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近ごろの魔法使い  作者: 風待月
戦争と《魔法使い》
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090_1040 邪術士たちは血で陣を敷くⅤ ~電撃lookin'&shockin'~


 完全に陽が落ちた頃には、ポートアイランド全体が静寂に包まれていた。本土からの送電が途絶えているため、電池式の自動点灯でなければ、照明はない。

 不気味なほど暗く静かな人工島が、夜の大阪湾内に存在している。


 昼間でも透明度は四メートルほど。しかも夜の海ならば一切明かりがない。

 とはいえ、それ以降の水深であれば、明かりを点けても目立たないということ。


 だから彼らの行動に支障はない。時折テッポウエビが音を出す程度の静かな海中を、わずかなモーター駆動音だけで動いている。

 フロッグマン――ダイビング装備と武装を身につけた潜水工作員部隊が、沖合いの船から水中スクーターで接近していた。


 人工島なので海岸はどこもコンクリートで固められているが、水深が深く切り立った港湾設備ばかりでもない。特に空港島の海岸は、どこもテトラポットや擁壁(ようへき)で護岸されているため、海からの上陸自体はどこからでも容易だ。しかも今日は波も穏やかで、阻害するものはない。

 

 そう思うことができたのは、あと十数メートルといったところまでか。


 ある隊員の目前に、なにが漂っていた。

 黄色いラバーダック――水に浮かせて遊ぶ、子供のおもちゃだ。


 最初はゴミとでも思ったか。特に反応はなかった。

 だが、水面に浮くはずのオモチャが、ケーブルを()いて海中に沈降している。しかもそれからテッポウエビがを鉗脚(つめ)を鳴らす音がすれば、意図して仕掛けられた仕掛けと思い至ることができる。


 対処しようにも、水中では致命的に遅かった。着ているのが体が濡れないドライスーツでも、首から上と手は水と接している。

 夜の海を一瞬照らす閃光と共に、衝撃に襲われたと誤解しただろう。



 △▼△▼△▼△▼



【トージ。水中に電流流す漁は、法律違反では?】

「えーとな? ちょっとビミョーなところ。水産資源保護法ってので毒と爆薬は全面禁止されてるけど、基本的に漁で使える道具は、各都道府県の規格で決まってる。で、電気ショック漁はこっちの管轄で、許可取れば外来種駆除で使える」

【浮かんできたのは海外兵力(がいらいしゅ)ですか?】

「まだ国内戦力(ざいらいしゅ)だろ?」

【空挺団はないでしょうから、警戒していた特殊作戦群か水陸機動団ですか?】

「わからん。潜水工作員(フロッグマン)できる連中は限られてるはずだけど……」


 航空機用電力供給の電源車のスイッチを切って、(とお)()は《バーゲスト》に接続されていたケーブルを外す。


「内職は終わりか……」

【これ片付けても次を警戒しないとならないから、時間ならたっぷりあります】


 消火器の改造に使っていた工具を放り出し、《バーゲスト》に(またが)る。


【それにしても、水中探査(ソナー)に気づかれるかと思ってましたけど】

「普通はテッポウエビが出す音を探査音(アクティブ・ソナー)に使えんからな。《魔法使い》と《使い魔》の解析能力を知らんとそうなるだろ」


 音で海中の物体を探査するために、沈めていたスピーカーマイクのケーブル束を外して身軽になる。極限までエネルギー循環を低下させて光度を落としていた、脳機能接続状態を示す《魔法回路(EC-Circuit)》を発光させた腕を動かす。

 擬装のエンジン音を立たないまま、十路は滑走路脇を走る。水中放電が影響を及ぼす範囲は、狭い川や池には充分でも、大海原では話ならない。電気で出鼻をくじいただけで無力化していないが、別方向から侵攻する無傷の部隊を先に片付ける。


【ところでトージは、(ほか)部員と同様に、魔法少女のコスプレはしないのですか?】

「誰得だよ」

【需要あるのでは? ヒラヒラコスチュームで女装するどころか、女が変身して魔法男子になる作品まであるみたいですし】


 都市迷彩服の十路は不毛な話を打ち切り、性癖を歪ませようとする《バーゲスト》から飛び降る。普通ならば間違いなく慣性でコケるが、ケースに入れ背負った《魔法使いの杖(アビスツール)》で身体能力を補助しているので、そのまま駆ける。それどころか磁力による跳躍力を散発的に発揮して、オートバイとほぼ並走する。

 ちょうど上陸した特殊部隊員たちへ、それぞれ突っ込む。


「悪いな――!」


 作戦もなにもあったものではない。処理速度を最優先して、一人と一台で片っ端から戦闘不能にしていく。

 オートバイに()かれ、()ねられるのは、まぁいい。無人で、しかも人間が乗っていてもありえない挙動だが、まだ目を(つむ)れる

 しかし車輌並みの速度で疾走し、七〇kg強の物体を一撃で宙に舞わせる人間など、常人の常識ではフィクションの中にしか存在しない。想定訓練をしている兵士でも、対応を遅らせる。しかも意図的に仲間同士に衝突させているから、同士討ちを避けて不用意に銃を撃てない。


「《魔法(インチキ)》使ってるけど……卑怯とか言うなよ!」


 単独での作戦遂行を前提とする独立強襲機甲隊員(とおじ)とは質が違うが、厳しい訓練を耐え抜いた精鋭という意味では、特殊部隊であろう彼らも同じ。だがその努力を、《魔法》という才覚が踏みにじる。もはや理不尽でしかなかろう。

 

 防弾(トラウマ)プレートまで入れた完全防弾装備と比べたら、彼らの防御は心もとない。なので気持ち手加減しながらも、戦闘能力は容赦なく奪うべく、手足は念入りにへし折り踏み砕く。


 その間も脳内センサーで、周囲の状況を把握する。オートバイに(はじ)き飛ばされただけでは、鍛えれた彼らを行動不能にはできない。

 だから《魔法》を実行する。手元で《魔法回路(EC-Circuit)》を形成して効果を飛ばすのではなく、向けられる銃や相手の口元で、それぞれの出力で《氷撃》や《対人スマート地雷》など、熱力学操作で空気を圧縮冷却する術式(プログラム)を実行する。


 海中を進んできたのだ。装備は防水して運んだだろうが、上陸して濡れた手で触れれば当然装備も濡れる。空気成分が固体化するほどの極低温に巻き込めば、ダイビングスーツ表面が凍りつき、銃内部も結露した水滴が凍って動作不良を引き起こす。


 極端な気圧低下で真空暴露に近い状態になる。ただ呼吸ができないだけでなく、体内から空気が抜き取られるため、十数秒も維持すれば意識不明になる。


 《魔法》をキャンセルすると、固体化した窒素と、半端な状態で冷却から放り出された氷が、ダイヤモンドダストのように、海辺に倒れた隊員たちの体に降る。意識がある者ない者は半々といったところ。選別したので溺れることはないだろう。

 移動時間を含めても一分もかかっていない。生かすも殺すも思いのままに、効率的に殺傷できる人間兵器が結果を作り上げた。

 

「これが、国が作り上げた、人間兵器だ」


――《魔法使い(わたしたち)》は、もっと恐れられたほうがいい。


 上官の言葉と共に、苦々しさが蘇る。

 首を振って考えを払うと、十路は行動不能にした隊員を確かめる。


特殊作戦群(エス)じゃないな……特別警備隊(とっけいたい)か?)


 海上自衛隊の特殊部隊だ。海上警備行動での、脅威度の高い不審船の武装解除・制圧を主任務としている。


(上陸作戦もできんことはないだろうけど、本領じゃないだろうに……まぁ、だから俺でも瞬殺できたんだろうが)


 海兵隊の斥候(せっこう)が隠密行動する場合もあるだろうが、強襲揚陸は隠密性よりも突破力が重視される。水中スクーターで接近し強襲するなど、任務遂行能力が違う気がする。

 特殊部隊に選抜されるほどの隊員ならば、素の戦闘能力は十路と同等か上回る。そんなのに集団で襲われたら、《魔法》を多少使った程度では負けかねない。不安定な足場や閉所戦闘を得意とする部隊で、現状とは噛み合わない部分があったから、暗闘で済ませることができたと推測する。


 戦闘行動を終えて、歩く速度で《バーゲスト》が側に戻って、カメラで十路を見上げてくる。


【ところで、なぜ暗闘(ステルス)で倒すことにこだわってたんですか?】

「特殊部隊クラスの精鋭を相手するのは久々だから、腕が(なま)ってないか、余裕があるうちに確かめたかった」

【ひとりで特殊部隊を相手する時点で相当なのに、しかも実戦で確認なんて、馬鹿(トージ)以外に不可能ですよ……】


 呆れと罵倒のニュアンスは伝わったが、イクセスの物言いは今更なので気にしない。


「あと、離れてるとはいえ、ド派手に戦ったら、支援部(ウチ)のお嬢様方が起きるだろ」

【一キロ離れた個人携行兵器の爆発くらいで、目覚めますかね?】

「起きないなら、それはそれで戦力として不安なんだが……鍛えてない素人に徹夜二日目は求められんし、ちゃんと夜寝かさんと役立たずになるから、静かにするに越したことはないだろ」

【作戦開始前は参戦を散々渋っていたのに、結局支援部全員コキ使うんですね】

「参戦する以上はな。『立ってる者は親でも使え。座っていても立たせて使え』が、堤家の家訓だ」


 《バーゲスト》に積載した空間制御コンテナ(アイテムボックス)から、拘束用の結束バンドとロープを取り出す。


「軽く(しび)れさせただけで、もう一部隊残ってる。そっちもとっとと片付けて、送り返すぞ」

【大した内容じゃないでしょうが、捕虜にしないなら、こちらの情報が漏れますよ?】

「特殊部隊の捕虜なんぞ手元に置いとくほうが安心できん」

「《騎士(ナイト)》くん。その特殊部隊は確保しといたわよ」


 予想外の女性の声が、闇の中から届いた。十路の脳内センサーに、認識可能なレベルの反応が突然生まれる。


「やー、やっぱり一日で太平洋往復って、冗談じゃないわ」

「しかも気ィ狂いそうな単純作業がオマケだぜェ……二度とゴメンだ」


 女だけでなく、男の声も届く。

 反射的に警戒した体の力を抜きながら、十路は夫婦を迎える。やはり体質的にある程度のステルス性能を持つ《ヘミテオス》は、本気になって隠密されると、脳内センサーが起動していても察知できない。


 やがて暗視が届く範囲に、世紀末革ジャンのリヒトと、ポンチョを着た悠亜が入ってくる。

 太平洋上の飛行戦艦(ヘーゼルナッツ)まで移動するのに、どうやら悠亜が《ヘミテオス》の本領を発揮して、戦闘機(マルファス)に変身したらしい。裸足なのはそのせいだろうし、ポンチョの下はなにも着ていないと予想される。


「《コシュタバワー》も搬入してる?」

「事を始める際に、妹さんが乗ってここまで来ました」

「無免許運転したんだ?」

「ここまでの事を起こしてんですから、今更です。それに全部『緊急避難』で言い訳できます」

「事が目論見どおりに進めば、だけどね」


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