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沙羅、復活っ!

 あの騒動からしばらく経って、沙羅姉の退院の日がやってきた。俺と武、来栖さんと鍋島さん、そして、佐伯さんは、快気祝いの花束を持って病院へと向かった。そして、沙羅姉の病室にたどり着いた俺達は、荷物をまとめて、ベッドの上に座っている沙羅姉に話しかける。まずは、俺からだ。


「やあ、元気そうだね、沙羅姉。まあ、色々これから解決していかないといけない問題はあるけど、取り敢えず、退院おめでとう、沙羅姉」


「ああ、ありがとう、海人。今回は、あんな無茶をして悪かったな。私は不器用だから、あんな方法でしか今回の騒動を収めることができなんだ。みんなも、本当に、心配をかけて、すまなかった」


 そんな沙羅姉からのみんなへの謝罪を受けて、武と来栖さんが少しだけ声を張り上げて、沙羅姉に言った。


「まったく、本当に無茶したもんだよ、六条さんはっ! 今どき、武士みたいに切腹なんて、考えついてもやらねーよっ! 俺、海人から話を聞いたときは、『なんの冗談だ』と思ったけど、まさか本当にやるとはなっ!」


「そうですよっ! 六条先輩っ! わたしも、椿ちゃんや葵ちゃんからその話を聞いたとき、とってもショックだったから、その場で倒れるところだったんですからっ!」


「ハハッ! すまないすまない。でも、私はこうしてなんの問題もなく生きているわけだから、終わり良ければすべて良しだっ! だから、そんなに騒ぎ立てないでくれ。頼むよ、二人とも」


 沙羅姉にそう言われた武と来栖さんは、少し納得がいかなそうだったけど、最終的には沙羅姉の言う通り、この場はひとまず気持ちを収めてくれたみたいだ。そして、最後に、まずは鍋島さんが、沙羅姉の前に立った。


「今回は、葵が六条先輩や東雲先輩、そして、他のみんなにご迷惑をかけてしまって、本当に申し訳ありませんでした。こんなことになる前に、私や桃花が葵の気持ちに答えていればよかったと反省しています。ほらっ! 葵っ!」


 頭を深々と下げながら謝罪をした鍋島さんは、少しうつむいて花束を持って立っている佐伯さんに、沙羅姉の前に行くように促す。そして、それを受けた佐伯さんは、うつむいたまま、沙羅姉の前に立った。そして、佐伯さんは泣きながら、沙羅姉に向けて、ガバッと頭を下げる。


「六条先輩。本当に、オレのせいであんな大怪我をさせてしまって、申し訳ありませんでしたっ! もう、今後はオレが東雲先輩にしたような馬鹿なことは二度としないと誓いますっ! 許してくれとは言いませんっ! でも、この気持ちだけは、受け取ってくださいっ!」


 そう言いながら、佐伯さんは沙羅姉に花束を差し出した。そして、沙羅姉は、その花束を受け取りながら、佐伯さんの頭をなでる。


「ああ、是非そうしてくれ。そうでなければ、今回、私がこんな無茶をした意味がない。しかし、私が腹を切ったのは、私がそれしか思い付かなかったからなのだ。本当はもっと賢いやり方もあったのだろうがな。まったく、自分で自分が情けないよ」


 そして、沙羅姉は、佐伯さんの額に、自分の額をコツンと当てながら、とても穏やかな口調で、佐伯さんに言った。


「だから、佐伯が今回私がやったことを気に病む必要は全く無い。これからも、私と善き友人として、海人や他の者達共々、仲良くしてくれたら嬉しいよ」


 その沙羅姉からの言葉を受けて、佐伯さんは大声で泣きながら、沙羅姉に抱きついた。その衝撃で、花束から花びらがブワッと散った。


「本当にっ! 本当にっ! ゴメンよおおおっ! 六条せんぱあああいっ!」 


「泣くな泣くな、佐伯。さて、そろそろこの病室ともお別れだな。なかなか住み心地がよかったから、少し名残惜しいよ。だが、その前に、みんな、私に少し時間をくれないか?」


 沙羅姉からのいきなりの提案に、その場にいた全員が首をかしげる。そして、沙羅姉は、佐伯さんの頬に手を当てながら、こう言った。


「少し、佐伯と二人きりで話がしたいんだ。だから、みんなは病室の前で待っていてくれないか? なに、そんなに長くはかからん。頼むよ、みんな」


「あ、ああ、解ったよ、沙羅姉。それじゃあ、俺達、病室の前で待ってるから。みんな、それでいいよな?」


 俺からの確認に、佐伯さん以外のみんなは一斉にうなずいて、俺を先頭にぞろぞろと病室から出ていった。沙羅姉、佐伯さんとなにを話すつもりなんだろう?


 …………


 六条先輩からの一声で、病室にはオレと六条先輩だけが残された。そして、六条先輩は、ベッドに座ったまま、隣に空いたスペースをポンポンと叩きながら、オレに言った。


「さて、取り敢えず、そんなところに立っていないで、私の隣に座るといい。大丈夫、いきなりとって食いはしないから。ほらっ、佐伯っ!」


 オレは、六条先輩に促されて、六条先輩の隣に少し離れて座った。でも、六条先輩は、オレとの間を詰めて、オレの肩に自分の肩を預けてきた。


「なあ、佐伯。ひとつ聞きたいことがあるんだが、いいか?」


「あ、ああっ! オレ、六条先輩になら、なんだって答えるよっ!」


 そして、六条先輩は、オレに肩を預けてたまま、オレが予想もしなかったことを聞いてきた。


「佐伯、『女が女を好きになる気持ち』って、どんな感じだ?」


「えっ!? 六条先輩っ、なんで、それを……っ!」

 

 オレが六条先輩からの質問に驚いていると、六条先輩は、オレが質問に質問で返したことを気にせずに、オレの質問に答えてくれた。


「すまない、お前らが私のお見舞いに来てくれた日、私は実はずっと起きていたんだ。だから、佐伯に起きたあの出来事も含めて、全部聞いていたんだ。本当に、すまない、佐伯」

 

「いやっ! それは全然構わねぇよっ! いつかは六条先輩にも聞いて欲しかった話だしっ! でも、なんでそんなことを聞くんだ? 六条先輩」


 ああ、なんだか、オレが質問をしてばかりだな。でも、そんなオレを、六条先輩はとがめることなく、また、オレの質問に答えてくれる。


「いや、私は、今のところそのような感情を抱いたことは無いのだが、もし、今後そのようなことがあったら参考にしたいと思ってな。なに、ちょっとした好奇心だ。答えたくないなら、それでも構わない」


 オレは、六条先輩からの質問に、ちゃんと答えることが出来るのだろうか。いや、それ以前に、自分が桃花や椿のことが、『好き』っていう気持ちについて、本当に自分で解っているのか? いや、今は、自分が感じている気持ちを、正直に答えるしかないな。


「そうだな、オレ、うまくは答えられないんだけど、『桃花や椿を自分だけのものにしたい』っていう気持ちが一番だったよ。ハハッ、女が女にこんなことを言うのは、おかしいよな」


 オレがそう言うと、六条先輩は、なんの雑念もなく、こう言った。


「それなら、なぜ、お前は来栖や鍋島に告白しなかったのだ? そこまで二人のことが好きなら、告白すればよかったじゃないか」


「えっ、そ、それは、女同士で、そんな関係になるのは、変っていうか……」


「私は、まったくそうは思わんな。昨今は、世界的にもそのようなカップルはごまんといる。佐伯よ、多分、お前は、二人に拒絶されるのが怖かったのではないか? ()()()()()()()()、な」


 六条先輩はそう言って、オレの肩に更に体重を預けてくる。多分、オレは、六条先輩に図星を突かれて、焦っている。そんなオレに、六条先輩はこう言った。


「私もな? 前に話したように、海人との今の関係が壊れるのが怖くて、海人に告白が出来なかったんだ。だから、私は来栖に海人を持っていかれてしまった。それは、佐伯も同じなんじゃないかと私は思うのだ」


「そ、それは、そう、なのかもな……」


「私は、佐伯になにかシンパシーのようなものを感じているんだ。だから、今回の佐伯の選択も解らなくもないのだ。だが、私は、海人と来栖を全力で応援する道を選んだ。それが私の生き方だからな」


 六条先輩は、今回オレがやってしまった馬鹿げたやり方に共感してくれている。それだけで、オレは、何だか救われたような気持ちになった。


「だから、佐伯には、自分の信じる道を進んで欲しい。二人を応援するも善し、二人を海人や武から奪い返すも善し。私はお前の選択を応援するよ。だが、やり方には気を付けろよ? 今回のような無茶なやり方ではなく、正々堂々、正面から、自分の気持ちをぶつけるのだ! 解ったな? 佐伯」


 凄い、凄いよ、六条先輩。オレには、一生かかったって、こんなこと他人には言えねぇよ。でも、オレ、本当に、六条先輩に救われたよ。誰かに自分の気持ちを理解してもらうのって、こんなに嬉しいもんなんだな。


「ああ、解ったよ、六条先輩。まったく、六条先輩には敵わねぇやっ! これからも、よろしくな、六条先輩」


「ああっ! なにか相談事があるなら、遠慮なく、私に相談してくれっ! どんなことでも、私が全力で解決してやるからなっ!」


 こうして、オレと六条先輩は、同じ境遇の友達としての絆を深めることが出来た。これからオレがどうするのかは、自分でも解らないけど、少なくとも、桃花や椿、そして、東雲先輩や、(一応)神山先輩を悲しませないような選択をしていこうと思う。

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