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第253話:お子様賢者。


 一度家に帰り、翌日改めてギルドを訪れると、まるで大企業の社長が出勤してきたみたいに荒くれ共が入り口の両脇にズラーっと並んで道を作ってくれた。


「おいおい……いくらなんでも大袈裟すぎるだろ」


「い、いえ! ミナトさん達はこのギルドの光なんです! いや、それどころか間違いなくシュマル最強のパーティだ! これくらい当然ですぜ!」


 皆頭を下げている妙な絵面の中、一番入り口の近くにいたオーガスが一歩前に出てそんな事を言ってきた。


「だからってこれから毎日これやるつもりか? 俺達の事は気にしなくていいからお前らも普通に依頼こなせよ」


「そういう訳には……」


「あのなぁ、何か勘違いしてるみたいだから言っておくけど、高レベルのパーティだろうがなんだろうが俺達はまだここでの実績ゼロなんだぜ? いわば新入りってやつだ。デカい顔されるのは嫌だけどそんなへりくだられても迷惑なんだよ」


 俺はこういう相手によって態度を変える奴ってのを嫌というほど見てきた。

 今回に関しては純粋に憧れとか期待とかそういう視線なのは理解してるけど、あまりいい気分じゃない。


『君は前の人生でよっぽど荒んでいたのねぇ』

 ごく普通の根暗イキリ高校生だよ。


『今じゃこっちの世界で生きた時間の方が長いんだから前の人生に引っ張られちゃだめよ?』


 ……言いたい事は分かるけどさぁ、わざわざこうやって新しい世界にきたのに前の人生の悪夢が向こうから追いかけてきたんだから仕方ないだろうが。


『でもそれももう気にしなくていいんでしょ?』

 ……まぁそれもそうか。


「とにかく、今後は普通にする事! むしろ次回もこんなふうにしたらぶん殴るからな」


「わ、分かりました!」


「敬語もやめろ気持ち悪い」


 オーガスはちょっと困り顔になりながら、「わ、わかった……ぜ」と言った後頬を赤くしていた。気持ち悪い。


 いかついおっさんの赤面なんて嬉しくもなんともないわ。


 外に並んでいた奴等を引き連れてぞろぞろと中へ入ると、皆が俺達を取り囲んだままなんの依頼を受けるのかを見守る。


 やり辛いなぁおい。


「ニーム、何かいい仕事はあるか?」


「お、おはようございますミナトさん、それに皆さんも」


 ニームは未だに慣れないのか少し怯えた瞳で俺達一人一人に視線を泳がせる。


「ニームちゃん、私達に相応しい仕事をいっちょよろしくだゾ♪」


 ギルドのカウンターにひょいっと飛び乗り、足を組むティア。


「おいティア、お前意外とスカート短いんだから気をつけろよな」


 周りの男どもの息をのむ音が聞こえてきて鬱陶しい。


「やだミナトのえっちー♪」

「ごしゅじん、えっちなの担当は私がいるじゃないですかぁ」

「ミナト、えっちなのはよくないと思うのじゃ……」


「とりあえず黙ってくれるかな?」


 口々に茶化してくる女性陣を黙らせてニームに仕事の催促をする。


「えっとですね……貴女達に相応しいか、は分かりませんが誰も対応できずに長く放置されていた案件があります。それでもいいでしょうか?」


「構わんよ。どんな案件なんだ?」


 野郎共がざわざわとし始める。よほど有名な案件なんだろう。


「ここから南に行ったゴリリアという森にドラゴンが住み着いてしまい、森に入った人を襲ったり動植物を見境なく食べてしまったりで生態系が壊れかけているんです。可能ならそのドラゴンの討伐をお願いしたいんですが……」


 詳しい話を聞いてみると、一か月ほど前からそのドラゴンが住み着いてしまい、森はかなり荒れていて現在は立ち入り禁止になっているとの事。

 希少な薬草が採取できる場所なので出来る限り速やかになんとかしたい……って話らしい。


「初っぱなドラゴン討伐か……悪くないな。倒したって証明はどうする?」


「それでしたら身体の一部を持ってきていただければ。身体のどこをとっても貴重な資源になりますので、討伐完了後に人員を派遣して素材を確保させてもらいます。勿論素材分の代金は討伐料とは別でお支払いいたしますので……」


 なるほどな。でもそれだったら……。


「それならドラゴン丸ごと持ってくればいいのじゃ♪」


 ラムが明るい無邪気な声でとんでも無い事を言いだした。……ように周りには聞こえるんだろうな。

 でもそれはいい案かもしれない。


「さ、さすがに持ってこれるようなサイズではありませんよ?」


 ニームも子供の戯言だと思ったのか優しい声でやんわりと否定した。


「多分俺達なら出来るぞ。持ってきた方が都合いいならそうするけどどうする?」


「えぇ……? ほ、本当に持ってこれるのならばそれは確かにその方がありがたいですが……」


「大丈夫だって。任しときな」


 ……とは言ったものの、距離はどのくらいあるんだろう? ぶっちゃけそれ次第ではあるか。


「その森までは何キ……何フィールくらいあるんだ?」


 この国じゃ距離の単位はフィールだった。前住んでた時には特にそんなの気にしてなかったけど郷に入っては郷に従えって言うし気をつけよう。


 確か通貨はガロだったかな。


「大体二十フィール前後でしょうか」


「ふむ……ニーム、地図を貸してもらえるかのう? できるだけ精巧な物があるといいんじゃが」


 ラムの言葉にニームがカウンター奥から大きな地図を持ってきてラムに手渡す。


 受け取ったラムは車椅子からはみ出すほどのサイズの地図を一生懸命広げてはふむふむ言ってる。かわいい。


「うむ、この程度の距離なら転移ですぐにでも行けるのじゃ♪」


 ……マジかすげぇな。


 俺が驚くくらいだから周りの野郎共やニームは一瞬ラムが何を言っているのか分からなかったみたいで、ほぼ全員が同じ言葉を発していた。


「……へ?」


 ってな。



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