080_0940 月曜どうでしょうⅤ~小細工~
「俺から部活を依頼したい」
十路が口火を切って、部会を開始した。
「ひとり足りませんけど?」
「木次が私用でいないのは織り込み済みです。いなくてもまぁ、って感じなので、そこまでは」
早速コゼットからツッコミ入ったが、軽く流す。そこが今回の肝なので、不用意なことを口走ってボロなど出したくない。
「頼みたいのは警備だ。今夜、実験をすることになったんだが、邪魔が入るかもしれないんだ」
「実験って、なんの?」
「あー……」
わざと言葉を濁し、つばめに視線を向ける。十路でも答えられるが、そうしたほうが自然だろうと。
(演技、俺の役割じゃないけどな……)
内心では深々とため息をついているが、いつもの仏頂面で本音は隠す。
「誰か、《魔法》で盗聴できないように遮蔽してくれない?」
つばめも、もっともらしく話し始めたので、多分誤魔化せるだろう。
「キミたち相手でも詳しくは話せない。《ヘミテオス》関連だからね」
「あー。そういうことですの」
支援部は未来人たちに深く関わる準軍事組織だ。これまでの戦闘は、彼らの代理戦争のような真相がある。
だが部員たちは、正直『知ったことか』だ。世界を裏から牛耳る未来人たちのいざこざなど、できれば関わりたくない。ただ国家の管理から外れた《魔法使い》というだけでなく、そういう性格だからこそ、この場に集っている。
なので装飾杖を持つコゼットだけでなく、他部員も大して興味を持っていない。知らなければならない最低限のこと以外は触れたくない様子だった。
「ただねぇ……今回はちょーっと大規模なんだよ。だからどうしても目立つし、野次馬を近づけさせないための人手が欲しいんだよね」
つばめがキャビネットから地図を取り出し、テーブルに広げる。
そして人差し指に示された場所を見て、部員たちは眉を寄せる。
「また淡路島ですか」
「《塔》のシステムに関わることなんでね」
未来人たちが知る本来の惑星改造システムと、この世界にある《塔》は、同じような機能でも違うものらしい。二一世紀の人間には当然オーバーテクノロジーだが、彼らにとってもまた把握しきれていない、未知の部分があるのだとか。
「具体的な計画は任せるけど、この辺に待機して、誰も島に近づかないように見張って欲しい。あ。キミたちも島に入っちゃダメだよ?」
「いつまで?」
「実験が終わるまでだから不明だけど、深夜一二時くらいまでを目処に」
「どこまでの可能性? どの程度の?」
「ぶっちゃけ未知数。情報機関とか特殊部隊が、って可能性は低いけど、正真正銘興味本位の野次馬は予測ムリ」
「そりゃそうでしょうね……まぁ、そういう相手なら、ちょっとお話すりゃ済むでしょうけど」
「撃沈するの?」
「今ヘンなフリガナにしたでしょう……? 支援部の建前上、どこぞの強襲揚陸艦でも領海侵犯しねー限りできねーですわよ」
顧問と部長で計画が少しずつ組み上げられている横を、椅子ごと移動してきた野依崎が、十路のジャケットを引っ張る。
「《ヘミテオス》関連なら、なぜミス・キスキが不参加でありますか?」
「今日の木次はポンコツってて、役に立ちそうにないから、代わりに俺が」
「代理が務まるのでありますか?」
「俺が《塔》から一部権限を渡されてる『準管理者』ってのもあるらしい。オリジナルにしてみれば想定外の存在だろうし」
「実験を実施するの、リヒトでありますよね? よくまぁ十路を引っ張り出す気になったでありますね」
「シスコンでも一応公私の区別はつけてんだろ」
真実を隠す際の鉄則は、嘘はほんのわずかブレンドするだけ。嘘を通すために嘘を重ねるとボロが出るので、絶対に隠したい情報以外は真相を明かす。
寝ぼけた無表情では納得してるのか理解できないが、仮に野依崎が怪しんだところで、真相は知れない。少し調べれば樹里がポンコツなのは事実。不正手段で情報精査したところで、リヒトが政府関係者と交渉してもぎ取った淡路島立ち入りの許可がわかるくらいで、具体的になにをするかは外部情報からは知りようがない。納得するしかないはず。
「なにか企んでます?」
長い髪の尻尾を振り回しながら、ナージャも紫色の視線を送ってくる。つばめに任せたかったが、直接訊かれた以上は十路が答えるしかない。
「企むもなにも、リヒトの都合だ。俺は正直面倒くさいだけ」
「一応、なにするのか聞いておきたいですね」
「俺も詳しくは知らない。というか、《ヘミテオス》に深く関わりたくないから、知りたくもない。言われたことをやるだけだ」
知っているのは『戦う』という一点のみ。殺陣をやるわけではないのだから、具体的にどうなるかは不明で当然。話している内容の九割はやはり真実だ。
ナージャはまだなにか怪しんでいる風だが、それ以上は口を閉ざしたので、これ幸いと十路も口を閉ざす。
「兄貴」
だが代わりに、最も警戒すべき南十星が口を開いた。既になにかを察した真剣味を発揮して。
「もしも『実験』の邪魔が来たら?」
だが予想とは少し違う質問だった。イントネーションの置き方から察するに、きっと荒事の気配を感じているだろうが、彼女が止めようともしないのが意外だった。
「状況次第だが……平和的にお引取り願えないなら、交戦も仕方ない。とにかく島に邪魔を入れないでくれ」
「どんなことをしてでも?」
『そっち』の可能性を考えているから、南十星は止めないのか。十路の意図どおりに動いてくれるのはありがたい反面、『こんな時まで野性の勘発揮するなよ』と複雑な気分になる。
そうなると決まったわけではない。知らないままなら、なにも起きない。
だが、もしも起こってしまったら。その可能性を考慮して、今回の作戦を立てた。
「あぁ。誰も、どんなことをしてでも、だ。島に入ろうとするヤツは、確実に俺たちの邪魔をする」
『彼女』を止めなければならないなら、ぶつけることも辞さない。
△▼△▼△▼△▼
部室でそんな話し合いがされていた頃、樹里は友人たちに連行された。
「なんで六甲道まで……」
学院周辺のスーパーやコンビニではなく、灘区のショッピングセンターの、それもランジェリーショップまで足を伸ばして。
「樹里ン家に泊まる準備だって言ったじゃない」
「や……月曜の夜に突然パジャマパーティーとか言われて了承した記憶ないけど、それはもういいとして。自分の家に帰って荷物とか用意しないわけ?」
「時間もったいないし、面倒」
結のやる気に『一度帰ってまた来るのが面倒だからって、着替え買ってまでウチ泊まる?』と若干引く樹里は、高校生の感覚なら食費を豪勢にしても服代も賄える経費が出ているとは知らない。
「夕食はどうする?」
「わたしたちで作ってもいいですけど……」
学生服越しに胸に当てて下着を選ぶ晶の問いに、買い物がなく手持ち無沙汰な愛が追従する。小柄な身長に似合わない胸部の持ち主には、残念ながらこの店では力不足だったらしい。
「デリバリーでも取る?」
「や、もう、材料買って鍋とかホットプレート料理でいいでしょ……」
「樹里を労おうって集まりなのに」
「普段とは比べものにならない手抜きだよ……」
あまりにも突然すぎたので、教室でも散々お泊り会は反対したのだが、もう諦めた。それぞれの親たちも突然のことで反対していたみたいだが、スマートフォンに向かって許可を得るのに四苦八苦している姿まで見せられたら。
「堤先輩となにがあったか知らないけど、グチれば少しは楽になるって」
「や……気持ちはありがたいけどね?」
そこまで友人たちに気を遣われると、無碍にできない。
責任者に確認したところ、呆気なく許可が出た上、それぞれの保護者からお墨付きを得るところまで動いてくれるとのこと。
ただし、つばめ当人は仕事で帰宅が遅くなるらしいが。余所様の娘さんをお預かりするのに、大人不在なのは一般論として大丈夫なのか。
つばめが仕事や飲みで家を空け、樹里だけの夜も珍しくないので、女子高生だけで一夜を過ごすのも今更かと思い直してツッコまなかったが。しかもセキュリティは万全、支援部関係者だけが各々ひとり暮らしするマンション内なのだし。
「それにしても、樹里の家って、初めてだよね」
「わたしは結の家も知らないが……誰かの家で外泊など、この間の、愛の家が初めてだ」
「やはり友だちの家に泊まるのは、お邪魔になるって考えますし、両親もなかなか許可してくれませんからね……」
(まぁ、いいか……)
楽しげ語る彼女たちに、樹里は気持ちを切り替える。
支援部の活動のせいで、どうしても友人との交流は疎かになりがちだ。なので、こういう普通の女子高生らしいやり取りを、できる限り楽しむことにした。




