090_1230 常人以上超人未満たちの見事で無様な生き様Ⅳ ~マーチ オブ レスキューヒーロー~
「やっぱり読まれてるよねぇ!」
戦闘開始前に人工島を脱出した四人によって、北側と南側の戦力は攻略した。無力化した今、砲弾やミサイルの雨は止んだ。
替わりに強襲揚陸が敢行された。ポートアイランド東西から援護を受けて、艦が押し寄せてきた。
そのほとんどは観艦式に来日した、軍事同盟を結んでいるアメリカ以外の艦艇のはずだが、政府・防衛省レベルで一体どのような協力体制になっているのか。
そこで十路は、超巨大な氷の鎖棍――《罪深き武勇》を叩きつけて、大阪湾に巨大な氷塊を複数浮かべて海を凍結させた。
そして樹里が《使い魔》に跨ったまま海上を走り、艦艇相手に機動戦を行っていた。
「《雷霆》実行!」
超科学の落雷を統合マストに落とす。自然雷よりも強力なため、絶縁対策も突き破り、外部に露出しているレーダーや通信設備を破壊する。電流がもっと強ければ、砲やミサイルまで破壊したかもしれない。いやそれどころか、艦内部にまで電流が奔り、乗組員を直接殺傷したかもしれない。
(面倒くさいなぁ……)
その調整が難しい。故に普段の樹里らしくないしかめ面を浮かべてしまう。
しかし足は止めない。不規則に盛り上がる氷に隠れたり足場にして跳んだりと、スーパースポーツの《コシュタバワー》でモトクロスレースさながらに自在に走る。いや砲弾やミサイルを飛んで来て氷を粉砕することから、気分は爆発の中を駆けるスタントマンか。
『木次。上陸され始めたから、艦の迎撃はテキトーなところで切り上げて、衛生兵に移行してくれ』
島の反対側で活動しているはずの十路から無線が飛んできた。攻撃を受けないよう凍った平原の内陸側へと入り、会話に集中する。
『ちょっとやりすぎたから、フォロー頼む』
「攻撃は放棄していいんですか?」
『向こうが味方ごと吹っ飛ばす強攻策を取らなければ、な』
思わずため息がこぼれる。その『事故』の可能性も考慮しながら戦わなければならない。
ならば艦艇を先に無力化させればいいのだが、そうもいかない。対艦戦から対人戦へシフトするのだから、殺してしまわないよう、より一層の注意が必要となる。
まだ、現代戦には必須の、航空優勢が楽な分、いくらは余裕あるのだが。戦闘ヘリでも出そうものなら《魔法使い》は即座に迎撃してしまうと警戒されているのだろう。
『だったら、艦艇はわたしたちがやっておきます』
新たな女性の声が無線に割り込んだと同時、ある艦艇の火器管制レーダーが真っ二つになる。
彼女の《魔法》――それも時空間停滞の守りは、夜ともなれば完璧に近いステルス性を発揮する。周囲の光学的差異で見分けるか、『なにもない空間』を探知する特殊な探査方法ではないと、なにが存在しているのかわからない。
だが距離を隔てているためか、それを用いても、なにが行われているのかわからない。オート・メラーラ127mm艦載砲と舷側に、機能不全に陥るに充分な『刀傷』が新たに刻まれたが、全く前触れがなかった。
『処理するだけなら、あたしらのほうが早いしさ」
別の少女が無線に割り込むと同時、人工島からなにかがケーブルを曳きながら空を駆けた。艦艇のレーダー迎撃システムでは補足できないであろう、小さな人間の一部のみが飛翔し、艦艇に接触する。
すれば統合マストが、粘土でこねたように巨大な腕となる。艦橋すぐ上のレーダーに拳を叩きこみ、手を伸ばして武装をもぎ取る。
【近接特化型 《魔法使い》が、なに普通に遠距離から対艦攻撃してるんですか……】
これまでの戦闘では見せたことがない、ナージャと南十星の所業に、イクセスがぼやく。
『バッテリーの制限がないからできることです』
『新しい装備じゃなきゃ、ンなマネできねーって』
【というか、人工島に帰って来てたんですね】
『いやー。追いかけっこしてましたけど、街中で戦うわけにもいかないですし』
『後始末考えりゃ、戦うのはここイッタクっしょ』
二人と一台が無線で会話している間も、周辺海域の戦力は無力化していく。
樹里もその間に、走りながら対艦戦闘から救護活動へと切り替える。
握っていた長杖を、《コシュタバワー》に積載した空間制御コンテナに突き込む。
引き抜いた時、柄頭には、穴の空いた球と、束ねられたケーブルが接続されている。
普段物の出し入れをしている上部ではなく、空間制御コンテナ側面が開き、遠隔銃架を展開する。
そこに固定されているのは、銃ではあるが銃火器とは異なる。銃身と呼べる部分が短く、本体の大きさと似合わぬドラム式の弾倉をつけた様は、釘打ち機に思える。
準備を終えた頃には、十路の戦闘跡が見える位置まで移動していた。氷の上にフル装備の兵士たちが何人も倒れ伏している。
「堤先輩。この人たちは?」
視界を望遠した肉眼で装備を確かめて、不審を抱く。
顔を目出し帽で隠していること、またこの状況下ならば、特殊部隊員といった精鋭が来ることは予想の範囲内だった。
しかし彼らの装備が、十路が持つ《八九式小銃》のような銃火器に《魔法使いの杖》の機能を付与したようなもので、全員が統一された装備であることに疑問が湧く。
『遭遇しないように気をつけろ。こいつらは平均化された《魔法使い》だ』
無線では十路の声はいつも通り平坦だが、脳内センサーが感知している彼がいる周辺からは、かなり激しい戦闘と思われる反応がある。派手な銃声と爆発音も届く。
どうやら樹里には戦わせないつもりで、手加減抜きで戦い、そのフォローを求めたらしい。
「平均化?」
『ひとりひとりの《魔法使い》としての性能は、俺たちが断然上だ。だけど部隊として機能するように訓練してると、そんなのお構いなしになる』
基本的に《魔法使い》とは個の武力だ。神話に描かれる英雄たち、戦記で語られる豪傑たちのような、そのひとりで戦いの趨勢を決してしまう一騎当千の者。
しかし個々では力を及ばずとも、部隊編制、装備体系、戦闘陣形、戦闘方針を研究し揃えた集団戦法を身につけていれば、彼我の差は容易に覆される。
「先輩ひとりで大丈夫なんですか?」
『余裕はないけどまだなんとかなる。こいつら実戦経験が浅い』
奇襲・闇討ち・罠ハメ上等、最強の《女帝》に育成され、実践経験豊富な《騎士》だからこそ、隙を突けるのだろう。
『だから木次は後始末を頼む』
「了解です」
活かさず殺さず無力化する、微妙なラインを樹里と共に行うよりも、少々やりすぎくらいに十路が手早く片付けて、樹里がフォローしたほうが確実。
ただの独り善がりではなく、ひとつのやり方だと納得できるから、特に不満はない。
オートバイを停めて脳内で自動銃架を操作し、追加収納ケースから飛び出た火器を連射する。火薬ではなく圧縮空気で連射を行い、隊員の身に針が突き立つ。
知らずに見れば完全にとどめを刺しているとしか思えないだろうが、歴とした医療用の専用デバイスだ。撃ち込んだ探針から取得した情報を元に、医療用の《魔法》を遠隔で実行する。
脳の血流を一時的に遮断して失神させて、高エネルギーで焼けた組織はそぎ落とし、衝撃波や打撃で損傷した内部組織を細胞レベルで交換し、出血孔をで塞ぐ。『初源の《魔法使い》』と呼ばれた男の力作だから、操作に問題などない。
ただし命に別状はないが、戦えないまでの、中途半端なところで治療は止めてしまう。完全に治してまた敵対・戦争になるのは避けなければならない。
(堤先輩、《八九式小銃》使ってないんだ)
発砲音がする割に、兵たちの負傷に銃創がない。似たような『穴』はあるが、レーザー光線か氷の銃弾と思われるもので、銃創とは違う。
(発砲できないのはわかるんだけど、こんな時まで消火器って……)
そして一番多いであろう負傷は、顔面の打撲傷だ。着けていた暗視装置やゴーグルの類が壊れ、破片が刺さったり、鼻や頬骨が折れている。
氷床のあちこちに赤い容器が転がっているため、樹里だけでなく支援部員ならば事態が想像できる。
複数の患者を並列で治療しているため、術式同時起動の負荷に顔をしかめながら、意識を分散させるために関係ないことを考えていると、不意に脳内センサーに動きがあった。
樹里がそちらを見ることなく長杖を振るうと、ライフル弾が弾き飛ばされた。
「あなたも《治癒術士》ですか……」
まだ治療していない隊員が、《魔法》の光を発しながら、銃口を向けていた。その動きは苦しげではあるが、十路の攻撃が不完全だったのではなく、その後に自分で回復させたのではないかと思えた。
「動けるなら、負傷者を連れて撤退してもらいたいんですけど。これから何人も治療しなきゃいけないから、気絶した人の面倒なんて見ていられません」
肌も髪も隠され、どこの国出身かはわからないため、英語でも同じ内容を繰り返し、ついでに凍傷の危険性も指摘しておく。
英語のほうに反応があり、隊員は銃口を向けたまま迷う素振りを見せた。
樹里は構わず、長杖を脇に挟んで《コシュタバワー》のハンドルを動かし、背中を向けて発進する。だが発砲はない。
一部は失神させることなく治療し、残りの失神した兵士の面倒を見させるのは、当初からの予定通りだ。
氷床を切り出し、流氷のように戦闘地帯から離岸させることも考えたが、自主的に撤退してくれるならそのほうが楽でいい。
(戦闘支援でも楽じゃないなぁ――)
《マナ》を通じて脳が新たな反応を報せた。同時に氷床が激しく揺れて、ハンドルが取られた。慌ててブレーキをかけて、滑りながら停止する。
「え」
真下からの衝撃で広範囲の氷が割れると、樹里を中心にしてすり鉢状に傾斜する。樹里は慌ててアクセルを開いたが遅い。
海の下から巨大ななにかが伸び上がり、バイクごと彼女を飲み込み、海へと沈んだ。




