表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
近ごろの魔法使い  作者: 風待月
《魔法使い》と《塔》/麻美編
378/640

060_0700 手探りながらの宝探しⅠ ~探索~


(宝探しぃ……?)


 なぜそういう話になっているのだろう。十路は《バーゲスト》を駆りながら、内心で首を捻る。

 予定は考えてなかったから、問題ないといえばないのだが。

 長杖に腰掛けて飛んで着いてくる樹里は、どう考えているかも知らないが。


『最初はねぇ、『しやくしょ』だって。探したんだけど、わからなかったの』


 ヘルメットの無線越しに聞こえてくる声が、楽しげに弾んでいるから、『まぁいいか』と思うしかない。

 敵と想定して警戒してはいるが、アサミはこれまで戦ってきた者たちとは違う。支援部員や樹里に対して、明確な敵意を持っている様子がない。交戦が避けられないなら全力で戦うが、そうでないならわざわざ戦う理由もない。


 警戒だけであっても、彼女が知っていることを、根掘り葉掘り問いただすべきだろう。生まれや育ちについてはまだしも、最低限この島での行動については。

 とはいえ、相手は子供だ。これから行く『最初のチェックポイント』が、どうやらアサミが最初に上陸した地点のようだから。知りたいことはおいおい聞いていけばいいかと思い直した。


 やがて着いたのは、海に突き出た人工島だった。


「最初、ここに連れて来られたのか?」

「うん!」


 乗せる時は抱えあげたが、十路の手を待たずにリアシートから飛び降りた、ヘルメットを被ったままアサミの頭が上下に動く。


 十路もスタンドを立てた《バーゲスト》から降りながら、あたりを見回す。

 ほとんどなにもない。震災の影響がそのままなのか、放置されたため侵食されたのか、建設途中で廃棄されたのか、沼地のようになっている。


 唯一あるのが、淡路市役所庁舎の、廃墟だ。


【トージ。そこの地面を見てください】


 イクセスが示すとおり、周辺の地面には、グリップを高めるための溝が掘られた、一本だけの(わだち)が刻まれている。


(タイヤ痕……?)


 時間を経て、多少薄れているが、間違いない。

 十路たちが上陸した数日前、下手すれば前日くらいについたものではないか。


【確証はないんですけどねぇ~……】


 なぜかスピーカーから、意図的に感情が抑えられた、それでいて嫌悪感たっぷりな、矛盾した平坦な声が続けられる。


【以前、《真神》が履いていたタイヤと同じにしか見えないのが、どうにも引っかかりますねぇ~……】


 陸路か空路か海路か判然としないが、ここがアサミの上陸地点で、そこにこのタイヤ痕が残っているということは。


「アサミをここに連れてきたのは、誰? 男? 女?」


 問うと少女が小首を傾げる。

 性別すらわかっていないということは、やはり『そう』なのかと、問いを重ねる。


「もしかして、全身黒い服着て、ヘルメット被ってて、顔を見てない? それから銀色のオートバイに乗ってた?」

「うんっ」


 元気のよろしい回答に、十路とイクセスのため息が重なる。


「マジか……」

【あの連中、私たち絡みだと、トコトン首つっこんできますね……】


 たびたび支援部に接触してきた、防衛省関係者と目される男・市ヶ谷(いちがや)が、またも関わっているのか。

 イクセスにとっては、彼の《使い魔(ファミリア)》である《真神(まがみ)》のAIカームに、言い寄られてるのかなんだかわからない間柄なので、ウンザリ感も一入(ひとしお)だった。


「子供を置き去りにして、アイツらどこへ行ったと思う?」

【あの《使い魔(オトコ)》の行動を理解したくもないんですけど……島にまだ潜んでるか、もう島にはいないか、半々じゃないかって気がしますね】

「俺たちに用事があるなら、姿見せて声かけてきそうな気するんだが……目的がわからん」


 積極的に探っていないせいもあり、彼らの行動や思惑は、ほとんどわからない。元諜報員のナージャと情報担当の野依崎が、独自に動いている様子ではあるが、この件で報告がないのは、重大なことは判明していないのだろう。

 ともあれ、わからない以上は、警戒以外にやるとはない。


 だから十路は、少女が広げている『宝の地図』を、上から覗き見る。樹里も反対側から頭を近づけてきたが、気にしない。

 正確さがまるでない。目標物と位置関係だけが大雑把に記された、参考にしたら確実に迷う地図だ。淡路島内を表しているかさえも理解できない。


(これ、ここじゃないな)


 それでも読み取れる情報はある。

 人工島という場所が特徴的すぎる。地図が示す印がこの市役所を示しているのであれば、海岸線が描かれていないのは不自然だ。しかも紙の右端ではなく、真ん中にあり、東側に別のチェックポイントが存在している。

 内地の地図だと考えたほうが自然だろう。


「イクセス。地図か衛星写真をどこかからダウンロードできないか? できれば三〇年前の地図がいいんだが」

【ちょっと苦労しますね……wi-fi接続できませんし】

「関係ないだろ」


 無人島でwi-fi接続が不可能なのは事実でも、軍事車輌たる《使い魔(ファミリア)》が、携帯ゲーム機並の通信環境しか持っていないわけがない。

 それが証拠に、神戸市内よりも時間がかかったが、ディスプレイに画像が表示された。


 かつて淡路島には、三つの市が存在した。北から淡路市・洲本市・南あわじ市と。


(南あわじのほうが、それっぽいな)


 洲本市役所もまた海に近い。『宝の地図』の縮尺をにもよるが、やはり不自然さを感じる。完全な内地に建つ南あわじ市役所のほうがそれらしい。


「アサミ。この島に市役所は三ヶ所ある。他の二ヶ所に行ってみたか?」

「うぅん?」


 返ってきたのは、『しやくしょ』が他にあること自体が想定外という顔だった。



 △▼△▼△▼△▼



 更に移動し、南あわじ市役所跡に(おもむ)いた。

 建物そのものは残っているが、やはり風化し、ガラス類は全て割れ、無残な(てい)を見せていた。


 小石程度は大丈夫でも、さすがにガラス片が散らばる場所は歩かせられない。靴を履いていない少女を抱えた十路と、長杖を無造作に持つ樹里は、警戒しながら建物内に入る。

 すると、ここが『宝の地図』に描かれた場所だと、すぐに判明した。土や埃にまみれたエントランスに、あからさまなコンテナボックスが置かれていた。


 足元を乱雑に払い、少女を下ろし、十路がその箱をチェックする。アサミは無造作に手を伸ばそうとしたが、許さなかった。樹里の脳内センサーと併せ、罠や爆発物などがないことをチェックしたが、中身が判然としない。だから十路が木箱の(ふた)を開けた。


 まず、折りたたまれた紙があった。揮発性の薬品や生物兵器の感染もなさそうなので、アサミに手渡す。

 そちらはオマケのようなもので、箱の役割はこちらが本題だろう、非常食が入っていた。ペットボトルに入った飲料水、アルファ化米の入ったレトルトパウチ、缶詰などが、三日分ほど備えられている。


 誰だか知らないこの『宝探し』イベントの主催者は、どうやら本気でアサミを放り出すつもりのようだった。市役所違いでこれを探し当てることができなかったから、どういう方法か彼女は《ヘーゼルナッツ》に忍び込んだのだろうと推測する。淡路市役所跡から停泊場所までは、子供の足でも来れない距離ではないのだから。


 そちらはそれとして、十路はアサミが広げている紙を上から覗き込む。やはり樹里の頭に近づくことになるが、やはり気にしない。


 ――たたたうたえたたたきばたたちたたのたなかたたたた


 紙にはそんな文字の羅列と、デフォルメされたタヌキのイラストが書かれていた。


「や、まぁ……子供向けの暗号なら、まずはこのレベルですか……」


 十路は『バカにしてんのか?』と思ったためにコメントは差し控えたのだが、樹里はそうでもないらしい。半笑いの無理矢理な納得ではあるが。


 ともあれ、本当に『宝探し』を行うらしい。エントランスの隅に置かれていた、緑に埃を積もらせている人工観葉植物に目をやると、鉢に『いかにも』な紙が丸めて突き刺さっている。きっと次の場所へのヒントだろう。

 それに十路は、不気味さと不審感を抱いた。

 

(誰がなんのつもりだ……? アサミだけでなく、俺たちにまで宝探しをやらせる気か……?)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ