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近ごろの魔法使い  作者: 風待月
《魔法使い》の人間関係
435/640

FF5_0070 【短編】単純で複雑で純情な感情Ⅷ ~中央区波止場町周辺道路~


 違和感はなくなるどころか、時間ごとに強くなっていく。


(やっぱり、誰かに尾行(つけ)られてる……?)


 やはり根拠らしい根拠はないので、『気のせい』と言われればそれまでだが、戦場の経験で(つち)われたものを無視できない。十路(とおじ)は居心地の悪さを感じながら、デートを続けていた。


 場所は南京(なんきん)町から移動し、メリケンパークに向かっていた。神戸港の一部である公園で、神戸市を紹介するパンフレットやプロモーションビデオでは、必ずと言っていいほど海側から撮影される場所だ。神戸海洋博物館とホテルオークラ神戸、神戸ポートタワーといった特徴的な建造物の並びを見れば、誰でも見覚えはあるはず。

 観光で(おもむ)くのは勿論、神戸市民のデートコースとしてもごく一般的な場所だ。


 そんな場所に近づくたびに強くなる潮の匂いに混じり、遠くからパトカーのサイレンが聞こえる。それも一台の音ではない。


(……まさか?)


 最悪を想定すれば、思い当たる節があった。先日、その件で呼び出されたのだから。


(だとすれば、マズイぞ……普通なら考えすぎなんだが、もし当たった時がヤバい。俺ひとりならどうとでもなるけど――)


 隣を見下ろすと視線を感じたか、カチューシャで押さえた頭が動いた。


「どうしました?」

「いや……」


 頭ひとつ低い位置にある、なんら危機感のない少女の顔が見返してくる。

 どうしたものか、考えて。


(……理事長に訊くのが、一番手っ取り早いか)


 十路はポケットに手を突っ込んで、取り出すことなくメールを打った。



 △▼△▼△▼△▼



「あのふたり、メリケンパークに向かってるよね?」

「…………」

「あそこで出歯亀するの、難しくない?」

「…………」

「樹里ちゃん……無視はやめて?」

「ふぇ?」


 目を(つむ)って歩いていた樹里は、ようやく和真に話しかけられていることに気づいて、(まぶた)を開いた。生体コンピュータに集中して、視覚と嗅覚に相当するデータに注視していたせいで、聴覚は(おろそ)かになっていた。視覚相当のデータも進行方向のものしか拾い上げていなかったので、横で和真が悲しい顔をしてるとか知らない。


「すみません、聞いてなかったです」

「どうかしたの?」

「や……その、上手く説明できないですけど……」


 和真に受け答えしながら、樹里はもう一度、生体コンピュータを意識する。(センサー)が捉えているのは主に磯臭さと排気ガスだが、他にも感知している。


(さっきから時々、同じ匂いが飛んできてるような……?)


 もちろん隣を歩く和真のものとも、離れた前を行く十路や結の匂いとも違う。今ここで気づいたものではなく、商店街や中華街でも同じ匂いを嗅いだ。


(リナロール、ゲラニオール、酢酸ベンジル、安息香酸メチル……好きな人は好きかもしれないけど、私はあんまり好きな匂いじゃないなぁ……)


 常人ならば感知できない濃度だが、距離があって尚、香料の臭気物質も感知している。

 二択ならば、やはり香水をつけた女の匂いと想像してしまう。


(偶然誰かが同じルートで歩いてる、って可能性もなくはないけど……)


 嗅覚情報だけではなんとも言えないが、誰かに尾行されている疑惑を抱いた。

 しかし首を動かすことなく、脳内センサーと生体コンピュータで周囲を見回しても、確定的な人物は見つけられない。周囲には十路たちと同じような目的を持って歩く者たちもいるため、判断ができない。


(しかも、なんかさっきから、変な電波感じるんだよね……?)


 空を見渡せる範囲にはなにもなさそうだが、空中から電磁波が届いてくるのを脳内センサーが捉えている。通信電波ではなさそうだが、怪しいものかこちらも判断に困る。


 ひとまず当面のことを考えて、樹里は視線を隣に向ける。


「え? なに? 唐突にその『この人なんか邪魔』みたいな目は?」

「や。そこまでは思ってません」

「じゃあ、どこまで思ったの?」

「…………」


 樹里、(さと)い和真から、視線をそっと逸らした。


(邪魔とまでは言わないけど、いざって時には、私ひとりのほうが動きやすいんだけどな……)


 最悪を考えると、部員でもない和真と一緒なのは、都合が悪い。

 散々十路から平和ボケした子犬(ワンコ)扱いされていたが、月一ペースで発生する緊急の部活で命のやり取りをして、自身の秘密の希少性や危険性を理解すれば、さすがに危機管理意識も働く。


 とはいえ、今はまだなにも確証はない。だとすると、十路たちのデートを出歯亀するのに、和真がいないと困ることになる。なにせ観光スポット・デートスポットに向かっているのだから、周囲は集団ばかりなのに、ギグケースを背負った少女ひとりだと確実に浮いて目立つ。


 樹里はもどかしさを感じながらも、距離を開いたまま、十路たちを追うしかない。

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