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今日も絵に描いた餅が美味い  作者: もちもち物質
番外編:明日も絵に描いた餅が美味い
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リスさんだわ!*3

 そうして半ドラゴンを各々楽しんだら、大体30分経たないうちに元の恰好に戻った。

 これは中々面白いぞ、ということで、皆面白がって次々に別の変身おやつを食べてみる。

 白いふわふわのクリームが乗っかったキャロットケーキを食べてみたら、ウサギの耳と尻尾が生えた。僕は黒ウサギ。ライラは茶ウサギ。レネは紺ウサギ!

 髪の色の毛の耳が生えるみたいで、クロアさんには金色の毛の耳がすらりと生えていたし、ラオクレスの耳は鈍色のちょっと硬そうな毛に覆われていたし。

 ……ただ、ちょっと面白かったのは、耳の長さや形状がちょこっと違ったことだ。

「レネの耳は垂れ耳なのね。かわいい。えーと、せうーと、せうーと!」

 ライラはレネの耳をつついたり、ちょっと持ち上げて捲ったりしながらにこにこしている。……どうやらレネは、ロップイヤーウサギになったみたいだ。ライラに耳を見られてちょっと恥ずかしそうににこにこしている。

 他にも、アンジェとラージュ姫の耳は垂れ耳だった。

「いつにも増してラオクレスの身長が高く見えるわね……」

「……そうか」

 ラオクレスの耳は直立している普通のウサギの耳なので、なんというか、ものすごく身長が高くなったようにも見えて面白い。

「ふふ。なんだか音がよく聞こえるみたい。ウサギさん達はこういう風に音を聞いているのね」

 クロアさんは耳をぴこぴこさせながらウサギ体験をしているのだけれど……うん。

 ……なんでだろう。大人の綺麗な女性にウサギの耳が付いていると、その……なんだかちょっと、そわそわしてしまう気がする。なんでだろう!




 ウサギが終わったら次は……ええと、このケーキはなんだろうか。きゅっと酸っぱい味がするのだけれど……あ、マタタビだろうか。

 推定・またたびケーキを食べてみたら、案の定、猫の耳と尻尾が生えた。……クロアさんに生えた耳がサーバルキャットの耳だったのが、なんだかとても似合うなあ、と思った。そうそう、クロアさんはこういうイメージ。

 あと、カーネリアちゃんに生えた耳が猫っていうよりは虎の耳だったのだけれど、本人が『強くなった気分だわ!』と目を輝かせているのと併せて、なんとなく似合っていていいと思った。

 あと、先生。『うわっ、僕、滅茶苦茶レアじゃあないか!?』って言っていたのだけれど、何かと思ったら三毛猫の耳が生えていた。……オスの三毛猫は確かにものすごく珍しいらしいから、うん。滅茶苦茶レアだね。




 それから、『材料があんまり無かったので全員分は用意できませんでした』っていう類のお菓子を食べてみる。

 ラージュ姫が最初にどんぐりキャンディを食べて、リスの耳と尻尾をふわふわ生やして喜んでいた。……何故だろう。ラージュ姫、リスの尻尾、似合いますね。


 次にフェイがルギュロスさんに稲荷寿司を食べさせて、銀色の狐の耳と尻尾を生やしていた。……何故だろう。ルギュロスさんも狐の恰好、似合うね。あと、彼としては稲荷寿司が結構新感覚の味だったらしくて、『なんだこれは!?菓子か!?』と混乱していた。まあ、お菓子じゃないですね。


 ルギュロスさんがお返しとばかりにフェイの口へフルーツタルトレットみたいなものを押し込んだら、フェイの腕が鳥の翼になってしまった。ついでにお尻から尾羽。どうやらこれは鳥になれるお菓子だったみたいだ。フェイは羽ばたいてみたものの上手く飛べずにひっくり返って大笑いしていた。楽しそうだね。


 それからラオクレスが骨の形をしたクッキーを食べて、犬……というか狼の耳と尻尾を生やしていた。牙もちゃんと生えてた。彼の髪の鈍色と、金色にも見える瞳、そして鋭い視線や表情が狼っぽいなあとは時々思っていたけれど、成程、こうして本当に狼っぽくなってみると、中々似合う。


 カーネリアちゃんは蜂蜜ケーキを食べて、子熊の耳が生えて、更に、手が熊の手を模したぬいぐるみみたいなもので覆われてしまった。……カーネリアちゃんは『熊さんなのにあんまり強そうじゃないわ!』と不服気だったけれど、それがまたなんとも可愛らしいんだよ。


 アンジェもフェイのと同じタルトレットを食べて、真白い羽が生えていた。えーと、多分、シマエナガ。

 面白いことに、リアンも揃ってシマエナガだった。フェイは全然違う鳥なんだけれどなあ。やっぱり、食べた人によって結果には個人差があるんだろうなあ。


 クロアさんがリンゴのパイを食べたら、なんと、スカートから伸びる脚が蛇のそれになってしまった!……クロアさん、蛇の恰好をしていても妙に艶めかしいというか、似合うというか、なんというか。ちなみにクロアさん、皆に巻き付いて遊んでた。案外楽しいらしいよ。


 それからレネとライラがザクロのゼリーを食べて、悪魔みたいな角と尻尾とコウモリっぽい羽根を生やしていた。更に、黒い小さな三又の槍……というかフォークみたいなのも手に持っていて、ライラはそれで僕をつつき始めた。

 痛くはないんだけれど、その、ちょっとくすぐったい!やめてやめて。レネも一緒になってつつこうとしないで!


 そうして僕と先生は残っていた綿飴を食べたのだけれど、そうしたら真白い羽と、天使の輪っかが生え……生えたの!?この、妙に光る輪っか、生えたんだろうか!?

「見ろ、トーゴ。僕はオチ担当らしい」

「ああ!よく見たら先生の天使の輪っか、蛍光管!」

 しかも先生の輪っかは電気で光るやつだった!どうして先生ってこうなんだろうなあ!




 ……と、まあ、色々な風に変身して楽しんだわけなのだけれど。

「これ、空を飛べちまうやつはやめといた方がいいかなー」

「そうねえ。子供達がうっかりドラゴンになって空を飛んで落っこちてケガなんてしたら大変だもの」

 まあ、一般に売り出すものとしては、猫や犬、狐やウサギになっちゃうお菓子(と稲荷寿司)ぐらいにしておいた方が良さそうだね、という結論に至った。さっき鳥になったフェイがひっくり返ってたしなあ。

 いずれ、妖精公園の一角にぽよぽよのキノコで地面ができているぽよぽよエリアを作ったら、そこでだけ飛行可能ってことにしようかな……。


 ということで、そんな会議を経て……。

「今日は皆さん、ご協力どうもありがとう!今日のお菓子はもうちょっと改良してから、妖精公園で売り出すことにするみたいだわ!」

 カーネリアちゃんとアンジェ、そして妖精達が並んでにこにこしつつ、お辞儀してみせてくれた。僕らとしても、彼女達の助けになれたなら光栄です、というやつだよ。

 ……これから変身おやつは妖精公園の目玉になるだろうなあ。ちょっと楽しみだ。


 ということで、まあ、散々楽しんだ僕らは、家に帰って……。

「……ねえ。君、それ食べる必要、あった?」

 そこで、天使の輪っかと羽もう1対を生やしてバタバタしている鳥を見つけた。

 そっか。これの効果、君にも有効なのか……。

 羽と輪っかが増えた鳥を見て何とも言えない気分になりつつ、ちょっと面白いので描いてみつつ。

 ちなみに、魔王にはこれ、あんまり効果が無いらしかった。まあ、魔王は自力で変形できちゃうもんなあ。

 ただ、魔王は先生から進呈されたらしい環状の蛍光管を頭の上に乗せて、まおんまおんと走り回っていた。ちょっとかわいい。




 そんなこんなで変身おやつが無事、発売された。

 妖精公園で妖精が出している屋台が販売場所。子供のお小遣いでも買える価格設定なので、発売当日から早速子供達が猫や犬の耳を生やして遊び回っていた。

 一方、妖精魔法の学者さん達はそういう耳を生やしながら『どういう仕組みだ!?』ってものすごく議論していた。僕も町長として仕組みを聞かれたのだけれど、『製造は妖精に任せているので……』という返事をさせてもらった。実際に僕、魔法の仕組みはまるで分かってないしなあ。

 それから、時々ウサギの耳や猫の耳を生やした鳥が広場にやってきて、子供達に『わあ、今日もふかふかだね!』と撫でられている。妖精達はこの奇妙な眺めが中々気に入ったらしいよ。

 まあ、そうして変身おやつはソレイラの名産品となった、のだけれど。




「妖精さん達よ。よく見ておくがいい。いいかい?こうやって稲荷寿司は包むのだ。あんまり引っ張っちゃあいけない。お揚げが破れてしまうからね。うん、そう、そう……あああ、そっちの妖精さん!そりゃあご飯を詰めすぎってもんだ!」

 ……先生が。

 先生が、なんと、妖精達に稲荷寿司の技術指導をしている。

 理由は簡単。この異世界において、稲荷寿司なんて作ったことがある人は、僕か先生ぐらいなものだからだよ!


 妖精が作る稲荷寿司は小ぶりなサイズ。かつ、お揚げの耳がぴょこんと生えて、如何にも狐の耳と尻尾が生える変身おやつですね、といった風情。

 そんな稲荷寿司の量産にあたって一番の問題は、材料が手に入らないことじゃなくて……妖精達が稲荷寿司を作り慣れていないあまり、しょっちゅうお揚げが破れてしまうというところにあった!

「そっか。それで先生が技術指導に……」

「そういうわけだ。おかしいなあ、僕は一体何をやっているんだろうか……」

 先生は三角巾に割烹着という素晴らしく堂に入った格好で、妖精達と一緒に稲荷寿司を包んでいる訳なのだけれど……うん。

「あの、先生。原稿の締め切り、大丈夫なの?」

 僕としては、そっちが気になる。

 確か先生、『今日も絵に描いた餅が美味い』の改稿作業を行っているはずで、それを編集さんに見せる約束の日が10日後に迫っているはずなんだよ。まあ、編集さんには『僕が宇貫護の遺稿を発掘する期限』という建前を用意してもらっているんだけれどね。

「うん。実のところを言うとな、トーゴ」

 そんな先生は、妙に手際よく稲荷寿司を包みながら、言った。

「……あんまり大丈夫じゃないのだ」

 なんてこった!



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― 新着の感想 ―
[一言] あああああ、クロアさんの蛇に締められたい!
[良い点] 今の先生、ある種「編集から開放された作家」になるのか…… 給料のあてもないし、締切ぶち抜いてもなんら自分は困らない環境は堕落への1歩!! あとリスまおーん見れなかったのだけが未練です
[良い点] 本当に先生と一緒だと楽しさが何倍にもなる。トウゴ君良かったなぁ……
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