090_1400 常人以上超人未満たちの見事で無様な生き様ⅩⅩⅠ ~ハートの交換~
『ナージャ姉。こっち手詰まり』
『わたしもまぁ、手詰まりでしょうね』
埠頭の海を挟んで隣り合わせで戦っている南十星とナージャは、無線で語り合うと、それぞれの相手を無視して走り出す。唐突な転身に、それぞれを狙う援護射撃が慌てたように発射されるが、虚しく外れる。
『なら、こういう時は――!』
南十星は熱力学推進を稼動させ、海を飛び越える。
『練習したアレですね!』
ナージャは時空間制御で足場を作り、海の上を駆ける。
そして、すれ違う瞬間に。
「「リンク!」」
篭手と刀をすり合わせ、脳機能を接続する。
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「よぉ! おっちゃん!」
南十星は、石鎧の武者の前に、滑りながら着地する。
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「選手こうたーい!」
服の下に着たスーツの力で跳躍したナージャは、幾多の鎌刃を生やす槍戦士の前に着地する。
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槍の長さと、予知できない刃を持つ和真に、徒手格闘よりも長い刀で戦うナージャを。
剣筋と手の内をよく知るオルグに、あまり知らず奇想天外な戦闘手段を持つ南十星を。
相手を変えることで戦局を変える。理に適った行動ではある。
だが彼女たちの考えは、それだけに留まらない。
『な!?』
南十星の小柄な体が、白、そして黒の《魔法回路》で染まる。
全くの他人が、使い手が世界にひとりと呼んでも過言ではない、弟子と同じ《魔法》を使った。
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「はぁ!?」
ナージャの長身が、青白い《魔法回路》に覆われる。
時空間制御に特化した彼女ならば、決して発しないはずの、通常の《魔法》の励起光だ。しかもボディースーツのように常動型・至近距離で発動する《魔法》は珍しいため、ひとりを除いて使い手を見たことがない。
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そして南十星とナージャは加速する。それぞれの、けれども《魔法》を入れ替えた加速方法で。
それぞれの相手へではなく、うるさい援護を先に打ち倒すべく、周辺へ強襲する。
南十星の《躯砲》と、ナージャの《鎧》と《加速》は、共に身にまとう形で発動する。
ならば脳機能接続し、共にデータを送り合い、《魔法》発生座標をお互いのものに交換すれば、普段と異なる強化で戦える。
ジェット推進で無理矢理加速する南十星は直線的、時を加速させた空間の中を普通に動くナージャは自在と、動きが違う。
体術と刀以外となれば指弾くらいしかないナージャと、体術だけでなく衝撃波や電撃、熱や物質制御も扱う南十星とでは、攻撃手段が異なる。
敵対する部隊人員が、今日までにどのような想定訓練を行い、どのように配置されていたかはわからない。
だが、直前まで対処していた敵とは、まとう《魔法》は同じでも異なる相手に入れ替わられると、対処を遅らせても不思議あるまい。
黒が進んだ先では建物が砕け散る。戦い方を変えていたためナージャが封殺されていた《鎧》と《加速》全開で、理論上光速まで加速可能な圧倒的運動エネルギーで、ナージャがやらない力任せで埠頭の設備をなぎ倒す。不壊の鎧で銃撃も爆発もお構いなしに突っ込み、飛び散る破片で滅多打ちにし、建物ごと人間を吹っ飛ばす。ついでに建物倒壊に巻き込まれない位置まで放り投げる。
青が進んだ先では連続爆発が起こる。いつもは平面的な戦いが多い彼女が三次元機動を行い、南十星以上のトリッキーさを発揮する。彼女がこれまで使ったことがない中距離攻撃手段を用い、刃物以外で一撃で隊員たちを鮮やかに戦闘不能へと追い込む。
たった数秒で、難儀していた援護部隊を片付けた。
援護で攻撃を封殺されていたこともあるが、それ以上に今まで少女たちは手加減していた。
それがハッキリとわかる、『史上最強の戦略万能生体兵器』の名に恥じない戦いぶりだった。
『のぉぉぉぉっ!? なんも見えん! どーなってんだぁぁぁぁっ!?』
『ちゃんと制御してくださいぃぃぃぃっ! 痛覚遮断が不完全ですぅぅぅぅっ!?』
『やっぱナージャ姉、正気じゃないって! よくこんな《魔法》使いこなすね!?』
『ナトセさんこそアタマおかしいですよ!? なんで加速のたびに内臓破裂して平然としてるんですか!?』
自分も戦いながら他人にかけた《魔法》を操作するという、普段以上に複雑な使い方を付け焼刃で行ったのだから、ふたりとも建物に激突し、のたうち回っているが。




