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桃花の緊張癖を直そう!

 三人での朝食を終えた俺達は、早速、夏休みの宿題に取り掛かった。俺は、キッチンのテーブルに少し間隔を開けて来栖さんの隣に座って、沙羅姉は俺達と対面する形で座る。


 初めのうちは、各自の範囲を自分のペースで進めていって、解らないところは沙羅姉に聞くといった形式でやっていたんだけど、そんな状況に沙羅姉が待ったをかけた。


「ふーむ、私から提案した勉強会とはいえ、これでは私の宿題が進まんな。私だけ後日済ませるにしても、それでは海人の世話が出来んしなあ。さて、どうしたものかな」


 確かに、俺と来栖さんからの質問責めで、沙羅姉の手はその度に止まってしまう。これじゃあ、あまりにも沙羅姉に申し訳ない。そうだ、いいことを思い付いたぞ。俺は沙羅姉に、自分の考えを提案してみた。


「沙羅姉、それなら、来栖さんに俺が勉強を教えて、沙羅姉は俺に勉強を教えてくれればちょうどよくなるんじゃないか? 俺だって、一年生の問題くらいならなんとか教えられるだろうからさ!」


 そんな俺からの提案に、沙羅姉は、なんだか嬉しそうな顔をして、俺にシャーペンをビシッと向けながら答える。


「よーし、ようやくその事に気づいたな、海人。実はな、私は海人がそう言い出すのを待っていたのだ。勉強の成果が身に付いているかは、人に教えてみて初めて解るもの、それこそが、『本物の知識』というものだ!」


 ああ、そうだったのか。沙羅姉はときどき俺を試すようなことをするけど、今日も俺は沙羅姉に試されていたわけだ。なんだが回りくどい気もするけど、沙羅姉なりに俺の自主性を促してくれていたわけだから、ここは素直に感謝しておこう。


「そういうことだから、これからは俺が来栖さんに勉強を教えてあげるよ。あ、でも、俺にも解らないことがあるかもしれないから、そのときは、沙羅姉に聞いてね」


「はいっ! わたしも、東雲先輩のお邪魔にならないように、自分でよく考えてから質問するようにしますから、よろしくお願いしますねっ!」


 そんな俺達のやりとりに、沙羅姉はとても満足そうにうなずいている。よし、そうと決まれば、俺も沙羅姉の邪魔にならないように、よく考えてから質問をするようにしないとな!


 …………


 勉強法を変えてからしばらく経ったけど、やっぱりこの方法の方が格段に効率がいい。沙羅姉の手も止まることなく、この調子なら、思ったより早く今日のノルマが消化出来るかもしれないな。


 それにしても、前に来栖さんは、『わたし、あんまり成績はよくないんです』なんて言っていたけど、俺が勉強を見た限りでは、そんなに頭が悪いなんてことはなさそうなんだけどな。俺は、沙羅姉の邪魔にならない程度の小声で、来栖さんに言ってみた。


「来栖さんって、今見た限りでは、そんなに勉強が出来ないってわけじゃなさそうだし、なんであんまり成績がよくないかが、俺には不思議だよ」


 そんな俺の疑問に、来栖さんは舌をペロッと出して、少し恥ずかしそうな顔をしながら答える。


「わたし、字を書くのが遅いし、テストになったら途端に緊張してしまうので、いつも回答を書くのが間に合わないんです。わたしも、早くこのクセを直さないといけないとは思っているんですけどねっ」


 そんな来栖さんの話を聞いていたのか、沙羅姉が、ノートに回答を書き込む手を止めて俺達の話に割り込んでくる。


「なんだ、そうだったのか。私も来栖の学力と成績の乖離を不自然だとは思っていたのだ。それなら、ここはひとつ、宿題を片付けるついでに、来栖のその緊張癖を直してしまおうじゃないかっ!」


 沙羅姉はそう言うと、突然立ち上がって、俺達が座っている方に椅子を持ってやってきた。そして、沙羅姉は俺達にこう言った。


「ほれっ! 詰めろ詰めろっ! 海人はこっち、来栖はこっちだ! これなら、来栖のその緊張癖も少しはよくなるだろうっ!」


 そして、来栖さんは俺と沙羅姉に挟まれる形となってしまった。片側に三人座ってしまったもんだから、お互いの距離がかなり近くなってしまって、俺の方が緊張しちゃうよ。


「こ、これは確かに緊張しちゃいますねっ。これなら、わたしのクセも直っちゃうかもしれませんっ!」


 こうして、もし誰かが見たら異様に映るであろう状況で、勉強会が再開された。まったく、沙羅姉の行動力と発想力には、毎回驚かされるよ。でも、来栖さんがこんなに傍にいる状況は、正直、役得だよな。


 …………


 そして、三人が密着した状態での勉強会は続き、俺のすぐ隣では、来栖さんが一生懸命宿題と格闘している。こんなに間近で来栖さんの顔を見ていると、来栖さんと初めてキスをしたときのことを思い出してしまうな。


「あ、東雲先輩、ちょっと教えてもらってもいいですか? ここなんですけど……」


 そう言って、来栖さんが俺の方を向くと、その瞬間、フワッと、俺の家とは違うせっけんの香りがして、俺の心臓が不意に高鳴ってしまう。その香りは、初めてのキスのときと同じ香りだった。


 しかも、少し前傾姿勢で俺の方を向いている来栖さんの、ゆったりした白いTシャツの胸元の隙間からは、淡いピンクの下着がチラリと見えてしまっていた。この状況、勉強どころじゃないよ。


「あ、うん、そこはね……」


 俺は必死に雑念を振り払いながら、来栖さんに勉強を教える。でも、俺も緊張してしまって、なかなか上手いこと来栖さんに言いたいことが伝わらない。


「なにをモタモタしているんだ、海人。ここはこうしてだな……」


 そんな俺達を見かねた沙羅姉が、来栖さんの方に身を乗り出す。すると、俺の目の前には、沙羅姉のグレーのタンクトップと、豊満な胸によって作り出される谷間が飛び込んでくる。ああ、可愛い彼女と綺麗な幼馴染、俺は本当に幸せ者だ。


 そんな俺からの視線に気づいた沙羅姉は、俺の方に更に身を乗り出して、俺の頭を少しだけ強めに小突く。


「この馬鹿者っ! 勉強中にどこを見ているんだっ! 来栖の胸ならともかく、私の胸に見とれるとは何事だっ! いや、男である海人が、この私の完璧なボディに見とれるのは仕方ないかっ! ハッハッハッ!」


 沙羅姉は、俺の目の前で豪快に笑う。その間、沙羅姉の谷間は笑いに合わせてプルンプルンと揺れる。沙羅姉、もしかしてわざとやってないか? そして、そんな沙羅姉の迫力満点の胸を目の前で見ている来栖さんは、顔を真っ赤にしていた。


 そして、沙羅姉が俺から離れて、改めて来栖さんに勉強を教え始める。来栖さんは、顔を真っ赤にしたまま、沙羅姉からの話を聞いていた。そして、一通り沙羅姉からの解説が済んで、再び俺達は目の前の宿題を片付け始める。


 それからしばらくして、来栖さんが俺に小声で質問をしてきた。その顔は、さっきと同じ様に真っ赤で、なんだか色っぽかった。


「あの、東雲先輩っ。ひとつお聞きしてもいいですか?」


「どうしたの? 来栖さん。なにか解らないところがあったら、遠慮なく聞いてくれればいいからね」


 もちろん、これは勉強の内容の話だ。でも、来栖さんの口から飛び出した質問は、俺がまったく想定していなかった内容だったから、俺はそれを聞いて固まってしまった。


「し、東雲先輩は、やっぱり、おっぱいが大きい女性が好みですか? わたし、おっぱいがちっちゃいから、自信なくって。あ~あ、わたしも、六条先輩みたいなおっきなおっぱいだったらなあ~」


 来栖さんのこの発言は、もちろん沙羅姉にも聞こえていた。というか、来栖さんの声のボリュームは、もはや小声じゃなかった気がする。そして、沙羅姉は来栖さんの肩に手を置いて、ニヤリと笑いながらこう言った。


「大丈夫だ、来栖。海人は胸のサイズで女を見たりはしない男だっ! それはこの私が保証するっ!」


 おっ、ナイスフォローだよ、沙羅姉。こんな質問、俺から答えられるわけないから、この沙羅姉からの助け船はありがたい。でも、次の沙羅姉からの発言で、俺のこの気持ちは粉々に破壊される。


「試しに、海人の部屋のベッドの下でも漁ってみろ。巨乳から貧乳まで、あらゆるラインナップのエロ本が出てくるぞ。しかしまあ、よく言えば分け隔てない男だが、悪く言えば節操のない男だよ、海人は」


「いや! 沙羅姉っ! なんでそんなこと知ってるのさっ!」


 俺が身を乗り出しながら沙羅姉に問い詰めると、沙羅姉はなんの悪気もなさそうに、爽やかな笑顔でこう言った。

 

「それは勿論、海人が留守の隙に物色させてもらったからさ。私は、来栖に海人のことならなんでも教えてやると約束したからな。まぁ、些細なことだ、許せっ! 海人っ!」

 

 いや、その理屈はおかしい。思春期の男子の欲情を公にされるのは死を意味する。もはや俺にはプライバシーもなにもあったもんじゃないよ。俺が落ち込んでいると、その横では来栖さんが嬉しそうにはしゃいでいた。


「そうなんですねっ! よかった~ 東雲先輩がちっちゃなおっぱいが好きでっ! わたし、ちょっとだけ自信がつきましたっ!」


「ああっ! 来栖は自分の体に自信をもって、これからもどんどん海人にスキンシップをとってやってくれっ!」


 こうして、三人での勉強会(?)の時間は過ぎていく。よくよく考えたら、とても勉強が出来るような状況じゃない気もするけど、俺も来栖さんと一緒にいる時間に慣れていかないとな。

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