090_1210 常人以上超人未満たちの見事で無様な生き様Ⅱ ~速攻ROCK ON~
東京、首相官邸、危機管理センター。
「陸上自衛隊六甲山前線指揮所、音信不通」
「大阪湾上空を哨戒中の早期警戒管制機、護衛機と共に破損。戦線離脱し緊急着陸」
「海上自衛隊から『まや』音信不通」
作戦開始から間もなく、陸・海・空、全ての自衛隊命令指揮系統が寸断されたと伝えられる。
それだけならばまだいい。高度にネットワーク化された現代戦は尚のこと、そのような事態を考慮していないとならない。
だから即座に命令伝達のラインを切り替えられるが。
「第一護衛隊群全艦音信不通」
「観測部隊から入電。回光通信通信で確認。第一護衛隊群、旗艦機能移転だけでなく全艦戦闘不能」
「早期警戒管制機交代機、エンジントラブル。攻撃を受けた模様」
「第一特科連隊、交戦中との報告後、音信不通」
「第七特科連隊より報告、交戦中。支援要請」
「早すぎる……!」
ほぼ同時に、現場部隊の兵力が、速攻で無力化されているとなれば、話は変わる。責任者たちも顔色を変える。
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「破壊完了」
強制的に戦線離脱、航空自衛隊早期警戒管制機のエンジンを破壊した野依崎雫は、超長距離狙撃用の巨大な観測機器を背面の空間制御コンテナに格納し、自由電子レーザー砲再現術式《L》をキャンセルする。
そして新たに熱力学推進のノズルを解凍展開し、点火させるとほぼ同時。不可視のレーザー光線が空間を切り裂き、更にF-35B戦闘機が突っ込んできた。
子機に光学・電磁気学アクティブデコイ術式《S》を宿らせ、レーダーはもちろん目視でも野依崎当人にしか見えない身代わりで、空を撹乱しながら指令塔となる早期警戒管制機を撃破した。
開戦から間もないが、《ピクシィ》を操りながら術式の多重実行で、耳鳴りするほどひどい頭痛に幼い顔をしかめる。
否、顔をしかめる理由はそれだけでない。戦闘機が飛ぶ野依崎本人に背後に貼りつき、格闘戦を仕掛けてきた。
(TALWSまで運用とは……)
戦術的空挺レーザー兵器システム。戦闘機に搭載可能なレーザー外付け機関砲だ。
本来の役割はミサイルを迎撃する防御用兵器だが、攻撃も可能だろう。出力充分なレーザー攻撃は《魔法使い》の専売特許だったが、既存兵器が追いついてきた。
だが野依崎ならば戦闘機程度、そんなものあろうがなかろうが結果は変わらない。
戦闘機と比較した空飛ぶ《魔法使い》の優位性は、まず体の小ささ。機関砲はまず当たらない。ミサイルの近接信管で指向性爆発に巻き込むのも至難の業。パイロットの死角に容易に隠れられる。
そして機動力。重力制御・熱力学力学・電磁力学制御と三系統の推進が可能で、航空力学を無視してUFOめいた加減速と動きができる。
なので野依崎は、あっさり追いすがる戦闘機のコックピットに貼りつく。ワンピース姿のお子様の暴挙に、ギョッとして真上を見上げるパイロットと、専用ヘルメットのバイザーとキャノピー越しに目が合った。
(おあつらえ向きにブロック3Fにアップデート済み……)
そのままハッキングを敢行する。機体の航空電子機器にウイルスを送り込む。ちょっとしたプログラムの書き換え――先進射出座席のデジタル電子シーケンサ周りをいじるだけの、簡単な内容だ。
ただし機体同士の情報共有ネットワークを通じて、同じ空を飛んでいるF-35戦闘機全てにも感染――というより連鎖的にハッキングし、同じコンピュータウイルスを送りこむ。
すれば野依崎は機体から離れ、空中制止する。戦闘機は無視して新たな武装を解凍させる。
(なんでこう新装備は、コト●キヤだけを殺す機械ばかり……社長砲でありますか?)
背中の空間制御コンテナに入るサイズにするために、三つに分割されている。強化服の腕力で蛇腹のように畳まれた筒と、長い筒を先に取り出し、最後に出てきた機関部の前後に合体させて展開すると、野依崎の肩越しに伸びる長大な砲身となる。
厳密には大砲ではない。搭載されているのはバネと水素ガス、大量の電磁石と《魔法使いの杖》の部品だけ。
しかも発射の瞬間、砲身が裂ける。一発だけの使い捨てと割り切り、兵器として実用できるコストパフォーマンスを持っていない。
弾体を隕石並みの速度で発射するだけの、大砲モドキだ。
「Brace for impact!(衝撃に備えよ)」
国際緊急周波数で警告を与え、三つ数えて発射する。
軽ガス新型火砲と電磁投射装置で射出された弾体は、空力過熱で光の玉と化す。実体弾兵器と思えない超高速の光弾は、第七艦隊所属艦へと撃ち込まれた。
着弾点は大外れの海上だった。しかし宇宙ロケットの速度すら遙かに上回る極超音速は、空気の壁を生み出し、同心円状に海面が爆発した。予想外で局所的な津波を受け、巨大な空母でも大きく傾き、それ以外は耐えられず転覆してしまう。
空中で足を止めて砲撃を行ったのだから、衝撃波に煽られなかったF-35B戦闘機が、絶好の機会と機首を向ける。
しかし狙いを定めるため機体を安定させた途端、ウイルスによっていじられた脱出装置が誤作動を起こし、座席ごとパイロットは空に放り出される。
無人で自由落下し、和歌山県か徳島県の山か市街地に突っ込んで爆発炎上しそうな機体は、タイミングを見計らって燃料タンク部分にレーザー光線を照射して処理する。
それでようやく余裕ができる。
(《ヘーゼルナッツ》へも戦力が向けられている分、想像よりは第七艦隊への対処は楽でありますがね……)
野依崎が支配下に置いている飛行戦艦型 《使い魔》は、完全にコンピュータに任せて自律戦闘させている。
戦闘ログ提出を無線で要請し受け取る。どうやら攻め倦ねているらしく、散発的な自衛行動以外はまだ行われていない。
(……? まさか、奪還を考えているでありますか?)
レーダー情報も見ると、ジェット機と見るには遅い機影がある。叩き潰すつもりで戦闘するつもりならば、奇妙な戦力だ。
なにせ《ヘーゼルナッツ》は国防総省が管理しているのを、野依崎が勝手に使っている。
彼女が単独で飛んでいるのだから無人なのは確実、その隙に特殊部隊を送り込んで奪還、という作戦も考えられなくはない。
(自爆ドローンの接近は許さないでありますが、低速・小型で電波を発しない飛行物体は、自動迎撃プロトコルから除外してるでありますからね……)
そんなのまで目標に設定して、渡り鳥の群れに近づかれたら、あっという間に近接防衛火器システムが弾切れを起こす。
なので囮を異常接近させて火器を引きつけて、ジェットスーツやウィングスーツを装備した特殊部隊員が、比較的手薄な上部から接近すれば、艦内に潜入されるかもしれない。
(……懐に飛び込まれるのは、どうしようもないでありますね)
敵を引きつける役は必要だから、対空・対艦戦闘の仕様は変えられないが、決死の作戦に挑む隊員たちの生命を守るには、自動迎撃の設定を変えるしかない。
そしてハッチや隔壁を封鎖し、艦内に窒素を充填して、侵攻を遅らせる処置をしておく。
脳の中での通信を終えた頃合に、野依崎は奇妙なものを見た。局所的な津波とでも呼ぼうか。水羊羹みたいに水平線が一部だけ、それもかなりの高さを保ったまま近づいてくる。
波というか海水の塊はそのまま海面をすべり、混乱中の第七艦隊に接近する。転覆している船は避けて、航空母艦ロナルド・レーガンを飲み込んだ。
(空母の乗組員、ちゃんと生きてるでありますかね……?)
ちょっとした島ほどもある水の塊が近づいてくる様は見えていただろうから、甲板作業員は艦内に飛び込みハッチを閉めていたのは確認できた。だから波に攫われてはいまい。しかしあれだけ艦を揺らしたら、内部で設備と激突して負傷してもおかしくはない。
ウミホタルでも内包したかのように、淡く青く光る海水の塊は、光が消えると形を崩す。滝のように流れる水の中から、空母の艦橋が姿を表す。
ただし甲板上は大きく異なる。横波を受けて傾いても落ちなかった艦載機は全て洗い流され、換わりに巨大な黒い塊が鎮座している。
アメリカ海軍バージニア級原子力潜水艦三番艦、ハワイ。
完全に空母を飲み込む水量など、津波には程遠くとも、鉄砲水クラスの災害だ。それが人為的に操作されていたことに、野依崎は唖然とする。
「部長の流体操作、あんな質量まで操作できたでありますか……」
「電力不足で普段ならできねーだけですわよ。制限なければあんくらい」
水の塊と共に移動してきたコゼット・ドゥ=シャロンジェが空中制止し、ぼやきに応じる。そのままベルトから予備を抜き取り、改造された《魔法使いの杖》のバッテリーを交換する。
「早いでありますね?」
「海面近く浮上してましたから、簡単に見つけて捕まえられましたわ」
「巡航ミサイルでも撃つ直前だったでありますかね」
――とりあえずフォーさんは空を。ハワイはわたくしが担当しますわ。
――了解。妨害は各自適宜対応、集合はロナルド・レーガンで。
別行動開始時の打ち合わせを、早速ふたりは遂行してしまった。それも考えうる最速、常人には考えもつかない超絶的力技で。
「んで。どっちがどっち担当します?」
「閉所戦闘は間違いなく自分より部長であります。ならば一三倍もデカい空母を頼むであります」
「了解。んじゃ、とっとと制圧して、図面データを奪取して、原子炉緊急停止させといてくださいな」
「水から引き上げた状態でも問題ないでありますか?」
「あ゛ー……海に戻しとしてくださいな。制御棒を停めるだけならともかく、冷却できないでしょうし」
「了解」
折り重なる戦略兵器たちを手中に収めるべく、ふたりは降下する。




