070_1550 4th duelⅨ ~悪戦苦闘~
半ばから刃を失った《無銘》と、折れた刃から作られた銃剣が、一瞬同化したかのように絡んだが、すぐさま離れる。
だがすぐさま出会う。長柄と着剣した小銃が人外の速度で激突し、火花を散らして互いを逸らす。
数十度繰り返し、武器だけでは痛撃を与えられないと判断したか。鄭が《魔法》を実行した。
新体操競技のリボンのように、長柄の先端から靡く、仮想の鞭にして刃――《軟剣》。
それが空を渡り、地を潜り、龍のように襲い来る。
鄭の間合いが広くなり、物理的な絶対防衛圏が構築されてしまうと、十路は必死になって下がるしかない。飛び退くとその後を追って、河原の石が次々と割られる。
一定以上間合いを開くと、追撃はなかった。戦闘は一時停止した。
(ナメられてるな……)
空になった弾倉を落とし、ポーチの新たな物に交換しながら、十路は息を吐く。
単純な実力は競り負けている。痛撃と呼ぶほどではないが、何度か打ち負けて攻撃を食らっている。先ほど《軟剣》を使われる前に銃剣格闘に持ち込めたのも、射撃しながら無理矢理接近した末だ。並の相手ならもっとスマートに近づけている。
ちなみに十路は、格闘よりも射撃が得意ではあるが、鄭相手に遠距離戦をやる気はない。弾薬もバッテリーも限りある身で、外部から電力供給を受けられる《ヘミテオス》とやりあうなど、自殺行為だ。
(これじゃまるで……いや、鄭の権能でコピーしてるのか)
思い出が浮上してきて、苦い気分になる。
この戦い方も。余裕を持ったテンポも。
「駄目ねー、十路。これくらいで根を上げるわけ?」
その挑発的な笑い方も。向けてくる言い回しも。
全て衣川羽須美が所持していたものだ。
十路は槓桿を引いて初弾を薬室に送り込むと、腰だめのまま鄭の顔面目がけて単発発砲した。
だが彼女が振るう《軟剣》が、射線に割り込んで弾き飛ばした。
「猿真似はヤメロ。反吐が出る」
「おぉ怖」
この警告も二度目のはずだが、鄭はおどけて肩をすくめるだけ。そんな態度が余計に十路を苛立たせるのも、以前と同じ。
だが以前と違い、十路は息を吐くと同時に体の力を抜く。
反抗を予想してたか。肩透かしを食ったように、鄭の眉が怪訝な角度になる。
「お前のそのイラつくツラ、これで最後だと思えば、どうでもいいか」
否。最後にしなければならない。
「できるの? 衣川羽須美に勝てなかったあなたが」
確かに鄭の言うとおり、かつての上官にして最強の《女帝》は、十路が敵う相手ではなかった。
彼女以上に強くなることを求められたことはあるが、あくまで冗談として聞き流していた。
「やるんだよ……羽須美さんから最期に言われたムチャ振りでもあるしな」
同じ顔と声を持ち、同じ戦闘技術を発揮する女に勝つためには、今こそ『彼女』を超えるしかない。




