090_0110 考えなければならないことが多すぎるⅣ ~C調言葉に御用心~
「んで。そんな状況なんで、ぶっ壊れた《魔法使いの杖》修理すんの、どうすっかって感じなんですけど」
コゼットが金髪をいじながら話を引き継いだので、出番はもういいかと、十路は《バーゲスト》のシートに置いていたマグカップを傾けながら耳も傾ける。
「堤さんが想定してる状況になった場合、装備の力不足が確実なんですわ。大阪湾拡張させるついでに相手を蒸発させるつもりなら、今のままでも構やーしねーんですけど」
『大阪湾拡張』は神戸市が丸ごと消滅して巨大クレーターが造られる意味に違いあるまい。まぁ《魔法》のシステム的には、限りあるエネルギーを分散させて各所で爆弾を作るよりも、全振りして核融合反応でも起こしたほうが手っ取り早い。肉体的にも怪しく社会的には確実に自爆技だが。
「だから今、こんななん?」
南十星が見た目オモチャっぽいトンファーを掲げて見せる。
「具体的になにがダメなんですか?」
ナージャは立てた人差し指に、異形の携帯通信機器を立ててバランスを取らせる。これまた外装はオモチャのトランシーバーみたいだ。
「堤さんとフォーさんは除外されますけど、一番の問題は電源回りですわね。フォーさんの件で神戸防衛したとき思い出してくださいな」
「あぁ~。《使い魔》化されていたとはいえ、通常兵器で戦う戦艦一隻に、バッテリー切れで冷や冷やしましたね」
「相手する戦力は確実にもっと多いわけですし、だからバッテリー容量を大幅増させるか、簡単にバッテリー交換できる改修は必須ですわ」
コゼット作の《魔法使いの杖》は、二次電池ではなく一次電池にも関わらず、バッテリーは完全内蔵されて分解しないと取り出せない。
準軍事組織とはいえ、支援部が民間組織であるために、制限を自ら課しているからだ。危険物でも弾数に限りがあると知れば、まだ安心できるだろうと。
その制限を外すということは、《魔法使いの杖》を完全に兵器として扱うことになる。事実軍事用として開発された十路の《八九式小銃・特殊作戦要員型》と野依崎の《ハベトロット》は、そういう仕様で設計制作されている。
「あとは説明省きますけど、それぞれの装備にも課題ありますからね。特に《比翼&連理》と《П-6》なんて、本気でなんとかしようと思やぁ、改修っつーか新規作成ですわ」
「えー? いまさら変えんの?」
「OSも操作方法も特殊仕様で慣れきってますから、わたしも大幅変更は困るんですけど」
南十星とナージャの軽いブーイングも、コゼットは意に介さない。いつもの横暴さを発揮してるのもあるが必要なことだと、樹里と野依崎へと視線を移す。
「拡張装備にもバッテリー積んではいますけど、《NEWS》もバッテリー内蔵ですし……《ハベトロット》も機能面はともかく、フォーさんの成長で不具合出始めてますのよね……でもわたくしが弄るよりか、開発者のDr.ゲイブルズにお任せしたほうがいい気しますから、そっちで相談してくださいな」
「はぁ」
「面倒であります……」
それなら今までどおりと樹里は気のない息を漏らすが、野依崎は『創造主』に会うのが心底面倒くさそうなため息を吐く。
「もし改修するなら、見た目ゴキゲンにすんなって伝えてくださいな」
樹里の義兄にして『初源の《魔法使い》』であるリヒト・ゲイブルズは、会社役員や学者やオーナー・シェフという肩書きをことごとく裏切る、ファンキーな見た目をしている。顔まで刺青、耳どころか鼻までピアス、外に出る時は世紀末ファッションだ。十路相手に病気を発症している時は刃物まで装備。
以前の部活で彼の人となりを知ったコゼットは、樹里たちの装備デザインが世紀末仕様にされるのを警戒しているのではなかろうかと、十路は勝手に考えた。なんかコゼットは『初源の《魔法使い》』に憧れていた節あるし。なんか現物見てショック受けてたっぽいし。
「ご機嫌って……どういうのでしょう?」
「消防法・銃刀法関連の許可受けなくてもいい範囲なのは当然。『武器』に見えるのはまだしも、『凶器』として見なされないように」
「「……?」」
樹里だけでなく、誰も理解できなかったらしい。
【武器、あと兵器もでしょうか? それと凶器は、法律上の扱いが違うんです】
十路が説明しないとならないかと口を開きかけたところで、尻に敷くオートバイが先に説明を始めた。
大量破壊兵器は言うまでもなく、国内外問わずに様々な法律で定義されて制限される。
通常の『兵器』と『武器』は、主に外為法と銃刀法によって定義されて管理されている。
しかし『凶器』になると、法律上では全く意味が異なる。
【《魔法使いの杖》は定義上通信システムですから、一般的に言われる『兵器』ではありません。弾丸の射出機構も刃渡りのあるブレードも必須ではないので『武器』もクリア可。しかし『凶器』はなかなか厄介です】
たとえば、鉄パイプや角材はただの資材でしかない。しかし振り回すのに手頃な長さで、建築現場以外の場所で、血気にはやる多数の者たちが持っていたら、暴れて人を害するための『凶器』と見なされるだろう。
だが人を害する目的で自動車を準備したとしても、見て危機感を抱きようがないため、少なくとも轢く瞬間までは『凶器』には当たらない。
人数がひとつの決め手となり、凶器準備集合罪という法律があるが、『凶器』であるか否かは、状況と判断する人間によって大きく変わるのだ。
【ナージャはクリアできるでしょうが、ジュリやナトセは白兵戦闘を行うわけですから、ツッコまれる可能性がなきにしもあらずです。兵器としての破壊力を発揮できるの周知の事実なわけですし、それ込みの色眼鏡で判断されるやもしれません】
十路はコゼット以外の《付与術士》を一応知っているが、その作品は最初から武器・兵器として作られたものばかり。頑丈さや使いやすさは求められるが、威圧感がどうこうなど考慮外なので、単純には比較できないかもしれないが。
「だから備品のデザインは結構気ぃ遣いますのよ? 戦闘用には見えないように適度に装飾して、けれども実用性は失われないようシンプルで頑丈にって」
それを両立できるのだから、コゼットは優秀な《付与術士》なのだろう。
「結局ゴキゲンデザインってどのレベル?」
「ゲームに出てくるみたいなんじゃないです? 攻撃力表現しようとして、『それどーやって使うねん』ってツッコミ入るような」
「対ゾンビ用か、モンスターハンターが使うようなヤツか。あたしのならチェーンソーとかドリルでも付けんのかね」
「わたしのなら空圧式退魔居合刀拾弐號とかになるんですかねー」
アホゥな会話をしだしたハイテンション・コンビはさておき。
「で? どうします? 改修」
『とっとと結論出せ』と言わんばかりに、コゼットが腕を組んで当初の質問を重ねる。
他の部員たちは判断に迷い、しばらく黙っていたが、野依崎がポツリと漏らす。
「……従来の外装と、改修品の作成を同時進行。現状は従来品のまま。有事には中枢部品を移植して完成。可能でありますか?」
「できなくはねーですけど、やりたくねーですわね」
作業量が二倍以上になるのだから、コゼットが嫌がるのは当たり前だろう。
だが、野依崎の提案はそれで終わりではなかったから、彼女は顔色を変える。
「設計の制限解除。電源周りだけでなく、『凶器』と評価されることも許容するならば?」
「それは……」
「つまらない制限があるから手間がかかるのであれば、無視すればいいであります……改修された《魔法使いの杖》が必要な時は、世間の評価など気にしていられる状況ではないであります」
社会的な死よりも、物理的な生が大事。野依崎の判断に間違いはない。
「それじゃ意味ねーって、さっき堤さんが話したばかりでしょうが?」
だが支援部には物理・社会双方の生が必要と判断するコゼットは、顔をしかめる。
どちらも主張は正しい。大規模な戦闘になり、勝利して命を永らえたとしても、『正義の軍隊を蹴散らした』と悪名を轟かせたら次はない。だがその難題をどうにかするにも、最初の戦いに勝利し生き延びるのが大前提だ。
この二律背反を解消しなければ、どうあっても支援部は存在し続けられない。
「堤先輩。これクリアする方法は?」
「やるなら俺もフォーと同じ意見……というより、ジレンマを解決できる手段が思いつかないから、消去法でそうするしかないと思う」
樹里に問われたが、十路は唇を噛んで首を振るしかない。
覚え書きを作る時点で気づいていた。十路は元々普通の社会にある支援部に否定的なため、部がなくなっても部員たちの命を永らえるのが大事と、切り捨てるべきだと考えている。全員に退部を薦めたのもその一環だ。
だが、それでも、なにか策はないかと諦め切れていない。
戦いになっても勝利し、尚『普通の学生生活』を続けられる未来は得られないかと、
(俺も相当このおかしな部活に毒されたもんだ……)
半年以上も、命を賭けるほど深く関われば、やはり愛着は湧く。
だが、ここは切り捨てなければらならない。感情がどうであれ、理性で。
「俺の想定だと、《杖》の改造は必須ではないですから、部長の判断で問題ないですけど……」
「わたくしは火力不足と想定しましたけど、堤さんは違うと?」
「いえ? 現状の保有戦力だと、不足してると思いますよ? 俺個人でも、鹵獲して空間制御コンテナに突っ込んでた兵器、全喪失してますし」
「じゃあ、仮に戦うとしたら、どうするつもりでしたの?」
「相手の得物をブン盗るだけですけど?」
使ったことがなくとも、個人携行兵器ならばよほど変態的でない限り扱える。話せない言語で書かれた最新システムならさすがに無理だが、分隊規模で扱う機甲兵器でも車輌なのは共通している。最悪アクセルとハンドルが動かせれば突撃には充分すぎる。非公式隊員時代、何度もやってるので、いまさら悩むことではない。
しかも、ブン盗るだけならまだ可愛いもの。戦車を相手する戦車がなければ対戦車砲を構えて発射。それがなければ対戦車地雷を抱えて肉薄攻撃。それすらないなら内部からどうかしてハッチを開けさせ手榴弾で。それもないならカッパらった酒と火種で火炎瓶で。火炎瓶がなければ素手でしこたまぶん殴って……なんて臨機応変に対応せざるをえなかった事態が遙かに多い。
《騎士》とは常識を打ち破り、不可能を可能にした者の字である。通称が抱かせる華々しいイメージの戦いよりも、こういった悪あがきや泥臭さが本懐だ。
「ん゛~~~~~……」
一瞬『うわコイツ参考になんねー』みたいな目で見てきたが、両手で金髪頭をかきむしり、宙を睨んで腕組みし、肩を落として、コゼットは結論を出した。
「従来型のパーツと、改修パーツ、どっちも用意するっきゃねーですわね……」
肩を落としたのは、作業量にウンザリしたか。
でもすぐに立ち直り、野依崎に顔を向ける。
「ただしフォーさんに手伝っていただくのが前提ですけど」
「なにか言ったでありますか?」
野依崎はどこからか、ネコミミみたいなアンテナのヘッドホン単眼ディスプレイを取り出し、帽子を脱ぐ手間も惜しんでスッポリ装着する。ネコミミonネコミミで耳を塞いで、手伝いを拒絶した。
「テメェ、スルーすんな」
「仮にそんな事態になったら、自分は《使い魔》の設定変更をしに行く必要あるであります」
「そりゃ『そん時になれば』の話でしょうが。こっちは『そん時になる前』の話ですわよ」
でもそれで見逃してくれる姉貴分ではない。理不尽に仕事を押し付けて、妹分も『面倒であります』と言いつつも手伝うだろう。




