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第221話:そんなふうに育てた覚えはない。


「お前はギャルンの部下か?」


「ギャルン……あぁ、カオスリーヴァの分身体とかいうアレか。あんなのはどうでもいい。ランガム教の神などただの飾りよ」


 ……どういう事だ?


 そんな事を悩んでいる間にも男はまるで映画のエクソシストみたいに海老反り状態でこちらに飛び掛かってきた。


 ローブに隠れて見えない部分から勢いよく糸が噴射される。


「やっぱり蜘蛛かよっ! 俺は蜘蛛が大嫌いなんだ!」


『焼き払え』

 やってやるさ!


 邪竜の力を借りて口から高温のブレスを吐き出す。

 とうとう俺も口から火を吹く生き物になっちまった。


『小僧はすでにドラゴンであろう? これくらい自分の意思で出来ずどうする』

 そりゃすまねぇな!


「ぎゃぁぁっ!」


 糸ごと燃やされた蜘蛛野郎は全身火だるまになって地面を数度転がり、火のついた白ローブを脱ぎ去って姿を消した。


「……なるほどな。レナが見失うわけだ」


「ふふ、このスパイン、貴様を倒して最高の供物にしてくれるわ」


 供物、ねぇ……。


『気付いていると思うがこのスパインとかいう畜生は特別な音波を出しているぞ』


 分かってる。俺はこいつが音を操って敵を攪乱するタイプの相手だと思っていたが、どちらかというと特殊な音波を使って相手の感覚をおかしくさせるタイプらしいな。


「残念だけどお前の力は俺には効かねぇよ」


 といっても邪竜のおかげなんだけどさ。

 俺だけだったら温度感知も出来ないしこの妙な音波で感覚が狂ってなかなか仕留める事は出来なかったかもしれない。

 一度姿を消されたらどこにいるかも判別不可能だ。


 でも俺の右目はお前の位置を捉えている。

 音波に関しても邪竜が俺の感覚を補正してくれる。


「お前の言い方をするなら、俺はお前よりも上位の存在ってやつだ」


「何を訳の分からない事を……!」


 その声は確かに全方位から聞こえてくるような感覚があった。


『右斜め上から聞こえてくるのが本物だ。言うまでも無いがな』

 まぁ、そうだろうな。


 だって姿を背景に溶け込ませたスパインが柱の右斜め上のとこに張り付いてるんだからよ。


「お前姿が見えてたら雑魚だな」


「わ、私が雑魚だと……!? 殺す! お前は絶対に私が殺して……」


「うるせぇよ」


 邪竜のブレスをお見舞いしてやると、スパインは最後の声をあげる事もないまま地面に落下しのたうちまわって動かなくなった。


 念の為にその身体を切りつけ三等分して終わり。


 あっけねぇもんだぜ。


 バキン。


「……ってわけでもねぇか」


 俺はホールでレナ達の元まで戻る。

 するとそこには……。


「み、ミナト……!」


「分かってる。任せろ」


 先程倒したスパインがレナとヨーキスを襲おうとしていた。

 結界はあっさりと一枚破られていたが、それは警戒用に薄く張っていただけの物だ。


「お前やっぱり馬鹿だろ? こっちなら簡単に倒せるとでも思ったのか?」


「……どうやら、一枚食わされたようですね。私の役目は終えているので帰る前にこいつらだけでも吸収していこうと思ったのですが……」


 こっちのスパインは先ほどの三倍くらいの図体だった。

 もしかしたらレナと同じような事が出来るのかもしれない。


 いや、レナと同じ事が出来るのなら今頃この空間は蜘蛛だらけのおぞましい光景が広がっているだろう。

 おそらく本体がこれであっちが力のごく一部。

 レナよりも限定的だがそれなりに力を持った分身体を生み出す事が出来る、ってところかな。


 それにしても役目を終えている、というのは引っかかる。

 砦はほぼ落とされたようなものだろう? この状態で役目を果たしていると言えるのか?


「私を先ほどの私と一緒にされては困りますね。やはり少々面倒でも貴女を殺しておいた方がよさそうだ」


 先程よりも明らかに力強く、数倍早く太い足が一斉に俺に向けられる。


「うわ……蜘蛛は嫌いなんだって言ってるだろうが……」


『小僧、お前に儂の力をもう少し貸してやる。思う存分八つ裂きにするがいい』

 あまり八つ裂きにしたくはないんだけどな。変な汁が出そうだし。他の方法無い?


『ふむ……ならばこれはどうだ?』

 ……それ採用で。


 俺は邪竜の力を借りつつ、自分の腕を竜化させスパインの足を数本纏めて粉砕する。


「ぐあっ!? しかしその程度、すぐに修復しますよっ!」


 俺が砕いた足があっさりと元の形に戻っていく。


「俺はさっきお前の足を砕いた時に毒をしこたま注入しておいたんだが」


 邪竜の持つ毒。神経を麻痺させてゆっくりと命を奪う、邪竜の性格の悪さが出まくってる攻撃方法だ。


『一言余計ではないか?』

『そうなの! ミナト君ってばいつも一言多いのよ!』

『年増ともたまには意見が合うものだ』

『年増って言うなボケェーっ!』


 騒がしいなぁ……頭の中で怪獣大戦争するのやめろよ。


『誰が怪獣だと!?』

『誰が怪獣よ!』


 お前ら多分仲良くなれるよ……。


「毒、だと……? しかし残念ながら私には効かぬようですね。少々ヒヤっとさせられましたが……貴女如きが私よりも上位の存在とは笑わせてくれる」


 ……あぁこれは確かに質が悪い。


「お前自分が今どういう状況か分かってねぇのか?」


「貴女の戯言に付き合う気はありません!」


「いや、どこ向いて誰に話してんだよ。それに……まだ勝てると思ってるなら俺に攻撃してみろや」


 それが出来るようには見えないけれど。


「……? あ、あれ……? あれ、あ、あば、なにがが、おがじ……」


 スパインはさっきから地面にぺたんとへたり込んだ状態で頭はレナの方を向いて話していた。


 既に手足はびくびくと痙攣してまともに動ける状態とは思えない。


「お、おば、おばえ……何を……」


「だから毒だってば。どうやらそれ半日くらい続くらしいから頑張れよ」


「い、いだい、いだくなっできだ……! なんだこでは……」


 だから毒だって言ってんだろうが……。

 話の分からない奴だな。


「その痛みは徐々に強くなってくけどすぐには死ねない。半日くらいかけてゆっくりゆっくりお前を苦しませてからだんだん脳味噌が溶けていくらしい」


「や、やだ……」


 そんな可愛い言い方しても許してあげません。


「だ、だずげ」


「なんだって? 何ってるか分からないわ」


「だぶげで」


「だぶげでって何? 助けてほしいんだったら何とか出来たかもだけどだぶげでじゃわかんねぇや。レナ、ヨーキス、帰ろうぜ」


 結界を解いてやるとレナとヨーキスは恐る恐る、びくんびくん痙攣してるスパインを避けて俺の元へ歩いてきた。


「ばっで……だ、だぶげ」


「だからだぶげでじゃわかんねーって。じゃあなせいぜい頑張れ」


『小僧もなかなかいい性格をしているな』

『私はそんなふうに育てた覚えないんだけど……』


 安心しろママドラ、俺はお前に育てられた覚えないから。





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