12話:2人の勇者、それから絵描き*5
ということで、早速、情報の整理から始めることにした。
「ええと……まず、ルギュロスはアージェントが尋ねてくるまで、確かに地下牢に居たんだよな?」
「そうね。兵士が嘘を吐いているのでなければ、ね」
フェイの確認に、早速クロアさんが疑問を挟む。
「私、最初にそれを疑ったのよ。城の兵士がアージェントに買収されていて、こっそりルギュロスを逃がしておいて、『アージェントがやってくる直前までは牢に居た』って証言しているだけじゃないか、ってね」
な、成程……そこからして既に確証が無いっていうのは、辛いね。
「だが、難しいだろうな。城の兵士全員を買収するのでもなければ、牢を出たところでその外に更なる見張りが居るだけだ。当時、地下牢と地下牢へ続く道には多くの兵が配備されていた」
「オーレウス王子直々の命令で、っていうことだったかしら」
あ、そうなんだ。道理であのあたり、兵士の人がたくさん居ると思った。……おかげで、兵士がたくさん並んでいるところの絵を沢山描けて、僕は嬉しかったけれど。
「じゃあ、兵士が嘘を吐いている可能性は切ってもいいよな?」
「そうねえ……まあ、可能性は薄い、と考えてもいいんじゃないかしら。でも、それ以外に脱出手段が無いなら、どんなに可能性が薄くてもそれが正解だと思うわ」
うん……。難しい。一番簡単なのは、『城の兵士が買収されていてルギュロスさんを逃がした』っていう結論に至ることなんだろうけれど、でも、多分そうじゃないと思ってしまうというか……それだとあまりにも違和感が強い、というか。
「ルギュロスはアージェントから何らかの助けを得て脱出した、と考えていいだろうな」
「それも怪しいけどな。アージェントはあくまでも目くらましだったのかもしれねえし……そもそも、アージェントは特に怪しい物、持ってなかったしな」
アージェントさんが何かした、っていうのも、実にそれらしいのだけれど、こっちは証拠が無い。アージェントさんは身体検査を受けているから……ん?
「あの、アージェントさんも召喚獣の宝石を飲んでいたっていう可能性は無いだろうか」
「あったとしてもルギュロスを消すには至らないでしょうね。脱出させただけならまあ分かるんだけれど」
「瞬間移動ができる召喚獣を使い捨てにする覚悟があればできなかねえのかなあ……いやー、でも厳しいと思うぜ?そんな召喚獣聞いたことねえし」
ルギュロスさんは大蜘蛛が入った石を飲んでいた。だから、アージェントさんも同じことをやったのかな、と思ったのだけれど……それは難しいか。うーん。
「瞬間移動と言えばさ、トウゴはできるじゃない。瞬間移動」
悩んでいたら、ライラからそんなことを言われてしまった。いや、僕、流石にそんなことは……。
「あー、確かにな。トウゴは瞬間移動ができる門を生み出してるもんなあ」
……できた。僕、瞬間移動、できるんだった。
そうでした。僕、森の門を描いているんでした。あれに似たようなことをやれば、ルギュロスさんも瞬間移動できる。うん。
「しかし、それをルギュロスがやったとするならば、アージェントの身体検査で何も出なかったことには余計に納得がいかない。どう考えても、瞬間移動の古代魔法は人間の所業ではないだろう。精霊の身を以てしても、大幅な魔力切れを伴う作業だ。それを、地下牢でたった2人で成功させ、更に何の痕跡も残さないというのはあまりにも難しい」
……ラオクレスがさらりと僕を『人間じゃない』って言っているのだけれど……うん、聞かなかったことにするね。
「そうねえ……瞬間移動の魔法なんて、最低でも魔法陣は欲しいところでしょう?私、詳しくないけれど。でも、地下牢にそんな痕跡は無かったわけで……となると、瞬間移動の古代魔法を復刻して使った、とも考えにくいわよね」
「俺もその線は薄いと思うぜ。……つーか、俺がこれだけ頑張ってもトウゴが作った門の仕組み、全然分からねえんだぞ!?じっくり観察しても俺が分からねえモンを、ちらっと見た程度のアージェントに複製されたらたまったもんじゃねー!」
フェイはフェイでフェイのプライドがあるらしい。そっか。まあ、フェイらしくていいと思うよ。
「兵士の買収でも瞬間移動でもないとしたら……何かしら」
そして僕らはまた堂々巡りする。何だろうか……何だろうか……。
「え、えーと……ルギュロスが捕まった当時って、確か、あいつも身体検査の上、荷物没収されてるよな?そっちに何か、手掛かりがあったりは……?」
「それなら私、ラージュ姫から聞いたのだけれど、特に不審なものは無かったそうよ。ええと……剣でしょう?鎧でしょう?それから、召喚獣が入った宝石が2つ。後はハンカチとか傷薬とかその程度だったみたい」
アージェント家の人達、ちゃんとハンカチ持ち歩くんだな。えらい。僕もできるだけ持ち歩く派だったけれど、この世界に来てからはなんとなく忘れがちだ。ハンカチを忘れて筆を拭くための布で手を拭いたこと、何回もある。
「……ルギュロスの召喚獣は何だった?」
「それは確認済みらしいわよ。風の精とワイバーンだったかしら。風の精はともかく、ワイバーンは高級品よね」
アージェント家の人達は風の精が好きなんだろうか。確かにあいつ、結構可愛いけれど。……あ、もしかして、アージェント家の人達はかわいいものが好きなんだろうか……?
「お、おーい、トウゴー、お前、大丈夫か?ぼーっとしてねえか?」
「アージェント家の人達は風の精が好きなのかな、って考えていた」
別にぼーっとしていたわけじゃないよ、と伝えたら、フェイにちょっと何とも言えない顔をされてしまった。なんだなんだ。
「まあ……ワイバーンと一緒に持ち歩くには、あまりにも下級っていうか……言っちゃ悪いけれど、安物よね。2人揃って風の精、っていうのは少し変だと思うのよ」
そこへ、クロアさんがそういう疑問を投げかけてくれる。
「……風の精って、安物なの?」
「そうね。まあ、どこにでもいるし、割と主人のえり好みも無いし、宝石のえり好みもほとんど無いから。小さな安い宝石にも入ってくれるし、安上がりな召喚獣の代表ね」
あ、そうなんだ。……フェイは火の精を使っているけれど、結構大粒の石を彼らの住処として提供している。あれって厚待遇なのかな。
「勿論、火の精とか風の精が弱いってことはないぜ!ちょっと他のやつらより気ままっつうか、命令聞かずに好き勝手することが多いらしいけどよ。力はそんなに弱くねえし」
「フェイの火の精はすごくフェイと仲良しに見える。気が合うように見えるし、彼らがフェイのお願いを聞かないところ、見たことが無いのだけれど」
命令を聞かないことってあったんだろうか?僕を乗せて走ってくれたこともあるし、フェイの火の精はすごく従順というか、いいやつだと思うんだけれどな。主従っていうよりは友達っていうかんじだけれど。
「あー……俺のは、その、たまたま気が合ったっつーか、そういうかんじだ。ありがてえことに」
……あ、フェイの装飾品から火の精達がぽんぽん勝手に出てきてフェイに懐いている!そしてフェイが照れている!よし描こう!
描いた。満足。
「……まあ、アージェントの風の精は結構好き勝手してたろ?お前に懐いちまってさ」
フェイが火の精を撫でながらそう言ってくれて、ようやく何となく分かった。確かに、主人と敵対する立場の人に懐っこくじゃれ付くのは命令違反というか、好き勝手な行動、に思える。そうか。あの程度には風の精って、気ままなのか。
「そうね。今のところ、一番の違和感はあの風の精だと思うわ。どうして他の召喚獣を幾らでも持てるはずのアージェントが、風の精なんか持っていたのかしら……。大体、あんなに大きな宝石に、風の精を入れてあるっていうのも不自然だし……」
クロアさんは首を傾げつつ、オレンジのプリンを掬って食べる。おいしい、と小さく言って口元を綻ばせる様子が、幸せそうながらもちょっと疲れて見えて心配だ。
……大きな宝石に風の精、っていうのは、不自然。そう、クロアさんは言っている。
風の精の長所は、小さな宝石にも入ってくれるところだってクロアさんが言っていた。ということは、その長所をわざわざ消してしまっている、ということになる、んじゃないかな。
うーんと……。
「あの、大きな宝石に風の精を入れてやることで何かいいことってある?」
「風の精が喜ぶ!」
あ、そうか。まあ、それは何より。
「……とは言っても、それも変なんだよなあ。あの風の精、すぐにお前に懐いちゃっただろ?あれ、逆に言うとアージェントにそんなに懐いてねえってことなんだろうし……様子見る限り、そんなに長い付き合いってかんじでもなかったんだよなあ」
「じゃあ、他の召喚獣と兼用だったり、しないだろうか。……あ、召喚獣って、宝石の中で同居はできない?」
「できねえなあ。できるとしたらよっぽど特殊な例だけだろ。1つの宝石に入れるのは1つの召喚獣だけだ」
成程。召喚獣はルームシェアが嫌い、と。人間ならある程度気にせずやる人、居るのになあ……。
……うん。
人間、なら。
「あの、ルギュロスさん自身は、宝石の中に入れないんだろうか」
じゃあ、それが一番簡単なんじゃないだろうか。
ルギュロスさんが、宝石の中に入る。そうすれば、アージェントさんと一緒に脱出可能だ!
僕がそう言った途端、皆が考え出した。……そして。
「……トウゴー、ちょっとお前、今、何か宝石持ってるか?」
フェイが突然そういうことを言う。
「え?あ、うん。はい」
ポケットに入っていた宝石を出す。クロアさんが『国宝級ね……』と呟いた。そういうかんじの宝石だ。
フェイはそれをまじまじと見つめて……。
「う、うわ、何してるんだよフェイ!」
「え?いや、入れるかなー、って思ってよお……」
フェイは突然、宝石に頭突きを始めた!びっくりした!びっくりした!
「ちょ、ちょっとフェイ君。それじゃああなた、トウゴ君の召喚獣になっちゃうでしょ!」
「まあそうなんだけどよ……それはそれで便利そうっつーか」
やめてほしい。僕は親友を召喚獣にする趣味はありません。
「けどよ、なんつーか、人間は入れねえだろ、これ」
……そうなの?
「まあ……そうよね。魔物だからこそ、宝石の中に入れるわけだし。だからこそ、人間には奴隷の首輪があるのだし……」
うん。そっか。
……うーん。
「ちょっとフェイ、これ持っててもらってもいい?」
「ん?宝石か?いいけど……うわうわうわ!おいトウゴ!お前こそ勝手に召喚獣になろうとするんじゃねえって!」
あ、ごめん。……いや、ほら、僕、人間離れしてしまっているらしいので、僕ならいけるかな、と思ったんだけれど。
「トウゴ。お前は精霊だが魔物ではないぞ」
「そこの違いって何なんだろうか……」
ラオクレスに諭すように言われてしまったのだけれど、なんとなく納得がいかない。僕としては、精霊と人間の境目はよく分からないし、魔物と精霊の境目もよく分からないんだよ。だから、人間と魔物の境目も分からない。
「僕は駄目でもレネなら入れるんだろうか」
「えええ……?いや、レネも魔物かって言われるとちょっと……でもドラゴンなのよね、あの子……」
「レネが入れたなら、フェイが入れないのはやっぱりドラゴンの血が薄いからだろうか」
「遡ってフェイ様のひいひいお爺様ぐらいになればいけたかもね……」
「或いは、僕が描き直す前の、角が生えてる状態の王様だったら、召喚獣にできただろうか」
「ちょ、ちょっと待て。ちょっと待て、トウゴ」
フェイが片手で頭を抱えつつ、もう片方の手を僕の前に出した。ストップ、っていうかんじのジェスチャーだ。
「……何だって?」
「え、いや、だから、王様。ほら、僕が描く前、角が生えて人間の言葉を喋れなくなっていたけれど、あの状態の王様なら宝石にしまうことができたかな、って思って」
……僕がそう言うと、フェイだけじゃなくて、周りの皆がそっと顔を見合わせて……。
「……アージェント達も、魔物を生み出したり呼び出したりする能力を、手に入れている、らしい、よな」
そう、フェイが言い出したので……。
「……ルギュロスは魔物にされていて、それをアージェントが宝石に入れて持ち帰った、のか!?」
そういう結論に、至りました!
「い、いやいやいや、フェイ様、流石にそれ、厳しくない!?」
「いいや!いける!人間は召喚獣にはできねえけど、人間を魔物に変えちまう手段があるなら、元人間を召喚獣にしちまうことはできる!理論上!」
ライラが反論するも、フェイは席を立って力説した。
「くそ、どうして思い至らなかったんだろうなあ!考えてみりゃ単純なことだ!」
「……いえ。待って」
フェイが興奮気味にそう話す中、クロアさんがフェイにストップをかける。
「それにしたって……難しいと思うわ。『人間を魔物に変えて召喚獣として宝石に詰める』なんて、あくまでも理論上での話よ。もし本当にアージェントがそんな手段を取ったっていうのなら、ルギュロスを入れていた宝石はどこにあるのかしら?魔物になったルギュロスは、流石に風の精みたいに小さな石には入れておけないでしょうし」
……うん。
「多分……人間って魔力以外にも色々なもので構成されているから、風の精なんかみたいに小さな宝石には入れておけないと思うのよね。それこそ、フェイ君のレッドドラゴンが入っているくらいの……」
「……そんなもん飲んだら、喉に詰まるよなあ」
「喉を通っても尻で詰まるわね。最悪、それが原因で死ぬわよ」
尻で。
あ、ちょっと嫌な想像を、してしまった……痛い痛い痛い。
「それを飲んでいた、とは思いにくいわよね。ルギュロスを救い出せても、アージェントが死ぬもの。ものすごく不名誉な死に方で」
うーん……ま、まあ、そこは外科的な手術でなんとかなるんじゃないか、と、思わないでもない、のだけれど……それにしても、難しい、のかな。どうなんだろう。
「問題はまだあるぞ」
更に、ラオクレスが腕組みして唸りつつ、言う。
「ルギュロスはどの時点で魔物になったのか、ということだ」
……うーん、それは、中々難しいね。
「王に刃を向けた時には、ただの人間に見えた。トウゴ、お前はどう思った」
「え?……うーん、不思議なかんじはしなかった、と、思う。魔物には……見えなかった、というか、感じなかった、というか」
僕がそう答えると、ラオクレスは頷いた。
「そうか。なら、ルギュロスが魔物になったのは、牢に入ってから、ということになる。どうせ、アージェントとの面会があった時なのだろうが……」
うん。それはまあ、そう思うよ。牢の中でいきなり雰囲気が変わったルギュロスさんが居たら、兵士の人達が気づくだろうし。アージェントさんとの面会のタイミングが、ルギュロスさんが魔物になって、宝石に入ったタイミングだと思う。
「……だが、召喚獣とはじめに契約をする時には、召喚獣と宝石の接触が必要だろう」
「そうなの?」
「そうだ」
……言われて思い出すけれど、そう言われてみれば、カーネリアちゃんのヒヨコフェニックスも、ラオクレスのアリコーンも、初めて召喚獣になる時には宝石に頭突きして宝石に吸い込まれていたっけ。
「ということは、少なくともルギュロスが消えた瞬間には、宝石は腹の外にある必要がある。それから宝石を飲んで隠すにしろ、兵士の証言がまるで無いのは不自然だな」
「そうねえ……魔法でルギュロスを魔物にしてから近づいて、手に持っていた宝石とルギュロスを鉄格子ごしに接触させる分には、そこまで違和感のある行動にはならないでしょうけれど……その後に大きな宝石を飲んでいたら、流石に兵士が気づくでしょう」
成程。
……フェイのレッドドラゴンが入っているくらいの大きさの宝石を飲むとなると、流石に厳しいだろうし、それをさらりとやるのはもっと難しいだろう。
元々、宝石を飲むのは難しいだろうっていう話だったけれど、もっと難しくなってきたなあ……。
ルギュロスさんが召喚獣説、いいと思うんだけれど……。
「トウゴ、そのスケッチブック、見せてもらっていいかしら!」
僕らが悩んでいたら、横からカーネリアちゃんがやってきて、僕の膝の上に置いてあったスケッチブックをそっと引っ張る。子供達は難しい議論にちょっと疲れてしまったらしい。
どうぞ、とスケッチブックを渡してみると、歓声を上げて、カーネリアちゃんとアンジェが一緒にスケッチブックを覗き込む。リアンはそんな2人をじわじわ楽し気に眺めているところだ。
「……ちょっと休憩にしましょうか。このまま考えていても埒が明かない気がするわ」
「そうだなあ……おーおーおー、トウゴ、お前、随分描いてるじゃねえか」
そして、大人達もちょっと疲れた顔で休憩を決め込んで、僕のスケッチブックを覗きに来る。いや、別に、皆で覗きに来なくてもいいと思うんだけれどな。
「流石トウゴってかんじよね。とんでもない量だわ。よくもまあ、こんなに描いたもんよね」
スケッチブックを横から覗き込みながら、ライラは面白そうに笑う。そ、そりゃ、結構描いたけどさ。
「ライラだって結構描いてただろ」
「あんたほどじゃないわよ。落書き1つだって魔法でやっちゃう奴より描いてるわけないでしょ」
……僕は、描きたくなったらすぐに魔法画でスケッチする、っていうことを最近の習慣にしている。それで、後からスケッチブックを見返して、描きたいやつがあったら、改めてちゃんと描き起こして絵にするんだよ。
魔法画だったら見て認識したものをそのまま画面に描き起こせるから、メモ代わりに丁度いいんだ。勿論、そういうことを言うとライラに笑われてしまうけれど……。
「うわ、こんなのも描いてる」
「ああ、アージェントさんの身体検査?」
ライラはスケッチブックをパラパラ捲って、けらけら笑いだした。更に、それをクロアさんやフェイが覗き込んで、「いつの間に」とか、「まあトウゴだしなあ」とか、好き勝手言い始めた。
アージェントさんの身体検査の様子を描いた絵は3枚。
1枚目は、ポケットの中身を出されて不愉快そうにしているアージェントさんと、慎重に持ち物の検分をしている兵士の人。
2枚目は、アージェントさんの持ち物一覧の絵。
3枚目は、上着も脱いでいよいよ不愉快そうな、それでいて余裕のある表情のアージェントさんと焦る兵士の人。
……という3枚、なのだけれど。
「このおじさん、センスがいいわ!このペン、とっても素敵!」
「このハンカチもすてきね」
特に、2枚目の持ち物一覧が子供達のお気に召したらしい。アージェントさんの持ち物の絵を見て、あれこれと品評を始めた。
「なになに?私にも見せて」
それを横から、ライラが覗き込む。……フェイとクロアさんとラオクレスは、1枚目と3枚目の絵を見てアージェントさんの当時の様子を思いだしたり、ルギュロスさんがどこへ消えたのかの推測をしたりしているようなのだけれど、ライラはそっちより、こっちでアージェントさんの持ち物品評会をやる方が向いていると判断したらしい。まだ休憩中だし、いいと思う。
「これ!このブローチも素敵だわ!周りの細工が特にいいの!大きな宝石をすっぽり覆っちゃうような細工って、宝石が小さく見えるでしょう?だから普通はやらないと思うの!このブローチ、そういうところが、すごくぜいたくだわ!」
「成程ねえ。確かに。大きな宝石があったら見せびらかしたいところを、こうやって銀細工で半分以上隠しちゃう、っていうのは、『贅沢』かも」
ライラはカーネリアちゃんの品評に『中々いい目の付け所ね』というような顔をしつつ、じっと僕の絵を見て……。
「……ん?」
ちょっと訝し気な声を上げる。なんだなんだ。
「ねえ、トウゴ。この宝石、なんかおかしくない?」
「え?」
ライラが指さすのは、僕が描いた、アージェントさんのブローチだ。
おかしい、とは……。
「……デッサンが狂ってる、っていう訳じゃないんだけれど……何というか、違和感あるわね」
えっ、そ、そうだろうか……?




