魔王の居るお家*2
魔王と僕は僕のベッドで一緒に寝た。ふにふにと柔らかい魔王の体は、抱きしめていて心地がいい。魔王としても人間とくっついているのは好きみたいで、異世界の寝床と僕とを存分に堪能しているらしかった。
そうして魔王と一緒に寝て、起きて、翌朝。
「おはよう」
「おはよう。……朝から掃除してるの?」
「うん。この子が張り切ってしまって」
僕らは今、台所掃除をしています。……お風呂掃除をしたら褒められた、と学習した魔王が、今度は台所の掃除を始めてしまったんだよ。おかげでもう、コンロも壁も換気扇も、戸棚の裏に溜まってたホコリだって、何もかもがすっかり綺麗でぴかぴかだよ。
「そう……」
母親はそっと、魔王を撫で始めた。魔王は未だに不気味だと思っているらしいけれど、『有用』という認識にはなったらしい。そして魔王は撫でられて嬉しいみたいで、まおん、まおん、とゆったり尻尾を振っている。かわいいなあ。
「朝ご飯の準備、できてるよ。食べる?食べるならもう焼いちゃう」
「そうね。支度してて。お父さん起こしてくるから」
そして、魔王の掃除に付き合いながら僕は僕で朝食の準備をしていた。今日はフレンチトースト。僕はこういうのが好きです、という紹介がてら、最近の朝食は僕が作ることにしている。
フライパンを軽く熱してからバターを入れて、バターの欠片がみるみるとろけていくのを見届けたら、卵液に一晩浸しておいたパンを、じゅっ、と焼く。ひっくり返す時にはお砂糖を振りかけてから。こうするとちょっと飴っぽくなって美味しい。
ついでにミルクティーの準備も進める。甘くとろんとしたフレンチトーストに無糖のミルクティー、っていうのが僕の好みなんだよ。
……ということで。
僕らは家族そろっての朝食。僕と父親のミルクティーは無糖。母親は微糖。魔王は割と甘党なので、お砂糖多め。ミルクも多め。
魔王は器用にフォークを使ってサラダのレタスをぱりぱり食べたり、フレンチトーストを切り分けて口に運んだり。以前の魔王は体のどこからでもものを食べちゃう奴だったけれど、最近は専ら『食べ物は口から、ゴミのお掃除は口以外から』っていうふうにしているらしい。
魔王は甘いフレンチトーストを口に運んでは、まおーん、と嬉し気に鳴く。尻尾がふらふら揺れて、如何にもご機嫌な様子。
「……今日、その猫、どうするの?」
そんな魔王を見つつ、母親が聞いてきたので、ちょっと考えて……。
「ちょっと連れて散歩してくるよ。大丈夫、あんまり近所じゃないところにするから」
『息子が変な生き物を連れて歩いてる、なんてご近所で噂になったらどうするの!』と言われる前に対策を言ってみたら、母親は、『ならいいわ』と言って、それきり何も言わなかった。
「リードか何かを付けていくのか?」
一方、父親の方はもうちょっと心配してくれるらしい。
「いや、このまま連れていこうと思うよ。本当なら、手を繋いで歩けるといいんだけれど……」
「手?」
「いや、手と尻尾。ええと……こんな風に」
『手と尻尾を繋ぐ』を実演するべく、僕は魔王の尻尾を、ふに、と掴んでみせた。すると魔王も僕の意図に気づいたのか、尻尾を僕の方へ倒して、そこでふらふら揺らして、まおん。そのまま2人でちょっと離席して、歩いてみせた。魔王の手は短いから手と手を繋いで歩くのは難しいのだけれど、尻尾を掴んで歩く分にはそんなに変じゃない。
「……二足歩行する猫っていうのは、妙だな」
あ、そうか。そういえばそうだった。魔王は二足歩行でぽてぽて歩くものだから、その、猫の散歩、っていうことにするにはものすごく不審。今に始まったことじゃないけど。
「まあ、そういうわけで襟巻きにしていこうと思ってる」
なので僕は、魔王をどう外に連れ出すか考えた結果……魔王を襟巻きにする、っていう方法を選ぶことにした。
魔王は管狐が色んな人にそうするのを見ているからか、自分が襟巻きになるのにもそんなに抵抗はないみたいだ。僕が僕の首をちょんちょん、と指差して、おいで、と言ってみると、魔王はすぐ僕の首ににゅるんと伸びて巻き付いて、すぽん、と首回りに落ち着いた。
「こんな具合に」
「……なあ、桐吾。この生き物は……何なんだ?」
「いや、その、ちょっと変わった猫……」
まあ、猫としてはちょっとおかしいけれど。でも、こいつはこういう襟巻きにもなる猫、っていうことで……駄目?
案外、魔王の襟巻き擬態能力は高かったので、僕らはそのまま外出することにした。
朝食の食器を片付けたら、いざ、出発。
「いってきまーす」
「……くれぐれも気を付けてね」
「うん。大丈夫だよ」
僕は見送ってくれる両親に手を振って、魔王も僕の首から尻尾を伸ばして振って、僕らは家を出た。
家を出た途端、息が白く広がっていく。
「今日も寒いね」
まおーん、と首元から返ってくる返事を楽しく思いながら、僕は早速、歩き出す。
「でも、君が居てくれるからあったかいよ」
魔王が巻き付いた首は、ふにふにと柔らかくてちょっとくすぐったくて、そして、ぬくぬくとあったかい。
「さあ、どこへ行こうか。本がいっぱいある所か、ちょっとした公園か……うーん、とりあえず片っ端から行ってみようか」
首元から勇ましく返されるまおーんの声を聴きながら、僕は早速、図書館の方へ向かって進んでいくことにした。
魔王は、現代の街並みに興味津々な様子だった。まおん、と小さく感嘆の声を上げながら駅前通りのビルの並びを見上げたり、走っていく車にびっくりして、まおんっ!と悲鳴を上げたり。
……ちょっと怖がって僕の首にきゅうとくっついてくるのが、またくすぐったくて、かわいらしくて、僕はかわいい襟巻きを撫でてやりながら歩いていく。
「ここ、夕方になるとイルミネーションがきらきらするんだよ」
駅前の通りの街路樹には、冬になると青と白のLEDが輝くようになる。その眺めが中々綺麗だから、暗くなってきたら駅前の通りを通って家へ帰ろう、と決めた。きっと魔王は喜ぶと思う。鳥ほどじゃないけれど、魔王も光るものが好きだから。鳥ほどじゃないけど。鳥ほどじゃないけどさ。
それから僕らは図書館に入った。背の高い本棚が立ち並んで、その全てにぎっしり本が収まっている様子を見て、魔王は、まおーん……と微かな溜息のような鳴き声を上げた。図書館の中ではお静かにね、と言ったら、まおん、と、ごく小さな返事をして、それきり魔王は静かに、かつ興味深そうに図書館の中を見学し始めた。
魔王が興味を持つとしたらこういうところかなあ、と思って、写真集が置いてある書架の前に来てみた。
そこで『日本の四季の絶景』みたいな写真集を一冊抜き取って、近くのソファでのんびり捲る。
ページ一杯に広がる美しい写真に、魔王は目をぱちぱちさせつつ、尻尾を本に伸ばして……ぺと、とページに触れて、まおん?と首を傾げる。どうやら、写真っていうものが不思議みたいだ。そういえばそうだった。魔王は絵こそよく見ているけれど、写真っていうものを見るのは初めてなんだった。
「……これ、借りていこうか」
魔王にそっと聞いてみると、魔王は、ぴんと尻尾を伸ばして嬉しそうに頷いた。よし。なら、これともう数冊、写真集を借りていこうっと。
風景の写真集の他、動物の写真集と花の写真集を借りて、僕らは図書館を出た。
相変わらず魔王は車が怖いみたいで、近くを車が通っていくと、まおんっ!とびっくりしている。ついでに、停めてある車を見ると訝し気に見つめてみたり。……もしかして、車のことを生き物だと思っているんだろうか……。
魔王が怖がるとかわいそうなので、車の少ない道を選んで歩く。そうすると自然と、先生の家の方へ歩いていってしまうので、そこの小さな公園で休憩。
最近の子はきっと、寒い日に外遊びなんてしないんだろうなあ。或いは昔の僕みたいに、外遊びを禁止されてしまっているのかも。公園はがらんとしていて、小さな滑り台とブランコがさびしげに見える。
「……ちょっと遊んでく?」
ベンチに座って休憩だけしていくつもりだった僕だけれど、折角だ。魔王にそう聞いてみると、魔王は、まおーん!と元気に返事をしてくれた。
魔王がぽてぽてと階段を上っていく。そしてそのまま、するするする、と滑り台を滑り落ちてくる。
……滑り切ったところで、まおーん!と楽し気に鳴く。
そしてまた、ぽてぽてと歩いて戻っていって、ぽてぽてと階段を上っていって、するするする、と滑ってきて、まおーん。
どうやら、滑り台がお気に召したらしい。
「……森にも設置しようか」
ソレイラにも小さい子供達のための公園、造ろうかな。こういう風に、ブランコとか滑り台とかがあるやつ。そこで子供に混じって魔王も遊んでいたらきっと楽しい。
……最後は、僕がブランコを漕いで、魔王を膝に乗せて、2人乗りでブランコを楽しんだ。魔王はこれもまた気に入ったらしくて、終始ご機嫌だった。よし。絶対に、森の公園、造ろう。
公園で遊んで、さて次はどこに行こうかなあ、と考えていたら、お腹が空いてきた。そこで僕はふと思いついてしまって、先生の家の方へ向かう。
……よし。カフェに行こう。
「おお……これはまた、不思議なお客さんだ!」
まおん、とお行儀よくお辞儀して挨拶する魔王を見て、案の定、カフェのマスターは大喜びしてくれた。絶対に喜んでもらえると思ったんだよ。
2人分のドリアがテーブルに届いたところで、僕らはのんびり食べ始める。魔王はドリアをスプーンでつついて、慎重に掬い上げて、口に運んで……まおーん!とのこと。多分、お気に入りになったんだろうなあ。このかんじを見ている限り。
「そちらの真っ黒なお客さんのお口に合いましたかね?」
「そうみたいです」
魔王はさっきから、一口食べてはまおーん、もう一口食べてはまおーん、の状態だ。森ではお米はあんまり食べないし、新鮮なのかも。そしてこの魔王、まろやかでとろんとした食べ物が好きみたいなんだよ。なのでホワイトソースとチーズのまろやかとろんは当然、魔王のお気に召す、と。
「いやあ、不思議なお客さんだなあ。トーゴ君も不思議な子だけれど、こちらのお客さんもまた、中々風変わりなお方だ」
「そうなんですよ。かわいいでしょう」
僕が自慢すると、魔王はちょっと照れたようなジェスチャーをした。……これ、先生のジェスチャーを真似たんじゃないだろうか。先生も時々、こういう風に後頭部というか首の後ろというかを掻くような仕草をすることがあるから。先生の場合、尻尾ではやらないけれど。
「この子は飼い猫さんですか?」
「ええと、飼っている、というよりは住み着いている、というか、僕の友達で……あと、先生の友達でもあるんです」
魔王の説明をそんな具合にすると、マスターは、『ほほう』なんて言いながら、そっと、魔王に手を伸ばした。すると魔王は、にゅるん、と伸びて、自ら頭を撫でられに動いた。まおんまおん、と嬉しそうに鳴いているところを見ると、魔王もカフェのマスターが好きみたいだ。
更に魔王は尻尾と手とでマスターと握手したり、すっかりご飯を食べ終わった後、食器をつるんと綺麗にして返却したりしてマスターを驚かせていた。
……ここで『ついでにこれもお願いしていいかな?』と焦げ付いたお鍋を持ってきたマスターの適応力はやっぱりなんというか、先生と長い付き合いがあるだけのことがあるなあ、と思った。
それから駅前の文房具屋さんに行って魔王が不思議そうにボールペンの並びを眺めるのを眺めたり、花屋さんの前を通って魔王がまおんまおんとちょっと騒がしくなるのを宥めたり、本屋さんに先生の本が並んでいるのを見てちょっと寂しいような気持ちになったり、ペットショップで色んな生き物を眺めたりしながらちょっとぶらぶら歩いて……。
冬は陽が沈むのが早い。17時を過ぎればもう結構薄暗くて、駅前のイルミネーションが綺麗だった。
「綺麗でしょ」
そっと襟巻きに話しかけてみると、まおーん……と、感嘆のため息のようにうっとりと鳴き声が発せられた。
魔王は目を瞬かせて、じっと、白や青のLEDの輝きに見惚れていた。まあ、こういうの、あっちの世界では中々無いよね。……月の光の蜜のキャンディを妖精が1粒ずつ持って飛び回ったらちょっとこんなかんじかも。いや、でも、こういう風には明るくならないし色鮮やかな光でもないか。
「……僕、向こうの世界が大好きなんだ。優しくて、綺麗で、あったかくて」
まおん、と、相槌らしい鳴き声を聞いてなんだか嬉しくなりながら、僕は首元の魔王を撫でて、思わず笑う。
「でも、こっちの世界だって捨てたもんじゃないよね。こんなに綺麗なんだから」
まおーん!と、力強い返事が聞こえる。僕はそれが嬉しくて、目の前で輝く美しい景色が嬉しくて、思う。
……僕、やっぱりこの世界だって大好きだよ、と。
翌日以降も公園に行ってみたりしたのだけれど、それ以上に、先生の家で絵を描いていることが多かったので。
……そしてその間、魔王は僕の絵を見て楽しそうに尻尾をゆらゆらさせていたり、先生の家の庭をぽてぽて駆けまわっていたりもしたけれど、それ以上に、図書館で借りてきた写真集を見ていることが多かった。なので僕、ちょっと考えてしまう。
カチカチ放火王が、以前魔王のことを『自分と似たようなもの』って言っていた。ということは魔王ももしかすると、現実のために世界を滅ぼす役目を持っていたのかも。でも、カチカチ放火王とは違って、魔王はちゃんと先生に書かれた生き物だからなあ。単に世界を滅ぼす存在、っていう意味だったのかなあ。
……まあ、魔王が現実のために働くはずだった生き物だとしても、そうじゃないとしても、魔王はこの世界の写真集をとっても気に入ったらしいので。
なので僕としては、魔王に色々な景色を見せてあげたいなあ、と、思う。魔王にも、色々な世界を大好きになってほしいから。
そうして魔王のホームステイは終わった。
「ええと、じゃあこの猫は今日で帰りますので……」
「ああ、そうなの?」
僕の両親は大分魔王に慣れていた。とりあえず『よく分からないがどうしようもないので分からない部分は考えないことにする』っていうやり方で魔王を受け入れてくれたらしい。
多分、僕が急に進路の変更を申し出たこともあって、いきなり知らないものが出てくるっていうことに対するスタンスがちょっと変わったんじゃないかな。以前の両親だったら、魔王を何が何でも叩き出していたと思う。
こういう風に両親が『よく分からないもの』についてちょっと寛容になってくれたこともあったし、魔王がこの世界の風景や動植物なんかの写真から何かを学んだらしいこともあったし、魔王のホームステイは僕にとっていい体験だったなあ。
まおん、とお別れの挨拶をする魔王に対して母親が小さく手を振ったり、父親がふにふにふにふに頭を撫でたりして、さあ、出発。
「じゃあ、またね」
魔王を抱っこして、手を掴んで、ふり、ふり、とやって見せてから、僕らは先生の家、そして向こうの世界へと帰ることにした。
「……というかんじでした」
「えーっ!?魔王、トウゴの世界に行ってたの!?」
「俺より先に!?くそーっ!羨ましいなあ、おい!」
魔王がみんなにお土産を配る中、皆が魔王を羨ましがったり、悔しがったり。
ちなみに魔王が配ってるお土産は、おせんべい。……いつのまにか先生の家にあった奴を食べていて、それが大層気に入ったらしい。お徳用割れせんの大袋を抱えて中身を1枚ずつ配って歩く魔王はものすごく自慢げで、なんというか、その、ちょっと不思議な眺めだ……。
いや、でもフェイやライラの反応は『なんだこのお菓子!』っていうかんじで、結構新鮮だった。そうか。米菓って確かに、こっちの世界からしたら珍しいよね。盲点。
そうして魔王がおせんべ配りをして回るのに付き合って歩き回りつつ、僕はくっついてきたフェイとライラに僕の世界での魔王の話をちょっとして、それからレネの巣ごもりの話もした。いや、フェイはそこら辺の話、聞いてなかったから聞きたがってさ。
僕の世界については、2人ともまるで知らない世界の話だから、話してみてもあんまり実感が分からないらしくて、そんなに話すことは無かった。『写真』っていうものを1枚くらい持ってくればよかったかなあ。
けれどその分、レネの巣ごもりの話はフェイにとってもライラにとっても興味深い内容だったらしいので、そっちを重点的に話す。僕としてはドラゴンとはかくも不思議な生き物です、っていう情報共有。ちなみにライラにとって特に面白かったらしいのは、僕が耳とか羽とかはみはみやられたこと。いや、別にそこ、面白くはないよね?
……と、まあ、そんな話をして、レネを描いたスケッチブックを見せたり、魔王が先生にまでおせんべいを配って『んっ!?この煎餅には見覚えがあるぞ!?』と先生が笑い出したりしたところで。
「ところで、フェイは巣ごもり、しないの?」
「え?」
聞いてみたら、フェイは、きょとん、として首を傾げた。
……そして。
「……する、かもしれねえ」
そう、答えてくれた。……まあ、うん。僕としては、そんなに意外じゃないけどさ。
「いや、俺の兄貴はさあ、確かに一時期……巣ごもり、っつーか、部屋から全然でなかった時が、あったんだよ。3日ぐらい」
……うん。
「で、兄貴がやっと部屋から出てきたってことでメイド達が兄貴の部屋に突入して掃除しようとしたらさ。毛布とかシーツとかで、巣ができてたんだと」
……う、うん。
「兄貴は『いやあ、なんだかそうしておくのが丁度、居心地のいいかんじで』とか言ってたけどよー、つまりアレって、ドラゴンの巣作り本能だよなあ」
うん。成程。
「ってことは、俺もその内巣ごもりするかもしれねえ」
……成程ね。つまり、フェイ達に流れるドラゴンの血って、確かに、今も尚、ちゃんとドラゴンしている、と……。
「その時は俺もレネに倣って、トウゴ捕まえてきて巣に入れとくかなあ」
人をなんだと思ってるんだ!いや、いいけど!もしフェイが巣ごもりするから付き合って、っていうなら付き合うけどさ!
「まあ、巣作りはさておき」
そこでフェイ……ものすごく、万感の思いが籠っています、みたいな声で、言った。
「レネにも魔王にも先を越されたのが、滅茶苦茶悔しい!異世界旅行にお泊り会!どっちも俺が一番乗りしたかった!」
いや、確かに異世界旅行でお泊り会、って言ってもいいのかもしれないけれどさ。でも実質、押し掛け異世界と巣ごもりアシストだったから……。
魔王の異世界旅行は異世界旅行でよかったとしても、レネの方は一応ドラゴンの儀式だったんだぞ、あれ。いや、でもフェイにとってはドラゴンの巣作りって、儀式とか特に行わずにやるものだし、儀式っていう感覚は薄いか。そうだよなあ、初代レッドガルドさんも、儀式とかやらずに、森の中に巣を作って籠っていた……。
「なあ、トウゴー!俺もお前の世界、行きたい!行きてえよー!なー!」
「そもそも行けるんだろうか……」
「魔王に行けたんだから俺だって行けるだろ!多分!」
……そ、そういうものだろうか。僕としては、うっかりフェイが消えてしまったりしたら嫌だけれど……。
「じゃあ、異世界旅行は後にするにしても!せめてお泊り会はしてえ!レネがやったんなら俺もやりてえ!日数は3日とか要らねえからさ、その分もっと、大規模に!な、な!やろうぜお泊り会!ラオクレスとリアンも誘って!あ、そうだ!ウヌキ先生も呼ぼうぜ!ついでにルギュロスも!」
フェイはそう言って、どんどん計画を立てていく。まあ、折角フェイがやりたいって言ってるんだから、僕も付き合おう。レネとの2人でのお泊り会も楽しかったけれど、あれはお泊り会っていうよりはやっぱり巣ごもりだったし、レネも本調子じゃあなかった訳だし。
なんというか、もっと純粋にお泊り会、っていうのは、初めての試みだ。うん。僕もちょっとやってみたい。皆集まるなら、尚更楽しそう。
……そういえば。
僕、先生の家に泊まったことは、無かったなあ、なんて思いだす。だから、先生と一緒に寝るの、初めてってことになる。(棺の中のアレはノーカウント!)
……そう考えると、なんだか新鮮な気持ちだ。ついでに、ちょっとわくわくする。僕らの場合、夜通し何をお喋りすることになるかなあ。楽しみだなあ。
……なんて、考えてちょっとわくわくしていたら。
「……男ばっかり集めたお泊り会って」
ライラが、ぼそ、と言った。
「臭くなりそうね」
……そういうこと言わない!




