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近ごろの魔法使い  作者: 風待月
《魔法使い》の過去/羽須美編
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FF0_0760 過ぎたるものⅦ ~グランフォート摩耶~


「科学者の影響力は、もう太刀打ちできないところまで来た。ひとりの黒幕が世界を裏側から操るってのも、割と冗談じゃ済まないレベルにまで膨れ上がった。アイツの目的を果たすのも、不可能じゃないくらいに」


 まだまだ充分とは言えずとも、この三〇年で、ひとまずこの世界に未来から持ち込まれた異物は根付いた。

 巨大建造物および極少機械が世界各所に突如出現した当初は混乱もしたが、もはや立ち直っている。それどころか、限定的ながら利用方法も開示してしまった。《魔法使い(ソーサラー)》という新人類の出現は、《ヘミテオス》たちも想定外だったことだが、それも利用してしまった。


 そして彼らが持つの力の利用には、《ヘミテオス》たちが設立した企業の製品を必須とする。

 この世界はオリジナル《ヘミテオス》によって牛耳(ぎゅうじ)られている。


 とはいえ、科学者と一部の娘、そして妻と娘婿とでは、やり方が違う。

 未来を変えるために過去へと自分と技術を送り込む。遙かに科学力が進んだ先々でも不可能と言われていたことに情熱を燃やした科学者は、形振り構う必要がない。自分の思い通りになるよう、思うがままに手を伸ばし、新たな世界を作ればいい。

 対する妻たちは、それを阻もうとしている。最早手遅れと言われようと、この世界への影響度合いを最小限度に留めたい。ジレンマに悩まされながら、必然的に力も手出しも影響度合いも最小限度に留めざるをえない。

 目的の違いが、全ての違い。正攻法ではとても太刀打ちできない。


「だから、総合生活支援部が生まれた」


 ならば奇策を立てるのが常道か。だがこれも、ある意味では正道でもある。


 顧問からの核心的な言葉に、部員たちの反応はそれぞれだった。とはいえ口を挟むわけではなく、表情筋の動かし方やタイミングが違う程度のことだが。

 ワケあり《魔法使い(ソーサラー)》が神戸の学校に集められている理由を、つばめは『理事長だから』『学生に学生らしい生活を送れる場を作るのが仕事』などとはぐらかしていた。いや、それも事実だろうが、他にも理由があることも明言しつつも詳細は明かさなかった。

 それが。


「《魔法使い(ソーサラー)》に大枚はたいてでも手に入れる価値があると知れると、大国は子供たち全員に脳の検査を義務付けた。確保に務めてそのまま管理して、教育を施し、多くは国家公務員として常人には不可能な特殊な仕事をさせる。そのために《魔法使いの杖(アビスツール)》にセキュリティがかけられると同時に、優遇策も取られている」


 細部は違えど多くの先進国で取られている、《魔法使い(ソーサラー)》政策の基本方針だ。

 検査は国民の義務として認知されている。そして《魔法使い(ソーサラー)》は稀少で、なおかつ表沙汰にならないような仕事を行うのだから、一般人が直接関わることがまずない。

 故に、一見すれば()したる問題は起こっていないようにも思える。


 だがそれは、マクロ視点で見たこと。鉱山で宝石の原石を探す行為でしかない。掘り起こされた大量の土砂(いっぱんじん)は、それはそれ。目的のものでなかったからといって、悪い意味で特段の扱いを受けるわけではない。凡百の岩石として再び埋もれるだけだ。

 問題が起こるとすれば当然、宝石(ソーサラー)の側だ。


「その仕組みに(あら)があるのはわかりきっていた」


 磨かれば必ず輝くとは限らない。そもそも磨かれたいと当人が望んでいるかも怪しい。ただの石コロのつもりでいたのに、突然発掘されて『価値がある』と言われ、翌日からは全く異なる境遇になる。子供の頭でそれを理解できずとも、成長すれば疑問に思って不思議はない。

 そして磨いても、アクセサリーの台座にはまってくれるとも限らない。


「そりゃそーでしょうね。ガチで《魔法使い》の王女なんつーマンガみたいなのが出てくる想定してたら、ビックリだっつーの」


 たとえば、オカルトと同一視され特異性が悪と判断される社会で生まれ、真実を隠匿されて育ったラプンツェルのように。


「同右。あたしもカクリツ的にありえんっしょ」


 たとえば、国という社会ふたつの狭間、国籍の異なる両親の間に生まれ、ふたつの名前と国籍を持つ、靴履き猫のように。


「わたしの時空間制御も想定外、ってことになるですかね?」


 たとえば、なんら変哲ない生まれと育ちのはずだが、些細な歯車の狂いが切っ掛けで、禁忌の力を手にしたシンデレラのように。


「自分の場合は違う気がするでありますが? まぁ、きっと脱走は折り込み済みではないでありますが」


 たとえば、禁忌を選んだ者たちの手により作られ、自由を求めて旅立ったピノキオのように。


 生産ラインに乗らなかった異物。それも、ただ品質基準を満たしていない不良品ではなく、別基準で持て余すから弾かれる、正規品扱いできない規格外品たち。貴重品として特別扱いするにも、これまた問題が多い。

 極めつけには、無視もできない。場合によっては廃棄もできない。


 ざっくばらんに言い切れば、部員たちは科学者が、管理を放棄した、あるいは管理しきれなかった人材だ。


「だから悪の秘密結社なんて作らなくても、堂々と集められる」


 社会実験チームのお題目と収集データの公開。本来ならば国家戦略として独占される《魔法》を民間にも一部開放。緊急事態には警察・消防・自衛隊とも協力し、即応活動を行う。

 存在価値を最大限示すことができる。


 誰が危険性を説いて反対しようにも、開き直れる。

 お前らが扱えない《魔法使い(ソーサラー)》を引き受けてんだぞ? クーデターとか警戒してるなら、どこかの工作員とかテロリストが《魔法》で暴れた時どうする気だ?


 逆に危険性を訴えることができる。

 国のサポート対象外なら、《魔法使い(ソーサラー)》の自衛手段くらい寄越せ。それも社会実験の一環になるだろ?


 人数は班規模の少人数だが、戦力は全て史上最強の生体万能戦略兵器。

 生半可な軍事組織など話にならない、圧倒的戦力を手に入れることができる。


「あたしたちに、戦争をやれってこと?」


 ただし当人たちにとっては大事ではない。むしろ御免だと、南十星の茶色い瞳に剣呑な光が宿る。是と答えたならば、とりあえず一発殴ると目が語っている。


「キミたちは学生。このチームは部活動」


 対してつばめは、首を振って明確に、詭弁で否定した。


「誰かを殺さなければいけない立場でもなければ、殺さなければならない義務もない。もちろん今までみたいに協力して欲しいけど、辞めたくなったら辞めればいい」

「それ言うの、遅すぎっしょ? あたしたちは部活をしたことで、世界的に顔が知られてる。仕掛けてきたのは向こうとしても、あちこちと戦闘(ケンカ)して恨みも買ってる。それで部活辞めて神戸離れてどうなるかなんて、わかりきってるじゃん」

「退部を希望するなら、わたしが最大限のフォローする」

「ふん……」


 明らかに信用していない息を鼻から漏らしたが、南十星はひとまず溜飲を下げた様子で、追求を止めた。


「さんざん利用して今更だけど、みんなも身の振り方をよく考えて。ここまで黙って利用してきたからこそ、わたしは強要しない」


 だから話のまとめに入る。つばめは顧問として部員たちを見回す。


「きっとこれから戦いは激しくなる。アイツは本気で潰そうとしてくる。降りるなら今のうちだよ」


 南十星はなにも変えなかった。浴衣の懐に片腕を突っ込んだ姿勢で、胡乱な目を向けたまま微動だしない。

 彼女は悩む必要がない。決めているのではなく、最初から決定権を放棄している。南十星が部活に参加しているのは、兄の近くにいるためだから、今後についても全て十路次第になる。


 ナージャは行儀悪くテーブルに肘と大きな胸を置いて、左手で長い髪の尻尾をいじりながら、探るような目を他の部員たちに向ける。

 彼女には帰る場所がない。戦うことに忌避した上に、諜報組織から脱けて今がある。逆を言えば現状を捨て去ることも容易ではあるが、追求の手が止むことはないだろう。今後の戦況とを天秤にかけると平衡する悩みどころに違いあるまい。


 野依崎は、いつものボンヤリ眼差しのまま、我関せずの態度でピーナッツをポリポリかじっている。

 小動物チックな見た目とは裏腹に、既に大国と敵対関係にある少女だ。秘密機関から脱走し、サイバー戦で渡り合いながら逃亡生活を続け、大型《使い魔(ファミリア)》まで半ば強奪している。最近はそうでもないが、元々普通の生活への執着は薄い。

 今後をどう考えているのか、傍目には窺い知ることはできないが、いざとなれば逃げることに迷いはない。問題はそのタイミングだけだ。


「それを考えるためにも、ハッキリ言っていただけません? おおよそ想像つきますけど」


 コゼットはこめかみを指でかいてから、憂鬱そうな顔で口を開いた。


「理事長のダンナである『科学者』っつーのは、一体誰なんですの?」

「わたしに旦那はいない。独身二九歳結婚暦も離婚暦ナシ。当然娘なんていない」


 間髪いれずに訂正が入った。ただしそれは真実でもあり、間違いでもある。

 オリジナルの《ヘミテオス》は、コピーとして生まれたスワンプマン。同一存在か別存在と思うのは、個人の考え方次第の哲学的な問題だから。


「で。『敵』は、そいつ」


 つばめの指先が横に向けられる。今日はナノテクノロジー特集で先進技術を紹介している、お堅いドキュメンタリー番組を放送中のテレビを。


「コゼットちゃんと……あとナージャちゃんも? 話したことあるでしょ?」

「理事長の代わりにパーティ(レセプション)出た時、挨拶だけはしましたけど、特になんもなかったですわ。あん時はウチの(クソおんな)がいましたし、そっちの対応が優先でしたから」


 目立つ男ではなかった。髪型は変哲ないビジネスショート。着ているのは質がいいのだろうがやはり変哲なく思えるスーツ。かけている眼鏡も奇抜なものではない。外見年齢は上を見ても四〇には届かない。

 一見しただけでは、どこにいても変哲ない、サラリーマンとしか思えない。

 

『私が養父(ちち)から受け継いだのは、家電製品の部品を作る、しがない町工場でした。それも商売が半分趣味みたいな、発明品を作るための私設研究所みたいなものでした』


 ただし語り口は、普通のサラリーマンのものではない。成功者に共通する、カリスマ性や自信といったものが垣間見える。


『養父が研究していた超精密(マイクロ)加工技術(ファブリケーション)は我が社の基礎とも言えるものです。様々な方々の手を借り、家電製品を作るようになり、いまや多くの従業員を抱える企業となりましたが、根本は変わりありません』


 そして眼鏡の奥、アジア人らしい黒瞳を見ると、なぜか鳥類――それもカラスを連想する、特異な印象を受ける。


『あと数年で、XEANE(ジーン)は医療用ナノマシンを実用化し、皆様の下にお届けすることができるでしょう』


 なにより肩書きが普通ではない。

 テロップには、『XEANEトータルシステム最高責任者(CEO) (スー)金烏(ジンウー)』とあった。

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