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近ごろの魔法使い  作者: 風待月
戦争と《魔法使い》
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090_1220 常人以上超人未満たちの見事で無様な生き様Ⅲ ~秋の夜長の数え唄~


「ひとっつ非道に(みなごろし)~♪」


 《魔法使い(ソーサラー)》としての(つつみ)南十星(なとせ)は、支援部内では一番弱いと言わざるを得ない。

 なにせ近接戦闘特化型だ。遠距離型で小規模な天変地異レベルの攻撃を放てるコゼットや野依崎と比べたら火力不足だ。いや火力そのものは南十星も発揮できるのだが、近接戦闘だと自分も巻き添えになる。


「ふたっつ()(らち)(みなごろし)~♪」


 その近接戦でも、《魔法》を使うナージャに劣る。

 なにせ彼女は時空間を操作し、無敵の防御力と、理論上亜光速まで加速するスピードを発揮する。


「みっつ皆で(みなごろし)~♪」


 対し南十星は防御は常人と変わらず、スピードは(せん)音速がせいぜい。ついでに画面映えするためのアクションが元の格闘技術では、殺傷能力を磨き上げた本職には劣る。

 なのでナージャのダウングレード版と見なされる傾向にある。


 しかし確実に南十星が勝る点もある。

 そのひとつがパワーだ。


「よっつ()からぬ(みなごろし)~♪」


 《(ダスペーヒ)》を実行したナージャならば戦車の突進も受け止め、《加速(ウスコレーニイェ)》を使って体当たりすればダンプカーも横転させる。

 しかし《魔法(インチキ)》込みでも、ウェイトリフティングの世界記録を塗り替えるのは難しい。


 力学的に身体能力を強化させ、《()(ホウ)》の接触型重力制御プロトコルや、《ゴーレム》の手足を作る延長三次元物質操作(クレイトロニクス)プロトコルがある南十星は、それができる。


「いつつ一気に(みなごろし)!」


 少女が203mm自走榴弾砲の砲身を肩に担ぎ、丸太くらいの感覚で振り回し、99式自走155mm榴弾砲をカッ飛ばし続けていた。


「やーっと終わった……すーぐ使い物にならなくなるんだから」


 軍事車両といえど過度な要求だろうが、バット代わりにもならなくなったスクラップを、南十星は放り捨てる。

 何度も自走砲(バット)を交換しながら、特科連隊の装備を一掃した。


 唐突に南十星が拳を顔の横に掲げると、直後に火花と衝撃が三度散る。

 個人防御装備でありながらライフル弾を完全に受け止め、しかも衝撃を内部に伝えない。制限抜きで行われた《付与術士(エンチャンター)》の仕事は、地味にオーバーテクノロジークラスの能力を発揮している。


 南十星は端から順に自走榴弾砲を叩き潰し、道路から斜面に落としているので、隊員は既に車内から撤退している。自走砲では至近距離の攻撃はできず、隊列を組んでいて渋滞しているので、愛着あるだろう装備を投棄して逃げる以外にない。

 

 だがそのまま撤退せず、山林に潜み、個人用装備でゲリラ戦を仕掛けてくる隊もある。

 

 そんな彼らの射撃に対し、南十星はボクシングのピーカブースタイルで真っ向から突っ込む。

 負傷はすぐ自己再生できるとはいえ、防御力は紙だったこれまでの南十星だったら、多少なりとも回避しながら接近した場面だ。

 しかし今は、腕部と肩部の装甲、あと自己再生で、力任せに弾雨の中を突っ込んだ。最短最速で部隊の懐に潜り込むと、()()()()()()()()()蹴り飛ばす。


 重傷者多数だが、しばらく放置しても問題ない程度に留めた。素人見立てだが、そのうち救援部隊がやって来て処置するだろうから、大丈夫と判断する。


 つい先ほどまでは、ディーゼルエンジン音に金属の激突音、発砲音や爆発音と、賑やかだった。今や海側から響く戦闘音が遠くの花火のように響く程度に静かになった。


 そんな場に、油空冷4サイクル単気筒SOHC4バルブエンジン音が近づいてくる。


「派手にやってくれたなぁオイ……」


 その擬装音を放つ、銀色のビッグオフロードバイクに跨る、黒のライダースーツに身を包んだ青年が、救援目的では遅すぎる登場をした。


 南十星は横転した自走砲の腹に飛び乗り、オートバイから降りるその人物を見下ろす。


「よぉ。なんつって呼ぶべき? 和っちセンパイ? それとも市ヶ谷のおにーさん?」

「好きにしろ……」


 『ナトセちゃん』と呼んでいた義兄のクラスメイトとしてではなく、政府関係者の市ヶ谷としての呆れをこぼしながら、ヘルメットを脱ぐ。


「あー。そっか。別に本名あるんだっけ。んじゃぁ和っちセンパイで」

「よりによってそれ選ぶかよ」


 押さえられていた髪を書き上げてウルフヘアに落ち着かせた青年への対応を、『正体不明の《魔法使い(ソーサラー)》』ではなく、『(とおじ)のクラスメイト』を選択する。

 それに和真(いちがや)は目を細めたが、南十星は子虎の狂笑で笑い飛ばす。


「あたしが知り合い相手だから戦えない、殺せないって、ナメてんの?」

「あー……そうだよな。そういうヤツだったな……」

 

 友であろうと敵となれば戦うし、兄以外の人間ならば必要あれば殺す。

 その決意を持つのが、堤南十星という《魔法使い(ソーサラー)》だ。


「で。なに? ひとりであたしと戦いに来たん?」


 南十星は篭手に覆われた両手を揺らし、ウォーミングアップする。


「お前らが引っ掻き回してくれたからな……対応できそうなヤツなんて、そうそういてたまるか」


 和真(いちがや)がオートバイ後部の空間制御コンテナ(アイテムボックス)から、(あがり)鎌十文字槍を取り出して切っ先を天に向ける。

 

 現代軍事の常識では対応できない。生体万能戦略兵器 《魔法使い(ソーサラー)》に対抗できるのは《魔法使い(ソーサラー)》のみ。

 次世代軍事の常識が、改めて証明されただけ。


「んじゃ、とっとと()ろうか」


 南十星は右手を真っ直ぐ伸ばし、親指以外の四指で『かかってこい(Come on)』とジェスチャーする。


一端(いっぱし)狂人(まほうつかい)になったもんだ」


 数ヶ月前にも戦った和真(いちがや)は、槍を天に向けたまま、肩をすくめる。


 直後、踏み込みで自走砲が更につぶれ、アスファルトに(ひび)が走った。


 飛び込んだ和真(いちがや)が、槍を突き出す。

 だが南十星は、()なしも(かわ)ししない。


「なーんつって!」

「な……!」


 相手する気がないと、全力で横っ飛びに逃げた。完全に戦う気だった和真(いちがや)が反応を遅らせた隙に、森へ飛びこむ。

 視界に重ねた暗視で暗闇を見通し、部分的微速度撮影で木々を避け、急斜面の夜の森を駆け抜ける。和真(いちがや)ひとりならば追いすがることも可能。だが障害物の多い場所なら槍使いの彼よりも、格闘の南十星のほうがわずかに有利と目論見もある。

 なにより和真(いちがや)は、《使い魔(ファミリア)》との別行動を取らなかったため、南十星は容易に振り切った。


 あっという間に離れて市街地へと出た。赤信号が点滅する無人の街を疾走して南へと向かう。


 その道中、県道三〇号線を走る、原付に乗った見覚えある後姿を補足した。


「よーう! ナージャ姉! 首尾どーよ!」


 ノーヘルでナージャが運転する原付のリアシートに南十星は飛び乗る。


「指揮命令系統の破壊は成功しましたけど――!」


 風切り音とエンジン音に負けぬ声でナージャが怒鳴り返したすぐ後、ド派手なドリフトを決めて後方の道路にゴツい自動車が躍り出てきた。

 GAZ-2330 ティーグル。ロシアの自動車メーカー・ゴーリキー(G)自動車(A)工場(Z)が製造する、目的別に様々なバージョンが存在し、民生用SUVとしても販売されている、全地形対応軍用車両だった。


師匠(ペタゴーグ)に追われてます!」


 視界を望遠すれば、ハンドルを握るのは、筋肉隆々たる角ばった印象の男だ。運転の都合かなんなのか、フロントガラス越しに見える範囲では、装備らしい装備を身につけている様子はない。

 オルグ・リガチョフもまた、予想外だった支援部の作戦に合わせて、単独で動かざるをえなかったのだろう。


「あんな車高高いクルマでドリフトとか、よーやるわ。また《使い魔(ファミリア)》?」

「その様子はありません! それより合流できたなら丁度いいです! ナトセさん! ブースト!」

「あいよー」


 後ろ向きに座り直した南十星は、原付を足で挟む。そして両手を突き出し、熱力学推進を実行する。

 圧縮冷却した空気を気化爆発させる勢いで、原付ではありえない速度で、あっという間に自動車を引き離すと、そのまま新港第四突堤を爆走する。

 しかしその先は神戸大橋――ナージャが侵攻阻止のため、道路を切断した場所だ。


「いっきますよー!」

「応よ!」


 ナージャが体重を後方にかけて前輪を浮かしながら、車道隅へと原付を寄せる。

 そして橋の、上反り弓状のアーチをジャンプ台に宙に飛び出して、ふたりは激戦のポートアイランドへと帰還した。


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