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第283話:疑惑のジンバ。


 黒い騎士。

 じっくり観察できたわけではないが、そんな風貌だった。


 細身の全身鎧に身を包んだ真っ黒な騎士。

 アレはヤバい。

 シャイナの背後に現れた時、終わったと思った。

 俺が本気で戦えば勝てるとは思うが……いや、どうだろう。それすら疑問が残るほどに奴からは恐ろしい何かを感じた。


『リーヴァ……』


 ……なんだって?


『ううん、なんでもないわ』

 何でもない訳ないだろ今リーヴァって言ったよな?


『……』


 リーヴァって……カオスリーヴァの事だろう?

 まさか、アレが?


『ごめんなさい。私も分らないわ』


 ……ママドラはそれ以上何も語ろうとはしなかった。


 あの黒鎧の事は気になるが今はそんな場合じゃないか。


「うわ、何これどうなってるの!?」

「魔物だらけなのじゃーっ!」


 声のする方を見れば、討伐に出ていたというティアとラムが帰ってきていた。


「ちょうどいいところに! こいつらの殲滅を手伝ってくれ!」


「おっけーだゾ♪ でも後で詳しく聞かせてもらうからね!」

「儂も同意なのじゃっ!」


 二人の活躍たるや凄まじく、みるみるうちに魔物が殲滅されていく。

 もともとさほど強力ではない数だけの奴等だったので全て片付けるのはさほど時間はかからなかった。


 防衛隊員も数人で一体を相手にする形できちんと討伐に貢献してくれたし、シャイナも持ち前の機動力と魔法剣でズバズバと魔物を切り裂いた。


「……ふぅ、ミナト、感謝する。それにティアとラムも。君達のおかげで迅速に対処する事が出来た」


「……」


「ミナト? どうかしたのか?」


「いや、この襲撃に一体なんの意味があったんだろうなと思ってな」


 状況から考えてあの黒鎧がゲートを作り魔物を呼び出したのは間違いないだろう。


 しかし何のために?


「敵は隊長の不在を狙ったのだろうか?」


 隊長の不在……?


「そういえばジンバはどうした?」


「分らないが……姿が見えない以上、どこかへ出ているのだろう。ほら、ミナトに話をしに行く時ジルが呼びに来ただろう?」


 ジル? あの時呼びに来た隊員はジルというのか……。


 ……嫌な予感がするな。


「シャイナ、そのジルって奴を呼んでくれ。早く」


「ど、どうしたんだ? とにかくジルだな……おいジル!」


 シャイナは魔物の死骸だらけになった訓練場をぐるりと見渡し、死骸を撤去している者の中から一人に声をかける。


「ちょっとこっちに来てくれ。ちょっと話がある」


 ジルと呼ばれた隊員は不思議そうに首を傾げながら、小走りでこちらに駆け寄ってきた。


「シャイナ副隊長、何か御用でしょうか……?」


「ジル、今日ジンバ隊長を呼びに来ただろう? あれは一体なんの用件だったんだ?」


「……?」


 ジルは何を言っているのか分からないといった様子で首を捻る。


 俺の嫌な予感は的中してしまったようだ。


「ジルっていったな。もしかして……なんだが、今日ジンバ隊長を呼びになんて行ってないんじゃないか?」


「ええ、必死に記憶を辿ってみてもそのような記憶はないんですけど……」


「待て、どういう事だ? あれは間違いなくジルだっただろう?」


 シャイナがジルの襟元を掴んでぶんぶんと振った。


「ふ、副隊長……! や、やめて……っ!」


「シャイナ。ジルは何も知らないんだよ。あの時ジンバを呼びに来たのはジルに似た何かだ」


 洗脳されたジルという可能性もあるが、おそらくジルに擬態した何かだった可能性が高い。


「……どういう事だ?」


「あの時ジンバを呼びに来たのは魔物側の手の者だった可能性が高いって言ってるんだ」


「まさか……ジンバ隊長はおびき出されたのか!? 敵の手に落ちてしまったのだろうか……?」


「……シャイナ、防衛隊員を全員ここに集めてくれないか?」


 もしあの時ジンバを呼びに来たのが擬態の得意な魔物だった場合、まだ防衛隊に紛れ込んでいる可能性がある。


 というか、ジル本人が何も知らない以上他の隊員に化けてでもいないと他の問題が発生してしまう。


「これで全員だが……」


 怪我をした者もネコが治してくれていたので、防衛隊員は全員無事だった。

 俺はそいつらの魂の色をチェックする。


 魔物ならば、何か分かるはずだ。


 だが、集まった防衛隊員の中にそれらしき者は存在しなかった。


 となると……だ。


「残念だがここに居る隊員は全員本物だな」


「そんな事が分るのか? でも全員本物なら残念、という事は無いだろう?」


「残念って言ったのはな、この場合ジンバも怪しくなってくるからだよ」


 ジルに化けたやつがジンバを連れて一緒にどこかへ行った、あるいは……ジンバ本人もあちら側で、何かアクションを起こす時が来たため伝令が来た、など考えられる事はいくらでもある。


「馬鹿な。ジンバ隊長が怪しいだと? ふざけた事を言うな。いくらミナトでも許さないぞ」


「言っておくが、その可能性は有る。俺達がすべきはジンバが関わっているかどうか、それを確認する事だ」


「そもそもだ、隊長が今回の件に関わっていたとして、何故そんな事をする必要がある?」


 シャイナの言う事も分る。

 どちらにせよこの襲撃に何かしらの意味があるはずなんだ。


 このタイミングでここを襲撃する理由……ジンバは俺達が居るのを知っていた。

 だとすると壊滅させる事が目的じゃないだろう。


 ……足止めか?


『これでジンバって隊長がたださらわれただけで無実だったら可哀想ね』


 それならそれでいいだろ。俺は可能性として奴が関わってる可能性があるって思っただけだ。


 そして俺の嫌な予感は大抵の場合当たるんだよ。



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