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近ごろの魔法使い  作者: 風待月
戦争と《魔法使い》
567/640

090_0000 正しい戦争の間違った始め方


 『魔法使い』に憧れる? なれるなら、なりたいと思う?

 もしもYesと答えたら、二一世紀の《魔法使い》はこう答える。


――やめておけ。そんなにいいものじゃない。



 △▼△▼△▼△▼



 この世界には、《魔法使いの杖》を手に、《マナ》を操り《魔法》を扱う《魔法使い》が存在する。


 しかし秘術ではない。

 誤解と偏見があったとしても、その存在は広く知られたもの。

 そして(いにしえ)よりのものではない。

 たった三〇年前に発見され、未だそのあり方を模索している新技術。

 なによりもオカルトではない。

 その仕組みの詳細は明確になっていないものの、証明が可能な理論と法則。


 《魔法使いの杖》とは、思考で操作可能なインターフェースデバイス。

 《マナ》とは、力学制御を行う万能のナノテクノロジー。

 《魔法使い》とは、大脳の一部が生体コンピューターと化した人間。

 《魔法》とは、エネルギーと物質を操作する科学技術。


 それは神の奇跡か悪魔の策略か。福音なのか災厄なのか。

 未来に生きるとある科学者の、自己満足で終わるはずだった。いやきっと彼の認識ではそのとおりで終わっているだろう。


 だが、この世界では違う。

 送られた様々なデータは、本来存在しない、してはならならい、未来から(もたら)された技術――その亜種として存在してしまった。


 仕様が違う。

 ナノマシンを大気中に満たす惑星改造システムは、オルガノン症候群発症者――通称 《魔法使い(ソーサラー)》という想定外の存在を現地人の中に生み出した。


 送られてきた者たちが違う。

 遺伝子もなにもかも、未来に生きた人々と同じはずではある。しかし自身が当人ではなく、所詮コピーであると知っている。

 しかも『悪魔』と化す異形の能力まで手に入れてしまった。


 娘が違う。

 分割圧縮送信された精神データは、統合することなく複数の存在となって再現され、ひとりの人間が違う複数の存在となった。


 それでも彼らは動き始めた。

 滅亡の未来を変える、神の如く存在にならんと。


 だから彼女らは動き始めた。

 存在する現在を変えないために、神に挑む悪魔にならんと。


 家族であった者たちが分かれて、暗躍し、この世界で争いを始めた。


 それは、二一世紀に生きる、未来のことなど知らぬ人々も、否応なく巻き込む。


 神戸にある一貫校・修交館学院に学生として生活する、()()()()()()()魔法使い(ソーサラー)》の社会的影響実証実験チーム、総合生活支援部など、その最たるものだ。



 △▼△▼△▼△▼



 テーブルが円を描く、ドラマで地位がある者が集まるような大会議室には、窓がない。照明を落とせば完全な闇となる。だが複数空間投影されている非実体のモニターが、室内をほの明るく照らしている。


 その仮想モニターには、学生たちが映し出されている。二一世紀には似合わぬ、あるいは二一世紀だからこその武器を構え、空間に光の幾何学模様を描き、未来兵器を仮想的に作り出して戦う、常人以上超人未満の戦士たち。テキスト化された彼らの人物評価データも併せて表示されている。


 ビジネススーツを着たアジア系の男性が、眼鏡のフレームを押し上げながら見渡す。その目は無感情で、どこか鳥を連想する。


 部屋に集まる者たちに統一性はない。年齢も容姿も国籍もバラバラで、母国語も異なる。


「さて……日本語でいいだろうか?」


 だから共通言語を使う。英語も共通しているが、外国語習得難易度カテゴリー5+なのに、不思議と日本語に慣れている者が多いため。


「キミたちは、兵器として見た《魔法使い(ソーサラー)》の強みはなんだと思う?」


 この場に集まる者たちを『統一性がない』と称したが、ひとつだけ共通項があった。

 彼ら、彼女らは、映像の学生たちと、なにがしか縁を持っている。


「不透明性……想定に限界があり、常人の対応能力を容易(たやす)く裏切ってくれること、でしょうか?」

「わたしは即応性を挙げます。兵站など不要、個人に対する補給や輸送で活動可能ですから」


 金髪碧眼(へきがん)白皙(はくせき)の若い女性と、背後に控えるヴィクトリアン・タイプのメイド服を着たアジア系の女性が、それぞれに答える。

 彼女たちの前には、やはり金髪碧眼白皙の若い女性の、人物評価データが提示されている。それを彼女たちは鋭い獅子と鷹の(まな)()しで見ていた。

 特に注目していたのは、やはり金髪碧眼白皙でよく似た顔立ちをしている、ライオンの気迫を放つ女性だった。


「発展性……いや。自己進化、と言うべきか」


 クマを連想する巨躯を持つ()()の男が、太い()()()()()()()()答える。

 彼の目の前に空間投影されている人物評価データは二種類ある。ユキヒョウを連想する白金髪の剣士は当然としても、なぜか子虎のような小柄な拳士も併せて。


『お姫様の答えに似ちゃいるが、機密の保守性だな。どんな隠し玉を持ってるか、わかったもんじゃねぇ』


 ただひとり椅子を使わず壁にもたれて立つ、室内でもヘルメットを被るライダースーツの男が、身じろぎする。

 変換されて印象が変わる声には、暗い好奇心と喜びが隠しきれていない。まるで飢えたオオカミの舌なめずり。

 シェードの効いたシールド越しに見ているのは、壮年の男同様にふたりの学生――《暗殺者(アサシン)》と《狂戦士(ベルセルク)》だった。


「攻撃力。制圧力だね」


 声質はまだ子供だが、日本人の常識では枠を超えた大柄さ。ヨーロッパ系の少年は答えて、タブレットチョコ(M&M's)を口に放り込む。ニキビだらけの顔のせいか、()(しゃく)する様はどこか毒蛙を連想する。

 少年が表示しているのは、機械的でもあり幻想的でもある、異形の装束を身にまとう赤髪の少女だった。《妖精の女王》の、野良猫のような怠惰な顔を見て、タブレットチョコを噛み砕いて堪えたのは如何(いか)なる感情か。


「なるほど」

『アンタはどう思っているんだい? 兵器としての《魔法使い(ソーサラー)》の強み』

「そうだな……」


 黒尽くめの男に問われ、眼鏡越しの感情のない視線を天井に向けて。


「……不完全さ。転じて、可能性だろうか」


 どこか寂しげな、複雑で人間的な表情で呟いた。

 歳の頃はせいぜい三〇半ばに見えるが、見掛け以上に老成した雰囲気がかもし出されている。


「さて。では、改めて始めようか」


 だがすぐに、その空気はかき消される。一見無表情に見えるが、隠しきれない野心と大志を持つ、実業家のようなものの顔になる。


「――新たな歴史を作り、『悪魔』の未来を救うために」



 △▼△▼△▼△▼



 同じ頃、『悪魔』の別名を持つ女も、会議していた。

 ただしこちらは、料亭と思われるこじんまりとした部屋で、料理と酒を差し挟みつつ、相手はひとりだけと、様相はかなり違う。


「参考人招致があるかもしれない」


 中年の域を超え、老年に達したと言ってもいいだろう男性は、女性が差し出す徳利(とっくり)猪口(ちょこ)で受け取めつつ報告する。


「こうなるの織り込み済みで、リヒトくんとあのコを淡路島で戦わせたんだから、全然不思議ないけど……本当に参考人招致? 証人喚問じゃないの?」

「限りなくそれに近いと思ったほうがいいだろう」

「ゴメンね。キミを巻き込んじゃって」


 返杯を受けた女性は、舌先を酒で湿らせたが、それだけで卓に置いて背筋を伸ばす。ひょうきん……というよりは、ふざけた態度が目立つ彼女には珍しい、殊勝で真面目な態度だった。


「いいさ。潮時ってだけさ」


 だが男は気にしない。娘どころか孫と言っても通用する外見年齢差の女に、同年代相手としか思えない態度を見える。

 友人、あるいは仲間。そんな関係に近いのか。


「もういい歳だ。ここらで幕引きしても、政治家のキャリアとしては悪くないだろう?」

「総理大臣にはしてあげれなかったよ?」

「勘弁してくれ……君が(おお)()振ってる時の首相なんて、なにかの罰としか思えない」

「じゃあ、内閣総辞職とか政権交代とかなったら大変だね。今回の件、親中派の野党が言い始めたことでしょ?」

「あぁ。XEANE(ジーン)の息がかかっている連中だ」

「直接的にちょっかいかけてきたか……それも大々的に」

「どうする?」

「どうもこうも、相手するよ」


 女性は邪悪に笑う。

 そのために今を築き上げたのだから。


「――『悪魔(かみさま)』が(つく)ろうとする未来を、壊すために」


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― 新着の感想 ―
[一言] 腕治ってるしなんか急成長してるし、何かしら操作受けてる? 師匠がまた敵に回るのはちょっと想定外だわ
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