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今日も絵に描いた餅が美味い  作者: もちもち物質
第八章:形のないものを見たい
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5話:人の恋路を邪魔する馬*4

 そうして僕らは無事、空き巣2名を捕らえることができた。僕は早速、空き巣達の後ろに回って、彼らに見えないところで手錠を描いて出して、彼らの手首をしっかりホールド。

 ……ちなみに手錠は描いたけれど鍵は描かなかった。そして手錠は、鎖で繋がってる奴じゃなくて、しっかり溶接されてるタイプだ。だから実質、この手錠を外す手段は無い。

「……なんだ、エド。お前、結構いいところに隠れてたんだなあ!」

 犯人を拘束する間に、マーセンさんがラオクレスが入っていたクローゼットを覗いて、けらけら笑った。

 ……クローゼットの中にはスツールがあって、更に魔石ランプがあって、ラオクレスの暇潰し用の本が置いてある。空き巣がいつ来るか分からなかったから、まあ、こういう風にしておいた。ラオクレスがゆったり入れる特大サイズだ。

「そっちこそ。寝心地が良さそうだな」

「ははは。カーネリアちゃんのお墨付きだ。この衣装ケースは彼女のお昼寝場所らしいぞ」

 そして、マーセンさんが入っていた衣装ケースは、中にふわふわの毛布やクッション、そして魔石ランプと暇潰しの本を置いてあるものだ。ちなみに、クローゼットも衣装ケースも、目立たないところに空気穴がちゃんと開けてあって、中に入って大丈夫な仕様になっている。

「……昼寝?何故そんなことを知っている?」

「何、簡単なことさ。インターリアが『衣装ケースよりも小さなカーネリア様が衣装ケースに収まってお昼寝なさるお姿は、大層お可愛らしいのだ!』と力説してたから知ってる」

 そっか。インターリアさん、カーネリアちゃんのことが大好きなんだな。なんというか、僕も嬉しくなる。

「トウゴさん。こいつら、どうします?」

「運んじまってもよけりゃ、運んどくぜ。……あ、そういや、ココア、ご馳走さん。美味しかったぞ」

 そして、窓の外の植え込みの陰に隠れていてくれた騎士2人には、寒い外を凌ぐために植え込みでできたかまくらと、その中の毛布、そして温かいココアとマシュマロを用意しておいた。……マシュマロは別に、王家の人達が沈んでいったマシュマロ大地のあれじゃないよ!ちゃんと作り直した!

「ええと、じゃあ、運んでもらって……」

「いや、トウゴ君。先に顔くらいは見ておこう。ついでに、顔を曝した状態で連行されてもらう、というのはどうだ?」

「いいと思う。……こいつら、カーネリアの家に空き巣に入るようなやつなんだから、顔晒して二度とこの町歩けなくしてやるべきだ!」

 ……そして、リアンが何よりも、攻撃的に張り切っている。


 リアンは空き巣2名を、氷の小鳥達につつかせている。ついでに、リアン本人は犯人を蹴っている。うわあ。

「落ち着け、リアン」

「落ち着いてられっかよ!この野郎!くたばれ!」

 あ、なんだか今日のリアンは天使っぽい。戦う天使だ。

 ……けれど、いくら天使でも人を蹴るのはあんまりよくないので、そっと、リアンを空き巣から引き離した。氷の小鳥達は、リアンが離れると空き巣をつつくのをやめて戻ってきた。

「……まあ、覆面を取れば、何故ここに空き巣に入ったのかが分かるだろう。取るぞ」

 ラオクレスがそう言って、空き巣の覆面に手を掛ける。空き巣達は抵抗していたけれど、リアンが氷の小鳥をちらつかせると大人しくなって、項垂れて……そして、その顔を現した。


 ずっと黙っていた彼らはきっと、声で正体が分かることを恐れたんだろう、とは思うのだけれど……顔を見ればもう、誰なのか、はっきりと分かった。会った事がある人だったから。

「あ、お久しぶりです」

 空き巣2人組は、ジオレンさんと息子さんだった。




 2人を連れてカーネリアちゃんの家を出て、そしてそのまま、妖精カフェの方を避けつつ、騎士の詰め所に連れていった。

 騎士の詰め所にはクロアさんとフェイが待っていて、2人はジオレンさん親子を見て『あー……』というような顔をした。頭の痛そうな顔というか、なんというか。

「さて。事情を話してもらおうか」

 ラオクレスが仁王立ちしながら、ジオレンさんに質問する。……ジオレンさんは、僕に会うのも二度目だけれど、ラオクレスに会うのも二度目だ。だからか、ちょっと及び腰というか、そういうかんじ。

「……まあ、大方分かっていることではあるが」

 ラオクレスは呆れたように、軽蔑するようにため息を吐いて、そして、言った。

「カーネリアの親であることを言い訳に、彼女とフェニックスを政略結婚の道具にしようとしたんだろうな?」


「調べはついてるのよ。オレヴィ君はドラーブ家を名乗っているけれど、ドラーブ家は落ち目の家よね?まあ、領主が少年を誘拐したり他の貴族の屋敷の庭に兵士を突入させたりしたジオレン家よりはよっぽどマシでしょうけれど」

 クロアさんが容赦なくそう言うと、ジオレンさんは何か言いたげな顔をしたものの、黙秘を貫く姿勢らしい。何も言わず、ただ俯いている。

「そしてドラーブ領は金属加工が盛んだけれど、つい最近、王家から武器や防具の大量受注を巡って他の貴族達との競争になったのよね。それはドラーブ家にとって、収入になる以上に、王家とのつながりを持つ絶好の機会だったわけだけれど……」

 クロアさんはそう言いつつ、ちょっと『王家が武器や防具を集めている』っていうことに思うことがあるらしくため息を吐いて、それから気を取り直して続けた。

「結局、ドラーブ家は競争に負けて、王家とのつながりを持てなかった。収入は得られないし、王家御用達の看板ももらえなくなったドラーブ家は、自分の息子を使って他の貴族とのつながりを持とうとしたのよね」

 あ、そうなんだ。

 ……僕、やっぱり周辺諸侯の事情に疎いなあ。

 王家の人が武器や防具を集めているのは、まあ、考えるまでもなく魔王対策なんだろうし、王様はそこについてちょっと半狂乱というか、なんか行き過ぎたかんじだっていうことも知ってるけれど、でも、そっか。その生産受注については、当然、王都以外のところにも話が行くよね。

「……ここからは憶測になるのだけれど」

 前置きを終えたクロアさんは、いよいよ、ジオレンさんに詰め寄った。

「ドラーブ家の人達、カーネリアちゃんの絵、見てないんじゃないかしら?いえ、確認のために見ることはしたのでしょうけれど……それよりも先に、ねえ?ジオレンさん。あなたから、『うちの娘はフェニックスを持っているから王家に取り入るにはいい手立てになるぞ』って、売り込みに行ったんじゃない?」




 ジオレンさんは何も言わない。ただ、複雑そうな顔はしている。

 ……自分が娘だと認めずに屋敷の中に閉じ込めて外の目に触れさせないようにしていた娘を頼らないといけない状況って、確かに、複雑なんだろうけれどさ。僕らはもっと複雑なんだよ。

「『自分の家にはフェニックスが居る』ってことになれば、まあ、王家から何かの形でお声が掛かる可能性は高いわ。今の王家なら尚更でしょうね。レッドドラゴンにもあれだけ執着しているのだし……」

 オレヴィ君の家は、王家とのつながり欲しさにフェニックスを欲しがった。その為に、フェニックスとセットになっているカーネリアちゃんを欲しがった、っていうこと、なのかな。……うーん。こっちに対しても、複雑な思いだ。

「カーネリアちゃんの行き先は、まあ、あなたには想像がついたでしょうね。絵の作者はトウゴ・ウエソラ。あなたの知っている人物だし、カーネリアちゃんもそこに居る、っていう推測は十分に成り立つはずだわ。だからあなたは、カーネリアちゃんとフェニックスを取引の材料にして……ジオレン家の復興でも、約束させていたのかしらね」

 クロアさんの推理が大体終わると、ジオレンさんはちょっとだけクロアさんを見て、忌々しそうな顔をして、また俯いた。

「何とか言ったらどうだ」

 それを見たラオクレスが、ずい、と前に出る。途端、ジオレンさんが怯えたように身を縮こまらせる。

「お前にはカーネリアを育児放棄しておきながら政略結婚の道具にしようとした件についても話を聞かなければならんが、それ以前に、カーネリアの家に空き巣に入った罪がある」

 ラオクレスは、鉄面皮、というか、石膏像を超えた冷たさと硬さを備えた表情で、ジオレンさん達を見下ろした。

「俺は言ったぞ。言い逃れの準備はできているか、と。……さあ、精々無様に言い逃れしてみせろ。捨てた娘から物を盗もうとしたその薄汚い行いについて」




 ……そこからは、尋問のプロ達にお任せする為、僕は退席することになった。なんか、ええと……僕が居ると部屋の緊張感が薄れてしまうから、ということらしい。気の抜ける顔をしていてごめんなさい。

 勿論、僕は退席したからといって仕事が無い訳じゃない。退席する少し前から、妖精カフェの方に騎士達が派遣されている。……オレヴィ君を捕まえるためだ。


 オレヴィ君は現行犯逮捕っていう訳でもないし、そもそも彼自身が悪いことを企んでいるのか分からないので、任意の事情聴取、任意の同行、というやつだ。けれどきっと、従ってくれるんじゃないかな。彼ら、自信満々だったし。

 ……そして、僕が騎士団の詰め所の前で待つこと数分。

「あ。おかえり」

 オレヴィ君が連れられてやってくる。

 カタカタカタカタ、と鳴り響く……骨の騎士団に連れられて。


 今回、オレヴィ君を連れてくるのは、骨の騎士団にお任せしてしまった。彼ら、とてもやる気だったし、彼らは信頼できる騎士だし……何より、彼らがとても自信満々だったので。

 じゃあお願い、ということで骨の騎士団を派遣したら、この成果!素晴らしい!

 オレヴィ君は抵抗した様子も無いし、素直に大人しく、連れてこられてくれた!護衛の人もしゅんとした様子というか、何も抵抗することなく、連れてこられてくれている!骨の騎士団はすごいなあ。彼ら、交渉術に長けているんだろうか?

「よかった!来てくれた!」

 僕が駆け寄ると、オレヴィ君はびくりと身を縮こまらせて、護衛の人はちらっと僕を見て、剣に手を掛けた。けれど、それを見た骨格標本達が一斉にカタカタ動くと、護衛の人は諦めたように剣から手を離した。流石、骨の騎士団だ。威圧感というか、そういうものがあるんだな。

「ええと……オレヴィ君、だよね?」

 少し屈みながらそう尋ねると、オレヴィ君は怯えながら、こくこく頷いた。うん。よかった。

「あの、突然でごめんね。ちょっとお話を聞かせてほしいんだけれど、いいだろうか。勿論、無理にとは言わないよ。けれど、ちょっと、来てくれると、僕も、彼らも、嬉しいんだけれど……」

 僕はオレヴィ君の返事をじっと待った。それを、骨格標本達がぐるりと囲んで見守る。

 ……それを見回したオレヴィ君は、最後に護衛の人の方をさっと向いたけれど、護衛の人は項垂れてそっと首を横に振った。ええと……諫めている、のかな。そんなに怯えなくてもいい、みたいな。いや、それとも、『従わなくていい』っていう意図での『NO』なんだろうか……?

 僕らが心配しながら待っていると……。

「わ、分かりました。従います!」

 オレヴィ君ははっきりとそう、答えてくれた。


「よかった!じゃあ、こっちの建物の部屋の中で話そうか」

 僕はほっとする。オレヴィ君が協力的な子でよかった。この子、やっぱり悪い子じゃないのかもしれない。ジオレン家の人と何かやりとりがあったことは間違いないんだろうけれど、カーネリアちゃんのことも、ちゃんと好きだったりして……。

 ……そして僕らは、骨の騎士団も一緒にぞろぞろと、騎士団の詰め所に入ることにした。

 それにしても今回の任意同行がこんなにすんなり行ったのは、骨の騎士団の交渉力のおかげだ。後で、どうやって交渉したのか聞いてみよう!

 ありがとう、骨の騎士団!これからもこの町の任意同行は君達によろしく頼むよ!


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― 新着の感想 ―
[一言] 声が出ないのに交渉力とは一体……
[一言] 仁王立ちの似合うラオクラス 石膏像なのに仁王像の貫禄。石膏製なのか木製なのか気になるところですね。 お久しぶりの二人 まわしものの暗部的な人だと思ってたので本人達なのは意外でした。 盗みっ…
[一言] 護衛の人「いや、絶体無理、逆らっちゃ駄目。あれ多分魔王。」
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