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遊園地

やりすぎかなーと思いましたが、

動揺しまくりの優希を描けて楽しかったです


「えー、このたび、僕、栗山優希と、金子稔くんは、『友達以上、恋人未満』の関係となりましたことを、ここに報告いたします……」

「おぉーっ」

 僕の言葉に、稔くんを除く2班の面々から拍手が送られた。って、そんなことしたら、周りの班に変に思われちゃうよっ!

 そんな僕に向け、「だから言いたくなかったんだ」と稔るくんがぼやく。うう。でもみんなには、しっかりと言っておきたかったから。

 屋上での出来事の翌日。

 稔くんと「おつき合いを前提とした友達」関係になったことを、給食の時間にみんなに報告した。「おつき合いを前提とした……」って、なんか恥ずかしかったから、別の言い方にしてみたけれど、ちょっとニュアンスが違ったかな。まぁ、みんな大体分かってくれたみたいでよかった。

「友達以上、恋人未満って、まるで幼馴染みたいだよなー」

 ちら、っと柚奈ちゃんを見る義明くん。自分たちもいずれは、って感じを言外に匂わせているけれど。

「そーだねー」

 あっさりとスルーする柚奈ちゃん。僕もそのスルースキルを見習いたいよ。

「でも、二人が正式にそう言う関係になって良かったよ」

 耕一郎くんが言う。

 そういえば耕一郎くん、初詣のとき、お似合いの二人がいて、早くくっ付けばいいのに、みたいなこと言っていたような……。まさか僕たちのことじゃ、ないのよね? だとしたら、耕一郎の想いの人が僕になっちゃうし。

 僕がそんな感じの視線を向けると、耕一郎くんが軽く咳払いをして続ける。

「部活のとき、しょっちゅう沙織さんと抱き合っているから、そっちの気があるんじゃないかって、心配していたんだよ」

「――えっ?」

 がたっと、両隣に座る夢月ちゃんと柚奈ちゃんが、僕から離れた。

 ご、誤解だーっ。


 なんとか誤解を解いて、給食の時間が終わったお昼休み。もうばればれだろうけれど、香穂莉ちゃんと彩ちゃんにも、稔くんのことを報告した。

「おめでとうございます。末永くお幸せに。結婚式には、ぜひ呼んでくださいね」

「け、結婚って」

 香穂莉ちゃんの、いくらなんでも早すぎる単語に、僕は狼狽えてしまう。

 でも、稔くんと別れることなんて想像もつかないし、ずっと付き合っていたら、いずれはそうなるのかな。――って、まだ付き合ってもいないんだってっ。

「相変わらず、優希ちゃんはからかい甲斐があるよねー」

 と彩ちゃん。からかわれてたの?

「あーあ。でも残念。『よし×みの』も『みの×よし』も妄想で終わっちゃったかー」

「は、はは……」

 僕にどうしろと。

「でも、優希ちゃんを男体化すると、不思議と妙に妄想が捗るんだよねー」

 ぎくっ。

 一年経ったけれど、たまにびくっとする日は続く。

 まだ彩ちゃんたちには僕のこと秘密にしているけれど、そのうちしっかりと話をしないとね。



 とまぁこんなことがあって、無事僕たちは周りからも公認の関係となったのだけれど、その日からがらりと僕と稔くんの関係は変わったということもなく。

 ということは、稔くんを意識する前から、僕たちってこんな感じだったのかな。なるほど。それなら確かに、みんなからそう見られても仕方なかったかも。

 というわけで、稔くんと一緒に手をつないで下校することもなく、以前と同じように――

「あのさ優希。今度の休み、遊園地に行かないか」

「いいね。みんなで行こうよ」

 僕が即答すると、稔くんはきょとんとして、それからばつが悪そうに頬を掻きながら続ける。

「いや、優希と二人で」

「え――」

 稔くんの言葉の意味することに気づいて、僕は思わず固まってしまう。

「べ、別に、友達だって普通だろ」

「そ、そうだよね」

 ――少しづつ、変わって来るのかもしれない。


  ☆☆☆


「絵梨姉ちゃん、遊園地に着ていくような服を教えて!」

「あらあら、デート?」

「ちっ、違うよ! 稔くんと友達として遊びに行くだけだからっ」

 僕が一所懸命、デートじゃないって力説しているというのに、絵梨姉ちゃんは、にやにやしたまま。

「友達だったら、別に気にする必要ないんじゃない?」

「でも、せっかくだし、やっぱり可愛い服を着ていきたいんだけど、遊園地にスカートだと逆に引かれちゃうよね。でもパンツ系の服って、僕あまり持っていないし……」

「だったら、キュロットにするか、スカートの下にレギンスでも穿けばいいんじゃない?」

「あ、そっか」

 つい混乱してて単純なことに気づかなかった。僕は早速、持ち合わせの服の中から組み合わせを考える。うん。これならなんとかなりそう。あとコートはどうしよう。二月末だけれど、春物の方がいいかな……

「ふふ。それにしても、あの優ちゃんが、男の子に見せるために服を選んでいるなんてねー」

「だ・か・ら・っ。そうじゃなくってっ。夢月ちゃんと一緒でも、悩むから!」

 それじゃ、と話を打ち切って、部屋を出ようとしたら絵梨姉ちゃんが付け加えてきた。

「そうそう、優ちゃん。もしものときのために、口の中は、しっかりと磨いておいた方がいいかもよ」

 口?

 それって、口のにおいってわけじゃなくて……あっ。

 絵梨姉ちゃんの、指先をそっと唇に押し当てる仕草を見て、僕は真っ赤になってしまった。


  ☆☆☆


 遊園地は市のはずれにあって、電車やバスで一時間弱くらいかかる。稔くんとは、いつもの駅前で待ち合わせた。

 待ち合わせ時間の五分前に着くように向かっているけど、稔くんのことだから先に来てるかな。なんてことを考えて歩いていたら。

「あれ、優希」

「あ、おはよう。稔くん」

 駐輪場から歩いてくる稔くんとばったり会った。そっか家が同じ方向だからこういうこともあるよね。「ごめん待った?」「今来たところ」というお約束のやりとりができなくて、ほっとしたような残念のような。

 稔くんは、何度か冬に会ったときと同じダウンジャケット姿だった。

 一方僕は、穏やかに晴れて暖かい今日に合わせて、春物コートを着用。スカートとレギンスも明るい色に統一してみた。

 けれどもしかして、友達と遊園地行くと考えたら、気合いが入りすぎたかな。引かれちゃったらどうしよう、なんて少し不安になったとき、稔くんが言った。

「髪型、変えたのか」

「えっ、あ、うんっ」

「いつもと雰囲気違ったから。似合ってるじゃん」

「あ、ありがとう。良かった」

 気づいてくれたんだ。

 髪型を変えるのも有効って、雑誌に書いてあったので、いつもはただストレートにおろしている髪の毛を、片方だけひもで結んでみたんだ。いわゆる、サイドテールというやつだ。

「それに服も可愛いし。やっぱり優希って、女の子なんだよな」

 稔くんが感心した様子で言った。

「それに比べて俺はいつもと変わらないし。何を着て来ればいいか、直前まで迷ったんだけど……」

「ううん。いつもの格好でぜんぜん問題ないよ」

 稔くんも、僕と一緒で色々服装をどうするか考えてくれたということだけで、十分嬉しかった。



 瑞穂市の外れにあるちょっと寂れた遊園地。地元の子なら一度は来たことがあるらしい。実は僕も、小さい頃、建兄ちゃんと絵梨姉ちゃんと一緒に、ここに来たことがあって、所々覚えている。

 子供の頃はともかく中学生にもなると遊園地なんて子供っぽい……って思いがあったのかどうかは分からないけれど、女の子になってこの町に住むようになってからは、初めて遊びに来た。

 けれど、やっぱり遊園地って、わくわくするよね。

「よしっ。遊ぶぞー」

「お、おーっ……」

 入り口のところで気合いを入れる僕の後に続いて、稔くんが少し恥ずかしげに続いてくれた。



 稔くんと知り合って、もうすぐ一年になる。

 けれど、こうやって稔くんと二人きりで遊ぶのは初めてだった。

 だから、もしかしたら会話が続かないかも、なんて心配していたけれど、いったん遊びモードに入ってしまえば、そんな心配は無用で、ただもう楽しいだけだった。

「よーし。次はあれ行くよー」

「お、おう」

 ジェットコースターをはしごして、コーヒーカップを思いっきり回し、お化け屋敷では、暗いから稔くんと手を繋いで入って、別の意味でドキドキしてしまった。さすがに驚いて抱きついたりはしなかったけれど、びくっとなって何度か手をぎゅっと握ってしまった。稔くんの手、大きかったなぁ……

 と、それはさておき。

 そんなこんなで遊園地を遊び倒した僕たちは、今はお昼を食べるため、フードコートで休憩中である。

「ふぅ。疲れたねー」

「あぁ。ま、優希が楽しんでくれているようで、なによりだよ」

 稔くんがパスタを啜りながら、微笑む。

「俺としては、優希が男友達と遊んでいるだけなのか、デート気分なのか、どっちなのか気になるところだけど」

「わーわー。そういうの考えないようにしてたのにっ」

「いや、そこは考えて欲しいけどな……」

 稔くんが苦笑いしながら言った。ごめんなさい。

 僕は何となく稔くんから視線を逸らして、周りを見た。

 フードコートの中には、家族連れと一緒に、男女のカップルもよく見られる。やっぱり彼氏彼女の関係なのだろうか。……僕たちも、周りから見たら、あの人たちと同じような関係に見えるのかな? ――って、ただの友達の人もいるよねっ、きっと。

 僕は慌てて話題を変える。

「あ、そうだ。稔くん、再来週の土曜日って開いてる?」

「たぶん部活があるだろうけれど、その後なら。なんかあるのか?」

「うん。3月2日は、僕の誕生日だから」

「へぇ。そうなのか」

 出産予定日は3月3日だったらしいけれど、男の子なのにひな祭りは……ということで、一日早く産んでくれたというのはお母さんから聞いた話。もっとも、今となっては問題なかったけれどね。

「やっぱり、十二歳と十三歳って、全然違うよね」

 ようやく小学生から、真の中学生になった、って感じ。僕の身長も、四月の健康診断までには一気に伸びて、150cmに届く――はず。

 と話して、ふと気づく。

「って、あれ? 稔くん、僕の誕生日知らなかったっけ」

「ああ」

「えーっ。普通、好きな女の子の誕生日は知っておくものだよ」

 僕はしたり顔で言った。

「そ、そうなのか……」

 危ない危ない。もし僕が言っていなかったら、稔くんは知らないままだったんだ。記念日は大事にしないとね。

「それにしても優希の方が先か。まぁ自分より後って珍しいけどな」

 稔くんが呟く。え、今なんて?

「そういえば、稔くんの誕生日は?」

「3月20日。だから、優希のほうが『お姉さん』なんだな」

「えっ……」

 僕の頭の中が一瞬、フリーズした。

 僕より、年下……? で、その身長って――

「こっ、この裏切り者っ」

「なんでだよっ?」

「ううぅぅ。なんか一瞬で希望がなくなっちゃったみたいだよ……ぉ」

 男女の違いがあるとはいえ、稔くんは男子の中でも背が高いほうだし。生まれの早い遅いの関係じゃないって、言われてしまったみたいで、かなりショック。

「ていうか、優希だって、俺の誕生日知らなかったじゃないか」

「ぼ、僕は、まだ稔くんを好きになっていないからいいのっ!」

「それは無性に傷つくんだけど」

 稔くんに突っ込みを入れられ、さすがに少し言い過ぎたかなって反省。度々ごめんなさい。

 けれど傷つくって言っている割に、稔くんは平然としている様子だった。

 まるで僕の言葉が照れ隠しで本心じゃないことを分かっているような感じで。それはつまり……わわわっ。だ、だめっ。僕でもまだ理解していない気持ちを読まないで!

 僕は慌てて話題を元に戻した。

「それで、僕の誕生日会を開くんだけれど、稔くんも参加してほしいなって」

「ああ、いいよ。もちろん」

 稔くんが即答してくれた。

「よかった。あ、そうそう。その日、お父さんたちも海外から帰ってきて、一緒に誕生日会に参加するから」

「えっ――」

 稔くんは絶句した様子。

 それからしばらく、稔くんはぎこちないままだった。

 別に、お父さんに、娘さんをください、って言う訳じゃないのにねぇ。


  ☆☆☆


「わぁ、凄い眺め」

 窓の外には、夕暮れに染まりかけた空から遠くの町並みまでが、大パノラマで広がっている。

 やっぱり遊園地の締めといったら、観覧車だよね。

「おい、あんまり身を乗り出すなよ。傾くから」

「……はーい」

 稔くんにたしなめられて、僕は稔くんの隣に(窓から見える景色の関係で)座った。

 確かに、はしゃいでいたら、子供っぽいもんね。

 大人しく座りながら小さく広くなっていく景色を見ている。そろそろ観覧車も一番高い地点に届こうというところだ。

「……優希」

 不意に、稔くんがささやくように言った。

「なに?」

 僕が何気なく振り向くと、稔くんの顔が間近に迫っていた。すごく緊張感のある真剣な表情をしながら、僕の顔に向けて手を伸ばしてくる。

 え? これって……

 不意に絵梨姉ちゃんに言われたことを思い出す。

 で、でもっ。僕たちはまだ恋人同士じゃなくて、友達なわけで……。一応、念入りに口の中は磨いて来たけれど、そうじゃなくてっ!

 こういうときは目を閉じるんだっけ? 唇は、んーってするのかな。ぎゅっと閉じた方がいいのか、少し開けていた方がいいのか、それとも――

「頭に、虫が付いてるぞ」

「ぎゃぁぁぁ。取ってっ、取ってぇぇっ」

 このときのトラウマで、僕も夢月ちゃんに負けず劣らない虫嫌いになったのは、別のお話。



「疲れた……」

「あぁ。そうだな」

 最後に雰囲気が台無しになっちゃったけれど、僕らしいといえば、僕らしいのかな。

 帰りは遊園地前から駅まで直通のバスが出ていることを知って、それに乗って帰ることになった。

 僕たちが降りる駅前は終点じゃないから、降り過ごしてしまう可能性があるので、寝ちゃダメなんだけど。はしゃぎすぎて疲れちゃったせいかな。うぅぅ、眠い……。

「眠かったら、寝てていいぞ」

 そんな僕の様子を見て、隣の稔くんが言った。

「でも……」

「いいから。ちゃんと起こしてやるし」

 そう言って、ん、と肩を軽くつきだした。

 え、それって。でも、いいのかな……。

 寝ずの番までしてくれるのに、肩まで貸してもらったら悪いよね。なんて悩んでいたら、思い切りあくびが出ちゃって、稔くんに笑われてしまった。

「ん……それじゃ、お言葉に甘えて……」

 僕は瞳を閉じると、そっと稔くんの肩に頭を乗せた。

 がっしりしてて、枕にしてはちょっと堅いけれど、肩から伝わってくる稔くんの鼓動が心地よかった。

「……なぁ、優希。観覧車のときって……」

「……んっ……?」

「いや、何でもない」

 何だったのかな。

 そう思いながら、僕はあっという間に、夢の中へと落ちていった。



いままで読んでくださりありがとうございました。

次話が、最終回となります

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