090_1360 常人以上超人未満たちの見事で無様な生き様ⅩⅦ ~見捨てられた子のように~
《男爵》の攻撃は本格的に、野依崎本人へのものではなくなった。飛行戦艦へ向けられるのを、野依崎が割って入って妨害している。
「《ヘーゼルナッツ》への侵入者……勢力図的には、お前の仲間と思うでありますが? まだ脱出を確認していないでありますよ」
《ピクシィ》を操り、《男爵 》が操る死霊を撃破するが、粒子状の《ゴーレム》相手には大した意味はない。
具体的には不明な、アメリカ軍の特殊部隊に潜入されて、支配権を奪われつつある《ヘーゼルナッツ》だが、まだ野依崎の制御は効く。
《男爵》が無線操作する可潜戦艦から放たれるミサイルを、ファランクス近接防衛火器システムの二〇ミリ弾掃射が迎撃する。直撃は免れたとはいえ、ミサイルの破片がいくつも《ヘーゼルナッツ》の艦体に突き刺さる。
「味方? 誰が?」
《男爵》は、《ムーンチャイルド》同士の戦いには無関係な人員が乗った《ヘーゼルナッツ》へ集中攻撃を開始した。野依崎を倒すにはこれが一番と勘付かれてしまった。
攻撃に容赦はなくとも、敵の攻撃能力を奪うだけで、命を守る戦い方を見せていたのだから。いずれこうなることは予想の範囲内ではある。
とはいえ、防御戦闘が精一杯になってしまったのは辛い。
『Warning to trespassers on 《Hazelnut》. The ship is under attack. High chance of being shot down. (《ヘーゼルナッツ》への侵入者に警告。本艦は攻撃を受けている。撃墜の可能性高し。早急に脱出されたし)』
戦いながらも野依崎は、無線で艦内放送を発信する。
彼らの立場にしてみれば、裏切り者である野依崎の言葉など信用できるか非常に怪しい。素直に従う可能性は限りなく低いが、見殺しよりは心情的にマシと。
もっとも、彼らが自力で脱出できるのか、野依崎にはわからない。
世界に一隻しかない実験機の《ヘーゼルナッツ》には、脱出装置などない。載せても中途半端で不備があるため、乗り込むのは基本 《魔法使い》のみを想定、墜落時には自力でなんとかするという、結構なとんでもなさだ。
艦内カメラの映像で確かめても、現在侵入中の強襲部隊に《魔法使い》が何人いるかはわからない。中世の武器などであればすぐわかるが、先進国の軍事組織では銃を《魔法使いの杖》化している例が多いため、映像を少し見た程度だと判断できない。
乗り込む際に使われたヘリは、近距離で行われる《魔法使い》と《使い魔》同士の戦いに、危険を感じて退避した。個人でパラシュートを装備……ということもなかろう。あれはかなり大きく重い。
内部の特殊部隊員は、脱出の術を持っていないと見る。《ヘーゼルナッツ》が墜ちれば、死ぬしかなかろう。
(この戦いで犠牲者を出すわけにはいかないでありますからね……)




