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第274話:うぇ~っなのじゃ~っ。


「ま、待って下さいシャイナさん! 彼女は神官ですよ!? サポート職とゴリゴリの前衛を戦わせるなんてどうかしている! さすがにこれは試験の範疇を越えています!」


 ルークが慌てて止めに入る。

 いいぞ、もっと言ってやれ。アルマが悪ふざけする前にこの話が流れてしまえば問題ない。


「黙れ。何も勝てるとは思っていない。彼女の資質を見るだけだ。補助魔法が使えるというのなら自分にかける事も可能だろうし、なにより後衛だからいつでも安全な場所で戦えると勘違いされても困る」


「し、しかし……!」


「何をぶつぶつ言ってらっしゃるんですの? 私はいつでも構いませんから早くかかっていらっしゃいまし」


 アルマが挑発するようにハロルドに人差し指を向け、自分の方にくいくいっと指を曲げて煽る。


「いい度胸じゃねぇか。嬢ちゃんがやる気なら何の問題もねぇよな? 死んでも恨むんじゃねぇぞ?」


 この状況で何も口を挟まない隊長もどうかと思うんだけど!?

 ジンバは真面目な顔で成り行きを見守るのみだった。


「いいから。口だけじゃない所を見せて下さいな」


「ふざけやがって……じゃあお望み通りにその可愛い顔をボコボコにしてやるよ!」


 大男の剛腕が振るわれ、アルマの顔面に直撃。


『あー知らない。私は知らないからね』

 俺だって知らないよ!


「あれぇ? 今もしかして何かしましたかぁ?」


 アルマは顔面に大きな拳を受けても全くノーダメージ。たぶんうっすら障壁張ってるんだとは思うけど……。

 わざとネコっぽい喋り方するあたり質が悪いな……。煽りまくってやがる。


「なっ……! なるほど、手加減は要らねぇって事だよ……なっ!」


 いつの間にか男の拳にはいかついメリケンサックみたいな物が装備されていた。

 武器をどこからか取り出したというよりは魔力によって作り出した、という方がしっくりくる。

 いかつい外見の割になかなか繊細な事が出来るじゃないか。


 ……まぁ、相手がアルマじゃどうしようもないけど。


「こんな物騒な物で乙女の顔面を殴ろうとするなんてイケナイ子ですわねぇ?」


「えっ、あ、なっ!?」


 ハロルド渾身のメリケンサックはアルマの指一本で受け止められていた。


 シャイナは目をこれでもかと大きく見開き、アルマから目を離せないでいた。


「どうしますぅ? これでもまだ頑張っちゃいますかぁ?」


 アルマが笑いながら更にハロルドを煽っていく。


「ふ、ふざけるなよ! 防御魔法がどれだけ凄かろうと攻撃が貧弱ならば俺は負けないっ!」


「ふふっ、いいですわ♪ どこまで我慢できるか試してあげますね」


 ぶぼっ!


 ハロルドの拳が、いや、腕が肘のあたりまで消し飛んだ。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!」


 この場に居る防衛隊の誰一人としてハロルドの身に起きた事を理解出来た奴はいないだろう。


 ただ単にアルマは指で受け止めたハロルドの拳を、デコピンをするように軽く弾いただけなのだ。


「う、腕がぁぁ……っ」


「どうします? 降参しますかぁ?」


「ふざけやがって……殺してやる、殺してやるぅぅ!!」


 やめとけばいいのに……。


「じゃあ次はもう一本の腕ですわ♪」


 ぴちゅん!


 アルマが目からビームを飛ばしてハロルドの残った左腕を蒸発させる。


「あがっ、あ、あぁぁぁ……」


 アルマはまるで大魔王みたいな笑みを浮かべて、のた打ち回るハロルドにゆっくりと歩みより、目の前にしゃがみ込む。


「次は右足ですわよ♪」


 アルマがハロルドの足を掴んで乱暴に引き抜く。


 ズボンは一瞬で破れ、太ももの辺りからぶちぶちっと足が引っこ抜かれた。


「あ゛っ……」


 そこまでだった。ハロルドの意識はそこで途絶える。


 見ていた防衛隊員、団長のジルバ、そして副団長のシャイナ、その全てがくちをあんぐりと開けて一言も発する事が出来なかった。


「ねぇそこの貴女」


「ひ、ひゃいっ!?」


 アルマがシャイナに呼びかける。


「貴女がこの試験の完了の合図をしませんと彼はこのまま死にますよ? いいんですか? 殺しても」


「ま、待て! よく分かった。君の実力はよく分かったから!」


「じゃあ私は合格かしら?」


 シャイナが無言で首を何度も縦に振った。


「判断がもう少し遅ければこの男は死んでいましたわよ? 上に立つ立場ならば臨機応変に最適な判断をすべきですわ」


 そんな苦言をシャイナにぶつけながら、アルマはハロルドの身体を修復してみせる。


 飛び散った血液もずるずるとハロルドの身体に戻っていき、欠損した手足の断面が脈を打ち肉が再生していく。


 それを見ていた者は息をのみ、或いは目を逸らす。


 ラムには刺激が強かったらしく「うぇ~っなのじゃ~っ」とわめいていた。

 そんな時までのじゃをつけるあたりとても可愛い。のじゃろりの鏡みたいな子である。


「は、ハロルドは……無事、なのだろうか……?」


「見て分かりませんの? 元に戻してあげましたので問題ありませんわ」


「そ、そうか……防御、攻撃、回復……その全てにおいて貴女はその実力を示した。貴女達の事を疑って、すまなかった」


 深々と頭を下げてアルマに謝罪をしているが、これではアルマと愉快な仲間達になっちまう。

 それどころか馬鹿ネコと愉快な仲間達扱いされたらまずい!


「何言ってんの? 俺の試験がまだ残ってるよね? 確かシャイナ副隊長様が相手してくれるんだったよな?」


「い、いや……貴女達の実力はもう分かりました……」


「でも俺の実力は知らないよね? ね? 自分の目で見たものしか信じないって言ってたよね? そうだよね!?」


 ぐいぐいとシャイナに詰め寄る。


「ひっ、ひえぇぇ……」


「シャイナ、元はと言えば君が彼女らに対して酷い対応をしたのが悪いんだ。さぁ、骨は拾ってあげるから行ってきたまえ!」


 隊長が、どんっとシャイナの背中を押す。


「しっ、死ぬ……死んで、しまうっ!」


 あれ……なんか俺が悪いみたいな展開になってないかこれ……。


『完全に怯える女子をいびる虐めっ子の図よね。周りの防衛隊員みんな引いてるわ』


 ぐっ、こうなったら……思いっきり悪役を演じてやろうじゃないか!



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