090_1300 常人以上超人未満たちの見事で無様な生き様ⅩⅠ ~ゴーストルール~
《妖精》たちが牽制して時間を稼いでいる間に、背面の空間制御コンテナから部品を取り出す。それを合体させると、野依崎当人よりも巨大なロケットが組み立てられた。といっても爆薬どころか燃料すらも入っていない金属の筒でしかなく、兵器には当てはまらない。外部からビームを照射することで飛翔するロケットだ。
ただそれを超高速でぶつける。既存の化学ロケットでもマッハ三以上、電磁ビーム推進ロケットはもっと速い。
軽ガス新型火砲で戦場をかき回した時よりももっと派手にかき回す。
野依崎は機械のアームを発射台代わりにして、《魔法》でビームを照射し、ロケットを海面に撃ち込もうとした。
だが先じて淡く光る骸骨兵士が剣で切りつけてくる。《ピクシィ》をすり抜けて接近してきた、《男爵》が操る粒子状の《ゴーレム》だ。
仕方なく野依崎はロケットの発射を諦め、拳を叩き込むと同時に瞬間的熱量を与える。敵は触れてないのに《ゴーレム》は切りつけることはできる。内包した金属粒子に着火して粉塵爆発を起こして消える。
その隙に背後から鋼鉄の棺が突進してきたので、野依崎はロケットを放棄し、機械腕を交換する。受け止め、人工ダイヤ塗布のチェーンソーを押し当てると、凄まじい火花が散った。とはいえさすがに外装を削り内部を破損させる前には振りほどかれてしまった。
ひとまず脳を動かす時間は終わり、次は口を動かす時間か。《男爵》の小手調べが停止したため、野依崎も待機状態に移行する。
他にも艦艇や航空戦力は周辺に存在しているが、《魔法使い》同士の戦闘に割り込んでこない。警戒態勢のまま距離を取って見守っている。
『これがお前の本気でありますか……《男爵》』
『そうだよ』
戦闘艦から発射された鋼鉄の棺が周辺に浮遊し、それらを通じて操作されている半気体の骸骨兵が大量に取り囲んでいる。その数、五一二体。
軍隊編成では大隊から連隊と呼ばれる規模だから、中々の数だ。しかも粒子濃度を変更することで部分的に気体にも固体にもなる。切られても撃たれても倒れず、代わりに《ゴーレム》側からは自由に傷つけられる。
常人ならば対抗することはできない、不死の軍隊に相違ない。これが全て《魔法》なのだから、大した操作能力だ。
『まぁ、自分が知ってる《ゴーレム》使いよりも多いのは事実でありますが……』
並列発動や同時対応数については、コゼットも群を抜いた性能を持っているが、群知能システム制御による《ゴーレム》では『二、三体がせいぜい』と顔を引きつらせていた。
《男爵》は、陸上戦力として並の《魔法使い》でも対処できない、破格の性能を持っている。
『この程度でありますか』
『SRSLY? (マジで言ってんの?)』
野依崎は軽く嘆息吐く。肉体的な反応はともかく、無線の音声データにまで吐息の音は反映されないため、《男爵》に心情を気づかれた様子はない。セリフは強がりと判断されたか。
確かに、野依崎も普段、一七基の《魔法使いの杖》を操り、同時に複数の《魔法》を使える規格外だが、数の上では負けている。
そして《男爵》の攻めは本格的ではない。時代劇の殺陣のように、単発的な攻撃を仕掛けてくるだけ。取り囲んで一斉攻撃しないのは、痛めつける意図だろう。
『なら『この程度』、なんとかしてみなよ』
戦場が再び動き始める。宙に浮かぶ骸骨兵士たちが、一斉に野依崎へ殺到する。
「破壊天使も真っ青の火力でありますね……」
背面空間制御コンテナから、棒を並べたユニットが、左右それぞれに展開する。広がると筒は扇上に広がり、野依崎をハリネズミのように取り囲む。
筒のひとつひとつ全てがレーザー発振器だ。それが大量にあるため、全方位へレーザー光線を照射する。不可視のエネルギーに貫かれた《死霊》たちは、次々と小爆発して消える。
これも所詮は使い捨て。高出力を発揮するため、数秒で莫大なエネルギーに耐えられず自壊したユニットは投棄する。
《死霊》たちを一掃して時間を稼げば、野依崎は子機たちに指令を送る。
そして熱電変換素子の防御用 《魔法回路》や、自由電子レーザー発振器を再現し、《男爵》がアメリカ軍の戦力に放った攻撃を迎撃し、守る。
『またお前は関係ない者まで巻き込むでありますか……』
『関係ない?』
戦闘艦》が主砲の155mm先進砲システムを発射したが、飛行戦艦の電磁加速砲で砲弾を空中迎撃する。まだシステムは乗っ取られておらず、野依崎の制御で動いてくれる。
『《ヘミテオス》になってまで自分に勝利するのが大事でありますか?』
No.44と名づけられた創作物が問う。
『なに? 《女王》は自分が人間のつもり?』
No.735と名づけられた創作物は答えず問い返す。
『僕たちは人間じゃない』
『自分たちは人間であります』
母親の胎内で四〇週育って生まれたか、顕微鏡とピペットで人工受精され長期胚培養装置で育てられたか。その程度でしかない、決定的な違い。
『それ以上は気の持ちよう……《男爵》。お前が自身を兵器と言い張るのは、お前がイカレているだけであります』
《魔法使い》、ひいては《ムーンチャイルド》たちこそが、この世界の異端。
出生は常人と異なれど、この世に生まれた以上は、常人の理屈に合わせなければならない。
それを無視して己を突き通すならば、化け物か英雄になる以外になく、そしていずれ英雄か民衆に倒される。
『化け物』の自覚ある彼女は、そう考えて生きてきた。
それを否定するために少年が戦いを挑んでくるならば、思い込みを叩き潰すしかない。
それが、同じ《ムーンチャイルド》の責務と思えば。




