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今日も絵に描いた餅が美味い  作者: もちもち物質
番外編:明日も絵に描いた餅が美味い
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おひさまぽかぽか地区視察記*4

 技術支援。霊脈づくりの。

 それは……確かに、可能だ!もっと効率よく霊脈を復活させることも、できるかもしれない!

「分かりました。おひさまぽかぽか地区より、レッドガルド家への依頼、ということですね?」

 ラージュ姫も顔を輝かせてそう確認する。……すると。

「……わざわざ地区の名前を言わぬようにしたのだが」

 ものすごく。ものすごく嫌そうな顔で、ルギュロスさんがぼやいた。……まあ、うん。

「えっ、そう仰られましても、ここはおひさまぽかぽか地区ですので……」

 何故名前を忌避するのですか、とラージュ姫はちょっと困惑気味だ。けれど、うん……ルギュロスさんは格好つけたいタイプの人だからさ。その、こればっかりはしょうがないよ。許してあげようよ……。




 ……ということで。

 アージェントさんがちょっとやけっぱちになりつつ『ならば初めからレッドガルド家の属領とでもしておけばよいだろうに』と不貞腐れてしまったのを横目に、僕らはちょっと相談。

「技術的に、っつうと……まあ、可能なんだけどなあ、可能なんだけど……」

「持続できるか、っていうと微妙な手段だよね、僕が描いて出す、とか、先生が書いて出す、っていうのは……」

 ……可能なんだよ。霊脈を復活させること、多分、可能。僕が描くのが難しいにしろ、先生が『霊脈が復活した!あっぱれ!』とか書いたら多分、霊脈、復活すると思う。

 けれどそれって、この世界としてはあんまりよくない手段なんじゃないかと思うんだよ。何せ、僕らにしかできないことだから、この世界の人達だけで再現できないし。そういう手段で色々やっていたら、技術の発展を妨げることになりそうだし……。難しいね。

「えーと、一番現実的なところで行くと、ソレイラから算出する魔石とか霊水とかをこっちに輸出する、ってかんじか?んで、畑に撒く」

「そういう植物をソレイラから持ってきて植える、っていうこともできなくはないけれど……結局は僕が描いたり先生が書いたりするのと同じことにならない?」

「そうかぁー、そうだよなあ……」

 ……僕ら、色々なことを解決できるのだけれど。だからといって、簡単に解決しちゃいけないことっていうのも、あるわけで。今回はきっと、悩みながら試行錯誤すること自体に価値がある事例だと、思うのだけれど……。


「魔力の流れを作る、っつうアージェントの方針には大賛成だ。やっぱあいつ、頭いいんだなあ」

 さて。ということで方針の確認。早速、フェイが屈託なくアージェントさんを褒めるので、ルギュロスさんはちょっと複雑そうながらも嬉しそうだし、少し遠くの方で聞いているアージェントさんはちょっと居心地の悪そうな顔をしているし。

「少なくてもいいからちゃんと魔力が流れるようにしておけば、そこがいずれ大霊脈に育つ。他の土地から染み出して流れ込んできた魔力がちゃんとその流れに沿って流れていくようになるからな」

 成程。小川があれば、近隣の山から流れてきた水がそこを通るようになるけれど、小川が無くて平地だったら一面水浸しの泥濘になって終わり、っていうことかな。

「だからひとまず、流れを作るのが先決なんだろうなあ。それを今、芋畑でやってるわけだけどよー……」

 僕らの視線の先では、畑で芋の葉っぱが風にそよいでいる。のどかな風景だ……。

「……やっぱり、ソレイラで品種改良された植物を使って、魔石から魔力を抽出するのにかかる時間を短縮するのが一番いいのかな」

「あー、妖精が品種改良した奴か。あのバカでかい苺とか」

「うん。そう。あの大きな苺とか。ああいう風に、ものすごく魔力を吸い上げる植物を持ってきて、実った実を土に還して、ってやっていれば、普通のお芋よりもずっと効率がいいと思うけれど」

 ソレイラにはいくつか、妖精が勝手に品種改良しちゃった植物がある。

 人間の頭くらいの大きさの苺、っていうのがその代表格で……ものすごく大きな果実が実る代わりにものすごく魔力を食うものだから、ソレイラの豊かな土地でも連作できないと話題になっている。

 ただ、根っこが強くて、魔石からも魔力をぐんぐん吸い上げてくれる植物だから、あのパワーを使えば霊脈づくりにも一役買いそうな気がするんだよなあ。

 でも……。


「成程な。魔力を吸い上げれば魔力を集めて増やす働きと、土地から魔力を減らす働きとが同時に行える。そのように都合のいい植物があるなら栽培を試みるべきだろうな」

「ただ、問題もあって……あの巨大苺、相当に魔力を食うから……その、元々そんなに豊かじゃない土地だと、育たないみたいなんだよ」

 屑魔石を目いっぱい畑に漉き込めば、いけるかなあ。うーん……ソレイラの豊かさはその、ちょっと他の土地とは一線を画すので、あんまり参考にならない部分がたくさんあるんだよなあ……。

「……魔力が無くても魔力を吸い上げるような植物は無いのか」

「そんな都合のいいもんねえっつの!」

 ルギュロスさんが無茶を言って、フェイにびし、とおでこにチョップされている。ルギュロスさんはおでこにチョップされたことなんて生まれてこの方無かったんだろう。ものすごくびっくりしていた。よかったね、初体験できて。

 ……と、まあ、中々いい案が出てきませんね、と僕らが悩んでいたところで。

「とうごー、とうごー」

 レネが、僕の服の袖をついつい引っ張ってくる。

 何だろう、と思いつつレネの方を見ると……レネは既に、スケッチブックに文字を書いていて、それを僕に見せてきた。

『魔力を増やすのではなく、減らすことで魔力の流入を図るわけにはいきませんか?』

 ……うん。

『魔力不足の夜の国の者達が並ぶと、そこに魔力が流れ込んできませんか?』

 ……成程。

 どうやら、世界を超えたやりとり第一号が生まれるタイミングみたいだ。




「な、成程な……常に魔力不足である夜の国の住民を連れてきて、ここでちょこっと生活させてみる、と……確かに魔力を吸収消費しつつも、大量の魔力が無ければ生きていけないというわけではない生き物、か……」

 ルギュロスさんが何とも言えない顔でレネを見ている。レネはスケッチブックに『夜の国の住民は、長い夜の暮らしを経て、光の魔力を極限まで消費せずに生きていけるようになっています。けれど元々は光の魔力が必要なので、この国に来たら魔力を吸い上げる役割を果たすと思います!』と書いて見せている。

「しかし……得体の知れない連中を使う、というのもな……」

 ルギュロスさんとしては、レネ達夜の国の住民をここに招き入れる、ということにちょっと抵抗があるみたいだ。まあ、この人割と保守的な人なので……。

「ですが、おひさまぽかぽか地区だからこそできる試みとも言えます」

「……まあ、元々捨てたような土地だからな。失うものが少ない場所でこそ、実験的な試みを行うべきか……」

 けれど保守的でありながら利益の為にはバサバサ色々切って捨てられるルギュロスさんは、ラージュ姫の言葉に納得を強めたらしい。

「そういうわけだ、伯父上。如何思われる」

 よし!ルギュロスさんも賛成に回った!


「……夜の国の連中が吸った魔力はどこへ行く?弱者共へ施しをやるだけの余裕がこの土地……いや、この国にあるとでも?」

 そしてアージェントさんはやっぱり、夜の国の人達に抵抗感があるらしい。……ちょっとだけ、レネを見る目が慎重というか。まあ、レネに腕の骨全部折られてるからか。

「第一、そもそも、いずれ農地を捨てればよい、というだけの話だ。農地と農民を別へ転用するだけのことを回避するために、何故そのような危険を冒さねばならない」

「そりゃー、ここが荒れ地だからだろ。実験するならここしかねえ!」

 ……そしてアージェントさんの言葉はフェイのきらきらした瞳によって封殺されてしまった。

「……アージェント卿」

 更に、ラージュ姫もまた、きらきらした瞳でアージェントさんを見ていた。

「私は嬉しいです。あなたが……あなたがこのように夜の国からの客人を拒むということは、つまり、あなたにとってこのおひさまぽかぽか地区が思い入れのある土地になっているから、ということですね?」

 ……アージェントさん、何か、猛烈に反論を述べようとしたらしいのだけれど、咄嗟に何も言葉が出てこなかったらしい。ぱくぱく、と口が動いて、でも、にっこり笑ったラージュ姫がアージェントさんの手を握ったことによって、それすらも封じられてしまった。

「でしたら、おひさまぽかぽか地区のより一層の繁栄のため、最新鋭の技術を模索するために、共に研究を進めましょう!最終的に魔力があまりにも不足するということでしたら、他の領地から魔力を多く持つ物品を取り寄せるなどして補強しますので!」

 はい。それなら僕が役に立てると思うよ。いくらでも宝石を出してあげよう。紅茶缶と言わず、一斗缶にたっぷりの魔石を提供したっていい!


 ……そうして、僕らで説得を続けたところ。

「……後悔したとしても知らんぞ」

 アージェントさんはついに、そう言って折れてくれたのだった!

 よし!これから早速、手配しなければ!……一度枯れてしまった霊脈を、十数年なんて掛けずに大急ぎで取り戻すための準備に取り掛かるぞ!




 最初に整備したのは、道だ。

 これからたくさんの夜の国の人達を招致することになるので、その動線を確保しなければならない。

 ……ということで、レネ監修の下、おひさまぽかぽか地区の近くに仮設祭壇を設けることになった。ここで儀式を行えば、夜の国とここを直接繋ぐことができる。

 ちなみに、この様子と場所はアージェントさんには非公開としている。だって仮設でも僕が描いて出すことには変わりないので……。

 王都直轄領、かつおひさまぽかぽか地区の外、といった土地の、ちょっと森になっている部分を使わせてもらって、そこに小さめの祭壇をこしらえて、準備完了。鳥に月の光の蜜を塗って動作確認もした。夜の国とのゲートは無事に開いたみたいなので、これでよし。

 昼の国側の整備が終わったら、夜の国へ。竜王様とも相談しながら、こっちも仮設祭壇を1つ作る。

 今、レネが使っている祭壇は夜の国の城から結構離れた位置にあるので、空を飛べない人達にはちょっとアクセスが悪い場所なんだ。今回はとにかくたくさんの夜の国の人達を運ぶ必要があるので、城下町の外れの方に祭壇を作ることになった。

 その間、レネは竜王様と話し合いをして、夜の国の人達に募集を掛ける算段をつけてくれた。

 ……こういう風に唐突に夜の国の人達のご招待を決めてしまって、竜王様にはご迷惑を掛けるなあ、と思っていたのだけれど、竜王様、なんと、大層喜んでくれたんだよ。

 何でも、夜の国の人達はやっぱり光の魔力不足で、そのせいで体調を崩している人も多いんだそうだ。けれど、昼の国でたっぷり日光浴をすれば、彼らの調子も戻るだろう、ということなので……要は、昼の国での実験は、夜の国にとっての療養、っていうことになる、らしい。

『是非、私にも参加させてほしい』

 更に、竜王様はそう書いて見せてくれた。どうやら竜王様もようやく、昼の国へ来てくれるみたいだ!

『ご迷惑をおかけします。どうぞよろしくお願いします』

『迷惑なんてとんでもない。こちらこそ、この国の民に光の魔力を得る機会を与えて頂き、感謝してもしきれない』

 僕らはそうやり取りして、笑い合う。お互い様、っていうことなら遠慮なく、お互いにとって良いものを模索していきましょう。

『それに、私も一度、昼の国へ赴いてみたかった。常日頃からレネばかりずるいものだと思っていたのでな』

 ……ええと、実験終了後には、ソレイラ観光でもしてもらおうかな。レネばっかりずるい、なんて言えなくなるくらい、たっぷり昼の国を楽しんでもらいたい!




 さて。夜の国の人達の方の準備はレネと竜王様が担当してくれる、ということになったので、僕らは次に、衣食住の準備。

 ……これについては、おひさまぽかぽか地区に僕が描いて出したら意味が無いので……テントを、用意することにした。

 軽くて丈夫で大きなテントと、ふんわり暖かくて寝心地のいい寝袋とをたっぷり、ソレイラから運び込む、ということで。これには天馬達が活躍してくれた。天馬に引かれる空飛ぶ馬車がソレイラからふわふわ飛んでいく様子は中々見ごたえがあったよ。

 運搬したテントは、ニムオンさん達、おひさまぽかぽか地区の農夫の皆さんに手伝ってもらって、設営。テントの中には魔石ランプをぶら下げて、寝袋を置いて、これでひとまず、2泊くらいならそんなに不自由のない用意ができた。

 続いては食料。こちらもおひさまぽかぽか地区に頼れないので、ソレイラから運搬。

 ……ということにして、僕が描いて出しちゃった。ちょっと狡い気もするのだけれど、天馬を何往復もさせるの、申し訳ないので。仮設祭壇のあたりで描いて出して、それを天馬達にまた運んでもらった。距離が一気に縮んで、天馬はちょっと楽できたと思う。

 そして最後に、衣類。

 ……これは、特に用意する予定、なかったんだよ。夜の国の人達の衣文化って、昼の国のものとは大分違うだろうし。

 けれど、先生が『面白そうだからこういうの用意したらどうだい?』と用意してくれたのがあったので……。


「……つくづく思うが」

「うん」

 今、衣類の小さな山を前にして、ルギュロスさんが顔を引き攣らせている。

「お前といい、ウヌキといい。異世界人というものは、皆、こうなのか……?」

「……僕はそうでもないと思うし、先生は狙ってやってるし、ルギュロスさんの理屈で言うとラージュ姫も異世界人ってことになっちゃわない?」

 ……僕らの前の衣類は、ゆったりめのサイズのTシャツだ。胸のところに『おひさまぽかぽか』と書いてある。よくあるよね、こういう、よく分からない言葉が書いてあるTシャツ。

「ちなみにレネには好評でした」

「分からん……私には分からん……!」

 ルギュロスさんは頭を抱えていた。なんかごめんね。

 ……ちなみに、アージェントさんは頭を抱えることすらできずに、呆然としていた。こっちも、なんかごめんね。


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― 新着の感想 ―
[一言] ふりゃーTシャツなら売れそう。
[良い点] そうですよねえ、森とかならあんまり技術保守考えなくてもいいんですけど、おひさまポカポカ地区は別ですからねえ
[良い点] 私が考えてたように安易にトウゴくんに頼るのではなく仲良くみんなで相談してたとこ! あとラージュ姫やフェイの天然砲…w [気になる点] たんぽっぽ…でも喜ばれた気がしますね、Tシャツ そのう…
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