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近ごろの魔法使い  作者: 風待月
戦争と《魔法使い》
568/640

090_0010 考えなければならないことが多すぎるⅠ ~セカンドseasonガールFRIEND~


――テレレレッテッテッテ~♪

――木次(きすき)樹里(じゅり)のワンコ度がアップした!



 秋もすっかり深まり、まだ夜の(とばり)が明けきらぬ朝の時間。


「せんぱーい! おはようございまーす!」


 トレーニングに出かけるため、洗面所で身支度を整えていた(つつみ)十路(とおじ)は、前触れない来客にビクッと震えた。インターフォンを鳴らさず、鍵も勝手に開けて入ってきた。


 タオルで顔を拭きながら洗面所を出ると、玄関に立っていた。遠慮なく入ってきたのなら、勝手に靴脱いで上がらないのか疑問だが、彼女はなぜかせずに十路の反応を待つ。足元でお座りして見上げてくる子犬(ワンコ)を連想する。


 登校時間には早すぎるというのに、一年生を示す紺色のリボンタイも、ブレザーの胸章(バッジ)も、曲がってるなんてことはない。ミニ丈スカートのひだ(プリーツ)も折り目正しい。彼女の学生服姿に隙はない。

 しかも最近寒くなってきたからか、細い足にはオーバーニーソックスを穿いている。タイツではない。少しだけ見せた太ももの素肌が目に眩しい。『スカート丈:絶対領域:靴下の膝上部分』の比率が4:1:2.5の黄金比という完璧さだった。

 そして自然なセットも完璧なミディアムボブの黒髪に収まる、あどけなさの残る顔には満面の笑み。


「おはようございますっ」

「はよ……」


 全力で青春してるキラキラオーラが眩しい。(ひる)んだ十路は目を細めてしまう。顔を洗っても怠惰に目を細めるのが彼の常だが、『やっぱ俺って陰キャ気質なんだな』と改めて自己分析してしまう。


「別に毎朝来て、ここで飯作らなくても……」

「聞こえませーん」


 恐る恐る苦言しても、彼女は耳を貸さない。空間制御コンテナ(アイテムボックス)から冷蔵庫へ食材を移し続ける。


 十路は、彼女から告白()()()()()()()


 すると、返事を保留されているにも関わらず、これまでの樹里にはなかった強引さを発揮するようになった。

 例えば毎朝十路の部屋にやって来て、食事の用意をする。それとなく拒否の言葉を口にしても、彼女は聞かない。


 拒否する理由も、別に彼女が化学兵器生産者(メシマズ)だからではない。むしろ並以上に美味い料理を作る。

 甘えるのは気が引けるし、違うだろうと思ってしまう、十路側の問題だ。とはいえ告白の返事など、早急に出せない。


 ならばもう、食費プラス料金を渡して家事代行をやってもらってると割り切ってしまったほうが、精神的にマシな気がしなくもない。彼女なら『やりたいからやってる』と、原価はともかく手間賃は受け取りそうにない予感もするが。なんなら奨学金(きゅうりょう)差し引きでもいい。


「トレーニング、行かないんですか?」


 収納を終えて振り返ると、自前のエプロンを付けながら、キョトン顔を向けてくる。

 腕時計を見ると、日課に出発する時間を少し回っていた。


 自衛官時代の十路なら、生活スペースに他人を入れて、しかも自分は外に出るなど、絶対に許さなかっただろう。

 だが樹里相手なこともあり、初めてではないため、『まぁいいや』と許容してしまう。



 △▼△▼△▼△▼



――テレレレッテッテッテ~♪

――木次樹里のワンコ度がアップした!



 四限終了後。

 教室に入って、自分の席に荷物を置くと、高遠(たかとお)和真(かずま)がウルフヘアをかき上げながら近づいてきた。


「メシどうするー? 買いに行ってないだろ?」

「あ~……」


 普通の学校ならば大半は教室(ホームルーム)で授業を受けるだろうが、修交館学院高等部は各教科の教室に学生が(おもむ)く。つまり(ロング)(ホーム)(ルーム)以外は毎時間教室移動する。

 よって四時間目終了後、ダッシュして学食に行くことはできない。いや教室(ホームルーム)に戻る友人に荷物を預けて行く者は多いが、十路はやらない。


「十路くん、今日はパンじゃないんですか?」


 いつもの十路ならば、午前中の空き時間にパンを買っておいて、昼休憩時間の混雑を避けて教室で過ごす。


 だがナージャ・クニッペルが問うように、今日は違った。


「釘刺されたからな……」

「クギ……?」


 長身を屈めて、下から紫の瞳で顔を覗き込んでくる。

 夏でもトレードマークであるピンクのカーディガンを羽織っていた彼女だが、すっかり寒くなった昨今、ブレザージャケットを着込んでいる。夏場ならノーネクタイで着崩し、ブラウスの首元も開けていたので、彼女のご立派な胸が一部なりとも覗けていたかもしれないが、今はそんなことできない。


 下から十路を見てなにを納得したのか。ナージャは和真の腕を引いて離れ、内緒話をし始めた。


「和真くん。なんだか面白そうな匂いがしません?」

「考えられるのは……やっぱ、一緒にランチ?」

「でしょうね~。用意してくれる人がいるんでしょうね~」


 ふたりとも、隠すつもりがない音量だが。


 一度解散し、それぞれの席から小さなランチボックスとコンビニの袋を持ち寄り、十路の前に再集合する。


「ということで!」

「お邪魔するぜ!」

()ネ」


 このハイテンション・コンビが関わるとうるさいのは、想像するまでもない。十路は冷淡に拒絶したが、それで見逃してくれればどんなに楽か。


「堤せんぱーい」


 しかも『面白そうな匂い』の源が、三年B組の教室にやって来たため、後でからかわれることが確定した。


 赤い追加収納(パニア)ケースを提げる満面の笑みの樹里が、教室には入らず出入り口で手を振っている。

 千切れる勢いでブンブン振る尻尾が見える。いや、本当に尻尾を()やせる少女だが、さすがに人前でやるわけないので、幻視だが。


 彼女の来訪が嫌なわけではない。だが気が重い。特に好奇心のままに付いてくる約二名の存在が原因で。

 しかも樹里の後ろには、見覚えがある約三名も一緒なので、より気が重い。目を輝かせていることで、なぜいるのかそこはかとなく察するが、それでも確認した。


「いつもの友人連中も一緒なのはなんだ……?」

「やー……私がここに来ようとしたら、なぜか付いて来まして……」


 予想どおりだった。和真&ナージャと同じだった。


 オマケが自主的に遠慮してくれるのは、期待するだけ無駄で、さすがに後輩四人込みの七人が一同に食事するには、場所を選ぶ必要がある。

 よってそのまま引き連れて、学院隅に建つプレハブ小屋――総合生活支援部部室に移動した。


 普段の部活時ならば席が足りないので、十路は立っていることが多いが、さすがに食事ではマナー違反だ。二人掛けソファふたつを詰めて座らせ、十路はOAチェアを引っ張って来て座る。


 そしてテーブルに鎮座する改造ホットプレートを前にする。溶接によって鉄板が継ぎ足されて面積が広くなり、その分うっかり火傷しそうな少々危険なブツだ。

 樹里は空間制御コンテナ(アイテムボックス)から食材を取り出し、熱せられた鉄板の上に置いていく。


 誰もなにも言わないのかと十路が思っていたタイミングで、樹里の友人C・佐古(さこ)(がわ)あいが誰とはなしに訊いてくる。


「あの……支援部だと、コレが普通の光景なんでしょうか……?」

「ホットプレートの出番はそこまででもないですね~。最近はストーブ点けますから、それで料理しますし」


 温め直すため、ランチボックスのおかずを鉄板に載せるナージャが返事すると、愛は『意味わかんない』と眼鏡がズレないよう小さく頭を振る。


(そーいや、初めて木次のメシ食った時も、こうだったっけ……)


 体育祭の昼食時、部室で鉄板料理を振舞われた。

 最初は十路も面食らったが、支援部の非常識さを知った今では、なにも驚くことではない。学院敷地隅で人の目がないのを幸いに、焚き火で焼きイモしたり、バームクーヘンを焼いたり、卵パックとレンジでタコ焼きを作ったりと、かなり好き勝手やっている。学校の中でやれば普通は怒られるだろうが、顧問兼学院最高責任者が混じることもあるので、誰も止めない。常識人の部長もこの手のことは止めない。むしろ簡易ガスバーナーでグミ(あぶ)ったり、半田ゴテを分解改造したヒーターでチョコフォンデュしたりと、ヘンなことする側だ。


「高遠先輩。私と堤先輩の分しか用意してないので、つまみ食いは遠慮していただけませんか?」


 とんぺい焼きを仕上げながら樹里が制止すると、じゃがバタウインターのホイル焼きに伸びていた和真の手がピタリと止まる。


「ダメ?」

「や~……高遠先輩までお誘いはしてませんし」

「…………」


 和真の顔が漂白されたと思いきや、グリンと人形めいた動きで十路に振り向いた。その不気味さに慣れていない後輩トリオがビクッとするが、慣れている支援部メンバーは眉ひとつ動かさない。


「……十路よ」

「なんだ、和真よ」

「なんか樹里ちゃん冷たくなってない?」

「いや、別に。誘ってないのに無理矢理ついて来て、人のメシを横取りしようとするヤツには、充分すぎるくらい優しい対応だと思う」


 そこで樹里の友人B・月居(つきおり)(あきら)が口を挟む。ナージャと同じように弁当のおかずをホットプレートに押し付けながら。


「やっぱり、樹里って少し、変わりましたよね……?」


 友人A・Cがコクコク頷き賛意を示す。そうだろうとは思っていたが、樹里が告白したことは、彼女たちも知っているらしい。


「まぁ、変わるとすれば――」


 ナージャが振り向く。後輩トリオも揃って同じ方向に首を動かす。

 視線を向けられた十路は、どうリアクションすればいいかわからない。日頃『空気読めない』と言われる彼でも、その視線がどういう意味を含んでいるかは理解できる。


「はい。できましたよー」

「さんきゅ……」


 そして彼女たちの視線は、樹里へと移動する。OAチェアに座る十路は鉄板まで少々距離があるので、おかずを(よそ)った皿を渡してくれた。

 ナージャが自分の弁当を食べながら、その行動に異論を挟む。


「告白した割に、木次さんって、結構ドライじゃないです?」

「なんでです?」

「『あ~ん』とかしないんですか?」

「堤先輩、やりましょうか?」

「遠慮させてくれ……」


 ふたりきりでも考えものなのに、この場でやられたら羞恥プレイでしかない。なにが悲しくて自らそんな立場を選ばないとならないのか。


 一番間近だから身を乗り出して、井澤(いさわ)(ゆい)が耳元で(ささや)く。


「あの……? 樹里が告白したのはともかく、まだ返事してないんですよね……?」

「あぁ……」

「だけどもう通い妻してるとか聞いたんですけど……?」

「あぁ……」

「ぶっちゃけ、どうなんです……? いろんな意味で……」

「ノーコメントとさせてくれ……そして察してくれ」


 思うことは複雑多岐だが、筆頭に思う浮かぶ事柄は、なんかダメ人間と化している気がしてならない。ジェンダーフリーが叫ばれる昨今、恋人でもそういうことをやらせると方々から批難が来そうなのに、まだ彼女でもない女の子なら尚更。


 現状でいいとは思わない。維持や放置は持っての(ほか)とすら思っている。

 しかし『じゃあどうするか』と問われたら、答えに(きゅう)する。


 彼女の想いは告白されたが、交際を求められたわけではない。だから……という言い訳で無視もできなくはないが、それをしたらどうなるかくらい、十路にだって理解できる。


 迷惑ではない。ありがたいと思う。

 だけど現状を――樹里の好意を当然のものとして受け取れるほど、十路は無知でも子供でも普通でもない。


 そんな十路の困惑と結の心配は、鋭敏聴覚(じごくみみ)で小声の会話を聞いていた樹里が、軽く笑い飛ばす。


「や。堤先輩がすぐ返事するとか、最初から全っっっっ然期待してないから」

「……………………………………」


 十路は改めて心に誓った。明日からキチンと向き合って頑張って答えを出そうと。

 努力する人間は今日今すぐ変わろうとするもの。『明日から』なんて問題の先送りなのは理解している。でも十路の性根に樹里が理解ありすぎて、結果不甲斐なさを突きつけられ泣きたい気分だから、せめて今夜一晩枕を濡らす時間が欲しい。


「意気地なしですみません……」

「ふぇ?」


 樹里以外の女性陣からは、批難だけでなく憐憫(れんびん)が含まれた視線を向けられたが、十路は気にしない。今にも目からヘンな汁が垂れてきそうで天井を向いたから、気になどしていられない。


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― 新着の感想 ―
[一言] 断る方向で固まっていて、あくまで気を使ってるだけかと思ってた。普通に悩む程度には考慮してるのか
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