070_1600 4th duelⅩ ~棄灰之刑~
美しい金髪は白く凍りつき、健康的なナチュラルピンクの唇は紫色に染まっている。
防御しているとはいえ極低温の範囲内に、無駄に思える突撃を何度も行えば、徐々に冷気で体を蝕まれる。
コゼットの甲斐は、ない。
鎚で打とうと、槍で貫こうと、砲で撃とうと、『麻美』の身は簡単に崩れるものの、すぐに再生してしまう。復元能力に全幅の信頼を寄せているのか、避ける素振りすらない。
散発的に氷の砲弾を放ってくるが、彼女からの積極的な攻撃はない。不要と考えているのか。
実際、『麻美』は存在するだけで、充分すぎる戦力となる。
どこまで影響を広げられるのか不明だが、大軍と相対しても彼女は勝つ。如何なる高性能な兵器でも、冷却水や電解液・機械油が凍りつけば止まる。いかに肉体と技量を鍛えた兵士であろうと、極低温になでられれば心臓が凍りつく。
普通ならば。
「……安心しましたわ」
唐突にコゼットは動きを止めて、靄に包まれた『麻美』にライオンの笑みを向ける。《魔法》の大鎚はキャンセルし、利き手は装飾杖に持ち替える。
指向性エネルギー兵器は無効化された。質量兵器も『麻美』の不死性には無意味だった。
それでも繰り返した無謀で無意味な突撃は、不確定事項を潰すための確認作業に過ぎない。
「どうやら貴女のデタラメさは、復元だけのようですわね」
増殖の制限はなく、全身の細胞配列を自由に動かしていた《スライム》――淡路島で戦った少女とは違う。
『麻美』という物体は結局、限られた質量と形状でしか存在しない。
ならば話は単純だった。
「地上戦ならテメェに勝つのは簡単なんだっつーの」
問題なのは、彼女の覚悟だけ。
(まさか、この術式を使うことになろうとは……)
コゼットが今まで攻撃手段として使ってきた《魔法》は、立派な殺人兵器になりえた。出力を絞ったり使い方が違ったりと、人を殺さない使い方をしていたに過ぎない。
だがこの術式は、根本的に質が違う。害意・殺意・狂気が多分に含まれている。
「《異端審問職の実務/Pratique de l'Inquisition》」
中世キリスト教の異端審問官ベルナール・ギーによって書かれた、異端審問の手引書だ。異端とされる各派の特徴、それぞれの宗派に対応した審問の方法が記載されている。
史実はどうであれ、『異端審問』という言葉から連想するのは、容疑者はすべからく拷問にかけて、火あぶりで処刑したかのような、残虐非道の行いだろう。
同名の術式は、それを再現する。
史実では審判される側の『魔女』が。
「判決・吊るし刑」
ちょうど立った人間がスッポリ収まるサイズの、鳥かごのような石の檻が地中から出現し、中に『麻美』を閉じ込める。
『追い剥ぎの棺桶』は本来ならば、高所に吊り下げ罪人を見せしめにするための道具でしかない。
『麻美』が自ら凍った体を叩きつければ、その隙間からバラバラになって零れ落ちるだろうが、その勢いをつけるスペースが存在しない。
「判決・恥辱刑」
それでも時が経てばわからないため、対策される前に本格的に拘束する。
土の中から石の鎖で繋がれた手枷足枷が飛び出した。わずかな身じろぎしかできない『麻美』の四肢にそれぞれ絡みつく。
そして石の檻が分解すると同時に、石柱が地面から突き出る。鎖はそこに繋がれてピンと張る。それに従い『麻美』も宙吊りにされるが、両腕は後ろ手で、両足はそろえて前に引っ張られた、Lの字に固めた奇妙な拘束方法だ。
本来の『ユダの揺籃』は、宙に拘束した者を三角錐の椅子に置く。尖った先端と自重で性器や尻を傷つけるというより、眠らせないための拷問器具だ。
今回そんな機能は不要のために省略されている。
「判決・圧死刑」
拷問器具の代名詞『鋼鉄の処女』は、実はフィクションという説が有力だ。噂や小説などでは出現するが、公的資料での記載は一切存在しない。現存する物品は、見世物として作られたとされ、使われた形跡は皆無なのもその説の根拠となっている。
ただし似たコンセプトの拷問器具は実在し、使用されていた。『リッサの鉄棺』もそのひとつ。
人ひとりが入るのがやっとの棺に、ネジ式で押し下げられる蓋。本来ならば時間をかけて蓋を下げて犠牲者を押し潰す、狂気の処刑具だ。
だが地面から出現し、拘束した『麻美』を閉じ込めた石棺は、恐怖をあおる時間などかけない。工場のプレス加工機のように、すぐさま内部を圧縮すると、氷を噛み砕くのと似た音が響いた。
これで『麻美』が死なないのはわかりきっている。故に石棺は『ファラリスの雄牛』へと変形する。
人が入れる空洞を持つ牛のオブジェは、本来ならば真鍮製とされている。熱しようと石では効果が出るまであまりにも時間がかかるため、《魔法》で熱量を直接内部に放り込む。
「判決・火刑――」
半不死の《ヘミテオス》であろうと、実体を持つ物質である以上、物理法則から逃れられない。蒸発どころかプラズマ化する高エネルギーを与えれば、間違いなく消滅させられる。




