090_1330 常人以上超人未満たちの見事で無様な生き様ⅩⅣ ~無駄な抵抗やめましょう~
せいぜいがライフル弾のマッハ二。常識的範囲内の超音速攻撃の中に、突如もっと速い非常識な攻撃の予兆を感知した。
目視も容易な強力な《魔法》の輝きと、エネルギーの循環で発生する電磁波。
四グラム程度の弾頭ならば、《魔法》で微粒子にすることも可能だったが、もっと速くもっと重い矢はさすがに無理がある。
(ロジェが本格的に動きやがった……!)
よってコゼットは即席トーチカを放棄し、横っ飛びに逃げた。直後に炸薬よりも強力な運動エネルギーにより、防壁が轟音と共に粉砕される。
飛翔体以外を全て力学的に仮想再現した電磁投射砲による砲撃だった。
しかも一撃では済まない。駐車場に塹壕を掘ると同時に建てた土壁もまた、すぐさま吹き飛ばされる。
飛び散るアスファルトやコンクリートの破片で、無防備な頭を打たれるのは嫌なので、コゼットは塹壕の中を全力で駆ける。その背後で壁に穴が空くどころか、塹壕が削り掘られる。
その連射が止んだと思いきや、新たな反応が頭上に現れる。洋弓を体に通して矢筒を腰に提げたメイド服の女性が、一気に戦場を駆け抜けて防御陣を飛び越した。
ロジェがククリナイフを握る腕を、コゼットは杖で叩く。骨を叩き折るつもりで振るったが、空中のメイドは攻撃こそ諦めたものの、杖の柄を掴んで体を入れ替え、衝撃をいなして着地する。
そして連撃を繰り出してくる。喉へ向けてナイフを払い、足払いをかけてくる。
それをコゼットはバク転で避けて、広げた間合いを幸いに杖の石突を繰り出す。
槍の穂先ほど鋭くなく、槍として使うにはそう長くない。故にロジェは平然と間合いに飛び込み、ナイフを振るおうとしてくるが、コゼットはそれを許さない。次々と繰り出す突きに、ロジェは一旦は接近を諦めて間合いを開いた。
後衛と事後処理担当のインドア女子大生の動きではない。身体制御術式《風姿花伝/Flowering Spirit》により、人間離れした他部員たちの動きを再現して対応している。
(明日は確実に筋肉痛ですわね……!)
それは勝利し、命を繋いでこそ起こる未来だ。再度接近戦を仕掛けてくるロジェに対応し、肉体が悲鳴を上げようと構わず、脳で体を動かすしかない。
「コゼット殿下。あなたはなぜ、ここまでして戦い続けるのですか?」
「テメェらがケンカ吹っかけてこなきゃ、戦い続ける必要なんてねーですわよ……!」
鉈を思わせるククリナイフを振りかぶって襲い来るのを、コゼットが杖を操って牽制する。
「テメェこそ、今なんのために戦ってますのよ……!」
かつて外国人部隊に所属していた女兵士を近づけさせなければいいわけでもない。ロジェの本領は弓なのだから。《魔法》による次世代戦闘を本格的に行わせないためには、むしろ打って出ないとならない。
「ただの契約です」
尖った石突を槍のように突き出し、金属版にしか見えない柄頭を振るう。十路の銃剣と樹里の長杖、双方を使い分けて攻め立てるが、ロジェには易々とあしらわれる。
「その程度でクロエ共々、人間辞められますの……!?」
「今も人間のつもりですが」
「貴女も《魔法使い》だったなら、そんな言葉、ただの誤魔化しだってわかるでしょうが……!」
「《ヘミテオス》に近しいコゼット殿下がそれを言いますか」
「近しいから言いますのよ!」
杖を振り回すだけではない。塹壕の壁から石槍や石腕を伸ばすが、ロジェはそのいずれもを避けてしまう。
コゼットは彼女とまともに戦ったことはない。以前の部活で相手したのは十路だった。だから始めて目にする、支援部の前衛担当たちと遜色ない近接戦闘能力に舌を巻く。
「……力を求めてとか、不老不死にとか、欲でなったほうがマシですわよ」
塹壕の外、防御壁の向こう側から、エンジン音が近づいてくる。ロジェに釘付けされている間に、クロエ率いる部隊が接近している。
(わかってましたけど……ヤッベ)
ヒラヒラと避けるメイドに杖を突き出しながら、コゼットは舌を打つ。
王女の護衛をしているくらいなのだから、ロジェを倒すのは容易ではなく、そうこうしている間に外から一斉攻撃を叩き込まれる。外の部隊を優先すれば、ロジェにやられる。どちらも同時に対応できるほど、演算能力に余裕はない。
指揮に悪手を打たされた。ロジェに懐に飛びこまれるのを、全力で阻止しなければならなかったが、他に選択しようがなかったし気づいた時には後悔も遅い。




