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近ごろの魔法使い  作者: 風待月
《魔法使い》の人間関係
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FF5_0030 【短編】単純で複雑で純情な感情Ⅳ ~通学路~


 支援部の、普段の部活動には、決まったパターンがない。

 なにせ部員全員で全国大会を目指して練習するような部活動ではない。なんでも屋なので、どんな依頼メールが来るか次第になる。その依頼の片付け方も、メールで『ンなコトできるか。実情知らずに《魔法使い(ソーサラー)》を過大評価するんじゃねぇ』という内容をオブラートに包んでお断りする場合から、実際に依頼者の元に(おもむ)いて《魔法》を使う場合まで様々。大抵の場合、部員個人の得意分野内で、《魔法》抜きでできることをやる、といった程度だ。

 結果、活動も終わりもバラバラになる。全員一緒に行動するなど、内容は常識的でも人数が必要な場合か、緊急即応部隊としての活動くらいだ。


 放課後、友人と先輩の話し合いに付き添い、共に部室を出たものの、部活動の有無についてはナージャに確認を入れた。もしも樹里向けの依頼がなければ、そのまま友人を優先するつもりだった。しかし依頼があったため、仕方なく結とは分かれて活動を行った。


 依頼を終えて部室に戻った時には、既にシャッターが閉められ、いくつか伝言を残して部員たちは帰宅していた。備品(イクセス)に挨拶し、改めてシャッターを下ろした頃には、すっかり暗かった。


 普通の女子高生ならば、恐怖を覚える下校時間だ。なにせ修交館学院は山の中腹にあり、(ふもと)まで一切人家がない。舗装された道路から外れればすぐさま森で、防犯灯の光が届かない範囲は真っ暗になる。当人が強がろうとも、女の子ひとりで歩いて帰るなど周囲が止める。

 とはいえ、部員たちは既に帰ったので、樹里には止めてくれる者もいない。

 仮にいたところで、生身で高精度の暗視が可能で、変質者もイノシシも一〇〇万ボルトで一発KOな樹里には関係ない。


「……?」


 学生鞄と赤い空間制御コンテナ(アイテムボックス)()げて、樹里は正校門に足を運ぶと、守衛室近くで誰か立っていた。


「お。樹里ちゃん」


 しかもその誰かは声までかけてきた。待ち合わせの予定などないにも関わらず。

 眼球に入る逆光を調整すると、ウルフヘアに半ば逆立てた頭と、どちらかといえば整った女顔の、放課後の部室で見かけた人物を認めることができた。

 樹里が部室を離れていたから、彼もあの後も居座り続けていたのか、剣道部の部活に行ったのか、それすら知らない。


「高遠先輩? ナージャ先輩なら、もう帰りましたよ?」


 和真がこんな場所で立っている理由など、それくらいしか考えられなかった。


「知ってる。そうじゃなくて、樹里ちゃんと一緒に帰ろうと思って待ってたんだ」

「え゛……」


 真顔で出された言葉に、止まっていた樹里の足が自然、一歩後ずさった。


「俺そんなに警戒されてる!?」

「や~~~~……そういうわけではないですけど、なんと言いますか……」


 意思と関係なく、本能的に後ずさってしまったので、和真の言葉を否定しようにも否定できない。愛想笑いで誤魔化してしまう。


 和真が嫌いなわけではない。だが、異性に対するがっつきを感じるため、苦手なタイプだ。

 悪い人間ではないのはわかっている。ついでのようにかけられる軟派な言葉も口だけで、実行することはない。一緒に帰ったところで不埒なことをされるとか、そういう心配はしていない。

 していないが、いきなりそんなこと言われると、反射的に引く。


 それはさておき。和真が樹里を待つ用事など、なにがあるか考えてみたが、見当つかない。彼は部室に入り浸っているとはいえ支援部員ではなく、学年も違うから、十路やナージャを通した間接的な付き合いしかない。なのに、樹里個人になんの用事だというのか。


 小首を傾げる樹里に対して、近寄った和真は深々と腰を折った。


「ひとりの夜道が怖いんで、下校のお供をさせてください……」

「…………」


 男でも、年上でも、怖いものは怖いだろうね。


 心優しい樹里でも、そこそこ無理矢理でなければ不可能だったが、好意的な解釈を行った。



 △▼△▼△▼△▼



 結局樹里は、和真と共に坂道を下ることになった。


「ナージャ先輩みたいなことおっしゃいますね……」

「なんでナージャが?」

「ふぇ? ご存知ないんですか? ナージャ先輩、暗闇がかなり苦手だから、こんな時には堤先輩にすがりついて、明かりがあるところまで目つぶってますけど……」


 いつも一緒の印象があるから、ナージャの暗所恐怖症を、和真は知っているものだと思いこんでいた。


「そうか……いいことを聞いた……よし、今度は俺が……」

「…………」


 『高遠先輩がやろうとしたら、ナージャ先輩に地獄突きで沈められる気が……』という未来予想は、迷った挙句、樹里は口にしないことにした。男の夢を壊すのも気が引けたし、実行して和真がのたうち回ったとしても自己責任だとも思った。


「それで、高遠先輩。なにか私に用事が?」

「ん~。あると言えばあるんだけど」


 代わりに、本題の話を振った。ひとりで暗闇の下校が怖いのがどこまでの本心か知らないが、それだけで樹里を待っていたとは思えない。なにか話があるから待っていたのではないか。


「今週末、デートしない?」

「え゛……」


 一歩分だけだが反射的に、飛びのくように和真から離れた。


「俺のことそんなに嫌い!?」

「や~~~~……そういうわけではないですけど、なんと言いますか……」


 和真が嫌いなわけではない。苦手なだけだ。二人っきりの状況に居心地が悪いだけだ。そんな相手からデートに誘われて、反射的に逃げたくなっただけだ。

 愛想笑いの裏でそんな言い訳をしながら、気まずさを誤魔化すためにも、樹里は早口で問い返す。


「高遠先輩が誘うなら、ナージャ先輩でしょう? どうして私を?」


 すると和真は、表情を引き締めた。彼のこういう顔だけ見れば、女子学生からキャーキャー言われても不思議ないと思う。そうなっていないのは、彼の発言が残念で、しかも周知されているからだ。彼はイケメンであることの努力などしないし、隠そうともしない。


「十路たちのデート、出歯亀しない?」

「…………」


 無駄に顔だけキリッとしている残念イケメンから、樹里は今度こそ反射的ではなく意図的に距離を取った。


「あぁ!? 引かないでぇ!?」

「引きますよ……どういうつもりですか」


 一緒に帰るのは間違いだっただろうか。こういうこと平然と言うからこの先輩苦手なんだけど。

 軽くこめかみを揉んでそんなことを考えながらも、樹里は無視することなく、一応ながらも話に付き合う。


「気になってるんでしょ?」


 すると和真は思いのほか真面目な声で、心のモヤモヤした部分をくすぐってくる。


「なんなんか知らないけど、十路と樹里ちゃん、ビミョーな感じじゃない? そんな時に樹里ちゃんの友だちとデートなんて、気になるでしょ?」

「や、まぁ、そりゃ気にならないってったら、嘘になりますけど……」


 話の内容は、昼間に南十星としたのと同じだが、ポジションが変わった。『当人同士の問題』と関与を放棄した南十星に、樹里が仲間探しのように探る言葉をかけていたのに、今度は和真が逆に真意を探ってくる。

 (そそのか)されているように聞こえ、彼の言葉に乗ってしまうことに、危機感を覚えてしまう。


「私とデートなんて……ナージャ先輩に言いつけますよ?」


 だから和真とデートの(てい)で出歯亀するか否か、結論を棚上げにしてしまった。


「俺とナージャの関係は、その程度で変わりはしない」

「…………」


 『ナージャ先輩に相手にされてませんから、変わりようがないですよね』なんてことを思いはしたものの、性根の優しい樹里には、胸を張る和真に残酷な現実を突きつけることはできなかった。

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