005_0000 【短編】一学生から見た総合生活支援部Ⅰ 「リアルに命が危なそうな気がするんですけど……」
十路と樹里が仲違いしていない、時系列不明の謎時空です。
その少女の名は、国府田まり子という。
修交館学院高等部一年生B組に在籍する女子高生であり。
報道部に在籍している。
普通の学校ならばその手の部活動は、いわゆる学校新聞を作るだけの、地味なものを想像するだろう。しかし幼等部から大学部まで同じ敷地にある修交館学院の場合、規模が大きい。インターネットを利用しているのは昨今では当然、文章と写真だけでなく映像も作成して動画サイトにも投稿し、校内放送の枠を超えた活動を行っている。
学院事務局に広報は存在するが、それとは異なる目線で、学生主導による内外への情報発信源となっている。
「総合生活支援部の取材、国府田にお願いしたいのよ」
朝から呼び出され、部室に訪れた途端、局長――報道部では責任者を『部長』ではなくそう呼ぶ――である大学二回生の仁川紗耶香に、プリントを手渡され突然そんなことを言われた。
「同じクラスに《魔法使い》がいるでしょ?」
「いますけど……」
まり子は容貌と簡単なプロフィールを思い浮かべる。
名は木次樹里。黒髪ミディアムボブの、どちらかと言えば可愛いらしいタイプではあるが、大人しく地味な学生だ。友人グループを作ってるクラスメイトと一緒でない時には、静かに自分の席で本を読んでいることが多い。成績はそこそこ優秀なようで、宿題が出た時には頼られているのを目にする。かといって根暗なタイプではなく、日頃読んでいる本も専門技術書から少女向けの小説、少年向けマンガまでかなり幅広く、サブカルチャーにも理解がある。あと料理が得意なようで、昼休憩にはいつも弁当を広げているが、彼女が親と同居していないのを知っているなら、手作りなのだと察することができる。
男の趣味にもある程度理解を持ち、家庭的な部分も見せている。そのため実は意外と男子受けはいいのだが、耳に入る話からすれば、当人は恋愛に興味はなさそう。
そんな、あまり特徴的とは言えない人物像だと認識している。
「あまり話したことないですけど……」
出席番号がまり子とはひとつ違いのため、彼女の行動は目につきやすい。
入学当初は《魔法使い》という、異能を持つ新人類であるために、注目されていた。だが愛想笑いを浮かべた彼女が困ったように言葉を濁しているうちに、あまりその話題は上らなくなってしまった。
そしてまり子としても、個人的な会話は交わしたことはなく、週六回半日以上空間と時間を共有しているだけの関係でしかない。
だがそれではダメだと、沙耶香はその気もないだろうに冷たい言葉を吐く。
「ウチの学校、《魔法使い》の部活動なんてあるのよ? だから取材したいじゃない?」
大学二年生ともなれば、就職活動を意識しなければならない。そしてマスコミ関係を狙っているらしい沙耶香ならば、『あわよくば』というような気持ちもあるかもしれない。そんな彼女の言葉を聞いて、まり子の脳裏に記憶の断片が思い浮かぶ。
この修交館学院には、世界初と断言できるであろう、特殊な部活動が存在する。
《魔法使い》と一般人との関わりを調べるための社会実験チーム。普段は学内のなんでも屋として動き、方々から送られてきた依頼を片付けているが、時に消防や警察の要請を受けて、《魔法》という科学で事態を解決する民間の緊急即応部隊。
それが《魔法使い》たちの部活動・総合生活支援部だ。
「ネタ的には抜群なんだけど、あそこデリケートだから、下手に手を出すとチェックが入るのよね……ちっ」
ひとりごとのように、沙耶香が舌打ちと共にこぼす。いつもジーンズをはき、ざっくりとしたボーイッシュ・コーディネートの彼女は、『黙っていれば美人』の類だ。普段は人当たり柔らかい人物像なのだが、部室だとこうして男じみた荒々しさが目立つ上に、威圧感を与える。
「っと、ちょっと待って、電話かかってきた――はい、もしもし……はい。仁川です。えぇ、はい。大丈夫です……あぁ、これはこれは、恐れ入ります」
対外的な人当たりはいい人物なのだが。声がワンオクターブ高くなるだけではなく、声の柔らかさが違う。さっきまで仏頂面だったのに、笑顔まで浮かべている。
就職はマスコミ志望、特にテレビ局を狙っている沙耶香からすれば、存在そのものは広く知られていても実態は知られていない《魔法使い》など、いい取材対象だろう。
しかし《魔法使い》とは、本来ならば社会の表舞台に立つ事のない、人間兵器としても認識される者たちだ。更には総合生活支援部の顧問は、この学院の最高責任者だ。
取材の確約はそう難しくないかもしれないが、内容に厳しい検閲が入りそうではある。
「ごめん。それで、どこまで話したっけ?」
「具体的にはなにも。局長はなにを取材したいんですか?」
そんなことを沙耶香は考えているのだろうと、少し勇気を出したまり子は危惧を問う。チェックが入ると困るような取材を任せないで欲しいために。
「全部よ全部。だって、なにもかも変じゃない?」
そして当たらずとも遠からずなことを、沙耶香は言い出した。
「《魔法使い》のことって、あんまり一般の目には知らされていない話ばかりじゃない。それが全部取材できたら、ピューリッツァー賞も夢じゃないと思うわ……!」
「リアルに命が危なそうな気がするんですけど……」
拳を握りしめる沙耶香に、まり子は恐々と、けれども冷静にツッコむ。
ちなみにジャーナリズムの賞では、最も権威あるとされるピューリッツァー賞は、アメリカ国内の報道機関が対象なのだが。沙耶香はその辺りどうやって受賞するつもりなのか疑問だが、高校生のまり子はそこまで詳しくない。
しかし理解の及ぶ範囲もある。社会的には《魔法使い》は、生きた軍事兵器として扱われるのだ。良く言えばジャーナリスト魂、悪く言えば野次馬根性丸出しで突っ込んだら、本気で命が危うい世界の住人だというのが、彼女の認識だ。
「取材したいなら、直接局長が取材したほうがいいんじゃ……? あそこの部長さんというか、王女様、大学二回生ですよね? 学科は違っても、話できるんじゃないですか?」
だから沙耶香当人へとイニシアティブを返還する。その部活動の責任者が、大学部に在籍しているのは、学内では有名な話だ。高校生の自分よりも、話は通りやすいと思ってしまう。
だが沙耶香は、髪質の固そうなショートヘアをかき上げ、顔を歪める。
「直接話したことあるけど……あたし、あの人、苦手なのよ」
「え? どうしてですか?」
「理由は自分でもわからないのよ……言われてる通り、いい人だと思うわよ? だけどな~んか生理的に受け付けられないのよね」
当人も理解していなくても、他人ではもっと理解できないと、まり子は眉根を寄せる。
しかしそんな表情が、責任者から外れる理由になるはずもない。結局彼女が修交館学院の鬼門・総合生活支援部を押し付けられてしまった。




