070_1750 5th showdown Ⅵ ~死中求活~
【ぎゃははははは!】
自身よりも巨大な《使い魔》を武器として振り回す様は、もはや映画のスーパーヒーローか。もう少し大人しく、機関銃を肩がけにするマッシブな映画スターくらいか。
戦闘機に搭載された機関砲弾だけでなく、《魔法》まで狙いをつけずに乱射される。
「二一世紀だぞ……! 精密誘導兵器の時代だぞ……!」
銃弾を寸毫の見切りで避ける自信が十路にはあるが、こんな弾幕ではさすがに無理だ。合間に効いているようには思えない反撃を加えつつ後退している。
「デブ鳥の分際で生意気ですね……!」
悠亜も攻めあぐねている。圧縮空間に格納したまま火器を使っていたのに、連射の熱でできないのか。今はベルト給弾のM60汎用機関銃を肩から吊り下げ、腰だめで短連射を繰り返しながら下がる。
【バージョンアップした《ヘミテオス》って、基本大味よ?】
無線で声を届ける悠亜は、死角となる位置に移動しながら精密射撃しているが、いずれも凌がれている。
不定形の悪魔――否、狼狩人と化した鄭は、《使い魔》を分隊支援火器のように扱って寄せ付けない。三人がかりでも追い詰めることは容易ではない。
十路と悠亜は、射撃から逃れようと、隧道に駆け込む。
だが鄭の攻撃は、お構いなしに続く。
このままでは潰される。走っていては間に合わない。
そう判断した十路は小銃の紐を肩にかけながら、《磁気浮上システム》を実行する。
「持ってろ!」
「ふぁっ!?」
空間制御コンテナを悠亜に押し付け、脇から手を入れて引き上げ、逆の手を膝裏に入れる。機関銃込みでは少々辛いが、放り出すわけにもいかないので耐える。
「まさかトージに運搬されるなんて……! しかもお姫様抱っこ……!」
首にしがみつくオートバイ人間の驚きに、応じている余裕などない。十路は仮想の磁力レールを滑走する。
反対側から脱出したとほぼ同時に、山の一部を吹き飛ばす火力は、トンネルの天井と壁を崩落させた。
靴底を削って慣性に耐えると、すぐさま反転する。戦果確認の暇を与えず反撃を行うために、今度はレールではなく磁力反発ポイントを置いて、不規則な連続ジャンプと人外の速度で土煙を突っ切る。
視界の妨げなど、鄭の《魔法》一発で吹き飛ぶ。だから目隠しがある間に森に突入し、斜面を駆けて迂回しながら接近する。
「火力投射用意!」
「了解!」
悠亜は機関銃と交換で、M202四連装ロケットランチャーを出現させ、十路の肩を使って構えた。
照準器を覗きもしない。なのに十路が高々と跳び、戦闘機を構えて河原に立つ巨大人狼を捉えた途端、彼女は引金を引く。テルミット焼夷弾頭ロケット弾は、正確にその足元へと着弾した。
鉄をも溶かす熱源の出現に、さすがに狼狩人も飛び退いた。いくら《ヘミテオス》といえど再生に手間がかかるだろう、炭化するほどの熱傷を負うのは避ける。
だが呼応した、悠亜の『魔弾』までは避けられない。血肉が爆ぜた。
本当の目標は《使い魔》だったのかもしれない。人狼は放り投げるように《窮奇》を離脱させたのだから。《ヘミテオス》の肉体は再生が容易でも、《使い魔》はそうもいかないため、庇ったとも取れる。
放物線を描く《窮奇》はエンジンを始動させ、自力飛行を再開する。戦闘機なら当たり前のことなので、それはいいのだが。
問題は鄭だった。《魔法回路》をまとうと、狩装束と毛皮が変化する。
王冠を乗せたイヌの三頭とカラスの翼を持つ『悪魔』となった。羽須美の《赤ずきん》から、別の『麻美』が持つ《めっけ鳥》に切り替えた。
そして人間を吹き飛ばす突風を起こして飛び立つ。悠亜を押し倒すように木の陰に隠れ、耐えるのが精一杯となる。
圧迫が消えたと同時に、十路は再度悠亜を抱え直して飛び退く。
巨影が上空を通過したと同時に、先ほどまで隠れていた木が、猛烈な熱量で爆裂した。
陣地防御のような戦い方から、航空機動戦への切り替え。飛び散る木片であちこち裂傷を作りながら、対応しようと十路も動くが、それも能わない。
激突するように山の斜面に着地したと思いきや、鄭は再度全身に《魔法》の光を張り巡らせ、下半身がヘビで手のない腕が複数生やした女へと変化する。
「これじゃ近づけません……!」
《手なしむすめ》の本領を発揮した『悪魔』は、多砲塔戦車のような移動砲台と化して、手のない腕で《魔法》を次々と投射する。
更に山を周回して戻ってきた《窮奇》も、無線接続で《魔法》で攻撃してくる。
地域目標での迫撃砲制圧射撃を思い出しながら、十路たちは爆発に追い立てられる。
悠亜も同様らしい。鄭の火力投射は二方向に振り分けられ、離れた山の斜面でも連続爆発が起こっている。
彼女は森の中を移動しながら反撃し、健在ぶりを示している。
『イクセス! なんか策あるか!』
『……ないことも、ないですけど』
地形を遮蔽物できる場所まで逃げると、多少の余裕が生まれた。至近距離でも、声では爆音とそれによる耳鳴りでかき消されるので、無線を通じて下ろした悠亜と会話する。
『『悪魔』くらいしか、思いつきません』
鄭たちに聞かれる可能性を警戒してか、最低限の言葉だったが、意味は理解できる。
空間隔絶無差別跳躍――《光を避ける者は拒絶し星食す》。
一帯ごと『削る』あの《魔法》ならば、確かに勝てるだろう。しかも周辺への被害は一切なく。
『だけどあれは……』
以前、十路と樹里が《バーゲスト》に同時機能接続して実行した術式だ。容量も通常の術式に比べて桁違いに大きく、更には火器管制が二分されており、リンクした《魔法使い》ふたりでの使用を前提としていた。
そして今、もうひとりの主はいない。
『ユーアと私は今、常に脳機能接続している状態です。それにユーアの権能は、《使い魔》に対する機能制限解除。ジュリの代理は務まります』
濁した言葉は正確に伝わった。悠亜は脳内に囁き続ける。
『問題は、時間です』
あの術式はイクセスが持っているものではない。彼女が持っているのはアクセス権だけ。衛星と通信して一時的に使うだけのクラウドアプリケーションだと話していた。
そんな迂遠な巨大術式であるため、以前の使用でも、機能実行までに相応に時間をかけていた。
だが現状は、即時使用できなければ意味がない。あるいは鄭の足止めをしなければ使えない。
すぐ思いつく戦力は他の部員たちだが、無線で確認もしない。曲りなりにも『玄人』だった十路には、『素人』たちに期待などできない。ナージャと野依崎も元軍関係者だが、彼の戦歴と比較すれば素人枠だ。
彼女たちに期待するのは、勝利と生存。それだけでも充分すぎる要求だと思っている。
勝った上に他の戦闘にまで考慮し、継戦能力を残しているなど考えない。
待機状態にある自衛隊も期待できない。中るか怪しいミサイルを数発撃ち込んで終わりだろうから、単純に火力不足だ。せめて迫撃砲と自走砲の連隊くらい欲しいが、今から間に合うはずはない。
イクセスの策は、使えない手段だ。
同時に、唯一。考えられる範囲で、他に有効手段はない。
『悠亜さん』
【聞いてるわ。そっちに合流する】
ならば使える手段にすればいい。
「堤十路の権限において許可する」
「《コシュタバワー》との機能接続なら、今なら私とリンクするだけで問題ないですけど」
いつものように《使い魔》と無線接続しようとしたが、いつもと違う彼女は、いつもと違う方法で機能接続を行おうとしてくる。
《魔法使い》同士がリンクする時には、《魔法使いの杖》を接触させる。だが今のイクセスは、そんなものを持ってない。体が半分 《魔法使いの杖》のような《ヘミテオス》なのだから。
故に額をくっつけてきた。急接近してきた顔に、十路は固まってしまった。
『キスでもされると思いました? 借り物の体で、そんなことしませんよ』
「…………」
離れてイタズラっぽく微笑む悠亜に、図星を突かれた十路は、子供っぽく憮然たる顔を返す。
だがすぐに切り替える。戦闘中なのだから。
『イクセス。ありったけの武器を外に出して使え』
体内から物を出し入れする際には、圧縮空間の保全にかなり演算能力を割いているはずだ。悠亜が《魔法》らしい《魔法》を使わずに戦うのは、その辺りも一因だろう。
『悠亜さんはそれが終わり次第、無線で俺たちの脳機能を使ってダウンロード開始』
【想像できるけど、一応訊くね? 足止めは《騎士》くんがやるつもり?】
『それしかないです。敵 《使い魔》の牽制はお願いしたいところですが』
【《魔法》は?】
イクセスに対応した指示をしたくらいだ。きっと十路も演算能力を食われて、《魔法》はほとんど使えなくなる。
『もう一度、やるしかないでしょう』
悠亜から空間制御コンテナを受け取り、新たに一〇〇発入りの弾倉を出して交換して、音を立てて初弾を送り込み気合を示す。
羽須美が死んだ、あの日と同じ。
代わりに十路が《ヘミテオス》を屠った時と。
『《魔法》なしで相手します』




