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近ごろの魔法使い  作者: 風待月
《魔法使い》と《塔》/麻美編
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060_0800 手探りながらの宝探しⅣ ~判明~


 扉の向こう側は、きっと円形であろうと思われる通路だった。

 まず目に入ったのは、透明な壁を通した光景だった。


「工場……?」


 見学者通路から眺める、完全無人化された生産設備に思えるが、十路(とおじ)が持つ常識に当てはまらないため、思わず疑問形になってしまう。


「広さがおかしくないか……?」

【地下まで降りてきたんでしょうか?】


 まず、縮尺がおかしい。

 天井も床が見えない。地面に突き立つ巨大なパイプの中間ならば、それはまだいいが、《塔》の直径は一〇〇メートルほどのはず。

 なのに向こう側の壁までの目算が一キロ以上ある、巨大な空間だ。《塔》の外観と合っていない。


 続いて設備がおかしい。

 空間中央に立つ柱と外壁とを繋ぐフレームが何本も走り、そこに産業用ロボットらしき物体が設置されて、一定リズムで決まった動作をしている。ベルトコンベアーとは呼べない搬送設備に載せられた物体は、順繰りに上下方向へ動いている。

 《塔》という容器を考えれば当然だが、多くの工場で形作られる、水平方向に伸びる自動製造ラインとは大きく異なり、縦方向へ三次元的に伸びている。


 なによりもおかしいのは、製造されている物だった。


【封印が(ほどこ)されていませんが、作られてるのは形状から見て、反物質電池じゃありませんか?】

「《マナ》の生産設備があるってのは、ずっと言われてたけど、まさかバッテリーまで……」

【こうなると、コアユニットも《塔》で作られてる可能性ありますね】


 詳細が公表されていない、オーバーテクノロジーと呼べる、《魔法使いの杖(アビスツール)》や《使い魔(ファミリア)》の主要部品にしか見えなかった。


(淡路島以外だろうけど、《塔》に入ったことがあるのは、俺たちが初めてじゃない。常日頃入ってる連中がいる)


 《魔法》に必須の物品の中枢を製造している企業は、限られてる。

 欧米圏を中心として活動する、その名の通り車両電子工学(ベトロニクス)を得意とする電子機器メーカー、ゲイブルズ(G)ベトロニクス(V)

 アジアに商圏を置くグローバル企業グループの中核である家電メーカー、XEANE(ジーン)トータルシステム。

 この二社しかない。他の企業は模倣どころか研究すら不可能で、生産法も製造工場も全くの謎となっている。


(普通の生産設備で作ってたら、産業スパイや機関の諜報員が調べないはずないから、もっと裏で情報が出回ってるはずだ。完全に謎ってことは、GVとXEANEは、《塔》から出荷してるって考えるべきだろう)


 これは、隠れされた真実だ。一学生はもちろん、社会の闇に触れる《魔法使い(ソーサラー)》でも知りえることではなく、知ってしまえば身が危ういほどの。

 企業だけの問題で済むはずがない。高度に政治的・軍事的に絡む、全世界規模で隠蔽されている情報のはず。


 直近でも、十路たちにとって重大な情報は、《塔》に入れる人間が『管理者』『準管理者』であること。

 つまり、数字から考えて大勢ではないだろうが、《ヘミテオス》が他にもいると考えるべきだ。


(じゃあ、そもそも《塔》を建造したのは、その二社ってことか? でも、どうやって建てた? 《魔法》でもなければ不可能な方法で、《魔法》を使うためのシステムを建設するって、矛盾してるだろ? それに、どうやってこれだけの設備を稼動させるエネルギーを?)


 疑問は尽きない。触れてはならない情報だとわかっても、触りを知ってしまった以上は、知れるところまで知らないと、かえって危ないことになると、十路は経験的に知っている。

 トラブルご免などと言ってる場合ではない。既にトラブルの渦中に放り込まれている自覚はある。


「そろそろ、俺たちの疑問に答えてくれる案内係はいないもんかね」

【《塔》の大きさから考えて、工場以外のブロックがあると思いますが、直接ここに連れて来られた理由も不明ですしね】


 十路は改めて、周囲をそれとなく警戒の目で見回した。

 すると樹里と目があった。彼女はなにやら迷っていたが、心の中で区切りをつけたかのような、決意を秘めた目をしていた。


「……セフィロトNo.9iサーバー。今の一連のやり取りを、準管理者No.010に開示して」

《ログ開示》


 指示とともに、仮想現実映像のように、視界に新たなウィンドウがいくつか開いた。どうやら十路がイクセスと話している間に、彼女は彼女で独自に情報収集していたらいし。


 ――まず、準管理者No.010の状態、そっちで把握している情報、全部教えて。


 まずそれか。文字としても音声としても認識する樹里の問いに、十路は思わず嘆息ついた。


 その時にも表示されたのだろう、新たなウィンドウに、十路のステータスが表示される。名前が脇に追いやれて、『準管理者No.010』で管理されている。履歴書などとはかけ離れた、健康診断書のほうが近い、生物学的見地から見た『堤十路』だ。


 ――元の、《ヘミテオス》でない状態に戻すことは?

《不可能と判断。心臓及び左腕はアバター形成万能細胞に完全置換。それにともない神経・脳細胞も部分置換》

 ――全身転移した(がん)みたいに、物理的に取り除くことは不可能ってこと? 万能細胞から再生すれば、心臓も問題ないけど、時間をかけて細胞を置換していくことはできないの?

《不可能と判断。《ヘミテオス》として最適化する際、大脳および神経系は約一五パーセントが置換済み。これを再置換することで、準管理者No.010にどのような影響があるか未知数。影響を最小限度にすることを目的とすれば、最短でも十年単位の時間が必要と試算》


 やるせない。訊くことはもっと他にあるだろう。

 己が人間に戻れないことよりも、十路はそう考えてしまった。

 彼女は己自身のことを知りたがっていた。今の状況では、知る必要のある重要な情報でもある。

 なのに真っ先に、十路を元に戻す方法を訊くとは。

 当人も考えていなかった結果で、十路もその時に(なじ)ったが、《ヘミテオス》にしてしまったことを、それほど重く考えているのか。彼女らしいとも言える。


 同時に、らしくないと不思議に思う。彼女はこんな露骨な『責任感じてます』アピールをする性格ではない。


 ――『管理者No.003による記憶封鎖』……? これ、なに? 私、知らないけど? この日付じゃ、まだ先輩に会ったこともないよ?


 続くこの疑問が、やり取りを見せた理由に違いない。

 表示されている十路のステータスの、『特記事項』に目をやると、確かにそのような記載があった。


(記憶の封鎖……? 《魔法》だろうけど、そんなことができるのか……?)


 技術そのものにも疑問を覚えるが、やはり気になるのは、併せて記されている、一年以上も前の日付だった。

 半年前に支援部に関わったのが初めてなのだから、『管理者No.003』が樹里のことだとは到底思えない。

 なによりも、決して忘れることができない日付そのものが、不審そのままだった。


(俺が、羽須美(はすみ)さんを殺した日……?)


 まだ十路が陸上自衛隊非公式非合法隊員だった頃。

 《騎士(ナイト)》と呼ばれることになった切っ掛けがあった時。

 彼の人生において、転機となった日。


 あの日のことは全て覚えているつもりだったが、なにかを忘れているということか。


「封鎖の解除はできるのか?」


 視線を向ける意味はないのはわかっているが、室内の上を見て、十路は《塔》に呼びかける。


《権限不足。管理者No.003同等以上の権限が必要》

「めんどくせぇ……」


 技術的には可能でも、彼が言っても応じてくれない。

 樹里に視線を向けると、意を汲んだ彼女も上を向き、指示を出す。


「管理者No.003権限により記憶封鎖を解除。これでいい?」

《承認。準管理者No.010の記憶封鎖を解除》


 直後、頭の中でショートしたような感覚が走る。痛みを覚えるほどではないが、確かな衝撃が駆け抜けると、ビジョンが脳裏に浮かんだ。


 巨大な影に見下ろされている。

 右手には、水平二連式散弾銃と剣鉈を合体させたような、奇妙で巨大な火器。左手には、剣と称しても構わない刃渡りの狩猟ナイフ。羽根で飾られたチロリアンハットをかぶり、ベストを着た、童話に描かれる狩人のような姿。

 ただし肉体は人間のものではない、毛むくじゃらだった。


「俺は、なにを忘れてる……?」


 封鎖を解除されても、思い出せない。大脳生理学的には記憶しているとしても、十路には全く記憶にない。他の記憶との繋がりがわからないため、幼い頃に夢や映画で見た光景を、脈絡なく不意に思い出したような気分だった。


 心配そうな顔をしている樹里には、なにも答えない。答えることがない。

 ニューロンの活動を阻むものがない以上、時間が経てば、それも思い出せるのだろうか。そう期待するしかない。


 ならば考えなければならないのは、誰が十路の記憶を封鎖したのか。

 《塔》は、『管理者No.003』が、何者か知っているはず。


「管理者No.003について、知る限りの情報を開示」

《権限不足。準管理者No.010では開示不可》

「ホントめんどくせぇ……」


 人間的過ぎて困るイクセスとは違う、機械的な融通の利かなさだ。これでも既存科学のコミュニケーションシステムと比べて、上等な部類だろうが、『お前もオーバーテクノロジーだろ?』と言いたくなる。


 今度はなにも言わずとも、樹里が率先して口を開いた。


「私が許可する。開示して」


 すると視界内に、新たなウィンドウがいくつも浮かんだ。

 『知る限り』と指示したのだから、相当量の情報になるだろうが、そういう意味で大量の情報が表示されたのではなかった。


 記載されている内容は、全てのスクリーンにおいて、ほぼ同じ。《魔法使い(ソーサラー)》としての基礎性能も、生化学的な意味においても。

 明らかな違いは、肉体年齢の違いからくる差。写真とは異なる、精巧な3Dモデルによる本人たちの顔。

 半分以上は『特記事項』内に、『行方不明』と書かれていること。

 使える《魔法》の詳細は違うだろうが、全て確認するには情報量が多すぎる。

 だからやはり、『現地登録名称』が目についた。


 当然、『木次(きすき)樹里(じゅり)』と記載された少女のウィンドウがある。

 しかし、それだけではない。


「え……? お姉ちゃん……?」


 『ゲイブルズ木次(きすき)悠亜(ゆうあ)』と書かれた女性のウィンドウもある。


「それに……誰?」


 『ヒカル・B・タニ』と書かれた少女のウィンドウもある。

 『(ヂェン) 雅玲(ヤリン)』と書かれた女性のウインドウもある。

 『トゥエン・ジェウ・リー』と書かれた女性のウィンドウもある。


 そして――


(なんで……?)


 『衣川(きぬがわ)羽須美(はすみ)』と書かれたウィンドウもある。


 樹里とアサミの諸々(もろもろ)が同じどころの話ではない。情報の多さは、詳しさを示すものではなく、人数に比例しているからだった。

 十路の予想も当たってはいたが、樹里・アサミ・悠亜・羽須美の四人まで。斜め上にかけ離れた、本当の正解までたどりついていない。

 《塔》は、『管理者No.003』が、一〇人以上存在していると教えている。


(まさか、この情報が俺たちへの『宝』……?)


 しかもこうして見ると、彼女たちの顔は皆、似ている。アサミと樹里を並べてもピンとこなかったが、その中間年齢の顔があると、そうとしか見えない。

 同じ顔でも同じではない。長年に渡って少しずつ変化した、ひとりの人物の成長記録を見ているかのようだった。

 『管理者No.003』は皆、様々な年齢の『衣川羽須美』であると、十路は認識した。


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