070_1620 4th duelⅩⅡ ~泥首銜玉~
人智を超えた超人同士の争いなのは間違いないが、散った他の戦場と比べれば、ナージャと『麻美』の戦いは静かだった。
一見すれば、双方とも攻めあぐねいている。
ナージャは無敵の防御力を発揮する鎧を持つ。
『麻美』はそれを剥ぎ取る紫電の雪を持つ。
ナージャは手製の刀で対応し、必殺の一撃で仕留めようとする。
『麻美』は《ヘミテオス》の不死性と身体能力で、それを許さない。
紙一枚のギリギリさだが、双方とも相手を倒すに至ることができない。
だが、分は『麻美』にある。
ナージャが用意した対抗策には、限りがある。折れたもの、血脂と刃毀れで切れなくなったものを、既に何本も捨てている。
更に《ヘミテオス》が電力を外部供給可能なのに対し、《魔法使いの杖》は内蔵したバッテリーの電力しかない。
『麻美』が冷静さを失いさえしなければ、いずれナージャは手札を失って敗北する。
そのはずだ。
故に『麻美』は同じことを続けた。散発的に《魔法》をばら撒き、ナージャが《鎧》で防御する。その隙に紫電の雪をまとい間合いを詰めて、白兵戦を仕掛ける。
《魔法》で作り上げた石の棍を、頭上から振り下ろす。《鎧》を破壊すると同時に、その中のナージャを破壊する。
ナージャが勝つためには、カウンターを狙って刀を振るうしかない。不死性を押し出した力任せでも問題ないため、油断ならずともさほどの脅威ではない。
そのはずだった。
「?」
だが違う結果が生まれた。
『麻美』の視点で見れば、風を感じた瞬間、視界が意思とも首の稼動限界とも関係なくグルグル回ったのだから、意味不明だろう。
彼女の頭部がボールの如く飛んだ。
刎ねられ、河原を転がった生首は、ちょうど決着の場に目を向けて止まる。
頭部を失った『麻美』の体は、石棍を振り下ろした姿勢で固まっていたが、やがて力なく倒れた。
それでもナージャの頭蓋を弾けさせたはず。真っ向唐竹に振り下ろされた棍は、《魔法》の鎧を確かに粉砕した。勢いそのままに彼女も砕いたはず。
首を刎ねられた経緯は理解できずとも、勝負としては相打ち、死合いは半不死の『麻美』が勝者になるなず。
だとすれば、すれ違いざまに刀を振った残心を取る、無傷の彼女はなんなのか。
なぜ『麻美』の体は、夜闇に消滅する《魔法》の黒鎧と、白い《魔法回路》を身にまとうナージャ本人に、前後を挟まれる位置関係にあるのか。
「わたしに隠し玉を使わせたのは、お見事です」
大きく息を吐いて《魔法》をキャンセルし、刀を鞘に収めて姿勢を正したナージャは、目隠し越しに『麻美』に振り向く。
「な、ん、で」
「忍術・空蝉、ってところでしょうか」
タネは単純。《魔法》無効化が付与された棍が下ろされるよりも早く、ナージャは《鎧》を部分解除し、背面から抜け出していた。
《鎧》と名づけられているが、本物の全身鎧とは違う。時間が停滞した空間を人型に作り出す術式に過ぎない。通常ナージャの肉体を内包する位置で使っているが、発生座標を変えれば完全分離できる。
離れていれば丸見えの脱出マジックだが、白兵戦の最中だ。対峙する『麻美』からは、《鎧》の陰になるため、その瞬間を見ることができない。
加えて一見無意味な消耗戦を繰り返し、手製の刀だけが対抗策と思い込ませて。力任せに防御ごとナージャを破壊できると思わせて。
空振りさせた隙に、超音速の一閃を叩き込んだ。
「わたしは単なる刀使いで、侍じゃありません。皆さん曰く《暗殺者》らしいですし、ピッタリじゃないです?」
だらりと提げた《魔法使いの杖》から、黒い板が地面まで伸びる。切っ先だけ切断能力を持たせた単分子剣を形成し、ナージャは無造作に『麻美』の生首へと近づく。
目隠しをしたままでは、まるでスイカ割りだが、そんな楽しげな雰囲気は微塵もない。




