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今日も絵に描いた餅が美味い  作者: もちもち物質
第七章:おいでませ変な場所
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20話:こうふく勧告*5

 できるだけ彼らに怪我はさせたくなかった。万一、怪我する人が居たらフェニックスの涙があるけれど……あんまりフェニックスとカーネリアちゃんを表に出すと、彼女達に迷惑が掛かりそうだし。

 特に、カーネリアちゃんは出奔中の身だ。目立つと何かと面倒だろう。何なら、王家の人達は武力欲しさに、フェニックスを連れていこうとするかもしれないし……。

 だから、怪我しない天変地異がいいかな、と思って……カーネリアちゃんの『ぜんめんせんそうだわ!』を参考にさせてもらった。

 艶の無い大地。空から降り注ぐ煌めきの粒。

 要は、マシュマロの大地。あと、空からぽこぽこ降ってくる飴。

 これなら確かに誰も怪我しなくていいと思ったんだよ。

 ……ただ、これを発表した途端、ラオクレスとリアンが、反対したんだ。『甘すぎる』って。

 いや、確かにマシュマロは甘いかもしれないけれど、じゃあしょっぱいものにするとなると、しょっぱくて柔らかい程よいものって思いつかなかったんだよ。だからそう反論したら、ラオクレスに『お前はやっぱり魔王に向かん!』って言われてしまった。魔王ってそんなにしょっぱいものに詳しいんだろうか?

 ……それでもこのマシュマロ地面が採用された理由は、マーセンさんの応援演説だ。

 マーセンさん曰く、『マシュマロなら制御が簡単らしいし、何よりも相手を傷つけない!その上、うっかり火を近づけたら厄介だろう?王家の連中なら、森を焼き払うことも視野に入れて、炎の魔法使いを多く連れてきていると見た。なら、マシュマロの地面は奴らの足止めに丁度いい。今回のトウゴ君の役目は、勇者ラージュが出てくるまでの時間稼ぎが主だ。だったらそういうふわふわした足止めがあってもいいと思うぞ』とのことだった。

 僕はそれを聞いて、流石、ラオクレスの先輩だなあ、と思った。

 それを聞いたリアンが『マシュマロじゃあ怖くねえじゃん!怖がらせなきゃダメなんだろ!?』と憤慨していたのだけれど、これについてもマーセンさんが『冷静になって考えてみてほしい。自分達が立っていた地面が急にマシュマロに変化している、という様子を。……君はトウゴ君に慣れ過ぎて最早何とも思わないのかもしれないが、十分、怖いぞ?』と。

 ……結局はそれが決め手になって、地面をマシュマロにする案は無事、採用された。やった。

 そのついでに、飴を降らせるっていうのも採用された。ただしこっちは相手を怖がらせないといけないから、鋭い飴の槍も、人に当たらないように上手く降らせることにした。お菓子で統一することで、そういうコンセプトの魔物だって勘違いしてもらう作戦、らしい。


 他にも、飴の檻とか溶かしたチョコレートの雨とか、色々案が出てきたけれど、当然、それだけだと『魔王はお菓子屋さんかな?』と思われてしまうので、もうちょっとちゃんとした奴もやることに決まった。

 そこで、地面を一気にばっと凍らせたり、そこに氷の剣を生やしてみたり、雷を落としたりしているというわけだ。これくらいなら原状復帰も簡単だから、まあ、いいかな、って。

 ……それから、また龍に、あれをお願いすることにした。雨で作る巨大な腕。あれは結構、びっくりするらしいから。

 そして今回は、『魔王の使いVS森の精霊と勇者ラージュ』っていう図式にするらしいので、じゃあ森の精霊っぽい攻撃もあった方がいいかな、と。巨大な水の腕が飴の槍を薙ぎ払ったりマシュマロの地面を叩き潰したりするのはきっと大迫力だから丁度いい。




 こうして王家の人達は見事、おかしなお菓子の攻撃に晒されて、足を止めることになった。ただでさえマシュマロで体が沈んでしまったところに、飴の槍が降ったり、チョコレートの雨が降ったりしているものだから、彼らは防戦一方だ。

 迎撃および攻撃に火の魔法を使おうとした人が居たのだけれど、それをやってしまうと熱く溶けた飴が降り注いで味方の被害が拡大したり、自分達を支えているマシュマロが焼きマシュマロになってとろけてますます沈んでしまったり、あんまり上手くいっていないみたいだ。

 ……マーセンさんが言っていたことは正しかったようで、どうも、火の魔法を使う人をたくさん連れてきていたらしい。その分、マシュマロはものすごく優秀な足止め要因になっているみたいだ。

 ただ……すごく、甘い香りがする。うん。マシュマロが焼けてとろける香りが、雨に混じってこっちまで流れてくるみたいだ。

「あ、駄目だよ。食べに行っちゃ。後で焼きマシュマロ、別に作るから」

 鳥がバタバタ翼を動かしているけれど、まだおやつ時じゃないよ。というか、あれはおやつじゃないってば。

 ……いや、そもそも、この鳥、マシュマロを食べるんだろうか……?




 こうして僕らは王家の人達の足止めに成功したわけなのだけれど……ただ、やっぱり王家の人達はそれなりに準備してきたんだな、ということが分かった。

 彼らは僕1人を捕まえに来ただけのはずなのだけれど……何故か、巨大な火の精が現れている。ドラゴンの形をしたその火の精は、巨大な口を開けて、森の方に向かって飛んできている!

 ……けれど、こっちだって、準備はしてるんだ。

 龍が面倒くさそうに尻尾を一振りすると、空から降り注ぐ雨が一気に集まって、透明で巨大な水の腕になる。

 水の腕は一気に動いて、飛んできていた火の精を、一気に包み込んでしまった。火には水をぶつけるに限る。

 そうして火の精が甲高い悲鳴を上げる中、龍は興味を失ったように、透明な手の制御を解除した。すると、透明な腕を作っていた分の水が全部一気に制御を失って、王家の人達の真上に降り注ぐ。……うわあ。

 ついでに、火の精は随分と小さくなってしまって、きゅうきゅう鳴きながらどこかへ逃げていってしまった。どこか、王家の人達から遠いところで幸せになってほしい。

 王家の人達はこれでほとんど、戦意を喪失してしまったらしい。マシュマロの中で震えながら、怯えて動かなくなってしまった。

 ……それを横目に、龍はまた、透明な腕を操って、今度はレッドガルド家の兵士達の方へと腕を向けた。

 そしてそこで戦っていた兵士達と骨の騎士団を王家の人達の目からすっぽり隠してしまうと、骨だけ回収して、さっと奥の方へ流れていく。これで骨達の撤収は完了。ついでに、精霊が魔物の手からレッドガルドの兵士達を守ったことになる。

 森の精霊としては、レッドガルドの民を守るのは当然の恩返しなので、この行動に矛盾はないはずだ。王家の人達については、精霊としてもいい思い出があんまり無いので、まだマシュマロに埋もれていてもらうことにしよう。


 ……こうして人間達を天変地異で翻弄した後、僕は魔王サイドの攻撃も幾らか繰り出しておく。

 透明な水の腕を飴の槍で貫いてみたり、逆に水の腕を振るってもらってマシュマロの大地を一部破壊したり。はたまた水の腕を凍り付かせてみたり。魔王と精霊の戦いを演出して、人間の皆さんにはお引き取り願います、という気持ちを存分に伝える。

 そうして、いい加減、天変地異のネタも出尽くした頃。

「お、おやめなさい!」

 不慣れな様子ながらも凛々しく声を上げて、ラージュ姫が天馬に乗って飛んでいく。

 その手には、光を固めて作ったような細身の剣。……勇者の剣のレプリカだ。

「魔王の使いよ!今すぐここから立ち去りなさい!ここは精霊様のおわす神聖な森!あなた方に好き勝手させるわけにはいきません!」

 彼女の台詞を聞いたら、僕は急いで、森の壁から降りる。いそげいそげ。

 ……壁の上には相変わらず鳥と龍が居る。彼らと比べて僕は小さいし、何なら鳥に埋もれていた僕はほとんど見えていなかったはずなので、居なくなっても目立たない。

 僕が壁の内側を鳳凰で移動している間に、ラージュ姫が剣を掲げたらしい。雷が落ちて、地面を震わせる。……ちなみに、今回も雷の担当は僕らのラオクレスとアリコーンだ。いつもありがとう。


「トウゴ君!こっちは準備完了だ!いつでもいいぞ!」

「ありがとうございます!」

 僕は壁の内側をぐるりと回って、王家の人達が来ていた方から100度分ぐらい離れたところに出る。王家の人達からは何が起きていたか見えない位置だ。

 ……そしてここには、森の騎士団達が待機してくれている。森の自治を担う彼らは……王家には絶対に歯向かわないけれど、森を襲う魔物に対しては、当然、剣を振るう存在だ。

 ということで。

「さあ。やってくれ」

「あ、はい……あの、ごめんなさい」

「何、気にしないさ。その代わり、後でゆっくり温泉に浸からせてもらうからな」

 マーセンさんはそう言って僕の頭をわしわしやった。……この人達、どうして僕の頭を撫でたがるんだろうか。そんなに子供に見えるんだろうか。うーん……。

「ええと、じゃあ、失礼します……」

 ……そして僕は、急いで森の騎士団の内の何人かを、ぐるぐる巻きにした。

 蜘蛛の糸で。

「ははは!これはすごいな!実際に巨大な蜘蛛の魔物が出たらこういうかんじなんだろうなあ!」

「あ、マーセンさん。マーセンさんは蜘蛛の糸を斬り払っておいてください。無抵抗っていうのも変だから……」

「よし、分かった。じゃあ剣は使えなかったが自慢の筋肉で引き千切っておいたことにするかな!」

 マーセンさん、のりのりだ。ありがたい。……他の森の騎士団の石膏像達も皆、蜘蛛の糸を掛けたり、それを斬り払ったり引き千切ったりしてもらったり、地面にも蜘蛛の糸を掛けたり、蜘蛛の巣を張ってみたり、色々と小細工をやって、『王家の使いが来た方とは違う方で、森の騎士団が魔物と戦っていた』という状況を演出する。

 ……そう。彼らはここで、戦っていたんだ。攫われかけた僕を取り戻すために。


 一際大きく雷の音が響く。合図だ。

「よし。トウゴ君も急げ」

「あ、はい」

 最後は、僕だ。

 僕は急いで蜘蛛の糸で小さな繭みたいなものを作って……そこに僕がすぽりと納まった。

 あとは、魔法画で加筆修正しつつ、閉じ込められて、繭の中でごろんごろんやって、糸まみれになってしっかり絡まって拘束される。よし。

 ……僕は蜘蛛の魔物に攫われそうになっていたんだよ、ということで。うん。




「ご無事ですか!」

 繭の外から、ラージュ姫の声が聞こえる。ということは、向こうはもう終わったんだな。

 天馬に乗った彼女はマシュマロに埋もれた王家の人達よりずっと速くこちらへ到着して、ここでちょっと、戦っているふりをしてくれた。要は、雷を落としたり、勇者の剣を高く掲げてビームを空へ飛ばしたり。

 ……あ、勇者の剣、折角だから魔法ランプを組み込んである。魔石を入れておけば、強い強い光が出るから演出に便利。

 こうしてラージュ姫が色々とやって、ちょっと時間を稼いで……外が騒がしくなってきて……そして、ついに、僕の繭に、剣の刃が入る。

「……ご、ご無事ですか!」

「あ、ええと、はい……」

 不慣れな中、頑張ったラージュ姫は、僕が入った繭を切り開いて、ミッションコンプリート、だ。それが分かったからか、彼女はその場でへなへなと力を失って座り込んでしまった。お疲れ様でした。


 切り開いた繭の前でへなへな座り込んだラージュ姫と繭の中の僕は、王家の兵士の人達に目撃された。

「こ、これは一体……」

「ああ!その紋章は、王家の兵団の皆さんですか!増援に来てくださったんですね!」

 戸惑う彼らに、マーセンさんが近づいていく。

「ぞ、増援……?」

 王家の人達は、当然、戸惑う。

「え?違いましたか?それは失礼……いや、しかし、ならば何故、ここに?見たところ、あなた方も……その、何か、大変だったようですが」

 王家の人達は皆、マシュマロやチョコレートまみれだ。激戦の香りがする。

「こ、これはこういった魔物に襲われたのだ!いや、魔物だったのかも、怪しいが……あのような強大な力、初めて目の当たりにした……」

 そう言って、王家の人達はまた震えあがる。驚かされてくれたなら、大成功だ。

「して、これは一体どういうことだ。お前はこの町の兵士か?」

 王家の兵士の1人がそうマーセンさんに聞くと、マーセンさんは凛々しく一礼して、答えた。

「私はマーセン・ネイリー。この町を守る騎士の任を拝命している者です。ここでは、大蜘蛛の魔物と交戦していましたよ。町の少年が魔物に攫われそうになったのでね」

 マーセンさんの答えに、王家の兵士達は皆、首を傾げる。多分彼らは、『少年が姫を攫った』って聞かされているはずだから、当然だ。

「少年が……攫われそうに、なった?魔物に?」

「ええ。彼は魔物に攫われそうになっていたのです。蜘蛛の糸でぐるぐる巻きにされて、そのまま巣へ持ち帰られるところだったのでしょう。我々も抵抗しましたが、ご覧の有様でね。いや、とんでもなく強い魔物でしたよ」

 マーセンさんはさも、本当に戦ったかのように、蜘蛛の魔物の特徴や、どういう戦いだったかを話す。本当に戦っていたみたいだ。この人、すごいなあ。

「しかしラージュ姫様がおいでになって、この通りです。魔物は黒い靄のようになって消え失せてしまい、取り逃がすことになりましたが……ともあれ、無事にトウゴ君を救出することができた、というわけです。我々も無事でした」

 ご紹介に与ったので、僕も繭の中からぺこん、と頭を下げておく。しかし、あの、僕、ちょっと気合を入れて自分で自分を縛りすぎて、その、まだ手足が動かせない。繭の内壁でしっかり、絡まってしまったから……あの、誰か、ちょっと、解いてほしい……。




「……トウゴ?」

「ええ。彼の名前ですが。何か?」

 僕の名前を聞いた王家の人達は、気色ばむ。そうだよ。僕が、あなた達が捕まえる相手だよ。

「その少年は……その、何故攫われた?何故、ただの絵描きの少年を……?」

「さあ。ただ、ご存じかもしれないが、この町は精霊様のお膝元です。そしてこの少年は、森の町の町長のようなものですからな。魔物も何か思うところがあって彼を攫おうとしたのでしょう。恐らくは……」

「魔物は精霊様を狙ったのです」

 王家の人達が混乱しているところに、ラージュ姫が割り込んできたから混乱は更に加速する。

「精霊様はこの町を大いに気に入っていらっしゃるようです。だからこそ、この町の発展にこれほど力を使われて……しかし、そういった精霊様の優しさが、この町の民を人質にするという魔物の悪辣な策を生んでしまったのです」

 さらり、と淀みなくそう言って、ラージュ姫は僕の近くにやってくると、僕の手足に絡まっていた蜘蛛の糸を斬り払ってくれた。ありがとう。やっと動けるようになった……。

「かわいそうに……彼は町のまとめ役のような立場であったため、魔物に狙われたのでしょう。精霊様を誘き出すための人質として。……彼が攫われたからこそ、精霊様はあれほどお怒りになり、魔物に対抗し……そして、同時に、私に力と使命をお与えになったのです」

 ラージュ姫は凛とした態度で王家の兵士の人達に向き合った。そして彼らをじっと見つめる。

 ……この時初めて、僕は、ああ、ラージュ姫ってお姫様なんだな、と、思った。

 人の上に立つ人なんだな、というか、そういうかんじだ。臆することなく立って、兵士達に向き合っている彼女は、すごく、立派だった。

「私は精霊様にお会いしました。そしてこの町へ自らの意思で赴き、そしてつい先程、精霊様より力と使命を授けられ、こうして戦っておりました。……父上にお伝えしなければならないことがたくさんあります。父上は今、どちらに?」

 王家の人達はまごまごしながら、僕をちらちら見ている。けれど、僕は特に逃げるつもりは無いし、敵意も無い。それが伝わったのか、王家の人達は……頷き合って、こう言った。

「分かりました。ならば、国王陛下にこちらへお越し頂きましょう。ここに居る者達には皆、事情を聴かねばならないので、この場を離れぬように」

 やった。とりあえず、即座に僕が捕まって拷問っていうことはなさそうだ!


「ただ……」

 ……ただ、そこで王家の兵士の人が、ちょっと困った顔で、言った。

「その、この町の宿かどこかをお借りしたい。その、陛下は、馬車に乗っておいでであったのだが……先程の天変地異で、その、着衣が乱れておいでで」

 ……あ、うん。

 そっか。王様も居たのか。

 じゃあ王様、今、チョコレートとマシュマロまみれなのか……。

 ……うん。

 その、ちょっとだけ……嬉しく思ったら、駄目かな。こういうのやっぱり、悪い考えだよね。でも、あの、ちょっとだけ……。

 ……やった!


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― 新着の感想 ―
[一言] これ、泥と石弾よりもマシュマロとチョコの方が格段に戦意が落ちるw ヒロイックな苦境に人は抗えるけど、ギャグ漫画のやられ役みたいのは気力そがれるw
[一言] 甘すぎる 私としてはマシュマロの下にココアの湯を沸かせて更に甘くしたいです。魔王は酸いも甘いも噛み分けて酢醤油とか砂糖醤油とかに詳しくなったんですよきっと。 しょっぱくて柔らかいもの……塩…
[一言] 雲丹と塩辛の地面にイクラの雨、知らないとマジで怖いはず。
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