FF0_0650 悪魔と悪魔と悪魔の愛弟子Ⅵ ~ジャザイール民主人民共和国 アハガル山地⑤~
まずは弾雨の交錯が行われた。しかしそれぞれの有様は大きく異なった。
羽須美からは、三丁の銃が構えた。口径がおかしいか素材がおかしいかで、まともに機能にしそうにない代物だが、問題はそこではない。手にした銃火器による攻撃だから、まだ常識的と言える。
偽羽須美は、非常識すぎた。
シンバルのような遠心銃と、チューバのような爆発成形侵徹体発射器は、それまでにも使っていたが、他にも追加された。
支持されたドラムのようなものが作られると、常人ならば脳が損傷するほどの、大音量が照射される。既存科学でも既に実用化されている長距離音響兵器だった。
大きさを考えればバグパイプに違いが、機能を考えればダックフットピストルのような複数銃身銃だろう。トロンボーンのような形状だが、大きさや機能は狩猟用大型散弾銃と呼ぶべきもの。それらが一斉に石を弾幕にして放ってきた。
更には巨大な立奏チューバのようなものから、周辺から集めた金属を弾頭に備えた|磁気流体力学爆発性弾薬《MAHEM》のロケットを放った。貫通力に特化している点は爆発成形侵徹体と同様だが、質量がより大きい槍だ。
物質流動体制御により地面を半流動化させて操り、殺意を放つ『音楽隊』を組織した。単身の《魔法使い》――例えば物質操作に傾向しているコゼットでも、到底再現できない規模であるから、弦楽器はないが『楽団』と呼ぶべきか。
時代は二一世紀だというのに、近世レベルの数に物を言わせた大雑把な戦術だ。生物として不合理な形状をしているが、ある意味では生物らしい。
引き換え羽須美は、現代戦に相応しい、機械のような精密さと非情さを持っていた。
砲と呼ぶべき口径の散弾銃が、《魔法回路》の塊を発射すると、空中に膨れ上がり高温を発した。生体銃から《魔法》のレーザー光線がハリネズミのように幾筋も照射されると、レーザー兵器システムとして正確に迎撃していく。弾丸・砲弾も空気も、瞬間的・部分的にプラズマ化を起こし、あらぬ方向に吹き飛んで弾幕に穴を空け、止まることなく前傾姿勢で巨大な体を割り込ませた。
そして巨狼の胸元で、骨格銃が火を吹いた。発射薬で弾丸を発射しているわけではない。円形の《魔法回路》が照射され、それが新たに《魔法回路》を形成し、それが更にまた《魔法回路》を形成と、ネズミ算式に増殖させて一斉に機能変換、暴風と呼べる旋風を巻き起こす。
そして吸気して固体化するまで冷却された空気成分の氷柱の群れを殺到させ、内蔵した《魔法回路》の信管でほぼ同時に起爆した。
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爆発音が耳に届くよりも早く、砂を巻き込んで目に見える衝撃波に叩かれて、十路はオートバイから振り落とされ、盛大に地面を転がった。
「なんだよ、あれ……!?」
ある程度は離れていてこの威力なら、高衝撃熱圧力弾に匹敵する破壊力だった。絶対零度に近い物質の昇華だから、高熱と呼ぶほどのものは伴っていなかったのが幸いか。
盛大な爆発は一度だけだったが、激戦は続いている音は届く。
偽羽須美だけでも充分驚愕だったのに、羽須美まで加われば、十路が理解できる領域を遙かに超えている事態になっていた。
唯一理解できるのは、羽須美が命令したことを実行しなければ、人外同士の激戦に巻き込まれて死ぬことのみ。
取り落とした《無銘》の柄を拾い上げ、ポケットに入れた折れた刃をいま一度確かめて、十路は地面に倒れた《真神》に急いだ。
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真価を発揮した《ヘミテオス》を破壊しようと思えば、非効率な戦い方をせざるをえない。羽須美は何度か経験して、思い知っていた。
よほど特殊な環境下でない限り、再生能力を発揮する。しかも人の身からすれば無限にも思えるエネルギーを、外部から供給できるのだから、枯渇することなど決してない。斬った程度、刺した程度ではもちろん、手足をもぎ取ろうと、内蔵を引き千切ろうと、戦闘は継続される。
《魔法使い》最大の弱点、生体コンピュータの破壊もアテにならない。全身の細胞が演算装置としても働くため、破損しても機能代用が可能だからだ。そもそも大幅な形状変化をしているのだから、脳が頭部に存在する保証すらもない。
しかも《赤ずきん》は、決して強力な術式ではない。戦闘に使うなら、質量体攻撃に大幅傾向して応用能力に欠けていそうだが、《ブレーメンの音楽隊》が遙かに向いている。
名前が既に物語っている。物語のタイトルになっているのは、ただ騙されて食べられるだけの、なにもできない無力な少女なのだから。
『管理者No.003』たちが共通して持つデフォルト機能の他は、多大な時間を必要とする、特定条件下でしか機能しない権限しか持たない。
もっとも、その術式が収められているのは、《女帝》と仇名されている者だから、総合的には弱いなどとは絶対に呼べない。
だから、人型で相対した時にもなかなかだったが、今度は比べ物にならない凄惨な光景が作られた。
「ったく……手間かけさせないでよね。《ダアト》まで使うわけにはいかないんだし」
七割の疲労と、二割の徒労感、残り一割の苛立ちをブレンドさせた息を、人体側の口で吐いた。羽須美の狼頭側は、ちょうど噛み千切った肉片を吐き捨てたところだった。
馬乗りになって拘束している偽羽須美は、半ば肉塊へと化していた。
剣鉈と狩猟ナイフは言うに及ばず、爪と牙まで使って体の至るところを斬り刻んだ。三丁の異形の銃を使い、再生する肉体を吹き飛ばし続けた。
そうやって保有するエネルギーを消費させて、馬乗りになって上を塞いだ。《塔》に支援しても、ビームの射線に割り込んで、電力を横取りすることで枯渇させた。
獣で構成された蜘蛛のような下半身は半分以上潰され、わずか二本だけくっついているロバとイヌの足を痙攣させている。半欠けになったネコとニワトリと人の頭部は、虫めいた奇声をわずかに上げるに留まる。
普通の生物ならば死亡と判断するが、本領を発揮した《ヘミテオス》ならば、これでも死なない。安心できない。
だから巨狼の背中から、周囲を埋め尽くすほどの規模の《魔法回路》が溢れ、稼動する。
まずは仮想の電子・陽子衝突型円形加速器が、反電子と反陽子を原子冷却させながら、高真空中の磁気トラップで捕獲し、混合させる。荷電粒子砲に使うような重金属ではなく、原子量が少ない物とはいえ、本来ならば地球上に存在してはならない。
《魔法使い》ならば、《魔法使いの杖》のバッテリーとして当たり前に使っている物質だ。
「だから作るとなれば、面倒くさいのよね……」
準備が整う間に羽須美は、剣鉈で偽羽須美の胸を貫き、散弾銃の先に引っ掛けるようにして持ち上げた。弛緩しきった体は抵抗なく上がる。血だけではない、なんだかわからない液体が溢れ、血染めの地面を再び濡らす。
手持ちのエネルギーだけではとても足りない。《塔》から送られるマイクロ波ビームを受け取っても、端から消費し続ける。敵味方関係なく支援する、《塔》の非接触電力伝送システムを占有し続けるから、姿勢を変えることができる。
「でも、まさか反物質封入弾には耐えられないでしょ?」
ごく微量とはいえ、特殊相対性理論E=mc^2に従う対消滅反応を起こす。
《ヘミテオス》の体も物質である以上、絶対に逃れられない物理法則だ。
それが水平二連散弾銃の片側に込められた。もう一方の銃身には、先ほども使ったが、少し機能も形状も異なる空気成分のロケットが装填された。攻撃兵器として一気に昇華爆発を起こすのではなく、少しずつ推進力として反応させて、偽羽須美の体を遠くに打ち上げて、離れた場所で対消滅反応を起こす。
「今度こそ、ようやくね……Bye」
人のような巨狼の手が、情け容赦なく散弾銃の引金を引いた。
同時に、なにかが羽須美を貫いた。
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ようやく安全と思える場所まで退避して、十路は足を止め、振り返った。
そして二筋の流星を見た。
ひとつは地表から天空へ。短い《魔法》の光の尾を曳いて飛び出したなにかが、砂漠の真上で光と化した。距離は相当あるはずだが、照明弾よりも豊かな光量だった。次いで爆発音も届いたので、高々出力の攻撃《魔法》によるものだと推測がついた。
もうひとつの流星は、上から下に一瞬光が流れてそれきりだった。
戦闘開始時には黄昏時だったが、陽は完全に落ちて暗い。離れてしまったので、視界を望遠させても確認できる距離ではない。そもそもそこはが奇岩が立ち並んでいたのだから、障害物が多く見えない。
だが、流星の落下先が、『ふたりの羽須美』が戦っていた場所のように思えた。
十路は嫌な予感を覚えた。だが羽須美の戦闘が決着ついたのか、わからない。
六〇数えて新たに異変が起こらなければ、取って返すことに決め、もどかしい思いで腕時計を見つめた。




