマイは魔力を漲らせるバンシーを押し込んでいった。
シグルズが銀槍の石突で結界発動の素振りを見せてブラフで牽制し、バルティマイの戦斧から繰り出す重い一撃が体勢を乱し、オリヴァーのフットワークと剣技による足止めが退路を塞ぎ、バンシーを追い詰めつつあった。
「(だが、恐ろしきは俺の戦斧や小僧たちの追い込みを受けながらも防ぎ切っているこのアンデットだ……!)」
「(オレ達3人で抑えるのが限界かよ……)
うぉっと!!」
バンシーはシグルズの牽制に対して黒剣の柄から更に刀身を急激に生やし変形させる事で予備動作のない鋭い突きが放たれた。
バンシーの黒剣は大剣から柄の両端より刀身を伸ばした両剣状へと急激に変形させていたのだ。
この不意を突く一撃を虹色の瞳に映しながらシグルズは体勢を崩しながらも頬を掠めるだけに留め、なんとか躱した。
だが、この隙をバンシーは見逃さなかった。
大剣から両剣への変化は見た目だけではなく、一撃の重さは無くなりはしたが、刀身が増えたことでオリヴァーたちの攻撃を捌き反撃できるようになり、より対多数への戦闘に適応していった。
体勢を崩してしまったシグルズへ即座にバンシーは追撃し、シグルズは咄嗟に銀槍の石突側で防ぎ難を逃れたがこの時何かが飛んで行った。
「しまった! 杭が!」
銀槍から飛んで行ったのは石突に留めていた封印術の杭であった。
すかさずバンシーは更なる連撃をシグルズに加えようとしたところ、間一髪でオリヴァーとバルティマイが切り込み、両剣の両刃で二人の斬撃を防ぎ飛び退いた。
「小僧うかつだぞ!」
「大丈夫?!」
「危ねえぇ……!! オッサン、オリヴァー、あんがとな!」
両剣が掠め、血がじわりと滲み始めた頬にシグルズは思わず手を当てながら、杭を飛ばされた方をチラリと視線だけ送ったが聖墓自体が薄暗く見つけることはできなかった。
「(杭はあと4本か……)」
「(まだ奥の手があるなんて、3人のうち1人でも欠けたら抑え込めない!)」
『(戦闘様式変化……、新タナ様式学習開始……)』
オリヴァーは目覚めたばかりの奇跡を駆使して柔軟に臨機応変にバンシーの戦闘様式を急速に学習していき、往なす事で粘り足止めをしていた。 だが、ゾンビナイトとの戦闘によって引き伸ばされた技量とはいえ、慣れない奇跡と練度の低い新たな剣技の連続的な行使はオリヴァーの心身魔力を摩耗させ限界に向かっていた。
そして、さらなるバンシーの戦闘様式の変容変節は新たな負担をオリヴァーの心身にかけ悲鳴を上げさせていた。
『(身体機能低下、コレ以上ノ継戦ハ困難デス……、マタ剣ヘノ負荷ガ甚大デス)』
剣を正眼に構えたオリヴァーの視線の先には刃毀れを起こし、所々に亀裂が入り始めた自身の剣、それはまるで満身創痍のオリヴァー自身を映したような有り様だった。 亀裂が広がらぬようにする為に弱った刀身を強化するべく投じる魔力は徐々に増え、魔力の燃費をより一層悪化させていた。
「(どうしよう……、もう引くべきなのかな……ゴーレムコアで封印する隙なんて無い……)」
オリヴァーは疲労と精神のせめぎあいで揺れていた。
だが、苦しかったのはバンシーも同じようだった。
飛び退いてから両剣を構えた際、黒い甲冑の様な輪郭がボロボロと崩れ霧散し始めていき、所々から曲線的な青白い四肢が露出し始めていた。 この戦闘の延長は疲れ知らずのはずのアンデットであるバンシーにも許容しえない魔力消費を強いていたのだ。
シグルズは弱り始めたバンシーの有様をその虹色の瞳に映しながらオリヴァーを鼓舞した。
「おい!オリヴァー!! 今だ、攻め込むぞ!!」
体内の熱気の籠った白い吐息とともに吐き出した言葉は短く力強く発せられた。
その声にオリヴァーは覚悟を決めた。
「バルティマイさん!! シグルズ!! アンデットを抑えて!!」
オリヴァーは懐からゴーレムコアを取り出し、無けなしの魔力を込め始めた。
「おう! うおぉぉぉぉお!!」
オリヴァーの切り札と覚悟を見たバルティマイは出し惜しみなく渾身の力を戦斧の一撃に込めて放った。
その一撃は二太刀知らず……、次手の防御を顧みない半ば捨て身といえた。
バンシーにとって当初の状態の俊敏さであれば躱せたであろうが、激戦で弱った状態では躱すことは困難であり両剣の柄で防ごうとしたのだ。
防ぎ、反撃すれば眼の前の男を仕留められる……、バンシーはそう図った……、図ったはずだった。
だがその一撃はバンシーが想定した重さを超えていた……、友の無念を晴らさんと意気込む漢の意思を見誤ったのだ。
戦斧は両剣の柄を絶ち、そのままバンシーの胴体に袈裟懸け斬りを食らわせたのだ。
両剣を分断され、胴を切り込まれたことで生まれたバンシーの大きな隙に対してシグルズはすかさず一気に銀槍を突き出して駆けた。
シグルズの体内を循環する魔力……、首の刻印によって外へ放出できぬ魔力がまるで血流の如く身体中を巡り、四肢の先端まで行き渡り、膂力を引き上げていた。
「だぁぁぁぁあ!!」
突き出した銀槍が切り口のついたバンシーの胴を貫き、バンシーはそのままシグルズに押し込まれる形で周囲を囲む聖人の立像の台座へ磔となった。
悲鳴の様な叫び声をあげながらもがくバンシーが魔力を帯びた銀槍を抜くために自信が前へ進み抜けようとすると、シグルズはすかさず2本目の杭をその場で床に打ち込み結界を発生させた。 至近距離で発生した結界の斥力はバンシーを台座に押し付けるように力を振るい、身動きを封じ込めたのだ。
更にバンシーの鎧が砕けていき、青白くも人の様な華奢な体が露出し始めていったが、結界に抗いながら銀槍を抜かんと握りしめていた。
「オリヴァー!! 早くしろ!!」
バンシーの足掻きを必死に抑え込むシグルズはオリヴァーに叫んだ。
「シグルズ!バルティマイさん! 行きます!!」
オリヴァーが魔力を込め終えたゴーレムコア……、未だ如何なる魂にも染まっていない純潔なゴーレムコアを足掻くバンシーの目の前でかざすとゴーレムコア内部に施された刻印が黄金色に輝き、そこから発せられた魔力が光を帯びながらバンシーを捉え、包み込んだ。
すると、光に捕らわれたバンシーは光の中でもがきながらも、コアに刻まれた金色の古代文字が光を通じて鎖の様にその手足や胴や首を拘束し動きを封じ込めていった。
そして、身動きが一切できなくなったバンシーは光に溶けていき、ゴーレムコアへと吸われていった。
この時、ゴーレムコアを持っていたオリヴァーは舞い戻る光の中から微かな声を聞いた。
「マモ……ッテ……、ココヲ……」
「( “ここを守って”……? 何から?!)」
持っていたゴーレムコアから光が消えると、そこには透明だった純潔なゴーレムコアではなく、まるで鮮血の様な真紅に染まったゴーレムコアがあり、先ほどまでの激闘がまるで夢幻だったかの様に一帯は静まった。
「やったな!! 小僧!!」
「オリヴァー!! スゲェよ!! ゴーレムコアってヤツなのか?!」
「うまくいきました……、
コレは特別なゴーレムコアだからね」
やっと訪れた静寂にオリヴァーは緊張が解け、力が抜けてその場でへたりと座り込んでしまうと持っていた剣が疲れ切った手から零れてしまった。 このオリヴァーが愛用していた剣は魔力による強化を失った結果、零れ落ちた際の僅かな衝撃によって刀身が陶器のように砕け崩れていった。
「(あぁ……、ギリギリだった……)」
オリヴァーは愛用していた冶金魔導の剣を失い、その代わりに得た真紅のゴーレムコアがバンシーの存在感すら喰らったのかその存在感を在々《ありあり》と主張するかの様に魔力を帯びていた。
「(流石ミーナ様だ……!
でも……、さっきの言葉は何だったんだ?
アンデットが”守って”なんて言うのは初めて聞いた……
あのバンシーは何だったんだろう……?)」
冷静に思考が巡り始めたオリヴァーはバンシーについて不可解なことが気になり始めていた。
だが、シグルズが傍に来たことでその考えを一度止めた。
「あ〜あ、せっかく作った剣が台無しだな」
シグルズは砕けた冶金魔導の剣を見ながら言葉を漏らした。
「そうだね、ミーナ様やエリーザ様に見てもらいたくて持ってきたけど……
これじゃあね……」
オリヴァーはミーナやエリーザと会える日を待ち望んでいた。
それこそ冶金魔導の剣を見る度に、試行錯誤の末に刀身に書き込めた刻印を指でなぞる度にその日を想い焦がれていた。
バルティマイがオリヴァーの代わりに冶金魔導の剣だった破片から鍔付きの柄を拾った。
「だが、鍔の部分が無事でよかったな 再申請は大変であろう」
実剣技の腕を示す証となる鍔の様なアイテムは特別製だった。
西キームン大陸に住む一定以上の階級に属する人類がそのアイテムを見れば持ち主の技量が分かるようにする為に資格ごとに形状や色、製作する工房が細かく定まっており、それらの違いが常識のものとされていた。
そのため、鍔を持てる数は1つであり、壊れた場合でも勝手に修理したり、作り直すことは禁じられていたのだ。
だから、オリヴァーはこの度の法王国訪問の際に除霊術の剣か冶金魔導の剣かいずれかを選ぶ必要があったのだ。
「これさえあれば新しい剣を買えば、鍔を付け替えだけで済むな」
バルティマイはそう言ってオリヴァーに柄を渡した。
シグルズはオリヴァーの耳元で囁くように呟いた。
「まぁ、苦労して聖墓のアンデットを治めたんだ 倉庫から剣1本拝借したってバチは当たらねぇだろうさ」
シグルズはそう言って銀槍を肩に乗せウインクをした。
「ゴホン」
バルティマイはシグルズを見つめ咳払いをした。
「まさかとは思うが教会の所有物を掻っ払う不届きな輩はおるまいな?
此度の出来事は枢機卿まで話が行くだろうな、場合によっては教皇の耳にも入るやもしれん
そこで教会の武具が盗まれたとなればどうなることやらな」
「鍔が無事なら大丈夫です、明日には腕利きの鍛冶師の所に行けますから」
「ちぇっ……」
「シグルズ、気を落とさないで僕からシグルズのもお願いしてみるから」
「そうか……、コイツは中々いい代物だから惜しいが……
まぁ、仕方がねぇ」
激戦が終わり、明日を語る……、皆が今日という日は間もなく終わるだろうと思い安堵の中にいたころ……。
とある物音で水を差された……。
ドサッ……
三者が物音の方を見るとそこには聖墓のひらけた外円周の床を撫でる人物がいつの間にかいた。
その人物とは外で待っているはずの教徒で、さらにその傍では少女アイラがグッタリと倒れていた。
後に聖墓に関わった者達は皆、口を揃えてこう言った。
「あの日は長かった」と……
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