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近ごろの魔法使い  作者: 風待月
《魔法使い》の願いごと/イクセス編
489/640

070_1600 4th duelⅩ ~棄灰之刑~


 美しい金髪は白く凍りつき、健康的なナチュラルピンクの唇は紫色に染まっている。

 防御しているとはいえ極低温の範囲内に、無駄に()()()突撃を何度も行えば、徐々に冷気で体を(むしば)まれる。


 コゼットの甲斐は、ない。

 鎚で打とうと、槍で貫こうと、砲で撃とうと、『麻美(ホレ)』の身は簡単に崩れるものの、すぐに再生してしまう。復元能力に全幅の信頼を寄せているのか、避ける素振りすらない。


 散発的に氷の砲弾を放ってくるが、彼女からの積極的な攻撃はない。不要と考えているのか。

 実際、『麻美(ホレ)』は存在するだけで、充分すぎる戦力となる。

 どこまで影響を広げられるのか不明だが、大軍と相対しても彼女は勝つ。如何なる高性能な兵器でも、冷却水や電解液・機械油が凍りつけば止まる。いかに肉体と技量を鍛えた兵士であろうと、極低温になでられれば心臓が凍りつく。


 普通ならば。


「……安心しましたわ」


 唐突にコゼットは動きを止めて、(もや)に包まれた『麻美(ホレ)』にライオンの笑みを向ける。《魔法》の大鎚(ハンマー)はキャンセルし、利き手は装飾杖に持ち替える。


 指向性(D)エネルギー(E)兵器(W)は無効化された。質量兵器も『麻美(ホレ)』の不死性には無意味だった。

 それでも繰り返した無謀で無意味な突撃は、不確定事項を潰すための確認作業に過ぎない。


「どうやら貴女のデタラメさは、復元だけのようですわね」


 増殖の制限はなく、全身の細胞配列を自由に動かしていた《スライム》――淡路島で戦った少女(アサミ)とは違う。

 『麻美(ホレ)』という()()は結局、限られた質量と形状でしか存在しない。


 ならば話は単純だった。


「地上戦ならテメェに勝つのは簡単なんだっつーの」


 問題なのは、彼女の覚悟だけ。


(まさか、この術式(プログラム)を使うことになろうとは……)

 

 コゼットが今まで攻撃手段として使ってきた《魔法》は、立派な殺人兵器になりえた。出力を絞ったり使い方が違ったりと、人を殺さない使い方をしていたに過ぎない。


 だがこの術式(プログラム)は、根本的に質が違う。害意・殺意・狂気が多分に含まれている。


「《異端審問職の実務/Pratique de l'Inquisition》」


 中世キリスト教の異端審問官ベルナール・ギーによって書かれた、異端審問の手引書だ。異端とされる各派の特徴、それぞれの宗派に対応した審問の方法が記載されている。

 史実はどうであれ、『異端審問』という言葉から連想するのは、容疑者はすべからく拷問にかけて、火あぶりで処刑したかのような、残虐非道の行いだろう。

 同名の術式(プログラム)は、それを再現する。

 史実では審判される側の『魔女』が。


「判決・吊るし刑」


 ちょうど立った人間がスッポリ収まるサイズの、鳥かごのような石の(おり)が地中から出現し、中に『麻美(ホレ)』を閉じ込める。


 『追い()ぎの棺桶』は本来ならば、高所に吊り下げ罪人を見せしめにするための道具でしかない。

 『麻美(ホレ)』が(みずか)ら凍った体を叩きつければ、その隙間からバラバラになって零れ落ちるだろうが、その勢いをつけるスペースが存在しない。


「判決・恥辱刑」


 それでも時が経てばわからないため、対策される前に本格的に拘束する。

 土の中から石の鎖で繋がれた手枷足枷が飛び出した。わずかな身じろぎしかできない『麻美(ホレ)』の四肢にそれぞれ絡みつく。

 そして石の檻が分解すると同時に、石柱が地面から突き出る。鎖はそこに繋がれてピンと張る。それに従い『麻美(ホレ)』も宙吊りにされるが、両腕は後ろ手で、両足はそろえて前に引っ張られた、Lの字に固めた奇妙な拘束方法だ。


 本来の『ユダの揺籃(ゆりかご)』は、宙に拘束した者を三角錐の椅子に置く。尖った先端と自重で性器や尻を傷つけるというより、眠らせないための拷問器具だ。

 今回そんな機能は不要のために省略されている。


「判決・圧死刑」


 拷問器具の代名詞『鋼鉄の処女(アイアンメイデン)』は、実はフィクションという説が有力だ。噂や小説などでは出現するが、公的資料での記載は一切存在しない。現存する物品は、見世物として作られたとされ、使われた形跡は皆無なのもその説の根拠となっている。

 ただし似たコンセプトの拷問器具は実在し、使用されていた。『リッサの鉄棺』もそのひとつ。

 人ひとりが入るのがやっとの(ひつぎ)に、ネジ式で押し下げられる(ふた)。本来ならば時間をかけて(ふた)を下げて犠牲者を押し潰す、狂気の処刑具だ。


 だが地面から出現し、拘束した『麻美(ホレ)』を閉じ込めた石棺は、恐怖をあおる時間などかけない。工場のプレス加工機のように、すぐさま内部を圧縮すると、氷を噛み砕くのと似た音が響いた。

 

 これで『麻美(ホレ)』が死なないのはわかりきっている。(ゆえ)に石棺は『ファラリスの雄牛』へと変形する。

 人が入れる空洞を持つ牛のオブジェは、本来ならば真鍮(しんちゅう)製とされている。熱しようと石では効果が出るまであまりにも時間がかかるため、《魔法》で熱量を直接内部に放り込む。


「判決・火刑――」


 半不死の《ヘミテオス》であろうと、実体を持つ物質である以上、物理法則から逃れられない。蒸発どころかプラズマ化する高エネルギーを与えれば、間違いなく消滅させられる。

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― 新着の感想 ―
[一言] こんなコゼット僕知らない……… ここまで徹底して殺しに来るとは。一万度超えるのはかなり難しいけど、魔法使いのスタイルなら存外簡単でしょうしね。確かに合理的な殺し方
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