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近ごろの魔法使い  作者: 風待月
《魔法使い》の民間部隊
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005_1180 【短編】一警察官から見た総合生活支援部Ⅸ 「…………はぁぁぁぁぁ」


 事後に集合することになった警察・海上保安庁関係者で騒然とする港の一角で。


「はい。では、各自報告してください」

「治療、終了しました」

「容疑者の引渡し完了。各種書類も代理で書いときました」

「盗まれたバッテリー、海の中から回収しましたー。ちょっと中身が減ってますけど」

「常人でも使用可能な環境操作技術については、完全にロスト。復元は期待できないであります」

「あたし、なんもしてませーん」

「一応わたくしも報告しておくと、船の破片と重油の回収は終わりましたわ」


 支援部員たちが輪になり、部員間の話し合いっていた。


 その様を少し離れて眺めた桜田刑事は、不気味に思った。

 それまでにも彼女たちは片鱗を垣間見せていたが、最後のあれは、完全に兵器の能力だった。結構な大きさがある船を、一撃で四散させた。ミサイルの破壊力がどれほどのものか、一介の警察官である桜田刑事にはわからないが、それより上回るのではないかと思わせた。


 史上最強の生体万能戦略兵器。通称に相応しい人外加減を見せつけられ、戦慄した。


「それでは、部活終了。お疲れ様でした」

「「お疲れ様でしたー」」


 なのにその人間兵器たちは、事後には普通の学生たちのような顔をして、帰っていた。



 △▼△▼△▼△▼



 完全に夜の時間だったが、桜田刑事はひとまず県警本部に戻り、帰り支度をした。

 警察にとって、事件は終わっていない。大事件を起こしかねかった集団を、一網打尽にしたのだから、捜査第一課などてんやわんやだろう。

 彼自身も書類仕事が残っていたが、一日《魔法使い(ソーサラー)》に付き合って、まだ残業をする気力は残っていなかった。

 帰る前になんとなく休憩室でコーヒーを飲んでいると、煙草を吸いに来た大道と再び出会い、なんとなく差し出された煙草を一緒に吸うことになった。


「とにかく、今日は疲れましたよ……ごほっ」


 桜田刑事は、弱音とため息と慣れない煙草の煙を吐き出した。


「もうあの連中とは、係わり合いになりたくないです……」

「ま、そうそう関わらないでしょう。警察がなんでもかんでも彼らを引っ張り出すようなことをしない限りは」


 吸殻を灰皿に押し付けながら、大道は苦笑を浮かべる。


 彼は、《魔法使い(ソーサラー)》のお守りだ。そう呼ばれる仕事に就いている。

 彼の仕事がある時は、常に《魔法使い(ソーサラー)》との関わる時であろうというのに、よくもまぁそんなセリフが吐けるものだと、関心してしまう。それ以前に仕事とはいえ、あんなデタラメな連中に関わり続けること自体が驚異的に思えてしまう。


「今日はもう、お帰りですか?」


 大道の言葉に、桜田刑事はハッとする。いつの間か考えに(ふけ)っていた自分に気づいた。


「調書を書かなければいけないですが、今日はもう帰ろうかと……」


 指に挟んだ煙草も、フィルターを残して火が消えていたので、念のため灰皿に押しつけてから捨てる。


「どうです? 一杯」


 大道の手が、クイッと傾けられる。

 酒自体は嫌いではないが、誰かとそう飲みに行くことはない。ちゃんと話したのは今日が初めてという、年嵩で職務に関係ない中年男と一緒に飲むなど、普段なら考えもしない。


「いいですね……」


 だが、今日のことを愚痴るとすれば、同じ経験をした大道しか相手がいない。

 あまり気のない賛同をしながら、桜田刑事は足元に置いた通勤カバンを手に取った。



 △▼△▼△▼△▼



「大道さんだったら、通な店とか知ってるのかもしれんですけど、自分が飲むのはもっぱら、こういう居酒屋です」

「いやぁ、わたしもそんな店行きませんよ」


 駅にほど近い場所に建つ、居酒屋の暖簾(のれん)をふたりは(くぐ)った。


「いらっしゃい。今日はおふたりですか?」


 馴染みの店員に訊かれ、桜田刑事は頷こうとしたのだが。


「八名様でーす」


 聞き覚えのあるソプラノボイスが、先じて後ろから答えた。

 嫌な予感というか、当たって欲しくない確信に、桜田刑事がゆっくり振り返る。

 背後になんだか見覚えあるというか見失いたい気分の学生集団がいた。


「やーやー。おっちゃんたち、キグーだね」


 ジャンパースカートの女子中学生が、明るい笑顔で手を挙げるが、桜田刑事にしてみれば、もう見たくない顔だった。


「なんでここにいる……?」


 それでも確認しなければならないため、彼は声を絞り出した。すると『気持ちはわかる』とでも言うように、女子高生が人懐こい顔を半笑いにした。


「やー……真っ直ぐ帰るにも時間が時間なので、みんなで外食することになりまして……それでお店を探していたところなんですけど」


 長い白金髪(プラチナブロンド)の尻尾を振り回す外国人女子高生と、憂鬱そうに波打つ黄金髪(ゴールドブロンド)をいじる外国人女子大生も、補足する。


「この辺り、飲み屋ばっかりですし、入店断られるんですよねー」

「わたくしが引率って言っても、こんな若造じゃ信用してもらえないですし」

「お酒頼むつもりないんですけどねー」

「わたくしも今日は飲む気ないですけど」


 無理もないだろう、桜田刑事は思う。

 法律的には二二時までならば、酒を飲まない限り、問題はない。しかし風紀の問題や店の雰囲気から、高校生から小学生まで混在するワケわからない学生服集団をスンナリ入店させる責任者はいないだろう。もしも未成年者が飲酒した場合、飲んだ側よりも、提供した側が罰せられるのだし。


「ということで、俺たちも一緒させてもらえません? この辺りの居酒屋なら、警察関係者が出入りしてるでしょうし、店からの信用もあるでしょう?」

「…………」


 入り口横にオートバイを駐車する男子高校生の怠惰な申し出に、桜田刑事は『え~』などと露骨に嫌がらなかった自分を褒めてあげたい気分になった。


 とにかくもう、この連中と関わりたくない。酒飲んで帰って寝て忘れたい。


「引き換えに、今日の事件(ぶかつどう)をまとめた報告書をやるであります。どうせ書類を作るのが大変なのでありますでしょう?」


 そんな心境を察したように、赤髪土器肌ネコミミ帽の小学生女児が、背負ったランドセルを下ろし、中から取り出した紙束をチラつかせた。


 報告書のコピーは確かに欲しかった。そのままは使えないが、参考としては助かる。嫌気の差す書類仕事をする時間はかなり短縮されるだろう。


「あと、(たか)る気はないので、その心配は無用。お前の安月給に期待はしないであります」


 一言多いお子様だった。桜田刑事は一地方公務員、いわゆるノンキャリアで高給取りではない。しかし図星を突かれると分別ある大人とて、反射的に拳を握り締めてしまった。

 だが残念なことに、この小学生女児は、シャレにならないデイトレーダーだ。(なり)の問題で使う機会は限られるが、持っているクレジットカードは最高級グレードだ。今この場にいる誰よりも金持ちである少女の毒舌は、性質(たち)が悪いことに悪意がない。


「大道さんでもいいですよ? ついでに、ちょっと情報交換したいんですよね~」

「ほう? 耳寄りなお話でもありますか? あ。大人数なので座敷でお願いしますね」


 外国人女子高生と共に大道が、店の奥へと進んでいく。他の学生たちもゾロゾロ続いていく。


「…………はぁぁぁぁぁ」


 今日の酒は不味くなるのを観念して、桜田刑事も続いた。


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