090_1050 邪術士たちは血で陣を敷くⅥ ~上手に焼けました~! Rise ver:日本語 ver~
モニターには、ポートアイランドの遠景が映っている。
『ご覧のように、一夜明けた神戸は、何事もなかったかのように静かです』
リポーターはそう言うが、離れた空からの映像では、事件前との大きな違いは見分けつかない。ほぼ無人になっていても、動く人間や自動車を数えるには遠すぎる。建物が倒壊するほどの破壊が行われていないのが確かめられるだけだ。
『ですが昨日、ここポートアイランドが、学生たちにより占拠されるという事件が起こりました』
事件発生以降の変化は、本土のほうがわかりやすい。
映像が少し移動し、新港第四突堤をズームする。人工島と本土との接点、神戸大橋とポートライナー専用のポートピア大橋、特徴的な赤いアーチがそのまま残っているが、道路と路線は橋脚の間ひとつ分、ポッカリ崩落している。
更にカメラが移動する。神戸港港島トンネルの入り口付近が陥没し、埋め戻すように元・自動車が乱雑に積み上がっている。海底トンネル部分が無事かわからず、仮に無事でも詰め込まれた瓦礫やスクラップの撤去だけでも何日かかるか推測もできない。人ひとりが通れるだけの突貫工事でも、果たしてどれほど時間が必要か。
『学生とはいえ、オルガノン症候群発症者、《魔法使い》と呼ばれる彼らが一方的に占拠を宣言してから、丸一日が経ちました。その時にこの島にいた人々は強制退去させられましたが、その際に市民、警察官、自衛隊員に死者が出たという情報があります。身元など詳しいことはまだ発表されておりません』
映像がポートアイランドに戻り、ヘリの振動でかなりブレているが、ズームした画像が舐めるようにポートアイランド西側臨港道路を映す。中央分離帯が分かつ片側二車線の道路は、通行する自動車も歩行者もないのが、なんとか確かめられる。
『ここからでは犯人とされる学生たちを確かめることは――ん?』
地図上ではポートホテル・テティスと記されている建物を映した時、レポーターが声を途切れさせた。撮影現場でカメラが写している映像を、リアルタイムにレポーターが確認できると思えないから、気づいたスタッフが注意を促したのだろうか。
建物の屋上で、薄く煙が上がっていた。なにかを敷いて火を焚き、遠くからでも目立つ色合いの服を着た人間が車座になっている。場違いなキャンプのような様相だ。
しかも近くには、大きな肉の塊を丸焼きにしているとしか思えない設備が置かれて、ひとりが番している。
『……えー。ビルの屋上に複数の人影が見えますが……もしかしたら犯人と目される学生たちでしょうか? 焚き火が見えますが――』
『もしもーし? 島の西約五キロを飛んでるヘリの人? 飛行禁止とか出てないんですか?』
気を取り直した現場レポートが再開された矢先、別の声が妨害する。放送に乗らない航空無線ではなく、中継に利用している無線帯に、のん気なソプラノボイスが。当然スタジオ・現場双方のキャスターとも違う。
『こちら修交館学院総合生活支援部。現在絶賛ハーバーアイランドを不法占拠中の《魔法使い》でーす』
放送中に割り込んできたテロリストたちの肉声に、画像の揺れやざわめきで、中継ヘリ内の混乱は伝わってくる。
『あのー?』
『ひっ――!?』
先ほどとは違う少女の声と同時に、カメラが激しく揺れた。なにが起きたのか、視聴者には伝わらない。
『なにか御用ですか?』
やがてカメラが定まる。ヘリの風防ガラスの向こうに、ノックした拳を見せる、整ってはいるが地味なまだ幼さを残す少女の顔が映る。
ほぼ二四時間前に神戸空港で殺戮を開始し、事件の発端となった少女だった。
ただし格好は違う。プリティでキュアな少女たちの、しかもMaXHeart版ではなく正真正銘の無印初代、光の使者の黒い側になっていた。ピンクのフリルとリボンで飾られた、黒いヘソ出しコスチュームだ。
『いーじゃないですか!? 世代的には魔法少女ってったらこのシリーズですよ!?』
きっと人間がヘリと並んで飛んでる非常識さに固まったのだろうが、カメラクルーの無反応を被害妄想した少女は、衣装が昨日と違う理由を叫ぶ。
魔法使い●リーになにか問題があるわけではない。しかし時の移ろいと次元の壁には抗いようがない。今どきの女子高生が、半世紀以上昔のファッションを実際に着てダサいと思っても致し方ない。きっとそうなのだ。(※あくまで個人の見解です)
かといって変更したその作品は『変身ヒロインモノ』であって、公式に『魔法少女ではない』とハッキリ否定されているが、この際ツッコんではならない。
それはさておき。混乱の間になにかが決まったように、意を決してレポーターが無線に語りかけた。
『屋上で姿が見えましたが、なにをされていたのですか?』
『ふぇ? 皆で朝ごはん食べてただけですけど?』
遠くから見たとおりの説明だった。
テロリスト犯がのん気に屋上キャンプで食事など、普通ありえないだろう。支援部員の図太さとフリーダムさを知らなければ、いや知っても全員アホの子としか思えまい。
『まぁ、見張りも兼ねてますからね。高い場所が都合いいんですわ』
無線に初めて聞く声が混じっても、それがどこからかけられた声なのか、わかるはずもない。
だがカメラが動き、背後となっていたガラスの向こうに、人影が増えるのが確かめられる。ローターが起こす風に飛ばされぬよう魔女帽子を押さえる、『普通の魔法使い』の格好をした金髪の女性が、機体の反対側を杖に座って飛んでいた。
『自分たちをどうにかしたければ、クレイグ・ハリソンやロブ・ファーロングではなく、デューク・●郷を連れて来るであります』
更にアルトボイスが増える。運転手が教えたのか、カメラは迷いなく機体正面を向く。風防の向こう側に、カード●ャプターの格好をした赤髪土器色肌の少女が飛んでいた。
のん気に見えても対処はしていると、彼女は言っている。名前が公開されている名狙撃手でも無理、架空の超A級スナイパーでなければ殺せないと。
海上の人工島というだけで、狙撃可能距離内の足場は限られている。更に建物屋上にいる目標だ。よほどタイミングがよく顔を出さないと射線が通らない。ヘリコプターでギリギリまで近づいて激しく揺れる最中に狙撃するくらいの神業が必要で、ミサイルか爆弾を送りつけたほうが現実的だ。《魔法使い》相手では易々と対処されるが。
『それで? 航空管制とか飛行禁止区画って、どうなってるんですか? 自衛隊の作戦領域になってて、入れないんじゃないですか?』
『うっかり巻き込んでも知らねーですわよ』
ともあれ、報道ヘリは三人の《魔法使い》に囲まれている。即座に撃墜可能な人間兵器に、だ。
放送の様子から察するに、事態を起こしている犯人たちと、現場判断での直接コンタクトが決行されているはずだ。クルーたちも覚悟を持ったはず。
しかし人数も事態も予想外になったため、決意が揺らいだか。カメラも誰を映すべきか迷ってウロウロし、声をかけられない。
そんなことをしている間に、なぜか放送電波に割り込んだまま、《魔法使い》たち三人が話し合う。
『どちらでもいいので、近づいてくる複数の航空機の対処を頼むであります。無人のは偵察機で、有人のはこのヘリから自分たちを引き剥がそうとしてると思うであります』
『見つけたフォーさんが自分でやるのが一番正確ですわよ?』
『レーザーや超音速の攻撃手段での撃墜と、機体トラブルによる自壊、常人には見分けつかないであります』
『あぁ、そういう意図ですの』
『かといって、このヘリの航空電子機器を破壊する方法は除外でありますよ』
『ちょっとこの距離だと……ファラデーケージで守ってもらえます?』
無線に割り込んでいるのに、中継など全くお構いなしに、彼女たちの間でなにかが決まった。
ヘリの左右で、キュ●ブラックと霧雨●理沙が手を突き出し、同じに見える大砲のような《魔法回路》を形成し、別々の方向へ向ける。
一拍置いて、轟音とほぼ同時に画面が白濁した。プ●キュア・マーブル・スクリューでもマスター●パークでもない。兵器の破壊力と指向性を持つ人工の雷だ。視聴者にその正体はわかるまいが、《魔法使い》が攻撃した事実は一目瞭然に違いない。
機内映像がハッキリすると、フィルターを一枚かけたように、ヘリ外側に薄い《魔法回路》が貼り巡らされていた。
『《雷霆》で無人偵察機、撃墜しました』
少女が砲撃した方角へカメラが向けられる。
すれば大阪湾上空で、黒煙混じりの火の花が咲いていた。
『レーザー誘起プラズマチャネル照射一秒の警告射撃、速度から考えて戦闘機でしょうけど、進路を変更しましたわ』
女性が報告する成果は、視界と距離の問題で、カメラには収められない。
『ついでにちょっと船の数も減らしておくでありますかね』
《魔法回路》が消え失せ、小さな物体が木之●桜の元へ飛んで集まる。それがヘリを守っていたなど、誰にもわからないだろう。
それらがいくつかの組になり、新たに発生した《魔法回路》で連結すると、更に別の《魔法回路》を発生し、稼動する。
それが海に向けて発射される。民間用のものなので、報道ヘリのカメラクルーのような、物見高い者たちが借りた船だろう。その至近距離で水柱が立ち、船の大きさと大差ない巨大な氷塊へと成長していく。
同様と思われる民間船に警告の砲撃を行い、更にそういった船に注意喚起していたであろう海上保安庁の巡視艇付近にも何発か打ち込み、慌てさせる。
『警戒水域と空域、どう設定されてんだか……』
『仮に設定されていても押しかけてくるのが、この国のマスコミでは?』
『クソめんどいことすんじゃねーですわよ……』
『あのー。それでしたら、ついででそのマスコミの力を借りるのは?』
宙に浮く《魔法使い》たちがヘリに振り返る。その視線の意味に、ビクついたようにカメラが一度だけ跳ねた。
『はい。そこのカメラさん。こっち映してくださいな』
肉声を聞いていないので、声と人物が一致していないはずだが、カメラは迷うことなく『普通の魔法使い』を映し出す。彼女の威厳と発するオーラが特定させたか。
『ポートアイランドに近づく不審な航空機や船舶は、今後警告抜きの問答無用で撃墜・撃沈いたします。ここは戦場、わたくしたちは皆様の敵ということを、お忘れなきようお願い申し上げます』
ライオンの笑みで、慇懃無礼に宣告する。完全とも思える黄金比の美貌で、なんでもないように彼女が言った言葉に、きっと撮影スタッフだけでなく中継を見ていた者は、寒気を抱いたに違いあるまい。
『部長さーん。そろそろ戻って自動で肉回転させる機械とか作ってくれませんかー? こんなの何時間も回してられませーん』
『A4ランクの神戸牛で丸焼きなんて二度とできねーだろうし、どうせならサイコーにウマいの作ろーぜー』
だが、なんかキャンプ飯を満喫しようとしてる、のん気な割り込みが空気をブチ壊す。




